アマツツミ(パープルソフトウェア)

 人里を離れて隠れ住む言霊使いたち。彼らは神の末裔とされ、それに相応しいだけの力を持っていた。同族にさえ作用するほどの強さゆえに最低限のコミュニケーションしかとらずに日々を暮らしていく。しかし、里の若者である誠(変更不可)は外の世界に強い興味を持っていた。幼少の頃より自身の内側より溢れ出る声に従って人の世界へと降りてくる。果たして彼の行く末は。

 パープルソフトウェアの新作は特殊な主人公が少し変わった味わいを生むアドベンチャー。
 購入動機は体験版がなかなか良かったので。
 初回特典は特になし。ただし、恐らくいつでもサントラがついています。それも2枚組と豪華。予約キャンペーン特典はテーマソングマキシシングル。

 ジャンルはごく普通のアドベンチャー。
 足回りはもうひとつ物足りないです。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますがそれほど速くありません。ただし、使う機会はそれほど多くはないため、あまり問題ないでしょう。バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、ほとんど戻ることができません。よって、この画面からのシーンジャンプもあまり意味はありません。ロード直後にも使用できます。

 シナリオは各話単位の途中下車方式を採用しています。1話から順番にヒロインがクローズアップされ、選択肢が発生します。当該ヒロイン寄りの選択肢を選べば下車して個別シナリオに入りエンディングへ。そうでない場合はそのままシナリオが進行して次の章へ進みます。最終4話の終点までこの繰り返しです。
 当然、選択肢前まではいわゆる共通シナリオとなるのですが、ここに本作の特徴が表れています。それは選択肢の位置。一般的な作品で言うところの個別シナリオにだいぶ食い込んだ場所で出現するのです。有り体に言えばどのヒロインともHシーンをこなした後で。つまり、ヒロイン全員に手を出しながら進む物語、ということになります。これは主人公が特殊な力と異なる常識を持つがゆえ、です。そうした点も見所のひとつとなっています。
 日常の掛け合いは主人公や同郷のヒロインの感性が変わっていることを中心とした内容でなかなか楽しめます。同じ理由で笑いの方もそれなりには対応しています。かなり限定された狭い世界ではありますが。
 惹かれ合う過程はキャラクターたちの特異な事情が絡むことでかなり希薄となっています。常識的な恋愛とは縁遠い人たちなので止むを得ないのかもしれませんが、あまり期待していい項目ではないでしょう。
 Hシーンは各ヒロイン5~6回とさほど差がないようですが、その用意された場所や内容など中身の方に差が出ているように感じます。エロ度は純愛系にしては驚くほどエロいです。舞台が田舎ということも作用しているかもしれません。かなり開放的な印象です。

 CGはかなりエロに多く配分されています。日常的なものは立ちCGに全て任せた、という声が聞こえてきそうなくらいの割り切りでイベントCGが構成されています。重点が置かれたであろうHなCGは構図や差分にこだわりを感じさせるものが実に多彩です。十分すぎるほど作品の売りになっています。しかし、それだからこそ一部に、それも後半に進むに連れ使い回しが出てくるのは残念です。
 という流れから繋がるように立ちCGの安定度は作品全体のクオリティを感じさせるほど。豊かな表情と表現はヒロインの魅力をテキストと共に大きく高めています。中には使用度の少ないものがあるのも良いアクセントになっているのではないでしょうか。
 田舎町という舞台を支える背景は特筆の美しさ。主張しすぎることなく、その場所らしさを出しています。湖や川が流れる演出もとても目を引いて涼しそうです。

 音楽はサントラ2枚組に恥じないクオリティの曲が用意されています。ボーカル曲に力が入っているのはもちろんのこと、各ヒロインのテーマが秀逸で確かにヒロインたちを音楽で表現しているのを実感できます。単独でもじっくり聞きたくなる曲が揃っています。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。個性的なヒロインたちの演技は聞き応えがあります。中でも水無月ほたる役の小倉結衣さんの演技は状況に応じた使い分けが見事です。

 まとめ。暑い夏に向いた作品。冬にプレイすると色々と寒そうです。リレー形式とも言えるシナリオがなかなかの味を生んで、一見した以上のエロさが予想以上のインパクトを生んでいます。思わぬ反響で「ハピメアWパック」再発売というのもわかる仕上がりです。
 お気に入り:織部こころ、水無月ほたる
 評点:75

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、織部こころ
 お姫さま力を持っていながら凄まじくエロいという恐るべき娘さん。まぁ、言霊の妹プレイの影響もあるのでしょうけど。そのせいなのか、ひとりだけルート以外にもHシーンが用意されているあたり特別さを感じます。
 それにしても、こころの部屋に2段ベッドがあるのは明らかにおかしいよねぇ。愛が住み着くという前提が先にあって発注された背景なんでしょうね。

2、朝比奈響子
 2号さんでもいい、とか言っちゃう斬新な巫女さん。でも、健気なところはいいとしても実際には2号どころか、4号さんになっちゃいそうなのが悲哀を誘います。むしろ、自分から言い出しそうでもあるし。でも、ドーナツで正妻を買収するしたたかさもあるので案外と序列は高くなるのかもしれません。

3、恋塚愛
 そもそも、雪は呪いなのかという根本的な疑問あり。要するに事故なんでないの、と。でも、同じ方式で解呪しようとするとなんともやりとりが虚しいというか、切ない感じになってしまうのでドラマ仕立てにもっていったのでは。

4、水無月ほたる
 そういう性格なのだ、ということなんでしょうけど、あまりにもほたるが物怖じしなさ過ぎですね。それが1週間で生まれ変わるコピーの違和感を補っている、ということになっています。う~ん。せめてメモを残すくらいしないともっと違和感が出るのではないの? というか、そこをさほど気にしない発想自体がねぇ。なぜ翌週の自分を気にしながら日記とか残さないのでしょう。黙っているくせに配慮はしないという。これも性格なんですかね。
 オリジナルを極悪人にしようという前提がだいぶ苦しいです。コピーへの悪態も結局は自分を卑下している、ということだからねぇ。