家畜


 きたるべき近未来、前世紀の頽廃と混乱を克服した人類は宇宙にまで進出し、かつてない繁栄と自由を謳歌していた。
 前世紀におこなわれた遺伝子コードの解析はその成果を受けて実用段階に入り、様々な病気や先天的あるいは後天的な疾患を克服し、多大な恩恵を社会にもたらしていた。そして前時代の混乱の一因ともなった、硬直した高齢化社会と労働力の不足を解消するために、特殊な環境に適応した人体改造がおこなわれたり、遺伝子操作によって作られた人工生命体が一層複雑化する社会を支えるようになっていた。
 これはそんな巨大都市の一角で見ることのできるささやかなエピソード・・・。



 とある巨大都市の郊外、街を見下ろす高台の学校に放課後を告げる鐘が鳴った。校内放送で校舎中に鳴り響くこの騒音は、百年前も現在も変わりない。
 倶楽部活動や学級委員、あるいは補習など、特に学校に残る必要のない大半の生徒たちは三々五々帰路につく。
 いまも数百人の生徒が、仲の良いもの同士、あるいは帰路が同じもの同士が数人ずつで組になって校門から吐き出され、街の方々へ散らばっていっていた。
 その中に、特に周囲の生徒と変わるところのない二人の少年の姿があった。

「な、ヒロユキ、今日はうちに遊びに来いよな」
 一方の少年がやや強引にもう一人を誘っている。
「ダメだよ。家の用事が済んだ後ならいいんだけど・・・」
「ちぇっ、最近つきあい悪いぜ。“ナイト・シフト”は二人いないと出来ないんだぜ」
 “ナイト・シフト”とは、ネットに接続して遊ぶ、最近流行中のホラーアクション・ゲームである。
「リュウを呼べばいいじゃん」
 いいわけがましくヒロユキは対案を示した。リュウとは彼らのクラスメートである種崎竜一郎という少年の通称である。リュウは、なににつけても粗忽で独断的な行動をとるので、この二人一組で行うネットゲームの相棒には全くむいていない。
 ヒロユキしてもそれは承知で、単に遠回しな断り方をしているだけなのだ。
「しようがないな・・・」
 おまえの家、母子家庭だもんなとは誘っている少年も言わなかった。彼にしてもヒロユキの家に遊びに行ったときには、ずいぶんとヒロユキの母の世話になっているのだ。
「明日になれば、家の中も片づくからさ。そしたら僕ん家でやろうよ」
「じゃ、今日のは借りだぜ」
 少年はヒロユキの言葉に込められている意味を察してニヤリとした。
「うん、いいよ」
「じゃあ、明日学校でな」
 二人は地下鉄の駅前で分かれて、各々の家路についた。



「ただいま」
「あら、お帰りなさい」
 弘幸が玄関から声をかけると居間から母の返事があった。母の名はリョウコという。二十一で結婚してすぐにヒロユキを産んだ。その弘幸が十三になるから、遼子は三十四歳ということになる。
 母子家庭というと暮らし向きが大変だと思われるかもしれないが、浮気していた夫がこの家を賠償金代わりに残して出ていってから、経済的に困ったということはなかった。
 大手銀行のエリートでひとまわり年上だった夫は結婚当初から子供が好きではなかったらしく、遼子が弘幸を身籠もってからすぐに外に女性を作ってしまった。だから夫婦生活は出だしから温度が下がる一方だった。偽りの夫婦生活は五年前に終わったが、お互いに納得ずくだったためにさほど気まずく感じることはなかった。弘幸自身も父の代わりに、有り余る遼子の愛情を受けて、周囲の子供たちよりもむしろ素直に育った方である。


「ママ、具合はどう?」
「大丈夫よ。今夜お客様がこられるから、妹の世話をきちんとしてあげて」
 手元の医療モニターをのぞきながら遼子が言った。
「うん。それじゃあ“妹”の様子を見てくるよ」
 服を着替えながら弘幸がうなずいた。
「いつもみたいに時間をかけちゃダメよ。夕飯までに済ませるのよ」
「わかったよ」



 それにしても五年間で、この家も随分変わった。外観は建築当時そのままだが、内装は大改修されて夫婦生活の頃の面影はほとんどない。各部屋とも間取りは広く作り替えられ、床や浴槽は段差のないバリアフリー設計、壁はどこにも歩行を補助するための手摺が取り付けられている。階段には昇降機、家中の天井は補強されてレールが埋め込まれ、これに小型のクレーンが取り付けられて相当な重量物を屋内で移動させることが出来るようになっていた。
 やや装飾過多の室内は、長期滞在の出来る高級ホテルのようにすべてがゆったりとしていて、クッションが柔らかく効いた家具ばかりである。
 子持ちの女性ならこれら全体の印象が、我が子を出産した産婦人科の病院に似ていると感じただろう。

 弘幸は二階の一室に足を向けた。
 そこが妹の居室である。

「入るよ」
 かたちばかりのノックをすると弘幸は妹の部屋に入った。
「お帰りなさい。お兄ちゃん」
「いい子にしてた?」
「うん」
 ベッドの上の少女は兄の来訪を嬉しそうに迎えた。
「お腹の具合は?」
 妹の横に腰を下ろしながら弘幸は尋ねた。
「パンパンに張っちゃってもうパンクしちゃいそうだよ。それに赤ちゃんも動くから、あんまりお昼寝できなくって・・・」
「痛い?」
 弘幸は妹の身体を覆っている毛布を捲って足下に畳んだ。
「ううん、大丈夫だよ。でも毎日ドンドン大きくなるから困っちゃう」
「確かにすごいお腹だよな」
「お兄ちゃんがこんなにしたくせに」
 妹はクスクス笑った。

 今朝よりも少し大きくなっていないか?
 弘幸は改めてベッドに横たわった妹の姿を眺めた。
 どんな大きなサイズの衣服もまとえないほどに発育した乳房と妊娠腹をかかえた十一歳の少女は、生まれたままの姿で巨大な孕み腹を満足げに撫で回しながら弘幸を誘うように見上げていた。
 せり出した下腹部の陰になっている股間には、尿道に導尿カテーテル。出産を待っている産道には自慰のためのリモート・バイブ。肛門には排泄ともに、胎児の発育を促す成長ホルモンと超高濃度圧縮栄養液(口からの食事だけではこの身体を維持できないため)を腸内に注入する人工肛門が接続されていた。
 スイカほどもある肥大しきった乳房は搾乳機が取り付けられ、片方だけで一日二十リットル以上作り出される母乳を絞り出している。
 多重妊娠を重ねて軽く直径1メートルを超えるまでに膨らんで、いまにもはち切れそうなほどにパンパンに張りつめいてる超巨大な孕み腹には十四カ所に小さなゴム吸盤のようなセンサーが張り付けられて、四六時中体調を監視していた。
 妹の体重はすでに二百キロ近く、しかもその八十パーセント近くは腹と乳房の肉塊なのだ。受精卵として法的な生存権を保証される前から遺伝子改造を受け、遼子の子宮から出てきてからは数々の薬物チューンによって体質を改造されてきた“妹”は、二年前に生理を迎えてして以来、一人の子供も産むことなく、毎月のように弘幸の子を孕み続けていた。
 現在ではその膨張しきった子宮の中に身籠もっている胎児の数は、超巨大な妊娠腹の表面に取り付けられたセンサーの倍近いに違いない。正確なところは母である遼子は知っているのだろうが、弘幸はあまり知りたいと思わない。知れば一つ一つの命というものが、漠然とした抽象的概念から実体を伴った事実として認識されてしまうからだった。
 
「ねぇ、お兄ちゃん、お注射抜いて。腕が痒いし、オナカの奥がなんだかムズムズするの」
 弘幸は妹の頼みに応じて左腕の点滴を抜いてやる。妹はあまりにも巨大な腹と乳房のために、身体の前で指先を合わせることすら出来ないのだ。
「してもいいかな? これが最後になっちゃうけど」
 ほとんど空になった点滴を片づけながら弘幸は尋ねた。
「いいよ、いっぱいして。そのためにお注射したんだもんね」
 自分の未来を知ってか知らずか、妹は屈託がない。もっとも、そういう風に生まれてきたと言ってしまえば、それまでなのだが。
 妹の腕に取り付けていった点滴は、ネットの闇市で通販した超強力な排卵誘発剤なのだ。今晩妹は“養子”に出される。その前に最後の種付けを、それも超多胎妊娠を妹自身が望んだのだった。
 いま兄妹が交われば、点滴の効果で少なくとも六、七人。多ければ十人以上の子供を孕むはずである。

 弘幸は妹を横臥させると股を開かせ、股間で淫猥にうねっているリモート・バイブを引き抜いた。
「お兄ちゃんがすぐ出来るように濡らしておいたんだよ」
 十一歳の少女とは思えない表情で妹が艶然と笑った。
「ん・・・うん・・・」
 完全に理性の消し飛んだ十三歳の少年は、未だに子供一人産んでいない狭い産道を貫く。
 膨満しきった超爆ボテ腹を圧迫しないように気遣いながらも、これを最後と最大限の激しさで腰を前後に動かした。

 孕み腹に負担がかかってセンサーが警報を発しないように。
 そうしないと後で母に怒られてしまう。
 悪くすると破水してしまう。

 うっかり人工肛門を引き抜いてしまわないように。
 そうしないと生命維持のために二十人並みのカロリーを必要とする“妹”は十五分で“餓死”してしまう

 臨月の妊婦とセックスするのは最高である。
 そのボテ腹が大きければ大きいほど、さらに快楽は増す。
 そして至上の快楽は、破局の半歩手前にこそある。

 弘幸はありとあらゆる注意事項を頭の中に並べ立てながら、獣のように妹と交わり、そして孕ませ続けた。



 母子三人で最後の夕食を済ませた後、“妹”は名も知らぬ客に引き取られていった。
 二年間兄妹が喜びを共にした部屋で“妹”が備え付けのクレーンで吊り上げられるとき、新たな生命を孕んでさらに発育に拍車がかかった妊娠腹に運搬用の腹帯(ストラップ)を掛けてやったのは、弘幸の兄としての最後の勤めだった。
 吊り上げられたとき“妹”は幸福そうな表情を浮かべていて、弘幸はその頬にキスしてやった。

 ヒロユキは“妹”を積んだ医療トレーラーが街角を曲がって消えるまで手を振って見送っていた



「ヒロくん、ご苦労様。お部屋は片づいた?」
 居間から遼子の声がした。
「うん」
「じゃあ、こっちに来て一休みなさい」
「HP更新したらすぐ行くよ」



更新:210*年3月1*日

リョウコ9年体販売中  1体4万5千ユーロドル(6百万皇室円)<BR>

***社の発売の***薬および****薬使用により多胎妊娠可能。<BR>

子宮筋弛緩剤と羊膜補強剤、出産遅延剤などの複合投与によって二十ヶ月超の妊娠も可能です。(試験済み)性格も従順です。<BR>
被験体は妊娠二十三ヶ月で、今日好事家同志に引き取られていきました。あなたも直径1メートルを超える巨大ボテ腹娘を肥育してみませんか。<BR>

現在、オリジナル・リョウコは臨月で、“出荷”を来週に控えています。<BR>
5体予約済み<BR>
残るは2体。(うち1体は交渉中)購入希望者は急ぎ連絡を。<BR>
この機会を逃すと半年待ちです<BR>



 クローン増殖禁止法で第二世代の誕生は禁じられている。“妹”の腹の中にいる子供たちはすべてエステ用(美容および若返りのための臓器移植)の“素材”に回されるだろう。
 だが、もし今夜の客が手厚く“妹”を看護すれば、“妹”は“出産”を生き延び、二度目の“妊娠”をする事だろう。
 そして、もし今夜の客が寛大なら、二度目の“種付け”には“ヒロユキ”を呼んでくれるはずだった。
 それが有限会社“リョウコ”ブランドのパートナーに対する礼儀というものである。

 ヒロユキは再び“妹”たちと再会できるのが楽しみだった。



「ヒロくん、お疲れさま。お客様も喜んでたわ。ヒロくんが頑張ったから、今夜は、ママ、大サービスしちゃう」

 弘幸が居間に入っていくと、キングサイズのベッドのようなソファに“リョウコ9年体”を九人も孕んだ母、オリジナル・遼子が横たわっていた。
 出産を来週に控えたその腹は、“妹”よりも双周りは大きく、キンキンに張りつめていて、どうして爆発せずにいられるのか弘幸には理解できない。
 その遼子の体重もすでに三百五十キロに近く、しかもその八十パーセントは発育しすぎた腹と乳房なのだ。
 ビーチボールのような両の乳房からは一日に百リットル以上の母乳が絞れた。

「無事にあの子も引き取られていったことだし、明日は土曜日曜のお休み。今夜は二人きりでゆっくり楽しみましょう」
「明日は隆史くんが遊びに来るんだ。ママと会えるのとっても楽しみにしてたよ」
「あら、ヒロくんたら手回しがいいのね。三人でするなんて久しぶりだから、ママ、ワクワクしちゃう」
「隆史くんには二日に一度は来てもらうようにするから。ねぇ、ママ、お願い。妹は二人僕に頂戴」
「しようがないわねぇ。ちゃんと世話できる?」
「うん。だから、もう一体の追加広告は出さないって約束して」
「はいはい。でも、その約束は、今夜のヒロくんの“お仕事”次第ね・・・・・・あん・・・いきなり・・・ん・・・すごっ・・・もっと・・・」



 九歳児のクローン9体を孕んで出産を控えた遼子は、アドバルーンのような臨月腹を振るわせて果てた・・・・・・



 作者後書き

 この短編、酔った勢いでウイスキーのボトルを開けながら二日で書き上げました。ボトル一本で一話というわけですな。
 新・西遊記もこのくらいのペースで書ければいいのにねぇ。そっちの続きもう少し待ってね。  十通お便りがあったら、この“家畜の宴”シリーズも続行考えるぞー!って、あんた・・・

 まぁ、これはリハビリ代わりに書いた作品ですから。
 やっぱり新・西遊記優先ですかにゃん。

 わたしの作品にしては珍しく、生本番の描写の少ない一編。どこまで読者の妄想をかき立てることが出来たな。フォッフォッフォッ(爺さん化するな!)
 ご満足していただけましたか?
 それとももっとどぎつい描写が欲しい?

 どっちにしても「あるみねこの風船爆弾」が存続する限り、わたしの筆も、炎の如く燃える“ボテ”への煩悩も尽きることがないのじゃ〜!!

 あ、俺、まだ酔ってる・・・・(2002/2/4byじい)