あまなつ(チュアブルソフト)

 9年ぶりに故郷に帰る常盤彼方(変更不可)。そこは喜びと悲しみの入り交じった街。人魚の住まうとされる土地。果たして彼方はどれだけのものと再会し出会うのか。

 1年4ヶ月ぶりのチュアブルソフト第2弾は真夏のミッションスクール純愛アドベンチャー。新規ブランドとしてはなかなか思い切った間隔を開けてきました。今回も体験版を4話まで公開するなど意欲的な姿勢を見せているようです。
 初回特典は下敷き2枚セット。そのために大きめなパッケージなのかと思いきや外側に張りつけられています。その下に隠された地味なデザインの本当のパッケージは通常版でもそのままなのでしょうか。
 購入動機は前作をプレイして、そこからの進歩を期待して、というところ。ある程度は原画買いでもあります。

 システムは特別変わったところのないアドベンチャー。今回もマップ移動タイプで次に移行する場所やヒロインの居場所もわかるようになっていますが、誰も表示されていないところにもCGがあったりして結局は総当たりにしなくてはならないのは微妙なところ。
 足回りは少しはましになりました。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、マップ移動以外の選択肢間が長めであるため体感的にはやや遅いくらいに感じます。
 バックログはウインドウ単位で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが戻れる量は少ないです。ロード直後にも使用できるのはなかなか便利。

 シナリオは今回も話数区切りの全8話構成。オープニングやエンディング、予告の類はありません。イメージ的に前作を一回り小さくしたような感じになっています。
 話数の減少はそのままテキスト描写の減少に繋がっています。出会いから仲良くなっていくまでを丁寧に描いていた前作に比べると非常に駆け足な印象です。その内容も散漫といいますか、首をかしげるような展開や描写が散見されます。複数ライターによる意志の統一がもう一歩できていないようにも。
 個別シナリオに入ってもそれは同様、どころか加速していきます。読み進めていて普通に意味がわからない、なんてことも見受けられるように。悪い意味で複数ライターの特色が出てしまっています。
 本作ならではの設定も有効に機能しているとは言い難く、その意義が感じられません。用意したのなら、しただけの効果を見せて欲しいところです。
 互いに惹かれ合う過程は相当にいい加減。いつの間にか好きになっているが全てで工夫が足りないように映ります。また、困難にぶつかると能動にせよ、受動にせよ、とにかく相談するべし、しないことには一歩も進まない、という流れがほぼ100%なのはどうかと思います。
 主人公像にも疑問。普段はとても感じの良い好人物であるのですが、何か少しでもあると誰かれ構わず当たり散らす精神の不安定さが躁鬱病の気を疑わせます。しかも、ほとんど成長が見られないあたり厳しいです。
 Hシーンは2~3回程度。ただし、未遂のようなシーンもあるので色々と微妙な面があります。

 CGは夏に海辺の街が舞台であるせいか明るい色使いが前作とは対照的で鮮烈な印象です。
 立ちCGにはかなりの頑張りが感じられます。表情、ポーズ、衣装と実に多彩でイベントCGにも負けないほどヒロインの魅力を十分に表現できているかと。クリア後に立ちCG鑑賞を見るとより一層、出来の良さを感じます。
 イベントCGは生活感のあるカットが目を引きます。あまりこれぞイベントCG、という感じのものはありません。
 純愛系にしてはエロ度は頑張っているかとは思いますが、原画家的に最高の仕事かと考えるとそうでもないような。もっと上を目指せるように思います。立ちCGにも言えることですが、真っ正面を向いた時のカットが全体的にイマイチ。苦手なのかもしれません。
 ところでCG鑑賞の12ページ目が空欄なのはどういうことなんでしょうか。

 音楽は舞台が舞台にしては(?)穏やかな旋律が多かったです。多彩な曲という意味ではちょっとラインナップ不足のようにも感じられましたが曲自体は聞き応えあるものが多いです。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は特に問題ありませんが、一部のキャラに顔と声質の間にギャップを感じるかも。プレイしていけば慣れるでしょうけど。

 まとめ。綺麗にまとめようとして却って持っていた魅力を失ってしまった作品。いわゆる短所をなくそうとした様子(共通シナリオを短くし、ヒロインの人数を絞った)は窺えるのですが、長所までなくしてしまった(豊富で楽しい掛け合い、個性的なヒロインの魅力)のが残念。
 ライターが5人になり明らかにシナリオのレベルが下がったのは痛恨。やはり、これが一番影響が大きいかと。
 お気に入り:綾瀬真魚、大津奈美
 評点:55

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、はるさめ
 エンディングが2つってのはスタッフの愛の現れなのでしょうか。正直とてもどうでもいい感じでありました。互いに惹かれ合う過程がとても希薄な本作においてもはるさめの場合は超越してます。猿に威嚇されて好意を決意するゲームなんて初めてなのではないでしょうか。
 終盤、幼女相手にマジになる主人公はとても香ばしかったです。こいつのために周囲の人間に八つ当たりする様はあまりにも人としてどうかと思います。誰かなんとかしてください。

2、風見涼夏
 パッケージによると完璧超人なお姉さんらしいのですが、一体どの辺がそうなのかまるでわからず。学業成績がいいだけなのではあるまいか、という気がします。
 桜子に対する態度がどうも一貫していないように思えます。主人公と桜子が近づくことをなぜああも無条件に許しているのかわからない。2話のラストの出来事は涼夏にとって主人公を要注意人物と見るに十分だと思うのだけれど。
 自分のシナリオに入るともうなんだかよくわからない。当てつけのために同性の下級生とつき合おうとするあたりほとんど小学生レベルの幼稚さ。周囲に与える影響を全く考慮していないあたりつける薬がありません。
 人魚の呪いを信じていないからこそ、しっかり血文字で呪いの儀式を行う姿勢がキモい。だからどこが完璧超人なのかと。っていうかヤバい病気でないのこの人。

3、御薗木桜子
 結局、問題の人物である本物の兄様が出ないあたりなんだか焦点がブレているような気がします。先を見るなら主人公が会って意識改革をしないことには今後も似たようなことが起きそうです。だって桜子は別に本物の兄様が嫌いになった訳じゃない。
 最後までなぜ主人公が兄様なのかはサッパリわからず。桜子は一体なんのつもりで同じ呼称を用いているんでしょうねぇ。全くもって理解できません。ややこしさをクリアしてまで呼ぶ意味が?

4、ソフィア・由花莉・三島
 教師であることを考慮すると主人公を好きになった理由はないも同然。今までは恋をしてもシスターだから振り切っていたのになぜ、今回は突き進んだのか。困るほどにわからない。で、そこをスルーしたとしても、わざわざ恋に踏み切ったはずなのにあっさりと後戻りする。もちろんここにも大した理由はない。再び元通りになるラストまで踏まえても実にはた迷惑なカップルですな。

5、綾瀬真魚
 同居しているので私生活は丸見えに近く、家の中では自然体かつ無防備で過ごす。注意しても逆に言い含められてしまう。これはもう恋になるのは不可避の流れといっても過言ではありません。無自覚にエロいというのはある意味、手がつけられませんな。
 生活感の出るヒロインは自然に差別化ができており、他をリードするという良い見本。イベントCGなんかにもよく表れています。ただ、それだけに真魚だけでないとはいえシナリオの不備は惜しまれます。恋仲になった後のあまあまな描写はいいのにねぇ。
 結局プレイ前に予想した、発売延期(下敷きもしくはDisc1)のイラストが一番エロいかも、というのが当たってしまって残念。描くタイミングが遅い分だけ販促イラストなどの方が良く描けている、という現象は今後もありそうですねぇ。やっぱ慣れは重要かな。

6、海野沙智
 アリスソフト級のネーミングセンス。とそれなら奈美は山野幸だったはずですが。基本的に賑やかしであり、涼夏シナリオ以外の存在感は薄い。ポジション的にもほとんど悪友と変わらない。

7、大津奈美
 名前は同じくいい加減ですが、キャラとしては色々とおいしい面を持ってます。裏設定というほど隠してはいませんけど、空と姉弟のようだし。
 ポッツォの制服姿とかヒロインである真魚が霞んでしまいそうなほど凶悪。本作には珍しい良識派であるのも密かなポイント。ああ、どうして攻略できないのかしら。