家畜たちの宴 第二話


 きたるべき近未来、前世紀の頽廃と混乱を克服した人類は宇宙にまで進出し、かつてない繁栄と自由を謳歌していた。
 前世紀におこなわれた遺伝子コードの解析はその成果を受けて実用段階に入り、様々な病気や先天的あるいは後天的な疾患を克服し、多大な恩恵を社会にもたらしていた。そして前時代の混乱の一因ともなった、硬直した高齢化社会と労働力の不足を解消するために、特殊な環境に適応した人体改造がおこなわれたり、遺伝子操作によって作られた人工生命体が一層複雑化する社会を支えるようになっていた。
 これはそんな巨大都市の一角で見ることのできるささやかなエピソード・・・。



「いい? 夕方には帰ってくるから、弟たちの面倒をよく見てやってね。それと、ドアには鍵を掛けて、人が訪ねて来ても居留守をするようにね」
「はぁい。行ってらっしゃい、お母さん」



プルルルルルッ。

 母が出かけて三十分もたたないうちに来訪者を告げる呼び鈴が玄関で鳴った。

「はぁい・・・」

 返事をして出ていこうとした四番目の弟を一番上の兄が止めた。

「ダメだよ。お母さんに言われてるだろ」
「ユウくん、いるんでしょう?」

 インターカムから柔らかな女性の声が響くとともに、玄関の電子錠にパスワードが打ち込まれパチリと解錠の音がした。自動ドアが開いて来客が入ってくる。

「あっ、ヨシエさんだよ。出迎えてあげなきゃ」

 四番目の弟が部屋を飛び出し、残りの兄弟もそれに続く。
 玄関の暗証番号を知っている者は母の友人だけである。少なくとも優太たち兄弟はそう思っているし、そうでなくとも芳恵は気持ちいいコトをしてくれる優しいオバさんなのである。
 もっともオバさんといっても、芳恵は二十代後半である。優たち兄弟からすると相対的に年上の女性であるというだけで、本当に叔母(血縁)でもなければ、年嵩の熟女というわけでもない。しかし、母とほぼ同年齢で、こうしてちょいちょい訪ねてくるので親友なのだろう。一度優太がそのことについて尋ねたのだが、芳恵は答えをはぐらかして笑うだけだった。
 家に遊びに来るようになったのはここ半年のことなのだが、芳恵はいつも間が悪くて大抵母が出掛けているときに訪ねてきた。というよりも、母と芳恵が親しく話しているところを優太たちは見たことがないような気がするのだが、そのあたりのことになると兄弟の記憶はなぜか霞がかかったようにあやふやになった。
 とにかく芳恵は母の友人のはずなのだ。その証拠は・・・

「ヨシエさん、いらっしゃい」

 優太たち六人の兄弟は元気よく芳恵の周りに駆け寄った。

「こんにちわ、ユウくん」

 出迎えてもらった芳恵は嬉しそうに微笑んだ。
 マタニティーを羽織った色白の美人。しかも、その腹ときたら五つ子でも孕んで臨月を迎えているのではという大きさである。
 巨大なボテ腹が重いのか、数秒ごとに左右の足へ交互に重心を移す。そのたびにユラリユラリと一拍遅れて揺れる爆腹は見ている者の目を奪わずにはおかない。

「ヨシエさん、オナカ大変だよね」

 優太たちは妊婦のような芳恵を取り囲んで彼女を支えながら家の奥へ通す。

「お母さん、今日はお留守?」
「うん、お仕事で六時過ぎまで帰らないんだ。だから僕たち退屈で」
「ねぇ、ヨシエさん、いつもみたいに遊んでよ。いいでしょ?」

 少年たちは口々におねだりした。

「しようがないわねぇ。じゃあ、いつもみたいに・・・」
「やったぁ!!」

 少年たちは口々に歓声を上げ、家の中はにわかに騒がしくなる。彼らは爆腹を抱えてヨタヨタと歩く芳恵を支えながら“寝室”へと連れて行った。



 部屋全体がベッドとなった寝室で、優太たちは全裸となって豊満に膨らんだ姿態をさらす芳恵を取り囲んでいた。

「さあ、今日は誰からしようかな。わたしも準備するからその間に順番を決めてね」
「うん!」

 少年たちはいつものように“入る”順番をジャンケンで決めはじめた。

 芳恵はベッドの上で仰向けになると、出産するときのように膝を立てて大股を開いた。そしていつも肌身離さず身につけている腕輪型の小型端末機を操作した。
 胎内インプラントが送られてくる制御信号によって起動する。いまにもはち切れそうなほどに膨れ上がっている芳恵のボテ腹が、出産をむかえた子供が動いているかのようにグニャリとうねった。

「ん・・・」

 快感とも痛みとも判然としない子宮内壁への刺激に芳恵は軽く呻いた。毎日のようにしていることだが、これだけはいつまでも慣れないのである。
 子宮の中でなにかが蠢くたびに芳恵の腹の形が変わる。動きがいったん落ち着くと、芳恵はさらに端末を操作して人工羊膜を解除し、子宮口を開いて“出産”のために変形したインプラント、腹部整形用可変球体、通称“バルーン・スフィア”を胎内から出し始めた。

 バルーン・スフィアは膨腹マニアのための超高級な“大人の玩具”である。きわめて伸張性の高いゴムのような物質で作られていて、組み込まれた小型受信機の発する電気信号によって液体型形状記憶合金(作者注:映画「ターミネーター2」のT−1000型ロボット参照)のように自在に変形することが可能である。
 さらに小型強力なモーターポンプを内蔵しており、中空のボール形態では液体や気体を取り込むことによってユーザーの腹部の大きさを自由に変えることが出来た。

 芳恵はこのバルーン・スフィアを蛇のように細長く変形させて子宮から取り出しているのである。
 “順番”の決まった六人の少年たちは芳恵の周りに集まって彼女が“出産”を終えるのを待っていた。
 少年たちが見守る中、芳恵の股間からは変形したバルーン・スフィアがのたうつようにして排出される。黒色のバルーン・スフィアはヌラヌラと体液に濡れていて、まさに子宮から出てくる大ウナギのようだった。
 芳恵の子宮から出きったスフィアはバケットボール大の球体になると、部屋の隅にマタニティードレスと一緒に置いておかれた。
 バルーン・スフィアを胎内から取り出してボテ腹を内側から支持するものがなくなったとはいえ、芳恵の膨れ上がった腹部にはほとんど変化がない。彼女は自分の性的嗜好に合わせて、下腹部を中心に強化子宮などでチューンアップした改造人間なのである。
 もっとも、改造人間といっても、いわゆる人工の素材で身体の一部を代用しているサイバネティックな連中とは一線を画する。自分の体細胞をベースに、遺伝子をいじり回して各臓器のデザインと性能を強化した自分自身の肉体なのである。強化子宮の性能をフルに(定格の300%超)引き出すために胎内に埋め込まれた合成ホルモン分泌線が腕輪型の端末から支援を受けている以外は、すべて自前の体内環境の一部として機能しているのだった。

「最初に入るのは誰なのかしら?」  芳恵は自分の肉体を取り囲んで、賞賛と期待の眼で眺め回す少年たちを見上げた。
 二番目の兄が末の弟をチラリと見た。

「どうしたの?」
「ヨシエさん、二人一緒はダメ? 一人だけ先だとみんなを待つの退屈なんだよ」

 幼い少年たちの予期せぬ提案に芳恵は思わず爆腹を揺すって笑ってしまう。

「いいわよ。そのためにいつもアレ(バルーン・スフィア)入れて慣らしてるんだから」

 芳恵は出産スタイルをとったまま、優太たち兄弟の提案を受け入れた。

「それじゃあ入るね」

 先ずは末の弟が芳恵の股間に膝をついた。そして両手を差し出すと・・・
 いきなり腕を女性自身に突っ込んだのである。

「ぐふぅっ、いい・・・いいわぁ・・・」

 子宮口を貫通し、肩まで差し入れられた少年の腕に子宮内壁を掻き回される感覚に芳恵は歓喜の声を上げた。
 少年がそのまま両手で膣口を押し広げると、驚くほど柔軟で伸縮力に富んだ芳恵の秘部が少年の頭部から上体まで呑み込んでしまう。

「そうよ、もっと奥へ・・・ママの中へいらっしゃい」

 なおも少年が身をくねらせて狭くて柔らかいトンネルの中を這い進むと、終いには少年の身体はスッポリと妊婦のような芳恵のボテ腹の中に収まってしまった。

「あふうっ、すごいぃ・・・でもあんまり動き回っちゃダメよ。これからお兄ちゃんも入っていくんだから・・・あ、んん・・・」

 上から二番目の兄が間髪入れずに芳恵の胎内に入っていく・・・

 これが芳恵の性的嗜好(小児性愛、擬似妊婦プレイ等)に合わせて改造された肉体の可能ならしめている“胎内回帰プレイ”である。
 この手のプレイ専用のペット(性奴隷)として躾られている優太たち兄弟は、芳恵のように人間の限界を超えて膨らんだ巨大なボテ腹の女性とセックスするのがなによりも好きである。
 先乗りの二人が子宮に収まったのを確認するやいなや、外に残った四人の少年は嬉々として芳恵の肉体に飛びついていった。
 一人は芳恵の口で、二人は両手でペニスを扱いてもらいながら、彼女の胸を揉んだりパンパンに膨らんだ爆腹に舌を這わせたりして愛撫する。つぎに芳恵の腹に入る三番目が、いまから自分の通過する膣に自分のペニスで露払いの洗礼を行う。すでに腹の中に入っている二人も内側から子宮内壁を責め立て、あるいは兄弟同士でお互いのペニスを舐め合ったりアナルセックスをしたりして胎内での快楽を満喫していた。
 膣内射精をするどたびに、その精子で芳恵を孕ませる代わりに、射精した少年自身が彼女の胎内に入っていって“胎児”を擬する。そして、そのたびに芳恵の腹は巨大さを増していく。

「あぅぅん・・・いくぅ・・・もっと・・・もっとオナカの中で動いてぇ!」

 内と外から山のような超腹を責められ愛撫され射精される快感に芳恵はすっかり酔いしれていた。
 六人目の少年を子宮に収めて、超ボテ腹の直径も二メートル近くになる頃にはすでに昼過ぎになっていた。
 激しいプレイに少年たちも疲れ切ったのか、腹の中で眠たそうに緩慢に動いていた。

「それじゃあ、ママと一緒にお昼寝しましょうか」

 芳恵は腕輪の端末を目覚まし時計にセットした。なにがあってもこれだけは忘れてはならない。
 なぜなら芳恵は少年たちの母が帰ってくるまでに、少年たちを再出産し、少年たちに身繕いをさせ、この寝室の掃除も済ませて、ここで女主人の留守中に行われたことの痕跡をすべて消してしまわなければならないのだから。

 実を言うと芳恵は少年たちの母の友人でも知人でもない。彼女はハッカー兼ストーカー兼小児好きの胎内回帰プレイ愛好者の変態だった。
 もう一つ事実を並べるなら、いま胎内で抱き合ってお昼寝をしている六人の少年は、この家の女性の性欲を満たすために開発されたユウ十年体モデルである。
 芳恵はハッキングによるネット検索で個人情報を調べ上げ、“ペット所有者”の家に忍び込んでは今日のような乱交に及んでいるのである。
 むろん、事前に忍び込む家のセキュリティ対策や電子錠の暗証番号などは調べ上げてある。
 しかもユウのような幼児型のクローンは極めて従順で暗示にかかりやすい。帰り際に軽い催眠誘導剤を与えることで簡単に記憶を改竄してしまうことが出来るのだ。
 また、万一芳恵の不埒な所行がばれたとしても、ソレ用に作られた人造人間とのセックスなど法的には『所有物の一時的不法占有』にしか当たらず、怪我さえさせなければ万引き以下の軽犯罪なのである。(つまり所有者に無断で、寸借した道具を使用しただけ)
 訴訟の対象にすらなら、所有者の精神的損害か家屋への不法侵入しかない。だがこれらの非倫理的な“ペット”の所有者は、事が公になるのをおそれて、泣き寝入りかよくても示談でおさまってしまうのだった。

 だが、油断は禁物である。この家には半年で十数回遊びに来ているが、繰り返される行為が条件付けされて、そろそろユウたちの記憶を完全に消去するのが難しくなってきていた。
 残念だが、あと一、二回で河岸を変えるのが安全だろう。

 芳恵は少年たちを“孕んだ”巨大な腹を満足げに撫で回しながら浅い眠りに落ちていった。



 この時代、各戸ごとにセキュリティシステムが設置されていて、窃盗などの不法侵入や火事、あるいは幼少の子供が家の中で事故にあったりしないように(子供のプライバシーを侵さない範囲で)監視するのは当たり前になっていた。
 特にユウのようにでセックスのためだけに作られたようなタイプは、相手をしてくれる主人がいなくなると退屈して子供らしい無邪気さを発揮し、屋内で事故を引き起こすことが時々ある。

 この家にも各部屋に監視カメラが取り付けられていて、“母”が外出中のユウたちの行動をモニターしている。
 しかし芳恵もそのことは承知していて、セキュリティシステムを無効化した上で、監視カメラ用の映像バンクには偽の映像データが録画されるように仕組んでいる。
 これは事前の準備が大変なのだが、一度システムができあがってしまえば芳恵の使っている腕輪型の小型端末などによって外部システムからの支援が受けられる。

 しかし・・・



「やはり依頼主の言っていたとおりだったな」
 男は呟いた。
 芳恵は監視カメラの本物の映像をコレクションとして、自宅のハッキング・システムのバンクに転送していた。システムに怪しまれずに侵入するためには三週間の時間と八千SPドル(シンガポール・ドルの略称)の経費を要したのだが、その甲斐はあったというものである。

『いかんなぁ。腹を膨らませ、身動きもできん身体で。しかも他人の家で居眠りするなど、いかに闇ネットで名の売れた天才ハッカーといえども、傲慢にもほどがあるな』

 もっともそのおかげで、こちらがセキュリティシステムに侵入する際の、リセットによる監視カメラの再起動に気づかれずに済んだのだが。
 芳恵は自宅に帰って今日のプレイを再生するかもしれないが、自分が昼寝しているところを見たりはしないはずである。録画時間の一瞬の途切れはチェックプログラムを走らせなければ発見されないはずだ。

『ハッカーとしては同業だが、進む道は大きく異なる。悪く思うなよ』

 闇の仕事人はメール・プログラムを立ち上げると、今回の仕事に必要な人材に連絡を取り始めた。
 事前に準備は整えていた。行動に要する時間は二時間弱、芳恵にばれることはないと仕事人は踏んでいた。



 芳恵は大満足で山の手の自宅に帰ってきていた。高級住宅地の一角で、さほど大きい家ではないのだが独りで住むには充分すぎるほど広い。
 ハッカーで得られた極秘情報は高値で売れる。収入の大半は自分の身体の改造につぎ込んでいるのだが、残った金でこれだけの家が建てられるのである。
 近所の無能で欲呆けした金持ちたちは、芳恵が彼らの経営する会社などの情報を商売敵に売り飛ばしていることを知らない。彼女のことはベンチャービジネスという詳細不明の最先端分野で成功した若手女社長程度に思っているのだった。

「ふぅ、久しぶりだったから少し遊び過ぎちゃったかな」

 三日後には○○食品の合成蛋白工場における原料の不正表示のレポートを某社に提出しなければならない。

 芳恵はマタニティードレスを脱ぎ捨てると地下室に降りていった。
 敷地の地下は人工太陽灯のついた屋内プールになっている。プールとはいってもささやかなもので、直径八メートルほどの円形で泳ぐほどの広さではない。これはジャグジー(泡風呂)としても使用でき、体型の都合上普通の浴槽には入れない芳恵はここで入浴するのが常だった。
 時にはネットで知り合ったセックスフレンドを何人か連れ込んで、ここで胎内プレイの乱交パーティーを開くこともある。プールは一方へ傾斜していて、浅瀬側で直径一メートルを超えた超ボテ腹を抱えて横たわる芳恵は、まるで浜辺に打ち上げられた鯨のようだと
同好の男女を興奮させた。
 壁の一面はマルチ画面のディスプレイになっていて、テレビや映話(映像電話の略。ホロ電話、つまり3D映像で会話できるホログラフィック通話システムもある)はもちろん、自動プログラムによる留守中の仕事の進捗状況などもここに映し出せるようになっていた。

 芳恵はジャグジー・モードにしたプールに身を沈めると、泡の中に手足を伸ばしてくつろいだ。
 腹の浮力がやや強すぎるので、バルーン・スフィアに湯を吸い込んで浮力調整をした。プールの中の湯が小型ポンプで吸い上げられると、胎内に流れ込んでくる液体の暖かさと重量感が昼間の快楽を思い出させる。
 芳恵は身体が安定してくると寝椅子形に成形されているプールの浅瀬に身を横たえた。自宅に転送録画した昼間のプレイを壁のディスプレイで鑑賞しようかとも思ったのだが、そうなるとどうしてもオナニーしたくなってしまう。
 そこで芳恵はここから一時間ばかり離れたところに住んでいる、ボテ腹レズの大好きな澄美というセックスフレンドの事を思い出した。
 先方が今夜暇かどうかは分からないが、まだ夜も遅いわけではないし、今日の録画と芳恵自身の肉体を肴に誘えば遊びに来てくれることは間違いない。

 芳恵は映話システムに回線をつなぐとともに、バルーン・スフィアの小型ポンプに注水を再開するよう命じた。ついでに映話装置のカメラに、ジャグジーに横たわった自分の全身像を移すように画角の変更を指示する
 澄美と回線が通じたときに、目の前で膨張し続ける爆腹を見せてやろうと思ったのである。そうすれば澄美は居ても立ってもいられずにここへ駆けつけるに違いない。

 十秒とたたないうちに回線がつながった。

「はーいっ、久しぶり。○○○区のヨシエよ」

 通話相手が確認できるまで大抵の女性は映像を立ち上げない。
 ディスプレイには向こうからの映像の代わりに返信確認のアイコンしか表示されないが、壁面のスピーカーからは驚きで息を呑む音が微かに聞こえた。
 次いで先方のカメラがオンになり、二十歳前後の学生らしい女性が現れた。

「お姉・・・よ、ヨシエさん、お久しぶりです」

 いきなり魅惑的な裸体を見せつけられて澄美はポカンと口を開けていた。その素の表情の初々しさが芳恵の食指を動かす。

「元気にしてた? いま、暇かしら?」
「ええ」

 お誘いを察した画面の向こうの澄美の表情が明るくなった。
「ちょっと催しちゃってオナニーしてる最中なんだけど、オナカが大きすぎて手が届かないのよね。で、ちょっと手伝ってもらえると有り難いんだけど。それに面白いビデオも仕入れたから家に遊びに来ない?」
 通話している間にもバルーン・スフィアはプールの水を吸い込んで、芳恵の腹は徐々に膨張していく。芳恵はその腹にカメラをズームインさせた。

「え、ええ」

 澄美は勢い込んで頷いた。

「なるべくはやく来てね。でないと、わたしのオナカ、パァァンって破裂しちゃうから」

 用件を伝え終えると芳恵は一方的に回線を切った。普通なら通話相手には失礼な行為だが、この場合は主導権を握っているのが芳恵であることを知らせて置かねばならない。
 澄美は芳恵の肉体に憧れる多くの取り巻きの一人、奴隷志願者に過ぎないのだから。
 急げば一時間か一時間半ぐらいで澄美は到着するだろう。そのときにはどういうプレイを行うか、芳恵はあれこれ妄想を展開しはじめた。



「回線が開いたぞ」
「では侵入プログラムを走らせろ。成功したら依頼主に回線を譲るんだ」

 芳恵の外出中に仕込みは済ませてある。
 仕事人には警報を出させずにあの家の保安システムを乗っ取る自信があった。
 芳恵は一流のハッカーだが、仕事人の隣にいるパートナーは超の付く腕前なのだ。
それに家のハードには仕事人と二人の仲間が彼女の外出中に忍び込んで、ちょっとした仕掛けをしてあった。

「わーおぉ、見ろよ、すごいぜ。あの女、膨腹マニアだ。しかも“膨張”真っ最中のところをお友達に見せてやがる」

 パートナーが涎を垂らさんばかりに回線の盗視聴映像に見入っていた。

「グズグズするな。俺たちは依頼を遂行するだけだ。楽しみすぎればいつか標的と同じ立場になるぞ」
「へいへい。あんたの堅物ぶりには毎度の事ながら閉口させられるよ」



 芳恵が最初に考えたのは、澄美が訪れてくる前にどれぐらいボテ腹を大きくしておくかということだった。
 澄美ははち切れんばかりの巨大な腹が好きである。大きければ大きいほど興奮して淫乱になる。身動きできない巨腹を抱えて澄美に対して主導権が握れるのかと思うかもしれないが、澄美はそんな芳恵のボテ腹の大きさに比例して服従心も高ぶるらしい。昼間のように妊婦十人前にも膨らんだ腹を見せつければ、澄美は芳恵の足下に平伏して山のような腹に舌を這わせて奉仕する許しを請うのだった。

「まぁ、あの娘も期待してるんだから、一メートルやそこらは軽く越えるくらいに膨らましておかないとね」

 気体を充填するならともかく、液体でバルーン・スフィアを満たすとなると重量がかなりかさむ。
 いまのようにプールの浅瀬に寝転がって海底から隆起した火山島のような爆ボテ腹を水面に突き出しているのは、強化された子宮筋といえどもそれなりの負担がかかる。芳恵は四苦八苦しながら転がるようにしてプールの深い側へ身体を移動した。
 こうしている間にも毎分二リットルのペースでバルーン・スフィアへの注水が行われ、芳恵の腹は緩やかに膨張を続けている。澄美が到着するのが一時間後なら百二十リットル、一時間半かかるなら百八十リットルは入る計算である。大した量のように思えるかもしれないが、昼間のお遊びで六人の少年を子宮に収めたことを考えれば驚くには当たらない。実際、最先端の医療技術で改造された芳恵の子宮は直径にして二メートル超、五百キロ以上の内容物を充填されても大丈夫なよう設計されていた。周囲から水によって支持されていれば、浮力によって重量が軽減されるから安全限界点はさらに上昇する。
 むろん、水中で出来るプレイは限られているから、ひとしきりプールで楽しんだ後は排水後に空気でも再充填して寝室へ行くことになる。

 芳恵が澄美を呼びだしてから五分もしないうちに壁面ディスプレイの隅に着信表示が点滅した。

「あら?」

 芳恵は首を傾げた。澄美がなにか言い忘れたのだろうか。
 普通ならAIの制御する芳恵の擬似映像がすべての応対を取り仕切る。セックスフレンドや顧客はそれぞれに別個のパスワードによって識別され、それ以外の誤信や家のシステムに侵入しようとするものは門前払いをするようにプログラムされているのだが。

 芳恵が許可しない限り通話回線が開かれることはない。
 だが、次の瞬間に回線が自動的に開いて芳恵を驚かせた。

「なっ?!」

 それと同時に壁面ディスプレイが生き返り、そこに映し出されたのは・・・。
 巨鯨のごとくプールに身を浮かべている芳恵自身だった。画角からすればさっき澄美との通話で使ったカメラの映像だろうか。

「ハッキングされている? まさか家中の・・・」

 芳恵は慌てて腕輪型の端末を操作した。
 無反応。


「こんばんわ。初めてお目にかかるわね」

 ディスプレイの右上隅に女性の顔が映し出された。

「だれ?」

 動転した芳恵は、反射的に尋ねてすぐに自分で答えを悟った。
 昼間遊びに行った家の・・・あの家の少年たちの母親である。
 だが、どうやって?

「専門の“業者”に頼んだのよ」

芳恵の疑問を察した母親が説明した。怒りに満ちたその声は氷のように冷たい。

「貴女、うちのほかにも三十件以上の家で同じようなことをしてるでしょう。だからね、それに気づいた人たちでお金出し合ったのよ。
貴女が二度と悪いコトをできないようにね。さぁ、いまの貴女の映像は出資者みんなに配信しているわ。それじゃ、ショータイムといきましょうか」

 画面の向こうで母親が端末を操作するとともに、通話は切れた。
 と、とたんに股間を流れる水流が速くなる。
 バルーン・スフィアのポンプがフルパワーで注水しはじめたのである。

「ひっ!?」

 芳恵は顔を引きつらせた。
 スフィアの仕様は、気体なら毎分最大二十リットル、液体でも十二、三リットルは充填することが出来るようになっていた。
 ポンプの小型モーターが胎内でフル回転するのにつれてバルーン・スフィアが、芳恵のボテ腹を急激に膨れ上がる。

「と、とにかく水の中から出ないと・・・」

 芳恵は立ち上がろうとしたのだが、一ダースほども子供を孕んで臨月を迎えた妊婦のような体型に阻まれて身体を起こすことすら困難になりつつある。
 腕輪型の端末を操作してバルーン・スフィアの制御を取り戻そうとしたが、遠隔操作用の電波も乗っ取られているらしく、スフィアはいっこうに芳恵の命令に従おうとしない。 浅瀬の方へ移動しようにも、巨大な腹がプールの底につかえてしまっていた。
 天井に取り付けられた小型クレーンも使用不能。
 システムから切り離され、各種ハードの支援も受けられずに胎内で暴走するバルーン・スフィアによって強制膨腹させられていく芳恵の肉体は、まさに浜辺に打ち上げられた鯨だった。

「ねぇ、そこで見てるんでしょう? 止めてくれたら二度とあなた達の“子供”に手は出さないって約束するわ。それにいままで撮ったコレクションも全部消去する・・・」

 腹の直径はすでに一メートルを超えている。
 芳恵は自らの膨張し続ける肉体を映しているディスプレイに、その裏側に取り付けられているカメラに向かって訴えた。
 だが、ディスプレイはなにも変化せず、ひたすらに膨張する芳恵の腹と無情に上昇する腹囲の計測値や推定注水量を表示するだけである。
 唯一の希望は澄美の到着なのだが、それまで強化子宮が耐えられるかどうか・・・

 そして数十分後、ボテ腹の直径は二メートルの安全規格を軽く超え・・・



「こんばんわ。おねえさま、遅れてすいません」

 澄美はあらかじめ教わったパスワードを打ち込んだのだが、玄関の扉が解錠しない。インターホンを押しても、いつも応対に出るAIが沈黙したままである。

「少し遅れたぐらいでそんなに怒らなくッても・・・・・・?」

 そのとき澄美は家の裏手から彼女を呼ぶ声を微かに聞いた。
 裏手には確かプールからの換気口が・・・それに裏口もあったはず。



「ひっ、はっ、きっ、澄美、助けてぇ!! 破裂するぅぅっ!!!」




 プールへ降りていった澄美が一瞬眼にしたものは、プールに浮かぶ肌色の直径三メートル近い巨大な球体・・・。



ぱぁぁぁぁぁぁん!!!




闇ネットニュース最新版
210○年5月2○日深夜

 つい十五分前、都内○○○のYさん(膨腹マニアとしても有名な女性です)がバルーン・スフィアの暴走によって子宮破裂の重傷を負った模様。詳しくは映像アーカイブ内0203bote参照(極秘入手の現場映像)のこと。
 アベンジャーズの活動が指摘されています。
 Yさんは、留守宅に侵入して少年型人造人間を使った胎内プレイに興じていたという噂があり、そのことで複数被害者から恨みを・・・

 なお、当ニュースグループは非合法に尽き、購読者はこの情報を警察へ転送せぬ事。読契約は一月あたり・・・・

 どこよりも速い裏情報、各種ゴシップを知りたい方は当グループと御契約を。



「ごめんね、お母さん」

 六人の少年たちは口々に母に謝った。

「ううん、いいのよ。長い間、ママのオナカに入れなかったから、あんな悪い女に騙されたのよね」
「ねえ、いつになったら入れるようになるの?」
「あと一月我慢して。そしたら新しい弟が生まれるから」
「ふーん。でも七人も一緒に入れるかな?」
「ママのオナカ、パァンって破裂しちゃったりしない?」
「大丈夫よ。それより、いまから“弟”を可愛がってあげてね」

 六人の“兄弟”は“母”の求めに応じ、七番目の同族を孕んだ臨月腹を、そして“母”の膣や肛門や口を愛情を持って犯しはじめた・・・・(終)



 作者後書き

 最近は、あんまり書くことありません。
 ここに至ってはひたすら前進あるのみです。
 え? 新西遊記はどうなった?
 ちゃんと進めてますって(ホントか?)

 今回は“狼と七匹の子ヤギ”の変形版です。
 六人の子ヤギが狼の腹に収まって、狼は水難に遭う。ね、昔話のトーリでしょ?
 でも、あんまり出来が良くなかったな、この作品。コンパクトにしたというより端折りすぎのような気がしないでもないです。読者のみなさん許してね。

 では、“近いうちに”次回作でお会いしましょう。(2002/2/26byじい)
 今度こそ新西遊記第七回で・・・