− 第1部 −



第5話 銀河ぼて娘伝説



「どう? 少しは落ち着いた?」

スタジオ入りした千奈にマネージャーから声がかかる
千奈のマネージャー恵瑠奈(エルナ)は、医師免許、栄養士資格その他を持つ才女だ
爆腹妊婦の千奈のマネージメントと健康管理を担当している。
背は千奈より少し高いのだが、今の千奈は臨月妊婦もまっさおという超ぼて娘
いかにも細身の彼女は並ぶとマスコットか何かのように見えてしまう
お気楽極楽な性格の千奈に対して、まじめな理論派である彼女は、ある意味で、いいコンビなのかもしれない。

本日デビューのCNCの秘蔵っ娘ということで、控え室も個室を与えられている

「一息いれたら、他の控え室の先輩たちにご挨拶しときましょうね」

「はぁい、でもその前に、ここのボタン留めて。手が届かなくって・・・」

「はいはい、でもどーして前ボタンのワンピースなんて着てるの?」



「ニュースニュース!ついに情報つかんだわよぉ!」

電脳マニアの初香がキンキン声で騒ぐ

「んっ、ケホケホ・・・びっくりしたですぅ〜」
ユーリがハンバーガーを喉に詰まらせてむせる
「アンタまた、ヤバいハッキングしたのぉ?」
ミアがけげんそうな、しかし興味は隠せないといった表情でふりかえる

「まー聞いて聞いて、この所とんと姿を見せなくなった千奈りんの情報よ」

いつもの面々がどやどやと集まって来た

「千奈ったら、やっぱりアイドルデビューしちゃってたのよね」

声が大きかったせいか、グループ内だけでなく、周りじゅうにどよめきが起こった
こんな事、千奈の家に直接問いただせば一発なのだが、
ここんトコがネット時代の盲点でもあったりする(笑)

「ホントは今夜のミュージックフェスタって番組でデビューなんだけどね」

「へぇ・・・すると、この『期待の超大型新人アイドル』って見出しはやっぱし千奈の事だったんた
ミアがネットガイド(TVガイドみたいなもの)の番組欄をめくってみせた

「ウチのクラスからアイドルかぁ・・・」
「あ、オレ、ファンクラブはいろーかな」

あちこちからざわめく声がする
こうなるともう、収拾が着くわけも無い
案の定、今日一日の授業は事実上つぶれてしまった・・・・(笑)





「それではお先に衣装あわせ行って来ます、失礼しました〜」

教え込まれた通り、そそうの無い礼儀正しい対応で挨拶を終え、先輩アイドルたちの楽屋を千奈は出ていった。

ドアが閉まりしばらくすると楽屋内にざわめきがおこった

「なんなの?あの子、今日デビューの新人?」

「すっごいわね〜・・・なんか、これ見よがしに膨らませてあるじゃん」

「まぁ、このごろのファンってエスカレートする一方だけどね」

「ここはひとつ、先輩として礼儀ってのを教えてあげないとね、『モノには限度がある』ってね」

古株の一人、明らかに“下り坂”のアイドルが自分のポーチに手を突っ込んだ

「これこれ、コイツであの娘の衣装に仕込んであるアレを・・・」

「まぁた、ゴシップ誌に乗るようなネタ作っちゃうの?」

「いーじゃない、“新人爆腹アイドル、デビューステージ上で大爆発!! やっぱり中身はゴム風船”ってね
 大きけりゃイイってモンぢゃないよ・・・」

「ホントにやるの?中身シリコンなんかだったら、肩透かしだよ」

「これ見よがしにあんだけ膨らませてあるんだもん、サイズからしてぜ〜ったいガス入り風船よ」

「たのしみ〜〜〜、あの巨大なオナカがパァンって破裂する所見たいわぁ」

「まぁ、アタシ達のオナカだって、作りモンなんだけどね・・・」

完全に盛り上がる古株アイドルとその腰巾着に、声がかかる

「・・・ったのむから、そういう事はやめてくれんかね」

いつの間にか楽屋に入って来ていたディレクターであった。

「あの子は、プロデューサーのお気に入り、しかも“天然モノ”なんだよ」

一瞬、空気が凍り付く

「天然・・?って?? あの中身は・・・?」

「そう、正真正銘の爆腹妊婦なの! 破裂なんてさせたら、一大事だよ!」

控え室の面々は、もしイタズラが本当に実行されていたら起こりえる事態を想像し青ざめた

「や…ヤバいよ…、人殺しなっちゃう・・・」

先程の古株アイドルは、あわててポーチから取り出したリモコンを分解しバッテリーを抜き取る。

「ど・・・どうしよう・・・リモコンは止めたんだけど・・・」

「まだなにかあるのか?!」

「・・・うん・・・タイマーが・・・
 番組収録ピークの20:00ジャストに針が・・・」

「・・・ど、どこに仕込んだんだ!!」

「衣装のウエストにある飾りボタン・・・多分サッシュベルトのだと思うから運良く脇のほうに回ってたらオナカは大丈夫かも・・・




「ハイ、そこ押さえて〜・・・あんまし押しちゃ駄目よ」

「こらっ!!そこっ!! ピンの使用は絶対禁止って言ったでしょ!!」

衣装係総出での千奈のステージ衣装を着付けている風景である

「ここ入るかな?・・んしょっと」

「ぐ・・くるしい・・・・は・・・破裂するぅ・・・」

「なんか、また大きくなってない?・・・って、しかたないか・・・」

ステージ衣装は千奈の発育状況を予測して発注してあるはずなのだが、予測計算以上に千奈が発育してしまったらしいのだった

「コレがゴム風船ならば、空気抜くなり、ぎゅ〜っと詰め込む事もできるんだけど・・・
 ねぇ、少し萎ませられない?」

片膝付いた衣装担当リーダーが、千奈の膨れ上がった下腹部をそっと指で突付いた

「アタシは風船ぢゃな〜〜〜いっ!!」
千奈は両手を振りまわして抗議する

「さっきは、『破裂するぅ』なんて言ってたクセに・・・」
エルナが聞こえない程度の小声でつぶやく

「そうよねぇ・・・風船入りだって、ここまでは大きくないわよね」

衣装さんが千奈の腹を撫で回しながら、感心したようにため息をついた

「まぁ、なんとかやってみるわ」
一旦脱いだコスチュームに鋏が入れられ、調整・修正されて行く

「根本的に布地が足りないわね・・・こりゃデザイン変更しかないね」


数分後、なんとか千奈の衣装合わせは完了した。

「うわ・・・ずいぶんとダイタンなっちゃった・・・」
最初のデザインでは、ちょっと大きめに開けられた胸繰りでのみセクシーさをアピールするだけで、
他の露出度は押さえられた"清純派アイドル服"だったのだが
実際に着付けられたときには、胸の谷間を見せ付ける様にホールの開けられたカットが追加されていた。
ドレープのたっぷり採られたフリフリのミニスカートは、前半分が切り取られ、
そこからレオタード状光沢地のアンダーに包まれた千奈の下腹部がのぞいて、腹のせり出しをこれみよがしに強調している。
さらにはヘソの周囲からウエストサイド(正確には脇の下)へ向かって大胆にカットが入り、
ほぼ球体にまで膨らんだ千奈の腹の丸みを“これでもか!”というくらいに強調していた。

・・・で、肝心の"例の飾りボタン"は何処へいったかというと・・・

脇の方どころか中心も中心線上、千奈のヘソの少し下の位置、
膨れ上がった下腹部の最も大きくせり出した場所、
よりによって、伸ばされたオナカの皮の一番薄い所に移動してあったのであった・・・

(え?妊婦さんのオナカは針が刺さっても破裂はしないって?
そうとも限らないと思うゾ、千奈の場合は特異体質で圧力掛まくってるし・・・
それになんとといっても、ここは“Alわーるど”だしね)

「う〜ん…アイドルというよりセクシー系ですね」
腕組みしたエルナがつぶやく、まんざらでもなさそうだ。

「そのサイズに合わせるには、こうするしか無かったのよ」
「布地の足りない分、カット入れて伸ばしてあるんだけど、なんとかギリギリの強度分アンダーバストや下腹部は残しといたわ。
ボディサポート効果なくす訳にいかないから…」

「やっぱプロってスゴイんですね・・・ありがとうございました」
感心して一礼する千奈

「注意してね、後で直しとくけど、今回のは応急処置だから・・・
 コレ以上カット個所が広がったら、体形サポート効かなくなるからね
 今のでギリギリ、強度もカットもね」

「さ、時間です。急ぎましょう」
エルナが千奈の手を引いて移動開始した。



「さて、先週のMC(メディア・クリスタル※)ランキングに引き続き、
今週のHot―Spot行ってみましょうか」

「今週は、中継ではなく確かスタジオにゲストの登場でしたよね」

スタジオ内では、既に収録が始まっていた。この番組の特徴でもある、いまどき珍しい生放送のコーナーだ
昔は美形アイドルだったという古株俳優と、天然ボケが売りの女性アナがセット内で掛け合いをしている。
千奈の出番はもうすぐだ。

セットの裏側で待機する千奈
古今東西、華やかな舞台ほどその裏側は情けないものである。
この時代の女性アイドルは皆グラマーなので通路は広めに取ってあるのだが
窮屈な印象は避け得ない(千奈が膨らみ過ぎてるだけ?)

「今日のゲストさんは、スゴイんですよ〜」

「この間みたいに、メカニック埋め込みまくっちゃったサイバーな方々ですか?」

「いーえ、ちがいます。とぉ〜ってもカワイくてセクシーな女の子です」

「このごろ流行りのバーチャ・アイドルですか?ここで生放送できるんです?」

「おやおやナニをおっしゃる、今日おいでくださるのはバーチャルでもサイバーでもない
完っっ全にナチュラルな、総天然アイドル。本日デビューの期待の新人・・・」

オーバーアクションで2人がハモる

「大谷 千奈ちゃんです。どうぞっ!!」

出番だ!、緊張を押し殺して、通路を進み、ステージへと向かうセットの門をくぐる
ヴェールのようなカーテンを抜けるとまぶしい光があった、スポットライトだ。

「お、おぉ〜〜〜っ!」

スタジオ内にどよめきの声が響いた。一人の声ではない
視界の俳優、カメラマン、音響さん、AD・・・・スタジオ内にいるほとんどの男性が、目を皿の様にして千奈を見つめている。
スポットライトの光が何条も千奈に集中する
千奈の全身に、くすぐったいような、かすかに痺れるような感覚が駆け巡る
ライトが、スタッフの視線が、そしてカメラのフォーカスが、千奈の全身を舐めまわすかのような感覚だった

千奈のデビューの瞬間である

緊張感のあまり、頭の中が真っ白になる
それでも、予め打ち合わせ、練習しておいた通りに体は動く
千奈は自分の身体が自分のもので無いような感覚に押し包まれた

定められた台本のとおりに、番組は進行して行く

まるで、自分がもう一人いて、それを脇から眺めているような感覚だ
でも、話しているのは自分・・・
それを実証する唯一の証としての感覚は、
千奈の一挙手一投足に反応する、周りじゅうの視線の変化・・・

「今日デビューで、早々に人気独り占めってかんじですね」

「そうですかぁ?私なんかまだまだだとおもいますが・・・」

定められた台本のとおりに、受け答えする・・・

「ステキなプロポーションですね〜、混じりっけなしの天然なんですよね、何ヶ月です?」

「ふふふ・・・ナイショ、千奈はいつだってメいっぱい、爆発寸前が身上です」

これも台本どおりである。
現在時刻は19:55・・・仕込まれた針が千奈の腹を突付き “爆発寸前”が“大爆発”になるまで、あと5分・・・

その時、カメラの隣のADが奈にやら身振り手振りでサインを送った
司会者は何やらうなずいた様だが、残念ながら千奈には何の事だかわからなかった

「それしても、すごいオナカだねぇ・・・」

司会者の手が千奈の腹に触ろうと伸びてきた、

「デビューしたてでこんな事言うのもなんですが、ファンの皆さんの思いが、このオナカには詰まってると思うんです。千奈はまだまだ大きくなりますよぉ」

台本通りに受け答えしながら、千奈は打ち合わせの時の会話を思い出していた。

『いい?アダルト系じゃないんだから、うかつに身体触らせちゃダメよ
とにかく最初が肝心よ、デビュー初頭時のイメージって、ず〜っと付いて回るんだから・・・』

(そうよね・・・触らせちゃいけないんだわ)

千奈は身をよじる様に、その手をかわした・・・つもりだった
しかし、巨大に膨らんだ腹は、その重量と弾力のため千奈の動きからワンテンポ遅れてついてくる形となる。
そのため一瞬だが司会者の指先が腹の先、臍のすぐ下辺りをかすめる
何かが引っかかったような感触があったが、別段変化はなかった。

「だめですよぉ、えっちな事しちゃ、アダルト系のバラドルさんじゃないんですからね
では、歌ってもらいましょう」

千奈はスツールから立ちあがり、歌唱ステージセットへと向かっていく

アシスタントのツッコミに救われた(?)千奈であった。

− 19:56 −

千奈は歌っている。
ブレス(息継ぎ)が多めに設定され、声量、肺活量が少なくても歌いやすく作られた曲だ
これは、妊娠月数…発育が進んで、腹圧のため呼吸が浅くなってくる事を考慮しての事である。

カメラフレームから外れた司会者たちのいる最初のセットで、なにやら飛び込みの打ち合わせが行われている様だ。千奈のマネージャもいる。
しかし当然ながら千奈に内容は聞こえない。

「すみません、うまくいきませんでした・・・
 しかし・・・ なんです?衣装についているボタンを取れってサイン出して・・・」

「実は・・・」

ディレクターが事の顛末を説明する。あまりの事に青ざめる一同

「うわ、あと3分ありませんよ」

「やむをえん、生放送だが、中止するか」

「待ってください、ひとつ方法を思いつきました、やってみます」
千奈を凝視していた恵瑠奈が、撮影中のカメラ脇へと走った
途中、ADに指示を出し、舞台効果さんに何かを手渡す

さんざん練習した自分のデビュー曲
意識することなく時が進む、歌詞も振りつけも身体が覚えてしまっている。
またしても、自分が第三者のような感覚・・・
でも、歌っているのは自分・・・

カメラの傍では、マネージャーも見ていてくれる・・・身振りで何か伝えようとしている
(なに?『振りを大きく』ですって? いつのまにか悪い癖出てたみたいね・・・
 さんきゅ!恵瑠奈さん)

千奈は、指示どおり、振り付けの動きを大きくした

同時にステージにはスモークが焚かれ、露出補正のためか、ライトが強くなる
これは恵瑠奈の指示らしい。

実際は、千奈の振りつけには萎縮など無かったため、
かなりのオーバーアクションでステップが踏まれる。

コレが旧時代20世紀のアイドルなら別段何の意味も無いだろう、
ところが現代のアイドルは爆乳・爆腹あたりまえ、“ぼて娘こそ美”なのだ
もちろん千奈はトップクラスのスーパーグラマー(笑)
当然、激しく振りまわされる、胸&腹

「うん、うまくいきそうね・・・」

千奈を、正確には千奈の腹を凝視しながら恵瑠奈がつぶやいた
よくみると、千奈のコスチュームの“例の飾りボタン”が取れかけている
多分、司会者の手が引っかかったときにほつれたのであろう
恵瑠奈はその辺りを見逃さなかったのであった。

− 19:58 −

曲も中盤、千奈は自分がいつもとまったく違う存在になりつつある事を実感していた。
レッスンの時には、あまりにも重く、思い通りに動いてくれなかった身体がとても軽い。
激しい運動とライトの熱で、いつバテてもおかしくない状態のはずなのに呼吸も含めて一切の苦痛は無く、ひたすらに気分が良いのだ。
さらに追い討ちをかけるべく、周りじゅうから注がれる視線が、千奈の中に充満し、身体が膨れ上がっていくような感覚、・・・そう、完全にハイ状態なのである。

それもそのはず、恵瑠奈の指示で噴霧されたスモークには、同じく恵瑠奈の渡した興奮剤が混入されていた。
さらには、ライトの熱量を上げて体温を上昇させ、ステージの空調を操作して酸素含有量を増加させる。これで疲労感は押さえられる。
おまけに気圧をさげてやれば、その分千奈のボディは膨張する。
これが、恵瑠奈の使ったトリックである。

千奈は自分自身に酔っていた、歌う毎、ステップを踏む毎に全身に快感が走る
その快楽で自分が大きくなっていくような気がする・・・

− ぴっ −

オナカの辺りで何かが弾けた感触があったが、気にならなかった・・・・

− 19:59:00 −

恵瑠奈は焦っていた

打つべき手は打った、
千奈の腹は二周りほど膨張し、衣装の下腹部は裂け始めていた
でも肝心のボタンは、まだくっ付いている

【まだなの?時間が・・・・】

ステージの千奈は、なおも激しいステップを踏んでいる
いつのまにか、テンポに合せて身体が動いていた
【ふふ・・・冷静なはずの私が・・・?】

− 19:59:30 −

ステージスタッフ全員が異様な熱気に包まれていた。
恵瑠奈は自分の事はさておいて疑問を感じた
【なぜ?噴霧した興奮剤にここまでの効果はないはず、使用量からして、とっくに消えてしまっているはずなのに・・・まさか、これがあの娘の・・・?!】

そう、恵瑠奈が作ったのは“きっかけ”だけ
千奈の“ノリ”は、その姿の見える所、その声の届く所全てに伝染した
その証拠に、スタジオの隅で次のセットを準備中だった大道具さんたちまでもが、仕事を放り出して体をゆすっていた。

もちろん恵瑠奈自身も・・・

− 19:59:40 −

曲も終盤のサビ、スタジオの熱気もピークに達していた
この場に居合わせたほとんどの人間の頭は空っぽになり、感覚だけが身体を動かしていた。

− 19:59:50 −

曲のラスト、ノリのピーク
【そうよ、ここで伸び上がって・・・】
恵瑠奈がこぶしを振り上げ、飛び上がる
(この時AD一人をノしてしまったのだが)
ステージの千奈も、爆腹を弾ませてひねり上げるようにジャンプ!
飛び散った汗が強いライトの光を散らし、星屑を撒き散らす

− 19:59:55−

【そう、ここでフィニーッシュ!!】

反り返るように宙に舞った直後には両足をやや開き、身を乗り出すようなポーズで着地
着地の衝撃で、激しく弾む爆乳&爆腹

この瞬間、スタジオの時が一瞬止まる。
一拍の間を置いて、割れるような拍手が起こった。
音響さんの効果ではない、スタジオにいたほとんどの人間が手を叩いていた。
恵瑠奈も知らないうちに拍手していた自分に気付いた。

カメラカットが変わり、スタッフ達も思い出した様に我に返ると各自の仕事に戻っていった。

恵瑠奈もふと我に返り、あわてて時計を見る

− 19:59:59−

【いけない!!時間が・・・!】

なりふり構わず、ステージ上の千奈へと向かって飛び出そうとする

−しかし・・・・・−

− 20:00:00−
無情にも秒針は最後の一歩を刻んでしまった

【あっ・・・】

恵瑠奈は急に目の前が暗くなり、その場にへたりこんだ

ぽんっっ!

思ったよりも地味な破裂音が聞こえた・・・

「きゃああっ!! いやぁぁぁ〜っっ!!」

既にカメラフレームから外れたステージから、千奈の声がする

【ゴメンね・・・私が至らないばかりに・・・】

後悔の涙が一滴落ちる・・・・・!

【え?声のする方向が違う? するとさっきの破裂音は・・・??】

恐る恐る目を開けて、“破裂音”のした方を見る・・・意外と近くだ

・・・そこには、火薬が何かが仕込んであったのであろう、弾けてトゲやら針やらが飛び出した“飾りボタン”が落ちていた

【ボタンがここに・・・?】

すかさずステージの方へ視線を移す。

「やぁぁ〜ん・・・恵瑠奈さぁ〜ん・・・コスチューム破れちゃったぁ〜〜〜」

ステージ上には、衣装の下腹部の部分が裂けてしまい、(体形サポートの無くなったため)
はみ出した巨大な腹を抱えきれずにうずくまって半ベソ状態の千奈がいた。
多分に、曲のフィニッシュの瞬間の衝撃で衣装が破けたのであろう。
問題のボタンもその時に弾け飛んだのではと推測された。

「よかった・・・・・無事で!」

恵瑠奈はステージへ駆け上り、思わず千奈を抱きしめていた

「えっ、恵瑠奈さんっ!苦しいってばぁ、
 そんなにギューキゅー絞めたら、あたしパンクしちゃうよォ〜」

千奈には、何が何だか解らなかった。

【そうよね、この娘には、今回この件は言わない方がいいかもね・・・】


結局、不思議な感覚のまま、初のステージは終わった。

マネージャーの恵瑠奈が自分のジャケットで千奈の露出した腹を隠しながらセットを降りる

「お疲れ様、だいじょうぶ? 」

千奈は第三者感覚がまだ抜けきれていない
ワンテンポ遅れて、やっと言葉が耳に入った感覚だ。受け答えもワンテンポ遅れる。
「・・・・・・あ、なんだか・・・」

「ち〜なちゃあぁん、よかったよぉ!」

千奈のセリフをさえぎる様に、駆け寄ってくるディレクター
「このコーナー始まってから、視聴率ぐ〜んとUPなのよ〜」
この時代、視聴率なぞ0コンマのリアルタイムで計測可能だ

「あ・・はい・・・」
かろうじて、元に戻った千奈は、しどろもどろだ
ディレクターは、なおもまくし立てる

「あ・・・あのぉ・・・」
押されまくってタジタジの千奈にそっと恵瑠奈が耳打ちする
『オナカ押さえて"あっ"とか言ってみて・・・』
『え?』
『いいから、でないとこのディレクターキリないわよ』

演技の練習なら、かなり前からやっている

「・・・! あぁっ!」

千奈は自分の巨大な腹に手を当てると、うずくまった「・・・!!」
驚くディレクターのセリフをさえぎって
恵瑠奈が割ってはいる
「大丈夫?」
死角でこっそり舌を出す千奈
「ディレクター、この娘は、他のアイドルと違ってデリケートなんです!急いで休ませないと・・・」

「あ、ああ・・・天然なんだし・・・な・・・」
ディレクターを残し、千奈を抱える様に楽屋へと急ぐ



「おかえり、良くやったわね、さすがよ」

楽屋で迎えてくれたのは、衣装さんだった

「どうだった? 初ステージの感想は?」

やっと落ち着いた千奈に、恵瑠奈が問う

「ううん・・・なんだか、わけわからないうちに終わっちゃったって感じ・・・
 自分が自分でなかったみたい・・・」

千奈はため息をつきながら答えた
息が少々荒いのは、妊娠中のためばかりとはいえなかった・・・

「視線がね、意識がね・・・からみついてくるみたいなの・・・全身に・・・」

「そう・・・でもそれが、アイドルというもの・・・貴方の魅力というものなのよ、不快?」

「不快ぢゃ・・ないよ、くすぐったいようなフシギな感覚・・・」

千奈は少し顔を赤らめてつぶやくように返す
この時恵瑠奈は内心『しめた』思った
『この娘はプレッシャーより"見られる快感"を感じてるみたい・・・きっと大物になるわ』

「自信持っていいわよ、なんたって、男性スタッフのほとんどがまともに立ってられなかったんだから・・・」

「それってホント?」

割って入ったのは衣装さんであった。(Al:まだいたのね)

「狙いは大成功ってトコかな? う〜ん・・・ちとやりすぎたかも?
 いまごろお手洗いたいへんかも・・・キシシ」

「???」

今一つ話の内容がつかみきれていない千奈、
男性の生理現象に付いてなぞ、教科書レベルでしか知らないのであった。

「よくわかんないけど、アタシを応援してくれる人がいる限り、がんばってみるね」

「よくいった!勝負はコレからよ」

「バーチャルアイドルなんかに負けられないからね」

千奈が、愛しそうに自分の爆腹をさすりながらつぶやいた

「あんっ・・・なんか、また大きくなっちゃったみたい・・・
 ひょっとして・・・このオナカには、皆の期待や声援が詰まってるのかもね」

「そうかもしれないわね」

と、まるで母親が子供に微笑む様に恵瑠奈

「ありゃりゃ、そりゃ大変だぁ」

衣装さんが慌てて言った

「ただでさえ、発育続けてるってのに、声援の分だけ膨らまれたら、
 いくら衣装作っても、すぐに入んなくなっちまうよ」

控え室に3人の笑い声が響いた

そう、この日、千奈はアイドルとしての第一歩を踏み出したのであった


− 第1部 完 −



【補足】
※MC(メディア・クリスタル):
 ケシゴムサイズのクリスタル(材質はプラスチック系)に曲と映像を記録したもの
 3Dホロニックに記録してあるため物理駆動部分が無く、小型化が進んだこの時代の記憶媒体
 基本的にROM、シングルMCとかMCアルバムとかCDみたいなモンと思って結構



後書き

いやぁ〜、何とか収拾ついた。よかったよかった・・・・
勢いだけで書き始めてしまったこの小説、結局はどーなる事やらと
心配の極みでしたモンでして・・・

まぁ、勢いだけで書いた作品、起承転結の原則すら無視してますんで
さぞかし読み手は苦痛だったんでしょうなぁ・・・
いちおー最終話は、クライシスっちゅーか危機感のあるシーンも書けたし
それなりに書けたのかな?って思っちゃってます。
(VERSUSは最終話が“尻すぼみ”だったからにゃあ・・・)

なにはともあれ、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。

さて、今後ですが、千奈がデビューするまでが「第1部」ですが、
「第2部」で芸能活動編となるか、もしくは元ネタの「ユナ」みたいにスーパーヒロイン編となるかは、まだ未定です。
リクエストとかがあれば、どんどん受けますんでヨロシク。

今んトコ思い浮かぶネタといえば、「アイドル水泳大会」(もち、ぼてドルばっか)とか「1日○○長」(よくアイドルとかがやるヤツ)とか・・・

千奈のシリーズは、第1部で一旦お休みを頂いて
今度は、別の“Hのできる”キャラを主人公に短編を書いてみたいと思います。
(サービス サービス)

余談:
千奈のステージ衣装、デザインはテキトーです。
最初の案では、ユナのライトスーツだったんだけど、あまりにもアイドルらしくないって事とそのデザインだと、どんなに動いても“仕込みボタン”を(破けて)振り落とす事ができそうもなかったんで・・・

頭の中のどっかに、“はとぴょん(アキハバラ電脳組)”と“R・ミカ(ストZERO3)”があったことは否定しませんです(苦笑)

だれか、曲作ってくれないかなぁ「はとぴょん」みたいなの・・・(笑)