家畜たちの宴 第四話


 きたるべき近未来、前世紀の頽廃と混乱を克服した人類は宇宙にまで進出し、かつてない繁栄と自由を謳歌していた。
 前世紀におこなわれた遺伝子コードの解析はその成果を受けて実用段階に入り、様々な病気や先天的あるいは後天的な疾患を克服し、多大な恩恵を社会にもたらしていた。そして前時代の混乱の一因ともなった硬直した高齢化社会と労働力の不足を解消するため、特殊な環境に適応した人体改造がおこなわれたり、遺伝子操作によって産み出された人工生命体が一層複雑化する社会を支えるようになっていた。
 これはそんな巨大都市の一角で見ることのできるささやかなエピソード・・・。


 前世紀の深刻な環境汚染は大都市から郊外へと住民を拡散させ、各種の社会機関、とくに教育機関(小学校から大学に至る)をこれに追随せしめた。
 郊外に新たに生じた衛星都市は、住民の職業や所得から趣味や人生観に至るフィルターで篩にかけられて住み分けが生じる。同質な隣人がいることは住民にとっては暮らしやすいことになるのだろう。
 そこは地域社会という文化的特質が、遺伝子の選択的交配(品種改良)のように特化する。それが首都圏ともなると流行の先端を行く実験場となることもある。
 たとえば以前は旧都Tの通勤圏に属していたのどかな田園都市。ここには某巨大企業と協力関係にある私立の教育機関が進出していた。この教育機関は小中高校から大学にまで至る優良な人的組織と施設を擁していることで有名である。

 その特質は如何なるものかと覗いてみると・・・


「・・・それでは転入手続きはこれで終わりですからね」
「はい」
「とりあえず部屋に私物を入れましょう。少し休んで落ち着いたら担任のところへ案内します・・・気分が悪いの? 顔色が良くないようだけど」
 舎監は身を乗り出して少女の顔をのぞき込んだ。新しい寮生の健康状態は早めに把握しておく必要がある。
「いえ、少し緊張しているので・・・」
「ならいいけど。具合が悪いときは早めに申し出るようにね」
「分かりました」

 舎監は少女を割り当てられた部屋に連れて行くと、一時間ほど休ませることにした。担任には電話で午後から教室に出席することを伝える。
 少女を残して部屋を後にするとき、扉に少女の名前が彫られた真新しい表札をかけていく。
 [志宇 正美]

 広大な学園都市のあらゆる放送設備から始業の鐘の音が鳴り響く。
 付属幼稚園から高校まで備えた一貫教育が売りもの、建前としては男女共学(この時代は男女平等が徹底している)、お嬢様ばかりが通う五つ星の私立全寮制教育機関。
 『聖マタニティ学園』
 それがこの学園都市の名称である。(ただし“聖”とついても宗教法人とは関係ない。創設者の誰かが高尚さを演出するためにつけたのである)


 ここ数世紀の人口爆発に端を発した深刻な環境破壊は、前世紀の末にようやく制御できる範囲に収まった。強力な少子化政策の推進は、人口増加に歯止めをかけることに成功した。
 加えて全世界的な男女平等社会の実現とともに本格的な女性の社会進出が進むと、個人が結婚や出産によって人生を束縛されることを好まない風潮を産み出した。
 この二つが主因となって、今世紀は出産率の低下と人口の減少が各国政府を悩ませるという有史以来の問題を人類は抱えることになった。
 これに対する回答の一つが、労働力の不足を補うクローンという第二階級(ズバリ言って、法的保護を受けない奴隷階級)である。
 だが、歴史から学んだ人類は、過度に安易な方法に頼りすぎる危険を予測する程度には賢くなっていた。
 つまり、出産率の低下を克服して、“人類”の子孫を絶やさないようにしなければならない。

 その回答が代理母というビジネスである。
 世の中の大半の女性は妊娠や出産に人生の限られた時間を割く余裕を無くしてしまったが、生物である以上自分の遺伝子を受け継ぐ子孫は残したいと思っている。
 そこで自分で養育する以上の子供を妊娠出産したいと思っている少数の女性が腹を貸し、契約に基づいて生命の神秘を代行するという仕事が生まれたのである。
 代理母となった女性たちは、その数十倍からの腹を痛めぬ女性たちの仕事を代行しなければならない。巨利を産む仕事ではあるが、体調管理など個人で行うにはリスクもある。
 そこに目を付けた医療企業がこの分野をビジネスとして会社を立ち上げ、社員として代理母の大量雇用に動き出したのである。
 そのような時代の流れの中で、代理母産業と手を結んで将来性のある代理母志願者を育成するために創られた教育機関の一つが私立聖マタニティ学園である。


「ねぇ、今日って新しい転校生が隣のクラスに入ってくる日じゃなかったっけ?」
 昼食後の昼休みの時間、少女たちは仲良し組で集まって、飽きもせずに噂話に興じている。
 聖マタニティ学園中等部第三学年は敷地東北部のE棟と呼ばれる校舎の三階と四階を占めていた。
「隣って?」
 尋ねられた少女の方が噂話に疎いらしい。右隣か左隣か迷うように視線を周囲の友達に回す。
「バカねぇ。噂になるような娘の来るクラスなら八組に決まってるじゃん」
 この学園では不定期な転入や転校はありふれたことなのだ。「あっ、そうか」

 少女たちはマタニティドレスのようにゆったりとした制服に身を包み、全員がプックリと腹部を膨らませている。
 どの娘も将来代理母になることを希望してこの学園に入学してきた者たちである。中等部(中学校)の第三学年は初めて多胎妊娠を体験する学年で、少女たちは学年のはじめに二人か三人の子供を妊娠し、この学年の期間中に十月十日かけて出産するようカリキュラムが組まれている。
  むろん正規の代理母ではない生徒たちは、第三者と契約して子宮を貸すことは出来ない。腹の中の子供は教材用のクローンで、出産後は学園内外の出資者(個人や企業)に労働力として引き取られることになっている。

 ちなみに学園は男女共学の建前があるから男子生徒も若干名いる。妊娠した女生徒に担任の目が行き届くように、一クラス二十人の少人数編成が基準だが、このうち五六名が男子生徒である。彼らは将来代理母の介護士となることを目指していて、初等部(小学校)から徹底して妊婦の要求に応えるようにしつけられている。
 この時代は性的解放が進んでいるから、女生徒たちが望めば男子生徒はセックスの相手もしなければならない。だから男子生徒は全員が十人並み以上の美少年で、しかも初等部のうちに年上の妊婦(中等部や高等部)に筆おろしをされて童貞を失っていた。無論、結果として彼ら全員が妊婦フェチで、女生徒に頭の上がらない従順な召使いとなってしまっている。
 学生寮も男女同居で妊婦の生活を介護する。だからどうしても肉体関係が出来てしまうわけなのだが、フリーセックスの時代に不純異性交遊などという言葉は死語である。むしろ妊婦(女生徒)の気晴らしの一環として、適度なセックスは奨励されているくらいだった。
 そもそもこの学園のモットー(教育方針)が『女性はより多くの生命を育む豊かで大きな器であれ。男性は彼女たちの誠実有能で献身的なパートナーであれ』なのである。誰もがそれを承知してここにいるのだから、多少の特異性に首を傾げる必要はない。

「どんな娘なんだろ?」
「そりゃあ八組に来るくらいだから、あたしたちなんかと較べモノにならないにきまっているじゃない」
 少女たちは膨らみの目立ちはじめた妊娠中期の腹部をお互いに見比べた。どの腹も双子か三つ子を孕んでいるので、月数の割には大きく迫り出している。
 多胎妊娠は中等部卒業の必修単位で、彼女たちにとって初めての体験でもある。
 だから少女たちは一喜一憂して毎日のように自分たちの発育ぶりを確認し合っている(この学園はAlわーるどなので、腹囲の大きさが女性美の基準)のだが、“八組”だけはどうやら次元が違うらしい。噂に興じる少女たちの口振りには、嫉妬と羨望の裏返しである嘲りと蔑視の色があった。

「俺が偵察してこようか?」
 女生徒の気をひきたい男子生徒たちが二三人、いそいそと職員室や寮など転入生の立ち回りそうな場所を偵察に出かけた。休み時間も残り少ないので大した成果が得られるとは思えない。

 隣組、つまり八組は各学年に設けられている特殊学級である。
 そこは特別な事情によって学園の課すカリキュラム(単位の修得に必要な妊娠)を超え、より手厚い介護を必要とする女生徒たちが属する教室である。
 たとえば前述のように中等部三年の普通のクラスは初めての多胎妊娠(双子か三つ子を孕む)を経験しているわけだが、八組の女生徒は四つ子や五つ子を孕むのですら少ない方である。大半は六つ子から八つ子ぐらいは妊娠していて、しかも多胎妊娠は初回ではない。 半数の少女は初等部(小学生)高学年のうちに多胎妊娠を経験していて、残りの半数も中等部一年の時には初体験をすませている。
 少女たちが八組に属するようになった経緯は様々だが、大別すると(やや身勝手な)親の意向、女生徒自身の志望、体質による不慮の多胎妊娠などがあげられる。なかには早熟な(ついでにぼてフェチ)のボーイフレンドに排卵誘発剤を与えられて、無理矢理多胎妊娠させられた少女もいる。
 とにかく体調も事情も特殊だから、各学年の八組には続き部屋の保健室が備えられていて、複数の担任教師は全員医療免許も取得している産婦人科のエキスパートである。
 男子生徒も特に優秀(従順で献身的)な生徒が選ばれていて、男女比も普通のクラスと逆転している。普通なら男女比は一対二とか一対三なのだが、八組の女生徒は一度椅子に腰を降ろしたら自力では立ち上がれないような巨大な妊娠腹の持ち主がほとんどなので、女生徒一人を男子生徒二人ないし三人がサポートする態勢になっているのだった。

「それにしてもさぁ、絵里香のやつ、また妊娠したらしいよ」 普通クラスの女生徒は八組の噂になると止まらない。嫉妬や羨望や畏怖や憧憬が複雑に入り混じって、仲間内での情報や意見の披露に事欠かないのだ。
「ゲッ」
「またぁ? 先週産んだばっかしなのにぃ?」
「相手は二組の和哉だって噂よ」
 少女たちは声を潜めた。
「万年臨月のカエル腹」
「孕みすぎの淫乱雌豚」
 周囲に聞こえないように女子たちは囁き、周囲の男子は聞こえない振りをした。

 隣組の浅井絵里香という女生徒は学園理事長の姪であると同時に、この私立学校とつながりを持つグループ企業の会長(学園の名誉顧問)の孫娘でもある。これだけでも普通の女生徒の嫉妬をあおるのに充分なのだが、本人がその事実を盾に横柄な振る舞いに及ぶので周囲の反感を陰で買っているのだった。


 絵里香の母親は浅井グループに属する某医薬品メーカーの重役筆頭、父親はその女婿で将来を社長と嘱望される製品開発部の部長である。その会社は代理母産業関連の医薬品の製造と販売を行っていた。
 両親はともに妊娠フェチと社内で噂され、母親はしばしば自分の子宮を使ってより安全な多胎妊娠もしくは多重妊娠を可能にする新薬のテストを行っていた。(テスト妊娠のときには当然クローン胚を受胎する)。
 絵里香は両親が結婚十年目を記念して三十回目の妊娠のときに初子(テスト妊娠のクローンは新薬試験の終了時にすべて廃棄されている)として生まれた。彼女は両親の影響で幼い頃から妊娠に興味を持ち、祖父の紹介で聖マタニティ学園初等部に入学した。
 もともと利発で才媛の質があったのだが、いつも周囲に特別扱いされ甘やかされて育ったせいで、人の風上に立たなければ気が済まない女王様的性格になってしまったのは当然の成り行きだった。
 この学園という小社会では妊婦上位(女性上位ではない)、しかもより多くの子を孕めるより大きな腹の代理母志願者が格上である。
 早熟な絵里香は初等部の頃から、両親にねだって勤め先で開発されている様々な最先端のチューンアップ(肉体改造)を自分の身体に施してきた。
 現在のバージョンでは、毎月妊娠と出産を行えるように、多重妊娠と多重出産の機能が彼女の子宮には与えられている。
 学園の女生徒たちはみんなクローンを受胎して妊娠を体験学習するようになっている。その点は絵里香も同様なのだが、彼女は毎月排卵し、その時点でセックスしていた男性の精液の刺激を受けてクローンを受胎するように卵巣をデザインしていた。
 だから彼女の腹の中には臨月から受精したての胚まで、月順に妊娠した胎児が十体ほど収まっているわけである。当然その腹は多胎妊娠をしている八組の女生徒の中でも群を抜いて巨大で、絵里香自身もそのことを鼻にかけて自慢していた。


 生徒の間には絵里香に反感を抱く者(主に女生徒)ものも多いのだが、少なからぬ数の男子生徒が彼女に筆おろしをさせてもらっていることもあって親絵里香派も多い。特に前述のセックスによる妊娠で彼女を孕ませたことのある男子は、取り巻きとして親衛隊化していた。孕むのはクローンだが、自分との行為で妊娠させたとなれば、ボテフェチばかりの男子生徒である。情が移るのは当然と言えよう。

 やっかみ半分で反感を持つ者が多い一方、女生徒の中でも絵里香になびく者は少なくない。絵里香が両親を通じて手に入れた、多胎妊娠を可能にする薬や子宮を拡張する薬を欲しがる女生徒がいるのである。
 年頃の娘がボテ腹を至上美とする環境(学園内)で、腹部を大きくしようとするのは珍しいことではない。しかしことは肉体に直接関わることだけに、化粧や制服改造などの校則違反とはレベルが違う。
 それに絵里香はバイセクシャル(両刀使い)の気があって、これらの薬に媚薬の類を混入して女生徒にまで手を出していた。
 大仰な表現をすれば、薬物とセックスで学園を裏から支配していたといっても良い。動機は金目当てなどではなく、その性格(支配欲)のなせるワザであろう。権力を持つ者はその力を確認するだけのために力を行使せずにはいられないのである。

 自然な妊娠出産の延長線上での代理母育成を教育指針としている学園側としては、生徒の過度の肉体改造(それに薬物投与なども)は禁止しているのだが、絵里香の場合は有力者の娘ということもあって公然と咎めることが出来ない。
 それにくわえて、絵里香の成績はつねに学年で上位三番以内だったから、表向きのことでどうこう言えなかった。八組を中心とした風紀の乱れは学園関係者にとっては頭の痛いことであった。


「んっ・・・んあっ・・・もう・・・」
「うふふ・・あっ・・もう・・・我慢できない?」
「うぅ・・・んっ・・・出っ・・・」
「あはぁ・・・いいわ・・・ほら・・・もっと我慢して」
 八組に隣接した保健室のベッドの上で、両脇を取り巻きの男子生徒たちに支えられながら、騎乗位になった絵里香の臨月腹が激しく上下に揺れる。その巨大な腹の下敷きになっているのは一年生の男子生徒だった。
 大きく迫り出した絵里香の腹は華奢な一年生の胸から腹部の上にかけて、重々しく鎮座していた。
 取り巻きの男子生徒(もちろん三年八組のクラスメート)は、二人がかりで山のような妊娠腹を支え、絵里香のハイペースの上下運動を手助けしていた。

 この年頃の女の子にしては絵里香は長身である。妊娠していなければ、色白やせがたで彫りの深い美少女の絵里香は、宝塚の舞台女優にたとえられただろう。
 だが、幼少から妊娠と出産を繰り返している絵里香の肉体は、その研ぎ澄まされたような美しい容貌とは対照的に、胸も妊娠腹も肉づきよく発育し、雪のように白い肌はパンパンに張りつめていて今にも皮下脂肪が噴きこぼれそうなほどである。
 常に母乳を含んでいる乳房はメロンよりも大きいが、乳首や乳輪は処女のように小粒で色の薄いピンク色。月順に十体のクローンを孕んだご自慢の爆腹の腹囲は常に身長よりも数値が大きく、体重は二桁と三桁の境界を前後していた。
 腰つきは成熟した大人の女性のように豊かに横に張っていて、経験の浅い男子生徒のほとんどはムッチリとした太股に挟まれただけで射精してしまう。
 いやらしいほどこの豊満な肢体で責められる少年はたまったモノではない。

「お願い・・んんっ・・・絵里香さん・・・もうっ・・・」
 切迫した声で腹の下の一年生が限界を訴えた。
「仕方ないわね。あ・・・ほらぁ・・・思いっきり出してもいいわよ」
「ああっ・・・!!」 絵里香の許しが出るより一瞬早く、少年は目の前で揺れる巨大な腹にしがみつくように顔を埋めると、爆発するような勢いで絵里香の中に精を解き放った。
 性交の条件に一週間自慰を禁じられていた一年生は、二度三度と絵里香の下で腰を痙攣させると、驚くほど大量の白濁した液を彼女の孕み腹の中に吐き出した。

「うふふふふ、すっごく出たわねぇ。こんなに射精されたら、私また妊娠しちゃうかも」 射精を終えた一年生の上から降りながら絵里香は小悪魔のように微笑んだ。
 “妊娠”の一言はこの学園の男子生徒にとって万金の重みがある。
 事実、絵里香は他の女生徒と違って多重妊娠の可能な身体である。単なるセックスではなくて、妊娠させることは(たとえそれが精子の刺激で改造卵巣から排出されたクローン胚であっても)男子にとっては童貞を捨てること以上の意味があるのだ。だから、“当たり”は月一とはいえ、そのチャンスを巡って絵里香の一言で虜になってしまう男子生徒は結構多いのだ。
 昼休みも終わりに近い。
 セックスを終えた絵里香は二人のクラスメートに手伝ってもらいながら、さっさと制服を身に着けていく。男子生徒など下僕にしか思っていない絵里香にとっては、征服を終えた一年生のことなど見向きもしない。
 一年生はさっきまでの激しいセックスの手前、なにがしかの暖かい言葉を期待していた。
「ほら、いつまでも見ていないで、さっさと服を着て出ていけよ」
 三年男子が一年を脅しつける。女王と平民の間で言葉を取り次ぐ大臣のような態度である。
「でも・・・」
 一年がもう一人の取り巻きに睨まれて黙り込んだ。
「服着ないなら、裸で放り出すぞ」
 序列と身分をわきまえない一年に女王の近衛兵が警告した。
 ようやく場の雰囲気を察した一年生は、股間の始末もそこそこにトランクスに両足を突っ込んだ。

「また今度ね」
 保健室を出ていこうとする一年生の背後に絵里香が一見暖かく聞こえる声をかけた。一年生は思いがけない絵里香の笑顔に顔を赤らめ、名残惜しそうに振り返りながら部屋を辞去した。
 飴と鞭。悪約は親衛隊が演じ、女王様は善政を敷いて人心を集める。これが絵里香の支配体制である

「お疲れさま」
 絵里香は二人の近衛兵の手を取って、噂の万年臨月腹に触らせながらベッドから立ち上がった。両側から彼女の腹を支える二人のクラスメートは、必要以上に彼女に身体を密着させている。
 ちょうど巨大妊娠腹に押しつけられる形になっている二人の股間が熱く硬直していることを絵里香は制服越しに感じ取った。
 今日の昼休みはなかなか楽しめた。この二人の下僕は自分の性欲を我慢して彼女を介助してくれたのだから、放課後か夜にでもなにがしかの報償をしてやらなければなるまい。
 たとえば、他にも二人ほど女生徒を呼び込んで5Pするとか・・・。それとも、そろそろ“美容”のためのサイズアップを兼ねて追加の胎を孕んでやるか・・・。
 両親からは止められているが、高等部に進む前に腹囲二メートルを超えたいと絵里香は思っていた。そのための薬品やDNA操作ウィルスはすでに手に入れてある。(作者注:この時代には遺伝子操作技術は確立されていて、安全で安定した人工ウィルスで遺伝子の注入が行われる。絵里香親衛隊のオタクのなかには、自前の妊婦用ウィルスを作っている男子生徒もいるらしい)
 自分の影響力、女性美に満ちた姿態と美貌、偽りの善意やスキンシップ(セックス)に翻弄される男女を眺めるのが絵里香は好きだった。

 保健室の部屋に掛かった時計を見ると、あと一分ほどで午後の授業のチャイムか鳴る。優等生で通っている絵里香は授業に遅れるつもりはない。
 二人のクラスメートに支えられながら絵里香は、保健室を出た途端、廊下の向こうをやってくるモノを目にして絶句した。
 それと同時に、同じモノを目にした廊下に面したすべての教室から驚愕のどよめきが起きた。

 精マタニティ学園中等部三年の午後の授業開始は二十分以上遅れ、パニックが収まったあとも教師の教えることなど頭に入る生徒は一人もいなかった・・・


 取り敢えず教師連中は、廊下に溢れ出た生徒たちを自分のクラスに追い戻すのに二十分費やした。

「初めまして。志宇正美といいます。みなさん仲良くしてください」
 先生に紹介されて挨拶した正美の前では八組の生徒全員が、胸に顎がつくほど口を開けて呆然としていた。例外は、絵里香一人がかろうじて威厳を保ち、惚けた間抜け面をさらしていなかっただけである。

 型どおりの挨拶した正美は謙虚そのもの。その態度は転入生はじまって以来の控えめで小さなモノだったが、その腹は学園の歴史以来でもっとも巨大だった。
 多胎妊娠のカリキュラムの進んだ高等部でもいない。

 もし正美が普通の体型だったら、「子犬のような」と例えられる小柄で元気な可愛い少女になっていただろう。
 だが現実の正美は、特注の制服の前部をテントのように膨らませた、超爆ボテ腹の巨大妊婦だった。
 スカートの下に見える両足には下半身を支える動力ギブスを装着している。その機械仕掛けの足の前には、六輪の小型装甲車のようなモノが見え隠れしている。その光景は、テントのような正美の制服の下に、プロテクターを装着したままの身長二メートルのフットボール選手が足を骨折して、電動車椅子に乗ったまま隠れているのではないかと思われるほどだった。
 それはメーカーから“自走式昇降台”という味気ない呼称で分類されている、妊婦(特に腹部が発育しすぎて、自力で歩行できない妊婦)介護機器の一種である。この“台”の上にアドバルーンのように巨大な妊娠腹が鎮座しているのだ。自走式昇降台(製品名“ばーるーん・キャリア”=ボテ腹運搬車)は正美の動きに同調していて、ちょっとサイバネティックな彼女の身体と完全に一体化しているように見えた。(台の昇降範囲でなら椅子に座ったりしゃがんだりする事も可能。独立式の低圧六輪タイヤと強力なモーターで階段の移動や早足で歩くことも出来る。完全防水でプールでの歩行訓練にも使えます。医療保険対象製品)
 そうでなければ正美が教壇の前に立ってみんなに挨拶することなど出来ないし、それ以前に屈強の体育教師が四人いても正美をここまで連れてこられたかどうかはなはだ疑問である。

 正美が軽く頭を下げてお辞儀をすると、昇降台の油圧装置がわずかに沈み込み、身体の前傾に合わせて腹を下げる。
 彼女が顔を上げると超巨大な腹も持ち上がり、テントのような制服の下でユラユラと揺れた。
 それを見た八組の生徒全員が、この人間アルプスとでもあだ名を付けるべき転入生の腹が、誤って昇降台の上から転げ落ちて大爆発するのではないかと肝を冷やした。

「えぇ、ご覧のように志宇さんは特別な体調ですから、クラスのみんなは気をつかってあげて優しくしてあげてください。それでは志宇さんは後ろの席へ・・・」
 担任のあまりに簡素で控えめな言葉に促されて、正美はしずしずと豪華客船がパナマ運河を進むように、新しい級友たちの机の間を自分の席へと向かった。
 偶然にも正美の席は絵里香の隣だった。

 女子生徒も男子生徒も担任たちも教室にあるすべての目が、正美が席に着くまでの一挙手一投足を見守った。
「よろしくお願いします」
 畏敬の目で新しい級友の腹を見上げる八組の生徒たちに、正美は丁寧に会釈をしながら進んでいく。
 ふと興味を抑えきれなくなった男子生徒の一人が手を伸ばし、正美の身体の前を進む
山のような巨腹に手をやった。
 この手の行為は好きな女の子のスカートを捲ったりするのと同じであるが、みんなの見ている前でするのは、担任にも叱られるし明らかにスタンドプレイである。
 しかし、その男子生徒はたまたま絵里香の支配下にはなかったし、あるいはこのあと級友同士で暗黙のうちに取り決められる“従僕”として、正美にアピールして彼女担当の介助者になりたかったのかもしれない。

「あっ・・・んっ!」
 完全な死角である巨大爆腹を不意に撫でられて、正美はうつろな表情で立ち止まった。
 男子生徒がびっくりして手を引くと同時に、正美が自分の倍以上ある腹を抱きかかえ、体重を預けるようにその場にしゃがみ込んだ。
「うっ・・・ん、う、産まれるぅ・・・」
 衆人環視の中で正美は遠慮なくスカートの裾をまくり上げた。その下には、しゃがんだ拍子に外れた妊婦用オムツ(妊婦は膀胱が圧迫されるし澱物が多いので、女生徒は全員着用している。授業中にトイレに行くのが間に合わなかった女生徒はこれで用を足して、休み時間中に介助役の男子生徒に後始末してもらう)が床に落ちていて、桃のような正美の臀部が丸見えになっていた。
 その股間からチョロチョロと羊水が流れ出している。
 それを見た担任教師の一人が保健室に連絡するとともに、残りの二人が慌てて正美のそばに飛んできた。
「あんっ・・・いいっ・・・」
 巨大な臨月腹が陣痛に震え、子宮が収縮して羊水が吐き出される。出産時の痛覚を快楽神経中枢につなぎ変えられている正美は、恍惚とした表情を浮かべながらいっそうの快感を求めて息んだ。
 二人の担任が手を差し出すのと同時に、正美の股間からひとり、そしてふたりと子供が滑り出てきた。
 二人の教師のナイスプレイに期せずして教室中で喝采が起きる。
 そのとき絵里香は自分がもはや学園のナンバー・ワンの座から滑り落ちたことを悟ったのだった。


 転入早々、正美は一気に聖マタニティ学園の華に登り詰めた。
 だが、それは単に女生徒十人でもかなわない巨大な妊娠腹だけのおかげではなかった。何をするにしても介助の手を必要とする“究極美”の肉体が、男女を問わぬ興味と保護欲をかき立てることはもちろんだが、それに加えて絵里香とは正反対な温厚で人当たりの良い性格が周囲に受け入れられやすかったこともある。

 正美は狂信的ともいえる自然保護活動家の両親のもとで育てられた。
 両親とも実家は裕福な資産家だったのだが、前世紀に一族の所有していた工場が大規模な環境汚染に関わっていたことを恥じ、その反動で自然保護活動に身を投じて知り合った仲である。
 両家の一族は表だって苦い表情は見せなかった。二人とも両家の本流からはずれてはいたが、時代は前世紀の負の遺産を精算する方向に傾いていたから、所有企業のプラスイメージになると判断されたのである。

 両親は正美を身籠もる少し前にDNAルネッサンス(遺伝子復興)運動に興味を持つようになった。これは人類の経済活動によって絶滅に追いやられた生物を、償いの意味も込めて人類自身の手によって再び復活させようという運動である。
 つまり遺伝子博物館にのみ保存されている生物(主に哺乳類)をボランティアの改造した子宮から産み出そうというのである。
 人工子宮(育種工場)や目的別に特化された高性能なクローンのあることを考えれば、人間自身の借り腹などほとんど新興宗教に近い突飛な行為だが、推進派はそれこそ大地への償いであると主張した。そして正美の両親はこれに共鳴したのである。
 子宮をリメイクした母親は、その最初の妊娠(改造前に男子を一人もうけていたがこれは勘定外)では当然ながら我が子を産むことにしていた。
 そして産まれたのが正美である。

 だが、何の因果か(遺伝子書き換えウィルスが生き残っていたらしい)母親の改造した遺伝子の特質を、正美は強化された形で先天的に受け継いでいた。
 小学校に進む頃には目立って子宮が発達し始め、一年もすると双子を妊娠したような体型になってしまったのである。
 このような臓器の部分的な異常発育は、当然成長期の少女の身体に相当な負担をもたらす。

 八歳になる頃には正美は、母親が行ったような本格的な改造と適応処置(計画された肉体改造とそれに応じた肉体強化)を受ける必要に迫られていた。
 そのころDNAルネッサンス運動にとりつかれていた両親(母親はそのときレトリヴァー犬十六匹を孕んでいた)は、娘の特異な体質を天意としてとらえ大々的な改造を施したのである。
 そして正美を退学させると(この時代は義務教育がなくなっている。年齢別の基礎学力検定テストさえ合格すればよい)、自宅を改造した“ルネッサンス育種室”に半ば軟禁した。そしてあらゆる絶滅した動物を彼女に種付けしたのである。 そのほとんどは大型の哺乳類で、海洋動物では鯨やシャチ、イルカ、トド、アザラシなどの類。陸生ではゾウやサイ、カバ、大型肉食獣(トラやライオン等々)、人類近縁の霊長類から馬や牛などの大型家畜(この時代の食肉は99.8%が合成蛋白)、かつては身近なペットだった犬猫に至るまで。
 浅学で流行に飛びつきやすい活動家によく散見される、派手で知名度の高い絶滅種を手当たり次第正美に種付けして産ませたのである。
 両親は否定するだろうが、活動家仲間の間で自分たちの業績を自慢するだけのために我が娘を“育種工場”として利用したのである。
 こうして正美は十三歳になるまで“育種室”に幽閉されていた。

 このあまりにも自分本位で狂信的な両親の行動は、両家一族の怒りと危惧を買った。
 高名な弁護士チームが結成されると、一族は一年がかりの訴訟で正美の親権を両親から取り上げ、父方の叔父叔母夫婦が正美を引き取ったのである。
  だがもともとの体質と肉体改造に加え、長年の幽閉生活で妊娠と出産を繰り返していた正美の腹部は手の施しようもないほど異常な発育をしていた。幽閉から解放されたときには少女は、腹囲3メートル超、体重約280キロ(その大半は発育しすぎた腹と乳房の重量)の超巨大ボテ腹妊婦と化していたのである。
 妊娠中の動物をすぐに堕胎するのは危険だった。代謝機能が現状に適合しているために、“普通の女の子”に戻す医療処置は生命の危険を伴うと診断されたのである。
 もし正美が社会に出て自立した自由な人生を歩んでいこうとするなら、残された選択肢は妊娠を職業とする“代理母”しかなかった。
 一族の影響力のおかげで聖マタニティ学園への入学はすぐに決まった。
 そして子宮の中身を半年がかりで“動物”から“クローン胎児”へ入れ替る作業が行われ、ようやく正美の転入がかなったのである。


   正美は一日で学園の華に登り詰めた。これには彼女の驚異的なスリーサイズの負うところが大きいのはもちろんだが、それ以上に重要なのがその性格の良さであった。
 長く両親の元で非人間的な幽閉生活を送っていた影響で、この年頃の普通の女の子に比べると多少従順でおとなしすぎる嫌いはあったが、陰のない素直で飾らない性格に育っていたのが救いといってもいいだろう。
 自分の身体に対して両親のしたことを恨むでもなく当然のこととして受け入れ、引き取ってくれた叔父叔母に感謝しながらも両親や兄と会えなくなったことを寂しがっていた。

 新しいクラスメートに生い立ちを尋ねられると、正美はこれらの質問に何一つ隠さず正直に答えた。
 そしてこの数年は家族以外の誰とも顔をあわさずに過ごしてきたので、小学校のときのように再び同年齢の級友に囲まれて嬉しいこと、出来れば親元からここに通いたかったことなどを久しぶりの慣れない口調で語ったのだった。
 最も聞き手の同情を買ったのは、正美自身が逆境を逆境と感じていない点だった。

 とにかく正美は保護欲をかき立てられる存在だった。その体型上の問題から何をするにしても人手が必要だったのである。
 ばるーん・キャリアがあるとはいえ、歩くときはトラックを運転するような要領で十メートルより手前のものは腹と胸が邪魔で全く見えなかったので、常に先導が必要だった。
 学園内では生徒同士の助け合いを重視しているために、便利な介護機器に頼ることは奨励されていない。着替や入浴、食事、排泄から、果ては寮に帰ってもベッドに寝たり起きたりするだけでも、常時五六人は正美についていてやらなければならない。
 そのとてつもなく発育した母胎を維持するためには、授業毎の休み時間に高栄養の軽食を摂らせてやらなければならなかったし、膀胱が子宮に圧迫されて少し身動きしただけでも失禁してしまうので、妊婦用オムツ(正美専用の特注品)も頻繁に交換して股間を清潔にしてやらないと(特に出産直後は)感染症になる危険があった。
奥にいるのが絵里香だったりして

 問題の中心に位置する妊娠腹は絵里香のものの超拡大バージョンとでも言うべきもので、多重妊娠したものを順次出産できるという基本仕様は同じだったが、性能は段違いで二日に一度は一人か二人の子供を産んだ。
 今の体型を維持する必要があるから、産んだ分だけ補充するのは自明の理である。排卵は毎日しているが、誰が受精させるかと候補者を募ると男子生徒の間で流血沙汰の喧嘩が絶えなくなるのは目に見えていた。
 事実、放課後の学級委員会(生徒たちの自治会なので担任は引っ込んでいる)で世話係を誰にするか話し合った際、正美からこのことを聞いた男子生徒(よそのクラスから参加していたものも含む。八組だけでは人手が足らなかったからである)たちは一斉に色めき立って激論になった。
 渦中の正美は長い孤独な生活で社交性が欠けているから、自分が当然必要とすることを表明しただけで、なぜこんなに男子がもめるのかさっぱり理解できない様子だった。

 絵里香はいまいましげな表情を浮かべると、取り巻き連中を引き連れてマタニティスイミングへの参加を理由に退出してしまった。
 八組の半分が空くと、そこによそのクラスの生徒たちが入り込んできて、議論はいよいよ沸騰した。
 正美自身はどうしたらよいのか分からずに座っているだけである。

 結果としては、成り行きを見かねた八組の女生徒(その日の休み時間のうちに正美と親しく口をきくようになっていた)数人が、学園の雰囲気に慣れない正美の後見になり、介助志願者の男子集団を差配することになった。
 後見の女生徒たちは反絵里香で結束している仲良しグループで、全員が七つ子が六子を孕んだ堂々たる爆腹をしていた。

 期せずして正美は反絵里香派の旗印に担ぎ上げられたような具合である。それとも単なるマスコットのペットか。どちらにしても騒いでいるのは周囲であり、正美自身はそれに関知するような機微は持ち合わせていなかったのである。その無防備な態度が級友からの妬みを買わず、むしろ保護してやりたい気持ちにさせていたのは間違いない。


「正美ちゃん、元気してたぁ」
「あーん。授業中、ずっと正美のオナカに触りたかったよー」
「ね、保健室でオムツ交換しようか?」
「胸張ってるんじゃない?お乳搾ってあげようか?」
「ほら、男子、手ぇ貸して!」
 一躍学園の人気者になった正美の周りは、休み時間になると親友となった取り巻きの女子生徒や世話係当番の男子生徒でいつも人垣ができてしまう。
 門前市をなすとはまさにこのことである。

 もちろん男子は正美を孕ませたいからかいがいしく世話を焼く。
 正美も自宅に引きこもっていたときは、絶滅種の種付けの合間にストレス解消のためによく兄とセックスしていた。だから男子生徒とセックスするのに抵抗はなかったし、その結果として毎日のように多重妊娠していくのも、級友たちの前で大股を開いて出産をするのも至極当然のコトと受け止めていた。ただし今までの経験から、セックス(兄との)と種付け(遺伝子操作した受精卵をしかるべき医療器具で子宮内に送り込む)が同一の行為であることを知らされて少々違和感を覚えはしたのだが。

 だが、男子以上に正美に執心だったのが、妊娠している女子たちである。
 そもそもが男女共学の建前ながら、女子の圧倒的に多い聖マタニティ学園である。多くの女子が手近な同性に対する好意を抱き、それがより深い感情に発展していくのは珍しいことではない。
 男子生徒は面接試験でふるいにかけられた美少年揃いだから、ノーマルな異性恋愛もあるにはある。だが、男子は女子の従順なパートナーであるとの校風から、無難すぎて今ひとつ異性としての魅力に欠けている点は否定できない。
 だから、多くの女子は男子をセックスフレンドとしてつき合いはするのだが、より深い関係を同性に対して求めてしまう傾向があった。だから、学園内の女子生徒の三分の一は同性愛か両刀使いの傾向があり、残り三分の二の女子の大半も気晴らしや単なるセクフレ、あるいは一時の興味などで同性同士のセックスを体験したことがあるのだった。
 こんな気風が学園内に潜在しているのでは、あまりにも個性的な正美と“仲良し”になりたい女生徒が集まってくるのは当然の現象だった。

 正美はといえば、男子との関係よりも、彼女の後見になってくれた新しい“親友”たちとの関係を意外とあっさり受け入れることができた。
 同性とのセックスは初体験だったが、性交と種付けを切り離した行為は、論理的に(彼女の思考形態では)受け入れやすいモノだった。それに男子の多くが毎日の出産で鍛えられた正美の膣と年齢別なら世界記録級の超爆腹を前にして、一分も保たず胎内に射精してしまうことを考えれば、女子とのセックスははるかに充実していて満足な快感が得られたからである。
 
 何をするにも人手の必要な正美では、ベッドの上もにぎやかになる。
 セックスや種付けの時には、自力では全く身動きのままならない正美が体位を変えるために男子六人、さらに彼らを選抜し差配する“ファン倶楽部”の女子が同数かそれ以上、保健室や寮の正美の部屋(特別室)に集まって饗宴が繰り広げられることになる。
 休み時間や昼休みにも、オムツ交換や搾乳、妊娠腹マッサージといった世話の合間に、関係のない十本以上の手が正美の身体を撫でさすり愛撫する。女子のお気に入りは正美とお腹をくっつけあうことで、これはたちまちのうちに正美ファンクラブの公用の挨拶になってしまった。
 さらに大胆な少数の者は、保健室に正美を連れ込んで唇を奪い、母乳を飲み、裸にした超巨大妊娠腹に直に頬擦りしたりキスをしたりする始末だった。
 それらを親愛感情の表れと受け止める正美は、これらの行為を嫌がるどころか、喜んで山のような腹を震わせた。それがますます多くのファンを集める結果となっていた。


 面白くないのは絵里香である。
 学園No.1の座を奪われたのも面白くないが、取り巻き連中の離反を防ぐために自分を安売りしなければならなくなったのがさらに面白くない。
 周囲に気を使わせるのは好きだが、気を使うのはイヤなのである。

 だが、月一で当たり目の出る絵里香と、毎日当たる正美とでは、孕ませマニアでやりたい盛りの中学生男子(ついでに女子も)がどちらにつくかは明らかである。
 それに二人の腹囲の差は100センチ以上あり、どちらが妊婦として格上か較べるまでもない。これも絵里香の癪に障っていることだった。

 絵里香は気付いていなかったが、それ以上に正美がみんなに人気がある理由は、その無防備で駆け引きの必要のない明け透けな性格にあった。自分の体質や体型が人間離れしていることなど全く気にかけていないし、妊婦としての格の上下などを自慢して人の風上に立とうともしない。“スキンシップ”も大好きで、同年代の子と一緒にいられることをいじらしいほど素直に喜んでいる。
 そんな絵里香と正反対の部分が好感度アップにつながっていることを、上下関係ばかりに気が向いている絵里香は理解でなかったのである。

 絵里香は一時は正美の腹をパンクさせる方法なども妄想してみたのだが、そのような考えはすぐに放棄した。
 親衛隊をそそのかし、尖った凶器でアドバルーンのようにパツンパツンに膨満しきった妊娠腹を突っつかせるという単純な方法から、ばるーん・キャリアに細工して転倒事故を引き起こすといった手段までいろいろな手が考えられた。
 だが、冗談でそのようなことをしても、正美のような超ボテ腹が爆発すれば、良くて重傷、悪くすれば殺人事件に発展しかねない。
 そうなれば理事長や両親でも絵里香をかばいきれない。

 それに正美の身に何かあれば、真っ先に疑われるのは、あからさまに嫉妬している絵里香である。疑惑が生じただけでも周囲の人望を失って、学園の女王様の座に復帰するのは不可能になるだろう。
 結局、正美に無事でいてもらわなければならないのは絵里香自身なのだ。正美が勝手にパンクしただけでも絵里香のイメージが傷ついてしまうのである。
 そのことに考えが至って、ますます絵里香は苛ついた。

 しかし、駆け引きに長けた絵里香といえど、権謀術数ばかり巡らしている粘着質で陰湿な性格だったわけではないし、もとが聡明なだけに発想の転換もはやかった。

 疑惑を生じないようにするには、正美の一番の親友になればいいのだし、競争相手の足を陰から引っ張るのが無理なら、正攻法で堂々と自分が勝てば文句を言うものなどあらわれるはずもない。
 つまり、自分が正美を超える“美”を備えればいいのである。
『王者たるもの、姑息に振る舞うべきではないわ』
 絵里香はそう考えて気が楽になった。遺伝子テクノロジーは金さえ積めばありとあらゆる人体改造を可能にする。
 驕慢な絵里香は一方では子供っぽいロマンチシズムを持ち合わせていて、あらゆる面で自分が衆に秀でた存在であり、自分に超えられない壁などないと思っていたのだった。


 正美が転校してきてから二ヶ月後・・・

 それは正美にとってはいつもと変わらない楽しい学園生活の一ページだったが、絵里香はこの日を王座奪還の決戦日と期していた・・・。
 Dデイである。


「これより十五分自由時間。クールダウンがすんだら早めにプールを出て着替えをすませるように。次の授業に遅れるな」
 見事な逆三角形の体型に鍛え上げた体育教師が、大声を張り上げて指示を出しながら温水プールにこだましていた水中エアロビの軽妙なBGMを止めた。

 爆腹を揺すってプール内に津波を巻き起こしていた八組の女子たちは、歓声を上げて二列横隊を解くと仲良し同士で集まっていく。
 隣に仕切られたレーンでは、男子生徒たちが羨ましそうに横目で見ながら何セット目かの五十メートル往復(片道二十五メートル)を黙々とやらされていた。
 この学園に金槌の男子は一人もいない。ゴーグルをつけて顔を水中に漬けると、今にも弾け飛びそうな妊娠腹をプリンプリンと水中で揺すってエアロビに汗を流している女子の水着姿が拝めるから、自然に息継ぎを覚えてしまうのである。 

 女子にしてもプールでの体育授業は家庭科についで人気があった。
 ちなみに家庭科の授業といっても男子の作った手料理を女子はひたすら食べて、あれこれ評価するだけである。
 母子ともに育ち盛りでは、昼食だけでは栄養が足らないから、午前午後に一時限ずつ授業の名目で食事の時間が設けられているのである。(ただし、正美だけはこれでも摂取カロリーが足らないから、休み時間毎に間食の必要があったが)
 プールでの体育が人気があるのは、女子にとっては部分的に大きく発育して体重の増した自分の身体を支えるのが楽になるからだし、男子にしてみればそんな女子の水着姿を観賞できるからである。
 ちなみに水着はといえば、これは制服ほど服装規定が厳しくない。スリーサイズもまちまちな妊娠女子生徒たちのために、ベースはスクール水着(例の濃紺のワンピース型)でありながら、オーダーで様々なデザインになっていた。
 絵里香や正美に限らず大抵の女子は腹や胸が大きすぎるので、水着は上中下(胸部、腹部、腰部)で別々になっている。腹部を支える必要のない女子の中には、露出度をアップして周囲にアピールしようとビキニタイプの水着を調達してくる者もいた。
 正美はといえば、周囲のリクエストに応じて一度は露出度の高いボンテージベルト型の腹帯をしてプールに現れたものの、水中エアロビを始めて五分もしないうちにベルトが弾け飛んでしまった。以来、細いベルトが腹部に食い込んで痛いという正美自身の声もあって、全体を覆うタイプの腹帯に変えてしまった。

 そんな正美が親友たちに囲まれてプカプカしていると、そこへ絵里香と取り巻きの女子連中が数名漂ってきた。
「あら? 正美ちゃん・・・っと、失礼」
「浅井さん?」
 偶然を装って絵里香は正美と軽く爆腹を押しつけあった。
 最近、学園内の女子の間で流行っている“オナカで挨拶”で、これをしてくる娘は大抵相手に気があって誘っている、特に正美にしてくるものは“深い”親愛の情を持っていると見なされていた。
 最近では緊張緩和が進んでいるとはいえ、絵里香が正美をライバル視していると言うのは衆目の一致するところである。
 無邪気な正美は絵里香のしてくれた挨拶が偶然なのか本物なのか分からずに次の言葉を待っているだけだったが、正美ファンクラブの面々は絵里香の行動をはかりかねて怪訝な表情を隠そうと努力した。(正美の前では誰も悪意のある噂話をしないのが、“正美ファンクラブ”の暗黙の規則となっていた。でないと、世間の複雑さを知らない正美が傷つくからである。そんな純粋無垢な部分も正美を保護してやりたいという人気の一つになっていた)
 もっとも、今まで絵里香は正美を避けるか無視するような態度を取り続けてきたものの、噂話で“もしも”と語られるような積極的な悪意ある行動を仕掛けてきたことはない。
 さすがの絵里香も、正美には余計なちょっかいを出せないのではないかと最近ファンクラブの間でも警戒を解いていたところだった。

「相変わらずすごいお腹してるのねぇ。また少し大きくなったんじゃない?」
 絵里香は気さくに話しかけてきた。相手の腹の大きさを褒めるのは、天気の話しをするのと同様、学園内では社交辞令としての会話の枕詞である。
「そんなことないですよ。これ以上大きくなっちゃったら困りますぅ。まだ今日は赤ちゃん産んでませんから、少し張り気味ですけど」
 正美は初めて話しかけてきてくれた絵里香に嬉しそうに挨拶を返した。
 “お腹が大きくなって困る”と言うのも社交上の返し言葉である。この学園内の女子生徒で、腹がスリーサイズが減って悲しむ者こそいるが、増えて困るなどと思っているものは一人もいない。ただ、腹囲の大きな妊婦が格上とはいえ、露骨に女性としての各を競うと角が立つので礼儀上謙遜して見せるのである。
 正美にすれば格上とか格下とかいう概念はないのだが、新しい友達とこうやって会話を始めることをファンクラブの女性陣から教わっていたのである。

「絵里香さんだってすっごくオナカ大きいですよ。水着も似合っててとっても素敵です」
「そうかしら」
 絵里香は自慢げにちょっと腹を揺すってみせた。
 たしかにこの二月で絵里香の肉体はさらに発育していた。
 孕んでいるクローンの数を増やしたわけではないのだが、三桁の手前だった体重は二十キロ以上増え、ムチムチとしていた肉体はさらにいやらしいほど豊満になっていた。
 体重の増加分はほとんど胸と腹に集中していて、ギリギリまで露出を追求したボンテージタイプの水着の腹部は、タイトな締め付けの支持ベルトにたっぷりとした腹肉が食い込んで溢れ出さんばかりである。
 絵里香を快く思っていない女子からは、正美に完敗して焼け食いしているという中傷もあったが、そのような噂は全く不適切だった。もともとが長身の絵里香なので太ったというよりも、成熟して大人びたと表現した方が良いほど美しさを増していた。
 このサイズアップのおかげで、絵里香親衛隊は正美ファンクラブにかろうじて切り崩されなかったといっても過言ではない

「お腹張ってるの? ちょっと触ってみていい?」
「いいですよ」
 正美の同意を受けた絵里香は手を伸ばすとスイムスーツに包まれた正美の腹に手を伸ばした。
 針でも隠し持っているのではと正美ファンクラブの面々は、水面下で正美の超巨大妊娠腹に延ばされる絵里香の手を凝視する。
 絵里香の意図を知らない親衛隊の妊婦たちも緊張した面持ちで二人のやりとりを見守っていた。
「すごいわ! 本当にパンパンなのねぇ」
 絵里香は取り巻きの女の子たちとレズる時のように、優しく巧みに正美の腹を撫で回した。ついでに軽く自分の爆腹を押しつけて、円を描くように腹どおしを擦り付けあった。
「あ・・・ん・・・」
 正美のみならず、見ているファンクラブや親衛隊の少女たちまで赤面してしまうような絵里香の愛撫である。
 学園内での性交渉では、女子も男子も大きく膨らんだ妊娠腹に執着する傾向があるから、どうしても腹部が性感帯として開発されてしまうのである。
 正美にしても寮に帰れば女の子同士で裸になってお腹を撫であったり擦り付けあったりするのが好きである。
「ねぇ、わたし、あなたと“お友達”になりたいの。今晩、みんなと一緒に私の部屋に遊びに来てくれないかしら?」
 大きさこそ正美の腹に負けているが、“挨拶”している絵里香の腹は真綿で包み込むように温かで柔らかい。絵里香はこの腹で学園中の生徒たち(一部の教師も含む)を懐柔し丸め込んできたのである。
「ん・・・いいんですか?」
 今までよそよそしかった絵里香が手のひらを返したように優しく接してくれるので、正美は嬉しくなって頷いた。

 噂に聞けば、絵里香の居室は親や理事長の七光りで、普通の寮生の部屋の五つ分もある特別室だそうである。ベッドだけで一部屋分はあって、どんなに腹の大きな超腹妊婦でも楽に寝起きができるよう、様々な介護機器も備え付けられているという。
 環境に恵まれた聖マタニティ学園内でも、国家元首を招いても恥ずかしくないようなVIPルーム仕様になっているという。
 こうして“お誘い”を受けてみると、正美だって普通の女の子並にセックスは嫌いではないし、噂の特別室だって覗いてみたくなる。
 ファンクラブの面々も同様で、友達同伴でも良いと絵里香に言われたら、自分たちが正美についていけば問題あるまいと考えた。彼女たちにしても絵里香の“秘密の花園”は拝見してみたい。あるいは絵里香も軟化して、本気で正美と仲良くなろうとしているのではないかとファンクラブ側は甘い観測を抱いたのである。

 週休二日の学園では、金曜日は実家に帰るものもいるが、寮に留まるものにとっては仲間内で大いに羽目を外す番である。アルコール類厳禁、セックスには寛大な学園寮内で若い男女が一晩中する事といえばナニしかない。
 妊婦は疲れやすいし、薬物の使用(妊婦への使用基準を満たす無害なものでも)は校則違反だが、こっそり覚醒剤(ドラッグではなくて、一時的に疲労回復と不眠を促す薬品)を持ち込んで日曜日までやりまくる乱交パーティーは珍しいことではない。
 とにもかくにもこの日の夕方、絵里香は八組その他のクラスへも招待状をばらまきまくった。
 招待者のほとんどは、自分の取り巻き連中が中心だったが、公正さを演出するために正美派の生徒たちも若干招待された。
 絵里香は衆人環視の中で正美に勝負して勝つつもりだったのである。


 審判の時・・・


 最新の医療機器と中世ヨーロッパの王宮のように華美な装飾の施された絵里香の部屋は、初めて来訪者を一瞬戸惑わせはするが、その優れたデザインですぐに見る者の心を捉えてしまう。
 ソファや机、ベッド、あるいは陶製で四つ足のついた浴槽といった実用性の高いものは往時のデザインを模した強化素材のレプリカだが(体重二百キロを超える超巨腹妊婦が使用ことを考えれば耐久性は重要)、装飾品はすべて骨董品か今でも原産地で細々と生産されている手作りの工芸品という贅沢さだった。

 教室よりも広い絵里香の居室は大きく二つに仕切られていて、生活空間と噂どおりの寝室に大別できた。
 その寝室の大半を占めているのがこれまた噂のベッドで、一見木造のそれは象の親子が寝られそうなほど広い。シーツはすべて絹で無造作に頭側に積まれている十個ほどの大きな羽枕は身体が半分沈み込むほどクッションがきいている。
 ベッドの四隅には支柱があって、それに支えられているアーチを描く天蓋からは薄絹の緞帳が四方に張り巡らされていた。

 絵里香は自分の舞台に、正美も含めて三十人近い少年少女を招いて、誰が学園の女王であるかを証明しようとしていた。
 絵里香側の付き添いの女子は二人、正美側は四人だが男子の数は絵里香の親衛隊が圧倒的に多い。だが、正美が転校してきてからはその結束力は緩んでいるから、どっちでもいいから八組を代表する爆ボテ揃いの両派閥の女子たちとナニをしたいという隠れ中立派が大半だろう。
 そうでなくとも数に任せて正美をどうこうしようという考えはない。いくら絵里香の命令があっても、言葉で女子を威圧する程度のことは出来ても、暴力に訴えて妊婦を陵辱しようなどという男子生徒はこの学園にはいないのである。(そんな不届き者は例え絵里香の親衛隊といえど、他の男子生徒全員からの徹底した報復攻撃を受けることになる)
 だから正美ファンクラブの男女たちは、数に勝る親衛隊員たちに囲まれながらも過度の不安を抱くことはなかったのである。

 女子たちは全員が一張羅ともいえるとっておきのランジェリーを身に着けていた。これからすること(乱交パーティー)は承知の上だから、可愛いフリルのたっぷりついた、しかしほとんどシースルーの下着やキャミソール、ボディスーツなどに身を包み、そのしたの豊かに発育した乳房や七つ子六つ子を孕んだ爆腹を惜しげもなくさらしている。

 男子はといえばこれまた両派選りすぐりの美少年揃いで、妊婦には忠実、しかもナニの経験は豊富で股間の息子の持続力や回復力も平均値以上との噂(女子が男子の想像以上に過激な猥談をすることは公然の秘密)で招待された者ばかりである。
 これまた全員がほとんど全裸同然で、部屋に入った途端に絵里香に服を脱ぐように命じられ、招待の際に言い渡されていたかなりきわどいブリーフやビキニパンツ(これまた女子と一緒でデートのときにしか履かないような逸品)だけになっているのが端から見ると滑稽な光景である。
 半数の男子はやや緊張気味で、局部をかろうじて隠している布きれの下に内気な息子が隠れているような有様だった。だが残りの半数は八組を代表する両派女性陣のセクシーな下着姿、そして両派の領収たる絵里香と正美の超セクシーな姿を見て、元気すぎる股間の逸物が下着のしたから顔を覗かせ、早く挨拶をすませて昵懇な交流をしたいとせがんでいるように見えた。

 リラックスしているように見えるのは、輪の中心にいる招待主の絵里香と来客の主人公である正美だけだった。
 二人とも絵里香の持ち出してきたベルトの集合体のようなボディスーツに身を包んでいた。
 絵里香のものは黒くてやや厚めの幅広のレザーのような材質で、見るからにSMプレイの女王様のようなデザインである。一方の正美のものは白くて薄手の材質で要所に可愛いフリルがあしらわれている。二種類のボディスーツは別な材質のように見えるのだが、実は表面のコーティングが違うだけで、どちらも伸縮性に富んだ鋼のように強靱な合成強化繊維を編んだものである。
 このボディスーツによって二人(特に正美)は露出度を損なうことなく、発育しすぎで重量超過状態の爆ボテ孕み腹を支持しているのである。
 さらにこのスーツには数カ所からくだんの強化繊維をワイヤー状に寄り合わせたものが伸びていて、これが四柱ベッドの天蓋に隠れた小型クレーンにおのおの繋がれていた。
 このスーツとクレーンの一体化したシステム全体が、無重力スーツあるいは対Gスーツと呼ばれているものである。
 もともとは映画の特撮で使用するワイヤーワークによる操演や宇宙飛行士の疑似無重力訓練などで使用されていた機材の改良発展型で、自力では身動きのままならないほどに腹部の発育した妊婦の屋内生活を補助するために開発されたものである。 天井にクレーン基部が自在に移動できるレールなどを設置すれば、上から身体を吊られられた爆腹妊婦たちは自在に屋内を動き回れるわけである。操り人形のように身体の要所を別個にワイヤーで支えているから、正美のように腹と乳房だけで二百キロを超えている妊婦でも身体に負担をかけることなく自由な姿勢がとれるのである。
 しかも強化繊維ワイヤーは従来の鉄製ワイヤーと違って冗長性に富み、一本一本が小型高速ウィンチに繋がれていて、ボディスーツに埋め込まれたセンサーから装着者の身体の動きを瞬時に感知してトレースするので、装着者は全く常人と同じ動きをすることができるのだった。
 最近ではクレーン基部も移動場所を制限されるレールではなくて、電磁石を利用したリニアシステムでよりスムースな移動を可能にしているタイプもあらわれている。
 設置するにはやや値段が張るが、フリーの超巨腹妊婦(代理母)が出演するAVでは自由な体位が可能ということで必須アイテムになりつつあった。体重を軽減する水中以外での運動も可能とあって、妊婦専用のトレーニングジムでもこれが有るのと無いのでは客の入りが違うらしい。

 このボディスーツを絵里香から貸してもらった正美はもちろん大喜びである。
 今までは種付けやセックスといっても、正常位では自分が山のような妊娠腹に押しつぶされるし、逆に四つん這いになると手も足も地に着かず、腹のみで全体重を支えることになってしまう。だから横臥したままかばるーん・キャリアに超腹を乗せたまま背後から挿入される体位しか体験したことがなかったのである。
 女の子同士でするときも同様で、正美はいつも横になってされるがままで、何もお返しをしてあげることが出来なかった。(もっとも、女子たちはそんな正美を一方的に責めるだけでも結構満足していたのだが)
 それがみんなと同じようにいろんな姿勢で楽しめるとあっては、絵里香に感謝してもしきれない。説明を一通り受けてスーツを装着しての動きになれてくると、さっそく正美は絵里香の横に移動してオナカをくっつけあい、横に並んでお礼のキスをした。

「これスゴイです。あたしがこんなに動けるなんて」
 感動している正美はもうそれだけでウルウルしていたる
「そんなことより、お楽しみはこれからなんだから。ねぇ、わたしのいったとおりに“余裕”はつくってきた?」
「はい、今日の夕方すぐに」
 種付けセックスを楽しむために、正美はここへ来る前に絵里香からもらった陣痛促進剤で十一人(出産予定日に近い方から)も子供を産んできたばかりである。
 だから、一日おきに多重妊娠を重ねて百五十近い胎児を孕んでいる超巨大妊娠腹も少しばかり余裕ができ、正美は立ち上がると絵里香の目の前でタップンタップンと両手で腹を揺すって見せた。次いで正美ファンクラブの女の子たちの前でも誘うようにお腹を揺すって見せ、ベッドの上にいる者全員に“挨拶”して回る。
 正美にしてみれば幼少からこちら初めて獲得した身体の自由である。誘うといってもナニの方ではなく、一緒に手を取ってダンスでもしたいような気分なのだろうが、アプローチされる側にとってはあまりにも扇情的である。
 正美の“挨拶”を見た女子も男子も、両派を問わず興奮して二人を囲む輪を縮めてきた。

「うふふ、みんな、もう待ちきれないみたい。それじゃ、そろそろ始めましょうか」
 絵里香はベッドの枕元のタッチパネルを操作すると二本の親指ほどの管をクレーン基部から引き降ろした。これに潤滑液を軽く塗ると取り巻きの女の子に指示して、自分自身と正美のアナルに挿入させた。
 挿入された管は先端部が肛門内で膨らんで抜けないように栓になった。管からは母胎が必要とする高カロリーの濃縮栄養液や妊娠初期の胚の成長を急促進する合成ホルモン、逆に妊娠末期の胎児の成長を遅らせて今晩のうちに産気づいたりしないようにする薬液などがブレンドされていた。

 ベッドを取り囲むようにして男子が並び、親衛隊とファンクラブの女子たちがどういう組み合わせでするかを話し合って整理する。
 絵里香も正美もボディスーツで体重の負担が大幅に軽減されているとはいえ、一対一でセックスできるような体型ではない。だから女子一人男子三人がひと組となって各組が順繰りに絵里香と正美の相手をすることになった。(一まわりすれば組み合わせをシャッフルする)
 一番くじを引き当てたふた組が絵里香と正美を取り囲む。二番手以降の組は他の女子たちを相手に暇つぶしをする。もっとも暇つぶしといっても、女の子はみんな八組だから絵里香や正美には見劣りするにしても五つ子六つ子、あるいはそれ以上を孕んだ見事な爆腹娘ばかりだった。

 ふた組の男女が絵里香と正美に前戯のお触りを始めると、絵里香は積み上げられた枕の下に手を突っ込んで拳銃とエアブラシを組み合わせたような器具を取り出した。グリップの部分に薬液を満たしたカートリッジが装着されていて、銃口にあたる先端部は吸盤のような形状になっている。
 絵里香はこれを自分の爆腹の肌の露出している部分に軽く押し当てると引き金を引いた。
 小さなプシュッという音がすると、絵里香は満足したような表情を浮かべる。
「正美ちゃん、貴女も使ってみる?」
 早くも四人の男女にアドバルーンのような超巨大妊娠腹を愛撫されている正美に向かって、絵里香は拳銃型の器具を差し出した。
 これは高圧注射器と呼ばれるもので、針を使わず高圧でカートリッジ内の薬剤を皮膚の下に浸透させる医療具である。
 この時代にはありふれた道具だったが、問題はその中の薬液である。絵里香の注射器に入っているのは両親の勤めている研究所から入手した超強力で即効性も極めて高い排卵誘発剤だった。服用すれば五分以内に排卵の起きる確率は八十パーセント以上、そのときにセックスすればほぼ確実に妊娠する。(ただしまだ試験段階の非売品で、服用量が増えると排卵の個数も増えて多胎妊娠してしまう)

 聖マタニティ学園のような環境では、バレンタインのチョコではないが、好きな男子ができると女子は子供(遺伝的には両親と繋がらないクローン)を孕んであげたりする風潮がある。
 カリキュラム外の妊娠は校則違反だが、代理母は自己管理能力の問われる職業であるから疑惑が証明されない限りは学校側も厳しい処分はできない。
 だいいち定期検診は高等部や大学部の学生(将来の産婦人科の卵)が研修として行うので、彼らを抱き込んでしまえばカルテの改竄や減数手術など容易に行えるのである。所詮、腹の中の胎児は教材用のクローンだから法的にも倫理的にも問題にならない。
 絵里香は特例(コネと七光り)で大っぴらに出産しているが、他の女生徒でも臨月ぎりぎりまで腹を膨らませてから減数手術を受けているものは結構多いのである。
 だから美容(膨腹)のために隠れて妊娠と堕胎を繰り返す女生徒は多い。
 絵里香は今使っている排卵誘発剤のような薬物と“産婦人科の卵たち”を傘下に置くことによって学園内での支配体制を確立してきたのである。

「さっき出産したばかりなんで、体調が戻ってない(妊娠可能でない)かも・・・」
 絵里香から回されてきた高圧注射器を受け取った正美はそれを使うべきかと迷っていた。
「大丈夫よ、バッチリ効くから。これ使うといくらでも妊娠できちゃうんだから。良かったら他の娘も使ってみたら?」
 そういいながら絵里香は男子の一人に仰向けになるように命じると、その上にまたがって騎乗位をとった。

「どうしようかな・・・」
 実は正美は腹が巨大すぎて、注射器の先端を自分の腹に当てられないのである。
「俺が孕ませてあげるよ」
 男子の一人が正美の手から注射器を受け取ると、彼女の身体を覆い隠す腹囲三メートル超、直径一メートル弱の超巨大妊娠腹の正面に回り込んだ。少年は広大な腹の表面にポツッと飛び出した臍にキスしながら、中心線沿いの下腹部に銃口をあてがって引き金を引いた。「あっ・・・ん・・・なんか、オナカが変な感じ・・・」
 他の三人の少年少女に腹を撫でられ舐め回されて正美はメロメロになっている。
 注射をしてくれた男子が両手一杯に腹を抱きかかえるようにして持ち上げると、その動きにつられて正美は仰向けに倒れ込んだ。
 一人で二百キロを超える腹を持ち上げるのは並大抵の怪力ではないように見えるのだが、実はボディスーツが男子生徒の腹を抱える動作につられた正美の動きに追随しただけである。いましも仰向けになった我知らず仰向けになった正美にしても、腹の重量の九十五パーセントは上からクレーンが支えているのだった。
 くだんの男子が正美の両股を大きく開かせると、女子も回り込んできて盛大に迫り出した下腹部の陰に蜜を含んでいる花弁を二人して舐めてやる。
「はああぁっ・・・いい・・・」
 正美が弓なりに背をそらせると、山のような腹が天蓋に届くのではないかと思われるほど高く突き出される。初めて動作の自由を得た正美は、身動きもままならず横たわっただけで為されるままだったときの抑制された快感を解き放ち、慎み無く膨満しきった巨腹を揺すりたてて身悶えした。
 その壮観な光景に、順番待ちして相方の女子と前戯をしていた男子が二人ほど射精してしまったほどである。
「もう十分に濡れてるみたい。ほらぁ、正美ちゃんを受胎させてあげて」
「う、うん・・・」
 頃合いを見計らっていた女子に促され、最初の男子が正美の股間に陣取る。乱交パーティーには慣れているとはいえ、彼女のようなミス・ユニバースクラスの妊婦とするのは初めてだから、衆人環視の中での一番槍に緊張していないといえば嘘になる。
 正美の下腹部が巨大すぎて正面からの挿入は難しいのだが、正常位初体験の正美のためにも、そして自分自身の男性としての誇りにかけて、その男子はがんばって何とか挿入を成し遂げた。
「んんっ・・・」
 正美が挿入の快感に身を震わせると、それにつれて超重量級の腹が揺れる。その腹圧と毎日の出産で鍛えられた膣(やや緩めだが)の包み込むような柔らかな締め付けだけで男子は射精してしまいそうになった。
「ほら、がんばれよ」
 相方の男子から励まされ、挿入している少年は巨大な下腹部に両手を回し、しがみつくようにして腰を引きつけると前後に動き始めた。不自然な体勢だが、若さと体力に任せてがむしゃらに正美の奥へ奥へとペニスを突き込んでいく。
 さっき排卵誘発剤を注射したばかりだから、五分我慢すれば確実に正美を孕ませてやれる・・・。
 その思いのみで射精をこらえる少年だったが、無我夢中の絶頂から覚めたときには挿入から二分しか経過していなかった。
 それでも「すごいいっぱい・・・あたし、また妊娠しちゃったかも・・・」と正美が喘ぎながら言ってくれたのが救いだった。


   かくしてパーティー開始後二時間もする頃には、パーティーも一回りして組み合わせを帰ることになってしまった。
 サイクルが短すぎるようだが、十数名そろっている男子のほとんどが三分と保たずに射精してしまうからである。少々情けない話ではあるが、責め上手の絵里香と究極の超腹を抱えた(自由に動けるようになっても専ら受け役)正美では無理からぬことである。
 加えて二人とも男子が交代するたびに例の注射をするものだから、俄然男子は興奮して達するのが早くなってしまう。だが全員が若くて回復も早い少年だから、互いに早漏を冷やかしあいながらも、ローテーションの早さや絵里香と正美を立て続けに孕ませることに満足していた。

 いっぽうの女の子たちにしても、これを見ていて落ち着いていられるはずもなく、一人や二人なら追加妊娠をしてもいいかと考えて注射器を借りる娘も出てくる。
 そうなるとまた種付け志願の男子がその女子に群がるといった具合で、二周目の組み合わせを決めようにも取り仕切る者がいなくなり、絵里香の居室は早くも無秩序な乱交の様相を呈し始めていた。
 男子はおおよそ三つの島に別れてその間を漂うように行ったり来たりする。
 一つのグループは絵里香に責められながら彼女を孕ませたいと集まった集団である。絵里香は男子の一人とつながりながらも、口でフェラ、両手でペニスをしごくといった具合に八面六臂の活躍を一人で演じている。アナルは栄養補給管で塞がっているから使えないが、そうでなければ前後の二本差しでもやりかねない勢いだった。
 いっぽうの正美は五六人の男子に騎乗位や座位など、彼女が上になって動く方法を手ほどきしてもらっていた。無重力スーツの支えがあるからできる芸当だが、そうでなければ下になる男子はバイク(正美の体重は絵里香の二倍超、腹部だけでも絵里香の1.5倍以上ある)の下敷きになっているのと同様である。騎乗位になると男子の上半身は完全に正美の腹の陰に隠れてしまうほどである。
 正美は絵里香のような器用なまね(複数プレイ)はできないが、順番の待てなくなった男子連中は勝手に正美の腹を愛撫しながら自慰したりする。そして達すると正美のアドバルーンのような超巨大ボテ腹に射精するものだから、彼女の腹はドロドロの精液まみれだった。
 第三のグループは前記二つの組の順番待ちに飽きたくちで、そのほかの女の子たちとするニッチ(間隙)戦法を選択した男子たちである。こっちは受精できるチャンスはほとんどないが、待ち時間はないし、一対一で出来るのが利点だろう。
 だが、正美や絵里香に比べると女子の魅力が少ないのが難点で、このグループの男子は横目で二人の爆ボテ妊婦を取り巻いているライバルが疲れるのを窺っている状態だった。

 そんな中で最初に異変に気づいたのは、絵里香と二巡目の騎乗位をしていた男子である。
 学園二位に転落した絵里香の腹は正美に比べると三回りは小さい。正美が騎乗位になると下の男子の上半身はすっぽり隠れてしまうほどだが、絵里香の腹は胸の上あたりに届くぐらいである。
 それがいま絵里香の下になってみると、彼女の爆腹は喉元を通り越して顎に触れそうなほど迫り出していた。
「な、なあ、、なんか腹が大きくなったよーな・・・?」
 驚きながらもこれ幸いと、下になった男子は絵里香の下腹部に舌を這わせた。
「ふふふ、当たり前じゃない。誘発剤打ちながらこれだけ膣内射精(なかだし)してるんだもの。今だってあなたの精子で受精してる真っ最中なのよ」
「あ・・・うぅ・・・でも、こんなに早く・・・」
 受精の効果が現れるものなのだろうか、との問いをその男子は射精とともに吐き出した。

 確かにアナルからは絵里香が持ち込んだ胎児の成長を急加速する合成ホルモンや栄養剤のブレンド液を大量に注ぎ込み、腹には超強力な即効性排卵誘発剤を打ち続けている。それだけでもボテボテに多重妊娠はするのだが、真の秘密は絵里香の腹自身にあった。
 この二ヶ月で二十キロも肥え太ったかに見えた絵里香の万年臨月腹は、その生殖と妊娠の機能を大幅に引き上げられていたのである。
 実は絵里香は、両親の研究室からこっそり持ち出した肉体改造用の遺伝子改変ウィルスに生殖器(卵巣と子宮)の機能強化のDNAを組み込み、これとともに各種の合成ホルモンを投与することによって、正美を超える(と絵里香自身は思っている)スーパー・プレグナントに変身したのである。
 これだけの複雑な作業は絵里香一人で出来るはずもなく、ウィルスへのDNAコード転写は学園大学院のオタクっぽい院生に、ホルモン合成はちょっと危ない天才肌の高校生(もちろん二人とも絵里香親衛隊員)に頼んだのたった。
 リメイクされた卵巣は普通でも三〜四個の卵子を排卵するのだが、強力な誘発剤の影響で一度の注射で八〜十個は排卵しているし、子宮は注入されるホルモンや栄養を惜しみなく胎児に分け与え、新たに着床した受精卵を微速度撮影した映像を早送りするようなスピードで成長させていく。
 その効果が最初の受精から約二時間後にして現れだしたのである。
 二十キロも部分的に発育した腹部は子宮の膨張率も強度も半端ではなく、腹囲にして3.6メートル超、胎児や羊水などの内容物を三百キロ以上孕むことが出来るように設計されていた。
 これなら腹囲3メートルの正美に圧勝するはずだった。
「また受精したみたいね・・・あん・・・育ってる、育ってる。ペース(膨腹の)が上がってきてるわ」
 スーツのセンサーが子宮内の変化を感知して、直腸に注入される薬液の量が増加していく。絵里香が満足げに発育していく爆腹を軽くたたくと、ぎっしりと胎児と羊水の詰まった妊娠腹は熟れたスイカのような音がした。
 横目で正美の様子を窺うと、正美は前傾の立位姿勢(むろん本当に立っているのではなく、ボディスーツのワイヤーで上から吊られているだけ)で後ろから男子とつながっていた。重そうに垂れ下がった巨大な妊娠腹がベッドに届きそうである。正美の腰の前後運動を助けるために、二人の男子が腹を両側から抱えて前後にユラユラと揺すっているのだが、その様は乳を搾られている乳牛のようだった。
 パーティーを始めた時より少しばかり腹が膨らんだように見えたが、絵里香はあまり気にしなかった。元々がとてつもないボテ腹だし、前傾して腹がぶら下がっているからそう見えるだけかもしれない。そうでなくとも正美は限界ぎりぎりまで孕んでいて、今日の夕方までに出産した容量分を取り戻しているだけと絵里香は思っていたから、最終的には自分の勝つことを疑っていなかった。
 あと二、三時間もすれば、絵里香に好意的でない者たちも、誰が学園No.1か認めざるを得ないだろう。

(作者注*ここで注意すべきは体積は一辺の三乗に比例するということです。つまり腹の直径(完全な球体と仮定して)が倍になれば体積は八倍の容量になります。直径1.1倍でも体積は3割り増し。1.2倍で七割り増しです。人体の比重は水とほぼ同じですから、これだけで相当な重量増加になることが分かると思います)


 さらに一時間が経過する頃には、正美以外のパーティー参加者全員が絵里香の狙いをはっきりと気づいていた。
 一回の性交で十人近く多胎多重妊娠をすれば、いまや絵里香の腹には三百近い胎児がいるはずである。そのほとんどはまだ妊娠初期の段階だから腹部の大きさではまだまだ正美にはかなわないものの、合成ホルモンの効果で胎児は急速に(一時間で二ヶ月分相当と推定)成長していた。
 いままで日常生活に支障があるからという理由で1.9メートルに達したことのない絵里香の腹囲は今や2.5メートルを軽く超えていた。
 しかもこうしている間にも絵里香は妊娠しまくり、膨腹のペースはアップしていた。

 不思議なことに、絵里香の狙いに気づきながらも正美ファンクラブの面々は、パーティーを切り上げたり、絵里香に抗議しようなどと考えるものが一人もいなかったことである。 それどころか、部屋の中には女子も男子も妊娠したい、させたいという奇妙な雰囲気が漂っていて、誰もが冷静さを失いさらに激しい行為へとのめり込みつつあった。
 両派の女子たちは絵里香の特製ホルモンは使っていないから、目に見えてウェストサイズの増加する者はいなかったが、ひっきりなしに誘発剤を打っては手の空いた男子を誘っているし、男子は男子で普段にはないほどの回復力を発揮して女子と見れば誰彼かまわず孕ませまくっているような有様である。

 その中心にいるのが絵里香と正美なのだが、絵里香の予想に反して、正美は絵里香に追いつかれつつも徐々にその超巨大妊娠腹をサイズアップさせていた。
 3メートル前後あった腹囲は、ボディスーツ内蔵のセンサー表示では3.2メートルを超えていた。それがセンサーの計測ミスではない証拠に、正美が先ほどのように前傾立位の姿勢をとると、明らかに腹がベッドを掃くのである。
「すげえ腹だぜ。こんなの見たことあるか?」
「ああ、ネットのAVサイトでなら・・・」
「それだって大半はバーチャルCGだよ。本物はアクセス料がすごく高いって・・・」
「そんなのどうだっていいんだよ。目の前のは本物だぜ、ホ・ン・モ・ノ」

「みなさん、もう疲れたんですか?」
 驚きあきれ、開いた口の塞がらない男子たちに正美が声をかけた。
 普段でも超腹を抱えている正美は、見た目に反して相当体力があるらしい。それがボディスーツで体重のほとんどを支えられた上に、高栄養のホルモン剤をアナルから大量に注入されているから疲れ知らずになっていた。
「いや、でも・・・」
 男子連中は口ごもった。変にハイな気分で、やりたいのは山々なのだが、目の前でユサユサしている正美の超巨腹はパンパンに孕んで今にも破裂しそうである。
「ね、絵里香さんがせっかくセッティングしてくれたんだから、もーっとあたしを妊娠させて」
「え゛っ?」
「い、いいのかよ?」
「大丈夫だいじょうぶ。ここに来る前にせっかく“ダイエット”に成功したんだけど、絵里香さんやみんながこんなに優しくしてくれるんだもの。みんながしたいんだったら、あたしもサービスしてもっと妊娠してあげちゃう」
(これ以上大きくなるワケ?)
 正美側に群れていた男子も女子も、あっけらかんとした正美の態度に、呆気にとられて顔を見合わせた。
「ね、早くしよ。なんならお注射も二度打ちしてもいいよ」
 これには再度ギョッとさせられた。
 ただでさえ強力な誘発剤を定量を超えて打てば、副作用で排卵数が増えすぎる可能性がある。もっとも絵里香の方はこっそりとそうなるように卵巣を改造しているのだが。
「大丈夫だよ。いつもお家ではしてたから。あたしの身体って、そういうのにすごく適応性があるんだって。みんな、あたしのお腹、もっと大きくしたいんでしょ?」
 正美の言うことはどこか現実離れしていて真偽のほどが分からないのだが、その場の雰囲気もあって妙に説得力がある。
 女子の一人が正美に促されて注射器を保ってくると、正美の腹に押し当てて二度引き金を引いた。それを合図にしたかのように、躊躇っていた男子たちは我先にと正美を受胎させようと殺到した。

 おさまらないのはそれを見ていた絵里香である。
 これ以上腹を大きくするだけでも許し難いのに、誘発剤の二度打ち(過剰投与=過剰多胎妊娠)など、当て付けとしか絵里香には思えなかった。常にトップでなければ納得しない絵里香にとって、正美の態度は挑戦的にしか見えなかったのである。
 絵里香は、事実として自分が正美に“挑戦”し、独り相撲をとっているということを都合良く失念していた。

 いや、そもそもが絵里香の意図を察しようとしない正美に無視されているように思われるのが気にくわない。
 周囲には気をつかわせるが自分はしたいように振る舞う。そんな生き方をしてきた絵里香にとって、自分の思い通りにもならず、気にかけている様子もない正美は我慢のならない存在だった。
 百歩譲って正美が絵里香と競争するつもりがないとしても、他の者は絵里香の半端でない膨腹を見て完全にその意図を察している。こうなってはなにがなんでも正美に勝たないことには絵里香のメンツは丸つぶれである。
 ここにいたって絵里香は普段の計算高い冷静さを完全に失いつつあった。
 いや、失うというより、正美に勝つという目標とは別に、妊娠したくてたまらないという強烈な欲求が生じていた。

「あら、わたしもしてみようかしら?」
 絵里香は白々しい態度で二度打ちを誘う。
 取り巻きの男子が注射器を持ってくると、絵里香は女王様然とその前に立つ。誇らしげに突き出された妊娠腹は、注射をされている間にも緩やかに膨らみ続けていた。

 少しでも冷静な者が絵里香の寝室にいれば気づいたかもしれないが、室内の奇妙な雰囲気(妊娠したい、させたい病?)は正美の発するフェロモンの影響だった。
 人間は嗅覚の鈍い種なのでなかなかそれとは気づかないが、実は犬や猫のように対面した相手の体臭に少なからず影響されて好意や嫌悪感を抱いたりしている。
 正美の汗など体液に含まれているフェロモンは、彼女の持って生まれた能力にふさわしく受胎のためにお相手を誘う効果があるのだった。その効果が室内にいる男女全員に及んでいるのである。
 さらに能力を云々するなら、絵里香は正美の受胎能力を過小評価していた。
 母親の肉体改造時のエラーに影響されて生まれてきた正美は、普通の人間というよりはマーベルコミック(?)のX−MENに登場するミュータントたちのような特殊能力として妊娠という才能を開花させていたのである。
 象や鯨でさえ産まされたことのある正美の膨腹の上限は、絵里香のそれを遙かに上回っていた・・・


 さらに一時間半経過・・・

 決着、そして学園伝説の新たな一ページ(イソップ童話、現代版“カエルとウシ”)が記される。


「すっごーーい!! 絵里香さん、オナカ大きくなりましたねぇ。まるであたしのお姉さんみたいですよ。ねぇ、大きなオナカって気持ちいいでしょ?」
 正美はアドバルーンをベルトで縛りまくったような超ボテ腹を絵里香にくっつけてくると、改めて“挨拶”した。
 超巨大な妊娠腹同士をくっつけあうと、二人の間には3メートル近い空間が出来た。
「・・・そ、そうね(いったいなんなのよ、この娘は?・・・や、やだ。オナカがどんどん発育してる。もう限界、破裂しちゃいそう)。でも、正美ちゃんのお姉さんっていうのはどうかしら?・・・あんっ・・・あんまりオナカ刺激しないで」
 平静を取り繕いながらも、内心絵里香は焦っていた。

 正美はだいぶ追い上げられたものの、ボディスーツの表示では3.9メートルを超えて順調に巨大化し続けていた。
 絵里香の腹囲はすでに安全限界の3.57メートル。しかも限界まで改造した肉体に誘発剤を打ちすぎてボッテボテに妊娠して、胎児の数では正美に勝っている(正美の腹の方が月齢の進んだ胎児は多い)から膨張のペースは速い。
 実際、受胎数では安全限界をとっくに超えているから、すぐにでも堕胎薬をつかって減数処置をするか、投与中のホルモン剤を中和して胎児の成長を遅らせないと危険な状況だった。ホルモン剤に関しては、もはや服用量が多すぎて、投与を止めるだけではたいして膨腹ペースはスローダウンしそうにない。

 絵里香と正美を除くパーティー参加者たちは、数時間の荒淫と正美のフェロモンに酔って正気のものは一人もいない。全員がぼんやりとしてしまっているから、ここでことをうやむやに散会してしまえば、絵里香の敗北をしかと確認できる者はいそうになかった。

『悔しいけど、この場はここまで・・・』
 絵里香はリストバンドのリモコンを操作すると、自分の栄養補給管(アナルに突っ込んでいる管)に陣痛促進剤を加えるように指示した。
 出産がはじまってしまったといえば、どさくさに紛れてこの場をお開きにできる。そのあとでボディスーツのデータを消してしまえば、見た目には二人の腹はほとんど同じ見上げるような大きさだから、誰も絵里香をとやかく言うことはできないはずである。
 姑息な手段はとりたくなかったのだが、正美を甘く見ていたに現時点で逆転勝利をつかむ方法はなかった。

 そうしている間にも腹囲の表示は3.62メートル。限界である。
 そろそろ陣痛剤が効いてくる頃なのだが・・・

 四柱ベッド内臓の端末が、あまり緊張感を刺激しない目覚まし時計のような柔らかな警告音を発した。

「なに・・・?」
 絵里香と腹をくっつけあっていた正美が音源の枕元のディスプレイを見た。

『ボディスーツ1、使用者浅井絵里香に警告。腹部の膨張が安全限界を超えています』
『ボディスーツ1、使用者浅井絵里香に警告。ホルモン剤の影響で胎児が急速に成長しています』
『ボディスーツ1、使用者浅井絵里香に警告。子宮が伸長しすぎているため、陣痛の収縮に耐えられません。促進剤の投与を自動的に中止します』
『ボディスーツ1、使用者浅井絵里香に警告。胎児の数が多すぎるために、順次出産ができません。また、臨月相当の胎児3体が大きすぎて産道を通過できません。帝王切開を提案します』
『『ボディスーツ2、使用者志宇正美、中間報告。発育は順調です。腹囲460pで成長停止と予測』
『ボディスーツ1、使用者浅井絵里香に警告。以上の状況を勘案し、当端末は救急センターへのアクセスを行いました。十分以内に・・・』
『ボディスーツ1、使用者浅井絵里香に警告。腹部が急激に膨張しています。現在の腹囲は366p・・・368p・・・371p・・・』

「ひっ!」
 絵里香が生まれて初めて引きつった悲鳴を上げた。
 全員が驚いて絵里香に目をやる。
「ひいぃぃ、助けてぇ!! オナカが、オナカが膨らむぅ。は、破裂しちゃうぅ!!!」 腰を抜かした絵里香は巨大な腹を抱えるようにしてその場にしゃがみ込んだ。その腹は反り返った絵里香の座高よりも遙かに高く、そして今でもその高さを増し続けている。

「ぐうぅぅ・・も、もうダメぇ・・・」

ぱぁぁぁぁぁんっ!!


 絵里香の脳裏に最後に浮かんだのは、ひょっとしてこの瞬間だけは正美に勝っているのではということだった。


 これ以後、聖マタニティ学園では薬物の使用に関して厳しい監視と罰則が適用されるようになった。(了)



 あとがき

 読んだとおりです。ハイ。
 話が長くなるのだけは相変わらずですね。
 ところで絵里香のキャラですけど、原作の童話でもカエルさんの独り相撲でパンク落ちですよね。ウシさんの方はなんにも気にかけてない。カエルは自分の愚かさで痛い目を見るだけなんで、あんまり絵里香も陰湿なキャラにはしませんでした。
 膨腹競争にせよなんにせよ、学校とか会社とか閉鎖された社会空間での意地の張り合いとか派閥争いとかイジメとかって、もっと陰湿で激しいんでしょうけど、そんな暗いことは現実社会だけで十分ですからね。
 小説は読者諸兄に楽しんでもらえればいいんです。

 自分としては絵里香と正美には仲良くなって欲しかったんですけど。

 で、余談ですけど絵里香は死んでません。たぶんどこかの病院の集中治療室にいるはずです。
 そこで“ダイエット前(入学前)の体型”、に戻ってしまった正美(腹囲5メートルくらいかな)の訪問を受けて、励まされたりしてるんだと思います。
 そんな正美に会ったら、絵里香としても張り合う気持ちがなくなって、もっと素直になるかもしれませんよね。
 仲良くなって退院したら、また二人で・・・っていうのが作者の希望です。

 それでは、次回作でお会いしましょう。