天巫女姫(アクトレス)

 祖父を亡くした天野誠(変更可能)は天涯孤独の身になった。茫然としつつも、これからの人生について考えていると一人の女性が声をかけてきた。共に暮らさないか、と。
 彼女の名は御巫あやめ。天野神社の代理宮司を務めている彼女は遠縁にあたる誠を宮司候補として迎えに来たのだ。そして、始まる4人の巫女との新しい生活。誠が戸惑いの先に見出すものとは。

 近頃、微妙に流行ってきた感もある巫女オンリー企画。これもそのひとつ。個人的には多くのヒロインの中の一人いるかいないかの巫女(出来ればこだわりの感じられる)が好きなのですが、原画家がお気に入りであることと、シナリオに期待できそうだったので購入を決めました。

 修整、拡張ファイルがアップされています。主人公の敬称「くん」、「ちゃん」を読み上げるのが気になる人は必ず落としましょう。各パッチは個別扱いになっています。

 システムはビジュアルノベル。CGに文字が重なるタイプですが、イベントCG表示の時のみ通常のアドベンチャーのようにウインドウが開きます。
 足回りはかなりかゆい所に手が届く親切設計。メッセージスキップはコンフィグにより既読未読を判別するかしないかを設定可能。速度も実用に充分耐えます。ただし、既読未読スキップは自動的に作動で手動で動かすことは出来ません。
 メッセージの巻き戻しは別画面で行います。ボイスのリピート再生も可能。あまり逆上ることは出来ませんが、代わりにロード直後にも使用可能です。
 他にもかなり細かくカスタマイズ出来るようになっています。プレイヤーの身になって考えられた優秀な設計かと。

 シナリオは「痕」に代表される、周回を重ねることによって新たな選択肢が増えていくタイプに当たります。しかし、全てのシナリオで少しずつ全貌がわかっていく構成ではなく、各シナリオ毎に核となる設定が微妙に異なっているために緊張感が持続しにくいです。
 日常会話は良くもなく悪くもなくといったところですが、キャラの個性をアピールする序盤のイベントが少ないのが残念なところ。主人公とヒロインが互いに惹かれ合う様子もやや説明不足なケースが多いように感じました。
 中盤以降、伝奇方向に進むシナリオは雰囲気や盛り上げ方こそ、たいへん優れているのですが、まとめ方がどうにも弱く説得力が足りていないように感じました。予定調和に過ぎるといいますか。特に御巫あやめシナリオ。

 イベントCGは原画の魅力を損なうことなく美しく仕上がってます。ただ、部分違いなしで79枚はシナリオサイズを考えるとやや少ないように思います。
 全ヒロインに複数回Hを搭載しているためエロ度はなかなかのもの。しかし、、この枚数で実現しているために、結果として通常のイベントCGが極端に少なくなっているのは微妙なところ。シナリオ的にはイベントCGが欲しくなるイベントそのものが少なかったように思います。意識してのものかどうかはわかりませんが。
 難しいところですが、あちらを立てればこちらが立たず、ということなんでしょうか。
 立ちCGは表情はもちろん、ポーズも多彩に変わってくれます。各ヒロインの個性が反映された優秀なカットが多いです。ただ、メインヒロイン御巫咲耶の一部のカットは頭頂部がやけに平たく見えてマイナス印象を受けました。
 背景は田舎ゲーらしく落ち着いた色彩のものがしっかりと用意されています。立ちCGやイベントCGに負けない存在感を持っているかと。

 音楽は世界観にも合致して雰囲気を盛り上げる、レベルの高い曲が用意されています。ただし、ボーカル曲やそのインストバージョンを含めて16曲というのは明らかに少ないように思います。良い出来であるだけに残念です。
 ボイスはヒロインのみフルボイス。容姿と性格から連想しやすい声優さんがキャスティングされているかと。ただし、メインヒロイン御巫咲耶だけはレベルが一段下がるように感じました。他のメンツは申し分なし。

 まとめ。目指したものに対してゲームの規模が足りていない作品。全ての面において光るものを持っていますが、時間や制作費などの事情によって望むものを用意しきれなかった、そんな印象を受けました。正直、これを越えるボリュームがないと名作と呼ばれるゲームに仕上げることは難しいと思います。ただ、スタッフの基本的な実力はいいものを持っていると感じたので次回作以降に期待したいところ。
 お気に入り:橘椿
 評点:63

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、御巫咲耶
 デザインは悪くないのに妙に損をしている感じがします。上で書いた立ちCGもそうですが、ボイスもちょっとねぇ。Hシーンがかなり棒読みに近いのも思い入れの入り込む余地を奪っているような。
 唯一といってもいいほど、普通のイベントCGがあるんで妙に浮いているように見えます。ヌシを洗ったり、勉強したりとまるで違うゲームを見ているかのよう。
 咲耶シナリオに関しては結局、彼女が何を考えているのかよくわからなかったのがどうも。幸福の王子様云々はともかく、その前の段階、主人公に対する気持ちの変遷がさっぱりわからないのが困りもの。

2、橘椿
 恐らくわざとなんではないかと思うんですが、なぜこの名前なのかが非常に疑問。「橘」も「椿」も作中で何度も関わりある用語として使われるんで無駄にわかりにくかったです。
 ボケもツッコミも自由自在な才媛というある意味の完璧超人。しかも人によっては嬉しい永遠の処女というおまけ付き。ま、それはともかくゲーム中で会話していて一番面白かったのは間違いなく彼女。予想通りの返答が嬉しいキャラってのは久しぶりかも。
 しかし、一体どこであれほどの剣を修得したんでしょうねぇ。つーか、彼女は成長しない訳ですから筋力はサッパリ鍛えられない、つまり技オンリーで達人レベルに強いと。

3、比良坂菊里
 お風呂場Hが夢かバッドエンドというのはなんとなく残念ですけど、あのバッドエンドメッセージはなかなか笑えました。字体の選択も良かったかと。
 しかし、菊里の兄の亡霊は凌辱っぽいHシーンを用意したい、ただそれだけのために召喚されたとしか思えないのですが。あの消されっぷりは只事ではないと。いかにも無意味でしたと言わんばかり。

4、中条美月
 エセ巫女にしてメガネ。どう見てもこのゲームでは2軍。

5、御巫あやめ
 良くも悪くもこの人の考えていることはわかりません。そもそもどこまで椿に付き合えば満足だったのか。そして、本人のシナリオのあの変わり身の早さ。ちょっとどころか、とてもついて行けませんよ。