− 第2部 −


第2部、プロローグ ユーリは、千奈さんに会いたいですぅ

ぜったい、ぜぇ〜ったいに会いたいですぅ

ユーリは、会えるためにだったら何でもしちゃうですぅ

どんなことをしても、

大好きなご飯がたべられなくなっても、

どんなことになっても・・・・・・


−元クラスメート、ユーリの独白−


1話:千奈のとあるフツーの1日

千奈がデビューしてから、1月ほどが経った
会社ぐるみのイチオシもさる事ながら、ライバルの追随を許さない、時を経てさらに発育を続ける“天然ボテ”と千奈特有の“天然ボケ”の、いわば“天然の二乗効果”に加え芸能界スレしていない言動(ホントは単に芸能オンチなのだが)やおっとりとした物腰(単にカラダが重いだけ)も、近年のファンには新鮮らしく今や押しも押されぬ、トップアイドルの地位を固めつつあった・・・

「ふぁぁ〜ふ・・・うーん・・・」

千奈の1日は、特注のウォーターベッドの上から始まる
脇のボタンを押すと、背中の辺りの水圧が上がり、自然と上半身が起き上がる
便利には便利だが、わざわざご大層なとも思われる仕掛けだ。
千奈は、この仕掛けを使うたびに、少々恥ずかしい事件が頭を過るのだった・・・

少々前に控え室で仮眠していた時、
起き上がるのに失敗した所をプロデューサーに見られてしまったのだ。
千奈にいわせてみれば、たまたま その時は慌てたために、横に転がれば良かったものを、勢い良く上半身を起こしてしまったために 巨大に膨らんだ下腹部と胸の弾力に跳ね返されてひっくり返ってしまったのだそうだ。
事件と言うほどではない・・・たった・・・たったこれだけの事なのだが、プロデューサーはどーゆー訳か勘違いして、その数日後には半ば強制的にベッド交換してしまったのだった。

少なくともあとしばらく(発育が進み過ぎるまで)はべつにこんな仕掛けに頼らなくても、千奈は一人でも日常生活できるのだが、便利な物は使わせてもらう、そーゆー現代っ子の一人だった。

ちなみに、ここはとあるマンションの一室、詳しい場所は極秘にされているが、CNC(セントラル・ネットワーク・コーポ)のスタジオに程近い、小奇麗な一室だ。千奈はここでマネージャーの恵瑠奈と一緒に暮らしている。

「ふぁ・・・恵瑠奈さん おはよ・・・」

「あら、おはよう・・・昨日は良く眠れましたか? 」

奥のキッチンから、マネージャー兼付き人の恵瑠奈の声がする。彼女は単に補佐役だけではなく、千奈の健康管理も担当している。

「うん・・・なんとか、
 たまにオナカの中が動いてるみたいなんだけどぉ、よくわかんなくて・・・
 どーしても気になっちゃって・・・」

出来あがった朝食を持って、恵瑠奈がキッチンから出てくる。

「長い目で見れば、しっかり寝ておくのも仕事ですよ・・・
 あらら・・・そのパジャマは、もうダメね・・・」

千奈の着ている木綿のパステルカラーのパジャマ、
本来は男性用のLサイズであるにもかかわらず、そのオナカ周りはパンパンに張り詰めていたのだった・・・

「え〜っ、このパジャマ、けっこー気に入ってたのにぃ・・・
 なんで、アタシのオナカって、こ〜ぷぅぷぅ膨らんじゃうのぉ」

ぷーたれる千奈を尻目に、恵瑠奈はてきぱきと準備を進める

「じゃ、いつものするから、腕とお腹だしてね」

袖をまくり、パジャマをたくし上げる千奈、パジャマのポタンが勢い良く飛んだ。
体型に比べ意外と細身の腕と、今にもはちきれそうなオナカに手早くセンサーをあててチェックを行う、彼女は医療免許も持っているのだった。
「脈拍、血圧、血温、血液成分・・・正常、女性ホルモン過多・・・は、いつも通り」
「胎児発育良好、胎動正常・・・相変わらずの羊水過多・・・ コレじゃ胎動がはっきり自覚できないのも当然ね・・・っと」

千奈はまじっとした顔で恵瑠奈を見つめる

「だいじょうぶ、すべてOK、いつもどおり、至って健康!。
 このオナカの発育速度は体質だからしょーがないって」

恒例の健康チェックが済んで朝食を摂る2人、同時にスケジュールの確認も行う

「えっと、今日の予定はドラマ収録2本にCM撮り1本、取材2誌・・・ 意外と少なくてよかったわね」

いつもなら、ここでの千奈は素直にうなづくだけなのだが、今日は違った。

「恵瑠奈さん・・・あたしって動いちゃいけないの?」

「えっ?」

「ドラマでも、歌番組でも、まず座ってるか立ってるかの役じゃない・・・
 そりゃ、こんなカラダだから、スポーツとか出来ないのは解ってるけど・・・

“社運を賭けたプロジェクト”と言う事で、プロデューサーは千奈に対してやたらと過保護なきらいがある。
男性だからというだけではなく、人工ボテ娘のやたらと増えすぎた芸能界において天然の妊婦がどのようなものか解っていないのだ。
万一、千奈の身に何かあろうものなら・・・と臆病になっているのであった・・・

その点、主治医でもある恵瑠奈は冷静だった。

「そうね・・・そろそろ安定期に入ったし、いいかもね
 これからは、そーゆー仕事も入れてくからね。
 でもいい?くれぐれも無理しちゃ駄目よ、ただでさえ、弾けちゃいそうなオナカしてんだから・・・」

「うんっ、解ってるって、ありがと」

「そうと決まれば、まずは目前の仕事を片づけちゃいましょう」

「はぁい」



白い防音パーティションで区切られた3m四方の個人ブース
目の前のモニタは、多数のウィンドゥに分割され、その一つ一つに人影が
ヘッドセットからは、雑音の除去された相手の声、
こちらの声は同じくヘッドセット内の骨伝導マイクを通じて送られてゆく

信じられないかもしれないが、会議中である。
ここ、BMC(バーチャル・メディア・コーポ)では、設立当時からずっと完全に電子化された会議を行っている。
この会社では、全ての業務はネットワーク接続された個人ブース内で行われる。
構成社員同士が直接顔を合わせるのは、出勤・退社の時くらいだ。
それでさえ、サテライト・オフィスやフレックスタイム制により、必ずしも顔を合わせると決まったものではない。

“問題提議:当社VAシェア低下”

音声の会話に加えて、モニタには、思考支援用に記号化・簡略化されたLogが表示される。
ちなみに“VA”とは、“バーチャ・アイドル”つまりネット内だけで存在する人工のアイドルだBMCの主力商品であり、投入マンパワーの比重は高い。

「ライバルCNCの勢力の急増による、相対的なシェア低下と統計に出ておりますが・・・

別の社員の意見が聞こえてくる、会議支援システムのAIが即座にログを作成する

“原因予想1:CNCシェア増大の相対<統計>”

このシステムにより、万一意見等の会話を聞き逃したとしても、会議の進行からずれる心配はないのだ。

“原因予想2:VAには行動力面で問題あり《補足有り》”
“2補足1:回線速度上、生中継のレスポンスに問題”
“2補足2:アクシデント、アドリブ系アクション、未対応”


会話内容をあえて聞き流して、モニタ上のLogに注目する男がいた
BMC本社からは少々離れた、系列会社の一室で・・・



やたらと凝って造られた、密林のような舞台セット
その中で指示のもと、巨大な剣を手に立ち回る千奈・・・

まもなく発売予定の、大作GAMEのCM撮影の風景である。
昔なつかしのデザインとも言えそうな、ファンタジーな戦士のコスチュームなのだが、
千奈が着るとなると、とてつもない迫力となってしまう・・・・理由は不要であろう。

・・・もっとも、妊婦である千奈が、2m近い剛剣を振り回せるはずもない。
実際撮影用の剣はひたすら軽く作られている。
CM放映時には、CG合成された透過光などが付く予定だ。

一通りのアクションカットを撮り終え、最後にパッケージ用のスチール(止め絵)の撮影を残すのみになる。

「スチル撮りいくよー!UP用の剣セットして〜」

セット中央で、一際巨大な剛剣を大上段に構える千奈・・・
止め絵用の剣は、アクション用とは異なり質感を重視した総金属製で、ほぼ真剣に近い10kgを超えていそうなシロモノ
ボテ腹妊婦がこんな重量物を担ぎ上げたりしたら、大変なことになってしまいそうだ。

だが心配は要らない。
この巨大な剣はカメラの死角にあたる部分からセットに固定されていて
千奈はその剣の柄に手を添えているだけなのだった。

「視線心持ち上げて・・・ハイ、そのまま・・・」

スタジオ内にフラッシュの閃光が走る

「どう?いけそう?」

スタジオセットの脇では、恵瑠奈とメーカーの広報担当が談笑している

「モンクないですよ、御陰様で今回は大ヒット間違い無しですね。 よろしかったら、次回作もお願い頂けますかな?」

「それは、あの娘次第ね。一応できるだけは待ちますけど・・・」

「あ、天然なんでしたよね。こりゃ急がないと千奈ちゃん、どんどん育っちゃいますしね・・・
 こっちとしては、その方が嬉しいのですがね・・・ははは」」

「あら、臨月越えて待たせる気?」

「おっと、パンクしちゃったら元も子もないか・・・」

・・・などと、話しこむ間にも撮影は進み

「はい、アップです。おつかれさまー」

「小道具さん、わらって(※「片付けて」の業界用語)いいかんねー」

CMの撮影がちょうど今終わった。
撮影用のコスチュームを着けた千奈がスタジオのセットから降りてくる。

「千奈ちゃん、服、そのままでいいからね」

恵瑠奈の計らいで、このまま雑誌インタビューへと移行する
千奈にとって、移動と着替えは、かなりの労力を要する。
移動に関しては、いくらでも手の打ち様はあるのだが、衣装替えとなると、体型サポートや重量保持の機能を持たせた
いわば“ぼて専用コスチューム”の都合、脱ぎ着するだけでも一苦労なのである。
他のアイドルの様に無理を押し通す事の出来ない千奈に、いかに負担を掛けずに、仕事をこなしていくか。
それが、主治医兼マネージャーの恵瑠奈の手腕だ。

「お忙しい所、どうも・・・」

CM撮りのスタジオの片隅に急きょ誂えられた休憩コーナーにてインタビュー記事目的の取材を受ける。男性記者の2人組だ。

「始めまして、よろしくお願いしまーす」

ほとんどビキニもどきのコスチュームのまま、深深と一礼する千奈
重力に引かれ、大きく膨らんだ腹は、さらに大きくせりだし、
巨大な胸はカップからこぼれ落ちそうになる。

「こ・・・こちらこそ、よろしく・・・・」

この光景を目にした取材陣がしどろもどろになる。

【狙いは正解みたいね】

取材陣の態度に、恵瑠奈は影でこっそりほくそ笑む

スツールに浅く腰掛ける千奈、本来座る事を考慮していないCM撮影用コスチュームが下腹部に食い込み、その分余計に腹の巨大さを浮き立たせる。
ある意味、これはかなり扇情的だ。

「・・・そ、それにしても、随分と大きなお腹ですね・・・
 前よりかなり大きくなっているように見えますが・・・

このテの質問は慣れっこなので、千奈はにっこりと答える

「はい、順調に育ってますよ。ファンの皆さんのおかげです」

「ほんと、今にもはちきれそうなオナカですね・・・」

取材記者の目は、千奈のボディに釘付けになっていた・・・



「ふ・・・仮想にのみこだわりすぎるから、窮地に立たされるのだ・・・」

とある一室でスーツの男はつぶやいた、
男の台詞は会議のLogには追加されなかった。

「所詮、バーチャルは現実の模倣でしかない・・・・」

スーツの男は席を立った、オフィスとは呼びにくい白を基調とした一室に濃紺のスーツが翻る。壁にあるマニピュレータが、宙を舞うスーツを受け止め、収納する

「いよいよ、実行に移すんですか?!」

「まぁな・・・・」

スーツを放った男は、白衣を羽織りながら部屋を出ていった。
BMC本社からは少々離れた、系列会社・・・医療パーツメーカー“タンタロス”
そこのプロジェクトチーフは、自信に満ちた足取りで社屋を後にした。




「それでは最後の質問、史上初の天然妊婦アイドルとして、どんな事に気を使っていますか?」

「そうね・・・やはり、なにはなくても“健康”でしょうか、
 アタシは、このオナカあってのアタシだから・・・
 ・・・でも、そのせいで、どんどんどんどん育っちゃって・・・あはは」

「確かに、すごいペースで日に日に大きくなってますね・・・
 だけど、この調子で大きくなってったら、いずれは、もの凄い事になっちゃいそうですね・・・
 ・・・ぱぁんって破裂しちゃったりして・・・」

「やだぁ(笑)、フーセンじゃないんですよぉ
 でも、どこまで大きくなっちゃうのかな〜って・・・ちょっと心配 もっともっと膨らんで欲しいような欲しくないような・・・」

「ファンの方は、皆口を揃えて言ってますよ、もっと大きくって」

「そうなんですかぁ?じゃあ、読者の皆さんに伝えて下さいね 『千奈のオナカには、皆さんの声援が詰まってる』って」

記者の目がちょっとだけ光った
「そう来ると思って、今日はファンの声を集めておいたんですよ」

記者は鞄からHC(※ホロニック・クリスタル)カードの束を取り出した。
HCとは、この時代でポピュラーな、記録媒体だ。
厚さ3mm程の名刺サイズのカードで、3Dホロニック形式でレーザー記録を行う超高密度記録媒体だ。
MC(メディア・クリスタル)がROMなのに対して、HCは記録用だ。もっともHCカードは容量でいってもケタが違い、そのあまりにも巨大な容量はプロかマニアの御用達として、人気を呼びつつあるアイテムである。

「うっわぁ・・・まさか、これ全部・・・・?!」

「このHC、差し上げますから、よろしかったら、聞いてあげて下さいね」

冷や汗の千奈を残し、取材陣は引き上げていった・・・・
それもその筈、HCカード1枚で3D映画が5本は記録できる(約15時間)
そのカードが20と数枚・・・いったい何人分の声を集めたのであろう・・・・

「う゛〜〜〜〜〜・・・・・」

うずくまって絶句する千奈に
恵瑠奈が苦笑しながら話し掛けてきた。

「今回は、一本取られちゃったわね、
 そろそろ“決めセリフ”変えた方がいいかもね・・・・って・・・あれ?

「うぅ〜ん・・・もーダメ・・・これ以上は・・・・
 ・・・・・無理だよぉ・・・破裂しちゃうぅ・・・・・zzz」

千奈は取材疲れのせいか、うなされながらも眠ってしまっていた・・・

恵瑠奈は自分のジャケットを千奈にかけてやると、母親が子供を諭すかのようにつぶやきかけた

「大丈夫よ、あなたはファンの声援でパンクするような子ぢゃないわよ・・・・
 きっときっと、無限に大きくなれるわよ・・・安心して・・・」

うなされていた千奈は、静かに寝息をたてた




後書き

「銀河ぼて娘伝説」第2部、スタートしました。
エロ無し(これは最初から計画的)起伏無しでホントに済みませんm(_ _)m
まぁ、お約束で、第1話は軽いジャブとゆーことで・・・・
最初に“日常”ってヤツを描写しておかないと、後に述べる“特例”が目立たないと思ったからです。
次回はしっかりと“事件”起こしますんで・・・
煩悩は挿絵CGでカンベンしてください m(_ _)m陳謝
その代わりと言っては何ですが、伏線はしっかり張っています。
CNCのプロジェクトP(千奈の事)によって、追いつめられたBMCはどう動くのか?
影で動きはじめた“タンタロス”とは??

また、プロローグでのユーリの科白も、意味が深そうですね〜
大ボケ大食らいのコミックリリーフのユーリ、実はかなり“お気に入り”のキャラなんです。
まだ出番はありませんが、いずれ重要な役所となる予定です。

では、今回はこのへんで・・・・