あまつみそらに!(Clochette)

 美空島。そこは人並みの神の住む島。そこに暮らす人々は神と共に生きることを不思議に思うこともなく当たり前のこととして受け止めていた。
 観崎高久(変更不可)は妹の美唯とともに神様である一ツ橋神奈と暮らしている。だがそれは過去と現在。未来がどうなるかはまだわからない。

 Clochetteの新作はまるでデビュー作のリベンジ企画かと思うような神様もの。果たしてその成果や如何に。
 購入動機はしんたろー氏の原画買い。体験版が面白かったという点もあります。
 予約キャンペーン特典はドラマCD「未来形神様の明日はどっちだ!?」。パッケージは深景先輩なのに本人は出演していないという不思議なドラマCDです。初回特典は美空島ファンブック。

 修正ファイルが出ています。動作停止に関わるものなのであてておきましょう。ちなみに私の環境ではこのファイルに対応していないバグによってたびたびゲームが止まってました。同じ症状が起きる方は小まめなクイックセーブを推奨します。オートセーブが搭載されていないので。

 ジャンルはごく普通のアドベンチャー。
 足回りはデビュー作に比べてかなり良くなりました。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です。シーンジャンプの機能も備えていてなかなか便利。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能で恐らくはいつでも最初まで戻ることができます。ただし、スクロールバーなどがないので使い勝手はもうひとつ。ロード直後にも使用できます。
 バグのせいもあってタイトルからクイックロードができないのは不便です。
 ワイドモニター時、フルスクリーンにした場合に画面の左右両端にできる黒いエリアでもきちんとクリックが効いてくれます。ただ、右クリックだけは効かない時があるように感じるのは画竜点睛を欠いたようで残念。それと気のせいでなければ起動後はスクリーンサイズを変更できなような。

 シナリオは萌えゲーらしくキャラ重視なので物語に期待は禁物。起承転結における「転」が非常に弱いです。前振りこそ悪くないですが、解決が至って易しい障害ばかりなので盛り上がるということがおよそありません。ヒロイン全員のシナリオがオカルト絡みである、というのも無理矢理さばかりが目立ってしまっています。とても高い効果を得られているとは言えません。
 反面、キャラクター描写は秀逸です。設定の段階から魅力あるキャラをテキストでしっかりと肉付けしています。キャラ立ちは十分すぎるほど。深い意味を持っている訳でもない日常会話がとても楽しく感じられます。テンポも申し分ありません。まぁ、裏を返せば記憶には残りにくい会話なのですけど。
 惹かれあう過程は若干1名ほど存在しないヒロインがいますが、それ以外は概ね良好と言えるくらいには丹念に書かれています。良く言えばそのキャラに相応しい書かれ方で、悪く言えばキャラによって質量ともに差があったり。中でも葉月深景シナリオは朴念仁でも気付かされるくらいに量を投じて丁寧にもどかしい様子を描写しています。
 ヒロイン視点による描写が稀にありますが、メッセージウインドウなど見た目上の変化はないので慣れるまでわかりにくいです。また、用意した意味はそれほど感じられず、なくては成立しないようには見えません。
 Hシーンは各ヒロインおおよそ4回程度。エロさや方向性はヒロインによって差があります。基本的には純愛系にしてはかなりエロいと思いますが、比較してしまうと弱いキャラも。尺はシーンによって長かったり短かったりしますが、全体的には長い方でしょう。シーンによってCGとテキストで食い違いが散見されるのが残念。

 CGは本作最大の売りです。原画目当てのプレイヤーも納得のクオリティが全体で維持されています。ただし、イベントCG枚数は相変わらず差分を除いて80枚とさみしい数字です。
 一方で立ちCGはそれを補うだけの質と量が用意されています。各ヒロインポーズは3種類以上、衣装は4種類以上、表情もポーズごとに20種類以上と、実際は数字以上に並々ならぬ気合を感じます。しかも、ひとつのセリフ中に4回から5回とか表情などが変わってくれるので(画面上では同時に2人までしか出ないのに)掛け合いは実に賑やか。迂闊にボイスを飛ばすこともできません。スクリプト作業は果たしてどのくらい時間がかかったのでしょう。しかし、それだけに差分の少ない通常イベントCGが寂しく感じられてしまうのは予想外の副作用かと。
 美空島を彩る背景が文字通り実に美しいです。使う回数が少ない背景もしっかりと描き込まれていて見応えがあります。離島の雰囲気も良く出ているのではないでしょうか。

 音楽はそれほど田舎を感じさせるものはありませんが、作品の特徴である賑やかさがうまく抽出されています。各ヒロインに事実上のテーマ曲が用意されているのも雰囲気作りに一役買っています。その曲が鳴れば該当するヒロインが登場するというのは意外に小さくない効果を持った演出だと思います。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。一部にはイメージに合致せず賛否ありそうなキャスティングもありますが、全体的には問題ありません。むしろ、好演の方が多く耳に残ります。葉月深景役の風音さんは色々な意味で八面六臂の活躍が、帷千紗役の木村あやかさんは高低のある演技が印象に残りました。

 まとめ。萌えゲーとしては合格だがシナリオゲーとしてはかなり物足りない作品。しかし、前作「かみぱに!」からここまできたことを考えれば十分に喜ばしい出来。今後はブランドの方向性次第でしょうが、可能なら心に染みるようなシナリオを目指して欲しいところ。もちろん、ヒロインの魅力を損なうことなく。
 お気に入り:葉月深景、帷千紗、観崎美唯
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、一ツ橋神奈
 ヒロイン勢の中ではひときわ印象が悪い。波長が合えばいいが、そうでなければ著しく株を落す。神様が最も身勝手であるというのは確かにそんなものかもしれませんが、ヒロインとしてみるとどうなのかという気がします。深景先輩を忌避するのも単にぐうたらで何を試してみた訳でもないあたり同情することもできない。銀王がいなければもっと駄目な結末を迎えていた気がしてなりません。
 共通シナリオの方が印象は良かったですね。

2、清澄芹夏
 こちらは反対に個別に入って印象が良くなったヒロイン。ひたむきに頑張る姿は共通シナリオからはちょっと考えにくい姿です。「アニ」という呼び名が途中で変わるのも良いアクセントになっているのではないかと思います。ただ、無理矢理に怪を物語に絡めなくても良かったんじゃないかなぁ、と。神奈は人間として生きたがっているのだから別段、全シナリオで関連づける必要はなかったのではないでしょうか。
 勢い激しいヒロインなのにHシーンが(他と比べて)おとなしいというのは意外でした。

3、観崎美唯
 登場からして半端ない妹。お兄ちゃんが妹萌えになることを内心どころか隠すことなく願っている。グッズ(?)まで集めようとするあたりもう一歩間違えば、やくみつる化しそうです。
 撮影会のインパクトはすごいものがありました。これはエロにも期待できそうだ、と思ったんですけどね。本作では並程度ととちょっと残念でした。中途半端に現実感があるのがまずかったのかなぁ。アイドルなのに屋外が多いという点は一見すると設定を気にしていないようなのに、内容は気にしている感じでやや控えめに見えました。
 普段の演技はまるで問題ありませんが、Hシーンになるとちょっとレベルダウンしてしまう感じがもったいない。

4、帷千紗
 美唯や神奈がいるせいか通常よりも少し距離をおいている幼なじみ。このさじ加減がなかなか良かったです。パッと見は冷たいようですが実際にはそんなこともなく神奈にだだ甘な主人公のことも見捨てずにいてくれる。
 ただ、距離をおくようになった理由が唐突な感じでちょっと残念。そのくせ、その理由とは関係なく恋仲になってしまうし。微妙な距離感が良かっただけにちょっと拍子抜けでした。過去に関する具体的な描写が少なすぎるんだよなぁ。ちっとも実感として伝わってこない。
 そのあたり気にしなければ恋人になった千紗はたいそう可愛いです。いちゃいちゃする様子もしっかりと堪能させてくれます。冷静に自らの姿を省みて恥じる姿が実に魅力的です。

5、葉月深景
 なんとも押しの強いキャラでぐいぐいと美空島に食い込んできます。ヒロインの中ではただ一人、物語開始時に主人公と面識がないのですがものともしません。芹夏なんてあっさり追い抜かれている感じです。この作品の牽引役であるといっても過言ではありません。銀王様のことも含めれば尚更です。
 主人公との間で書かれるやりとりが良い感じ。互いに惹かれる様子が丁寧に描写されています。2人とも奥手であることがこの場合は高い効果を生んでいるのではないかと。
 全ヒロインの中でも深景先輩のエロさは図抜けています。立ちCGの水着姿など取り扱い危険物級のエロさ。Hシーンも期待に応える仕上がりです。ちょっと一部では応えすぎの気もしますが。