− 第2部 −


どんなものにも“お約束”はある
それが人間の行う行動なら、なおさらだ
なぜなら、人間は、いくら時代がかわっても、行うことに変化がないからである。
不変たるもの・・・汝の名は“人間”・・・
−とある思想家の白書−


2話:千奈のかなり長かった1日

とある午前の日中

「いけっ!そこだっ!ラッシュラッシュ!!」

珍しく午前半休(売れっ子アイドルに休暇なぞ無い)の取れた千奈は、3DTV中継に夢中だ擬似3D画面の中では、格闘技の試合が進んでいた。意外なことに千奈はこーゆーのが好きなようだ
膝蹴りで上体を沈ませておいた所に延髄への踵落としを決め、日系のR.横塚選手が相手をマットに沈めた。

「う〜ん・・・かっこいいなぁ・・・」

恰好だけのシャドーボクシングもどきをしながら、千奈がつぶやく

「だめですよ、格闘技なんで出来るわけないでしょ」

「ダンスレッスンはしてるし、体力無いわけじゃないんだけどなぁ・・・」

千奈は、ぴょんと立ち上がり、膝蹴りのポーズを取った。

ぼむっ!!

「うぐっ・・・・」

千奈はうずくまり、床に転げた。振り上げた膝が、自分の大きく膨らんだ下腹部を蹴り上げてしまったのだ。

「だ、だいじょうぶ?!」

恵瑠奈が心配してすっ飛んでくる

「あたた・・・・考えてみたら、アタシが膝蹴りしたって、相手にはとどかないんだっけ・・・ははは・・・」

実際、千奈の腹は日々発育を続け、今や膝よりも前にせり出すくらいにまで巨大に膨れ上がっている。床に転がった千奈にTVのインタビューの声が追い討ちを掛けた

『膝や踵は鍛えてなくても十分に凶器ですからね・・・』



BMCの系列会社・・・医療パーツメーカー“タンタロス”
この会社は「医療“機器”」メーカーではない

国家という国家が統合され、人類は月までも手中に収めたこの時代では、生体拒絶反応という難関をも克服し、人工臓器や義手・儀足といった人工部品もだいぶ広まってきている。
もっとも、SFに出てくるような超人的なサイボーグといったものが闊歩しているわけではなく、人工部品はあくまでも代替え品としての位置着けからはみ出ることはない。人工部品は天然の部品に追いつくのがやっとなのである。
それでもドナー(移植部品提供者)や生体適合性の問題から人工部品の需要は下がることを知らずそれを扱うこの会社はそこそこの収益を安定してあげつつあった。

プロジェクトチーフが、自信に満ちた足取りで向かったのは都内にある大手の総合病院、言ってみれば“お得意様”である。
本来ならば、このような外回りは営業担当の仕事
しかし、今回はどうやら営業目的ではないようだ・・・・・



アイドルにとって、番組出演と同様に大切なのが外回り
メディアの上でしか姿をあらわすことの無いバーチャル・アイドルとはここの所で一線が別れるというのが恵瑠奈をふくめてCNC全般の思想だ
今日の午後は、外回りの仕事が入っていたのだ。アイドルに休日はない。

「恵瑠奈さん、この服きつい〜」

「しかたがないでしょ、予定以上に大きくなっちゃうんだから・・・
 コレでも、この制服、あなた専用の特注なんだからね。 はい、がんばってらっしゃい 」

「うぎゅ・・・オナカくるしい・・・・・ あ、今行きますぅ〜〜」

スタッフの声が掛かった千奈は跳ねる様にすっ飛んでいった。
ちょっと不満気ながらも笑顔は絶やさない、ここんトコはやはりアイドルである

今、千奈がいるのは都内の警察署。人気急上昇のアイドルがやる事といったら
古今東西、一日警察署長である。
このあたりの“お約束”は昔から変わらない
もっとも、CNCが業界トップシェアを誇っていられるのも、この“お約束”の扱いが上手いせいともいわれている。いつの時代になっても、視聴者の求める事に変わりはないのであった。

「まぁ、平和と治安に理解のあるアイドルってデモンストレーションも オーソドックスながら、正当な定石だからね・・・」

報道陣のごった返す壇上から少し離れて、恵瑠奈は一人ごちた。もっとも、この時代の警察機関は一部民営の資本も入っており、民営化とまでは行かないものの企業単位の根回し如何によってはかなり融通が利くのである。もちろん、メディアをほぼ牛耳るCNCは、かなり発言力が強い。

ほとんど記者会見となってしまった挨拶を終え、署内を一通り見学した後は、これまたお約束の“防犯・安全のキャンペーン”である。

もっとも、千奈の行く先々では大量にファンや報道陣が駆けつけ、交通安全どころか、かえって混乱を招いているようにしか見えないのだが・・・これもまた“お約束”である。


放課後を直前に控えた教室

「ねーねー、今日の放課後どーする?」

「べつに、決まった予定はないけど」

「んっとね、ちょっと買い物つきあってほしいんだけど・・・」

「初香ぁ、アンタまたアキバへジャンク漁りにいくのォ?」

「あ、ミアちゃんひどーい、洋服買いに行くんだってばぁ!」

「そーいや、初香も女の子だったわね」

「うー傷ついたァ、どーせ私は顔も整ってないし、体型だってチビでストーンだからねっ!」

「ごめんごめん、頼むから機嫌直してよ、いい服見繕ったげるからさぁ」

「ケーキセットで手を打つわ、ところで、ユーリはどーする?」

ぼそぼそと、やきそばパンをかじっていたユーリは、やたらゆっくりと返事をした、いつものような元気が無い

「・・・ユーリは、今日はダメですぅ・・・・お医者さんいってくるですぅ・・・」

「たしかに・・・この所元気無いけど・・・・どこか悪いの?」

「わかんないですぅ・・・でも、今日は食欲が無いですぅ・・・・」

そういえば、いつもなら貪るように食べているパンの詰まった大袋が無い
今手にしているのは、小さな購買の袋である。中身はせいぜいパン2個といったところであろう。一般から見れば、十分過食のように見えるが、普段のユーリからみれば明らかにおかしい。

「わかったわ、早く良くなるといいわね」

ミアは、ユーリの状況があまりにも深刻である事を察し、あえてこれ以上の追求を避けた。

「初香、資本はどんくらいあるの?カード不可のとこに意外と掘り出し物ってあるのよ」

「そーなんだ、ぢゃ、行きがけに銀行寄ってこ!」

ミアと初香が去った後も、ユーリはしばらく動かなかった。

「千奈さん・・・・」


キャンペーンの名を借りた広報活動は、ゆく先々で人だかりが出来る事を除けば何事も無く順調に進んでいた

今、千奈は都内の某銀行にいる。

カウンターの出入りにオナカが引っかかったり、紙幣数えに挑戦してバラ撒いてしまったりといったアクシデントもあったが、話題作りとしては十分なものであった。

恵瑠奈は今、ここの支店長と一緒に銀行の向かいにある喫茶店にいた。

「・・・で、このような予定なんですよ」

「なるほどね、面白い企画かもしれませんね」

「ええ、警察官の方々には既に打ち合わせしてあります」

「ほんと、策士ね。非常訓練をここにぶつけるなんてね・・・」

支店長は腕時計をチラリとみると向かいの銀行に視線を送った。

「そろそろですよ、もちろん行内カメラも万全です」


「あ、初香、なにやってんのよ」

「あ、ごめんごめん、こんなハードいじったことなくって・・・・」

初香が銀行端末相手に苦戦していた。
(作者注:いつの時代も銀行端末ってインターフェース悪いっつーか古臭いっつーか・・・)

「ひょっとして、いつもオンライン決済ばっかってパターン?」

「まぁね〜、でも銀行って、こんなに混んでるモンなんだー」

「そーなのかな?アタシもしょっちゅう来てるワケじゃないしー」

ジリリリリリリリリリリ・・!

いきなり耳をつんざく非常ベルの音
緊急用のシャッターが下りる

ざわめく行内の客達・・・・

どぉぉん!

銃声が響き、人々がかがみ込む

「なんなのっ?!」

とっさに物音の方へ視線を向けるとそこには、床に這いつくばる人々と立ちはだかる男カウンターにはおびえる銀行員、そして、その奥には
・・・千奈がいた

男達は手に猟銃らしき物を携え、行員達にむけているその顔は覆面に覆われていて判らない

「まさか・・・しかし、なぜ千奈が・・・?」

身を低くしながらもそろそろと近づいて行くミア


「どうやら、始まったみたいですね」

コーヒーをすすりながら支店長はつぶやいた

「・・・あの銃声は本物みたいですが・・・ 」

恵瑠奈はけげんそうに聞いたが、支店長はケロっとしたおもむきで

「ええ、本物ですよ。でないと訓練の効果も無いでしょう
 ちゃんと申請は出してありますし、犯人役には綿密な打合せがしてあります。
 あそこで撃ち壊されるのは、既に減価償却の終わった什器だけですから・・・」

「なら問題ないのでしょうが・・・・」

蛇足だが国家の垣根が掃われたこの時代、銃刀法に関しては(かなり審査は厳しいが)申請すれば、所持および使用が可能なのである

その時、支店長のポケットでハンディ(※)が鳴った
※ハンディ・メディアフォンの事、携帯+モバイルと思って下さい

「ああ、私だが・・・・・・!!」

支店長の顔が急激に青ざめる

「どうしたんですか?!」

貧血を起こしたのか、崩れ落ちる支店長

『後20分もあればそちらに到着できるとはおもいますが・・・』

ハンディのモニタには、覆面こそ付けてはなかったが、“いかにも”そうな悪人顔の男が移っていた。モニタの奥に見えたその内の一人は、恵瑠奈にも見覚えのある、悪役専門の俳優であった。


あらかじめ事情を知っており、打合せもしてある警察官は行員達よりも、はるかに落ち着いていた。
そう、一人を除いて・・・・

【うわ・・・まさか、こんなドラマかなんかみたいな事になるなんて・・・】

「所長、ご指示を」

同行の警官が、小声で千奈に指示を求める。

当然だが、これは演技、警察内で知らないのは千奈だけだ

【そ、そうね・・・ここでしっかりしなくちゃいけないのよね・・・】

「人命尊重が第一優先です、まずは要求を聞きましょう」

どこぞのドラマで聞き覚えのある、しかし定番の指示を出した千奈であった。


向かいの喫茶店でまたしてもハンディが鳴った。
音声・画像のない、あえて文字だけのメッセージたった。

<警察への再通報はするな、人質の保証に関わるぞ もっとも回線自体、押さえてはあるが・・・>

「犯人からの警告ですね」

恵瑠奈は支店長につぶやきかけたが、支店長の方はパニックに陥っていた。

「確かに一般回線のほとんどは押さえられています。
 しかし、なんとか社に連絡を入れて特殊回線からの要請を出してみましょう
 ・・・しかし・・・時間がかかるとは思います・・・」

恵瑠奈は何とかして社に連絡を取ろうと回線封鎖の抜け道を探す作業に取りかかった。


「・・・では、後はよろしくお願いします」

たった今、警官達によって犯人が取り押さえられ、連行されていくところだった。

警官達はあらかじめの手はず通り、特に手荒な事はせず
(とは言っても、演技としてのアクションはあったが)
犯人役を連れて銀行の裏口へとさがって行く

すこし時が経ち、緊張感が少しずつ和らいで行く
打合せでは、この後退場した面々が出てきて事情説明というか非常訓練であるというネタばらしをする予定だ。


−銀行裏口−

「おつかれさま、迫真の演技でしたね」

犯人に掛けられた手錠を外し没収した武器等の小道具を渡す

「いやぁ、仕事とは言え、大変でしたね」

警察官の一人が犯人に一礼する。

「いやいや・・・まだなんですよ、 これからもう一仕事あるんでさぁな・・・」

犯人のそれぞれと握手を交わそうとした警官達の手はそのまま空を掴み、そして地面へと落下した・・・

犯人達の一人が、隙を突いてダートガン(※)を発射したのだった。
※ 火薬を使用しない護身用の小型銃。発射するのは弾丸ではなく先端に針の付いた小さな矢(ダート)である。 サイバーパンクSFの定番アイテム

圧搾ガスの圧力で無音発射された小型のダート(矢)は、警官達全員に致死量を超える量の神経毒を注入し、悲鳴一つ立てる間もなく葬り去ったのであった・・・


犯人達が連行されて15分
銀行店内では、ようやく緊張が解け始めたところだった。

「そろそろ、シャッターを開けましょうか・・・」

行員の一人が申し出た。
そのときであった。

ガオォン!!

ひときわ大きな銃声が、再度店内に響いた。
音源に振り向いてみると先ほどの犯人グループが再登場していた

「なぜなの?!逮捕・連行したはずなのに・・・」

犯人の一人がづかづかと千奈に歩み寄った

「一日所長さんには知らされてなかったみたいだなァ 
 今日は抜打ちの非常訓練の予定日だったんだよ」

店中央で一般客に銃口を向けていた一人がせせら笑った。

「まったくバカな警官達だよ、 オレ達のことを“犯人役”と勘違いしてくれたおかげでな・・・」

最後の一人が続けた。

「そうそう、裏口で『お疲れ様〜』なんてな、 武器その他も一式返してくれたんだよな・・・ははは」

「つまりは、おまわりさんはもう一人もいないって事だ。
 そういう訳で、おとなしくしていてもらおうか」
リーダーらしき最初の一人が、ドスの効いた声でしめくくった。


「会話用データラインはダメ、放送回線も押さえられてる・・・」

恵瑠奈はチューンナップされた自分のハンディと格闘していた。
銀行が犯人に占拠されて30分が過ぎた・・・

「・・・!、みつけた!!、タクシー用のナビゲートシステムの
 無線通信ラインは、封鎖されてないわ!!」
「昔とった杵柄、この回線経由で社に強制通報を送るしかないわね」

(作者:おいおい、マネージャやる前は何やってたんだい・・・・(-_-;))


「さぁてと、金は十分に頂いたし、あとは安全にずらかるだけだな」

人質の全員は、既に縛り上げられ床に転がされていた。
3人の犯人達は交代で一般の人質を威圧していた
・・・そして、千奈は、カウンタの椅子に縛り付けられていた。

「よぅ、一日所長さんよぉ、アイドル歌手なんだってな・・・」

「いいカラダしてんじゃねーか・・・制服がきつそうだぜ・・・」

一人が千奈に手を伸ばしかけるが、もう一人が制止した

「どうだぃ、オレたちはやさしいだろ、アイドル様は床に転がしたりしないのさ」

「まぁこのハラじゃ、床に転がしたりたら自重で破裂しちまうだろ・・・ってな、ははは」

ほかの犯人たちもつられて下品に笑った
千奈には、猿ぐつわ等は掛けられていなかったが、なにも言い返せなかった。なぜなら、その胸元にはショットガンの銃口が押し当てられていたからである

「おっと、ジタバタしねぇでくれよ、でないと、その立派な胸と腹に穴が開く事になっちまうぜ」

【ひ〜〜ん・・・そんな事されたら、破裂しちゃうよぉ・・・】

「いっその事、こーゆーのも面白いかもな!」

大きく膨らんだ胸に押し当てられていた銃口が引かれ、代わりに事務用の千枚通し(アイスピックみたいなヤツ)が千奈の腹に突きつけられた。

「ひっ!!」

千奈は思わず息を呑んだ。
日頃から常に注意しつづけている最重要事項が脳裏に走る。

『オナカの所だけは、何があっても傷ひとつ付けちゃダメよ(by恵瑠奈)』

千奈の巨大な腹はゴム風船ではない、あくまで妊娠した“ぼて腹”である。普通の妊婦さんは平気ではないにしろ、針が刺さった所で破裂するわけではない。しかし、千奈は別だった・・・
彼女の場合、常人を超えた発育のため極限までに腹の内圧が高まっているのだ。言いかえるならば、千奈の子宮壁・・・“オナカの皮”は常に限界点まで張り詰めた状態・・・そのため、万が一ごく小さな、針の穴程度であっても、穴が開いてしまった場合、そこに応力集中が起こり連鎖反応的に全体が裂けて・・・つまりは大爆発してしまう可能性があるのだ。
普段はサポート用のボディスーツ等があるため、ある程度までの衝撃や圧迫とかには耐えられるとしても突起物、特に針状の物には、致命傷にすらなりかねない。
言いかえるならば、今の千奈はゴム風船なみに脆弱な存在なのだった・・・

「へへ・・・デッカいねぇ・・・今にもはちきれそうだゼ・・・」

千枚通しの針先が、触れるか触れないかの距離で、千奈の腹の表面を移動する。

「や・・・やめて・・・・突付かないで・・・・」

その先端は、千奈のヘソの位置辺りで停止した。千奈からの視点では爆腹自体の影となって見えない。

「この辺りを・・・つんってしたら、どーなっちまうのかなぁ・・・・」

死角となっていて見えないだけに、一層恐怖感を増す。

「い・・・いやあぁっ!!」


「はっ、警官隊、極秘の内に展開完了いたしました。」

銀行向井の喫茶店では、極秘の内に対策本部が設置されていた。
通信回線が封鎖されている以上、直接目視以外に中の様子をうかがうことは出来ない迂闊に動く事が出来ない以上、犯人を刺激しない様に警官隊は隠れているのであった。

「いい?くれぐれも人質の人命最優先よ」

まともに立っていられない支店長を差し置いて、完全にその場を取り仕切っている恵瑠奈であった・・・


「うぅ〜・・・どーしよ〜よぉ・・・」

「こんな事態は、さすがに予想がつかなかったわ・・・」

ロープで縛られ、床に転がされたまま、初香とミアがつぶやきあう

「どうしたのよ初香、アンタのご自慢のハンディはどうしたのよ・・・」

「そんな事言ったって・・・この縛られた状態で、マシンはバッグの中じゃ・・・
 ・・・・・!、ちょっとまって」

初香は縛られてはいるものの、かろうじて動く手首から先をバッグの中に入れ、ごそごそと動かした。

「そうよね、この状態じゃキーボードも展開できないわよね・・・ 」

ミアは、自分の考えが浅かった事にため息を吐いた
(※初香のハンディは比較的大型(携帯よりパソコンに近い)で、フタを開けるとキーボードが展開される構造になっています。)

「・・ん・・・ここで、こう・・・・あ、まちがえた・・・よっ・・・」

初香はずっとカバンと手首から先だけで格闘している。

「初香・・・やっぱ、カバンの中じゃキーボードは開けないでしょ・・・」

「ちと黙ってて・・・結構ムズいんだから・・・・このキーグリップの操作って・・・しかも完全ブラインドなんだから!
 コンピュータ黎明期に作られた片手専用キーボード、
ネオ秋葉のアンティークパーツ“まにあ舘”で見つけといて良かったわ・・・」
(※作者注:5本の指の組み合わせで入力する片手用キーボードは、かなり昔に実在しましたが、あっという間に消えました)


「おい、そろそろじゃねぇか・・・外の連中との合流予定は」

犯人の中心格らしい男が仲間に言った

「ああ、見てくるよ、ついでに警官の死体も片づけねぇとな・・・ 」

「俺も手伝ってやるよ」

もう一人が、賛同し2人が出てゆく
残った一人は、ショットガンをかついだまま、店中央のソファーに腰を下ろした


一方、こちらは急遽 対策本部となってしまった向かいの喫茶店内

「困ったわね・・・犯人グループの人数だけでもはっきりしない事には、突入するにも危険が大き過ぎるわ」

「残念ながら、銀行は完全にシャッターの降りた状態でして、中の様子は」

不意にハンディが鳴った。今度は恵瑠奈のだ。

ディスプレイには、画像も音声も無い、飾り一切無しの半角文字
”kochira wa ginkou naibu outou saretasi...”
(こちらは銀行内部 応答されたし)

(※作者注:片手キーボードは半角英数字しか打てなかったと思う)

恵瑠奈は一瞬メッセージを読むのも忘れて驚愕した

「誰なの?この私のハンディに侵入できる腕の持ち主って・・・?」

メッセージはなおも続けてくる

“hannin wa 3nin uchi 2mei ga tadaima soto ni deta moyou ”
(犯人は3人、内2名が外に出る模様)

”nokotta 1mei wa shot-gun wo keitai ”
(残った1名はショットガンを携帯)

恵瑠奈は情報の裏を取る為、即座に逆探知を行った。
結果はすぐに出た、銀行の店内からの発信にほかならなかった。
(※出所のカモフラージュはハッカーの鉄則ですが、今回は当然、初香は意図的に逆探知を受入れています)

「状況が判ったわ・・・感謝するわ、名も告げぬライバルさん」

「犯人グループの人数は3名、内2名がこれより外へ出てくる模様、
 残存の1名を刺激しないよう、十分泳がせてから逮捕すべし!」


犯人の内、2人が席を外して残りは1人である。
ある意味チャンスなのであろうが、人質は千奈も含めて全員が縛り上げられている。

犯人はうろうろと退屈そうに歩き回っていた
千奈は駄目で元々と、静かにもがいてみた
元からきつかった“一日警察署長”制服のボタンが1つ取れて落ちた
するとどうだろう、後ろ手に縛られていた腕が少しだけ動くようになったではないか・・・
千奈は自分の胸元へ視線を落とした・・・さっきまで見えていたロープが見えない
かといって、ロープが解けたわけではない。ロープは千奈の胸の下に食い込んでいた。
実は、千奈のアンダーバストはかなり細い。
ダブルのスーツ風デザインの制服を着ている時は、大きな胸とそのすぐ下にある、さらに大きなお腹の膨らみによって、ズン胴に見えてしまうのだが、実測で75cmに満たないくらいにアンダーバストは細いのだった。
(作者注:骨格・肋骨自体が華奢な造りみたいです。妊娠前はもっと細かったかも?)
爆乳&爆腹&安産型で思いっきり横幅のある様に見える千奈であったが、もし、妊娠していなければウェストは60cm代なのである。
あくまでも千奈は“膨らんだ妊婦少女”であって“肥満少女”ではない。
(作者注:絵で見た限り、千奈ってかなり太いし体脂肪率も思いっきり高いんですけど、いちおー“肥満”まで行って無いと・・・ゆー事にしておいて下さい)
犯人はそこのあたりに気づかず、千奈を椅子に拘束するときに服の上からのサイズで縛っていたのだった・・・・
少し動くようになった腕を動かすうちに、ロープがつながっていたのであろう、足首を縛っていたロープが緩み足が自由になった。
キャスター付きのOAチェアに縛り付けられている為、これで多少の移動は可能になったのだが
まだ、拘束から解き放たれたわけではなかった・・・


千奈は考えた

【犯人は一人・・・今ならなんとかできるかも・・・】

周りを見渡す・・・ふと、なつかしい(という程でもないが)顔を見つけた。ミアと初香だ
しかし、警官たちは誰一人としておらず、自分以外は縛られ皆床に転がされている。もっとも、自分も縛られている事には変わりはないのだが・・・

【これは、アタシがやるしかないようね・・・みんなを、お友達を守って見せるわ】

一人残った犯人は、完全に油断しているようだ。確かに人質はみな縛り上げてあり、床に転がしてある。唯一床にいないのは千奈だけであった。

【チャンスは1回だけ・・・】

千奈は全神経を集中してチャンスを待った

【万一、十分な効果が無かったら・・・でも、どうやって・・・?】

実際、奇襲攻撃の最初の一撃で相手が倒れなかった場合、相手は武器を持った凶悪犯である。千奈に生存の確率はない
たとえ素手であったとしても、「自由と縛状」「男と女」「大人と子供」勝ち目の要素は何一つ無い・・・
さらにトドメとして、千奈は身重なのである。
しかも、パンっパンに張り詰めた破裂寸前状態の爆腹妊婦・・・
殴る蹴るはもちろん、突付かれただけで風船のごとく爆発してしまう
もちろん、破裂なんかしてしまったら重症は確定、下手をすれば即死なのだ

ともすると、とことん暗い考えになってしまう所を首を振って振り払う
その時、偶然にも昼間見たTVの内容が脳裏に浮かんだ

『膝や踵は、鍛えてなくても凶器ですからね・・・』

【膝や踵・・・そうだわ!】

千奈は、ゆっくりと右足を持ち上げ始めた・・・


「しかし、遅いな・・・どこで道草くってやがんだ・・・」

犯人はいらだった様子でうろうろと歩きだした。運良くか、まだ、千奈の様子には気付いていない

「ねぇ初香、何とかあの犯人の注意を、こっちに引き付ける方法ない?」

「ミアちゃんそれ、どーゆーこと?」

「あ・そ・こ・よ・・・」

犯人に悟られぬよう、最低限の動作でカウンタの方を顎で指す
その先には、犯人に蹴りを入れようと構える椅子に括り付けられたままの千奈がいた

「なるほどね・・・でも、ここで声あげて、ズドンはいやよ」

「わかってるって、だから何かないって聞いてるわけ」

「へへへ・・外に連絡は付けたし、何とかしてみましょう・・・」

初香のバッグから、微かな音を立てて、小さなものが飛び出した


キュルルルル・・・・・

モーター音をあげて、握りこぶし大の白い物体が床を走る

「何だ?!コイツは・・・」

ハツカネズミのような白い物体は、犯人の目の前まで来るとくるくると回りはじめた

「何を出したの?」

「ペットロボット兼自走式マウス“吉之助”よ バイトがてら開発してたオモチャの試作品なのよ」

「こいつめ!」

「チュー!」

犯人が踏み潰そうとするが、素早く身を躱す自走式マウス(もちろん、ワイヤレスです)


「はいっ、そこでターン、3秒以上直進しちゃダメよ」

「ミアちゃん・・・アクションゲームは苦手なんだけどぉ・・・」

「モンクいわない!そこを右!・・・足の間くぐって・・・」

ミアが指示を出し、初香が無線でロボットマウスをコントロールする。
実は合気道の有段者であるミアは、犯人の動きを見極め、動作の死角を突くように初香に指示を出す。
初香はマウスへのコントロールプログラムを操作し、制御をおこなう。
にわかコンビとはいえ、なかなかに息が合っているようだ。


きゅるるる〜〜〜 キッ シュルッ

ガォン!!

ショットガンを放つが、マウスはこれも巧みによける

「チュー!チュー!」

「こ・・・このヤロー!!!」

犯人はすっかり熱くなってしまったようだ・・・


千奈はひたすらにチャンスを待った

【勝負はこの一撃・・・・】

千奈はさらに足を高く上げようとした当然、せり出したオナカが足にぶつかった

【もっと強く・・・もっと・・・】

千奈はそれでもなお、力を込めてさらに足を上げた巨大な腹に、太股が、膝が押し付けられる
押し付けられたゴム風船のように、ひしゃげ、横に張り出すぼて腹・・・

【うぐ・・・オナカがパンクしそう・・・・】

ロープのゆとりのせいで、何とか動く肘から先を使って、持ち上げた足をさらに引き付ける。右足はほぼ垂直まで持ちあがった。スカートのファスナーは弾け、スリット部に裂け目が走る・・・
体型を無視して足を上げた為、巨大な下腹部は持ち上げた足が食い込み、押しつぶされた風船のように変形し、今にも破裂しそうに張り詰めていた。

【負けるもんですか!】


「そろそろ決めるわよ、フェイントを加えながら、ターゲットを誘導!」

「OK、ベースは蛇行ラインに、1/fとループパターンいれるね」

「そこで、一気に加速!ターゲットを目的ポイントへ!!」

「らじゃ!」


チャンスは来た!!
疾走するマウスを追いかけて、中腰で掛けてゆく犯人が千奈のすぐ側を通った

「てえぇぇぇいぃっ!!!」

千奈は、右足を支えていた両手を離すと同時に渾身の力を込めて蹴りおろした。
普段から100kg近い体重を支えていた脚力に破裂寸前まで圧縮されていた腹の弾力がさらに加速を加える・・・・


ピーポーピーポー
犯人が連行されていく、いや、正確には担架に乗せられていった。

「なんてムチャしたの!?殺されちゃってたかもしれないのに・・・」

恵瑠奈は“おかんむり”だった・・・

「・・・ごめんなさい・・・」

千奈は、ただ素直に謝るしかなかった・・・

「ホントに・・・・・」

恵瑠奈が手を持ち上げつつ近づいてくる

「・・・!」

千奈は平手打ちに備えて、歯を食いしばり目をつぶった

「・・ホントに・・・無事でよかった・・・」

ふわりとした抱擁・・・

かくして、千奈のかなり長かった一日は終わりを告げた


−後日−

店内の防犯カメラは無効化されていたが、支店長の(勝手に)追加した、記録用カメラは気付かれなかったらしく事の顛末を明確に記録していた。

マスコミは、ここぞとばかりに、この事件を記事にした

『一日警察署長、銀行強盗を逮捕』 『アイドル捕物帳』この辺りは普通だが
中には『格闘アイドル?強盗をKO』とか『必殺!爆腹かかと落とし』などと一部の事実だけを誇張した記事も出回ったのは事実であった・・・(笑)

恵瑠奈はその後、事ある毎にそのネタを持ち出しては笑うのだった・・・

「ぷん! アタシだって、この身体さえまともなら、そこそこはイケるんだからね」

一方、千奈は、変な自信を付けてしまったみたいではあるが・・・・



後書き

「銀河ぼて娘伝説」第2部、第2話です。

芸能オンチのAlは、普通の芸能シーンでいいネタが思い付きません。
ですから、「ありがち」「パターン」と言われつつも、こーゆーネタに走ってしまいました。

さて、今回はちと反省です。
この第2話は、ストーリーを追うのだけで手いっぱいになってしまい、このシリーズで描きたい雰囲気というものが十分に描けなかったと思います。

物語を作る上で、誰もが陥りやすい罠にこのようなものがあります。
「主人公なんだから、読者は皆、このキャラに魅力を感じてくれているはずだ」・・・というヤツです。
まぁ・・・千奈は、ぼてフェチ専門のHPで発表する「ぼて小説」の中の唯一のぼてキャラなんですから、読者の注目(と煩悩)を一手に引き受けるのは当然といえば当然なんですが、この状況に頼ってはいけませんよね・・・

Alとしては、トロくて、不器用で、やたらと脆い(ダメージ受けたら破裂しちゃう)
悪く言ってしまえば“役立たず”の女の子が、唯一の取り柄である“明るさ”
言い換えるなら“よくわからないカリスマのようなもの”から、いろいろな人に助けられつつ成功してゆく・・・そんなストーリーを描いてみたかったのです。

今回の反省点は2つ、
・千奈に魅力があるような描写が十分にできなかった。
・もっと、スリルを味合わせるシーンが描き切れなかった。

まぁ、プロの文章屋ぢゃ無いので、今回だけは許して下さいm(_ _)m 次回こそは、より良い小説が書けるように頑張りますので皆様、見捨てないで下さいね。

では、今回はこのへんで・・・・

P.S

やっぱ、「純粋妊婦」のぼて娘って、ひ弱すぎるにゃあ・・・
(なんかあったらパンクしちゃうし、破裂したら一大事だし・・・)
なんかの方法で強化してあげないと、できない事ばっかし多すぎてまともに行動させられなくなっちゃう・・・・
やっぱし、元ネタ(とゆーかイメージベース)のユナみたいにスーパーヒロイン化してしまおうかにゃあ・・・(アイデアはあるのよ)
ご意見あったらお願いしま〜すm(_ _)m