兄嫁(Selen ADVANCE)

 神楽貴史(変更不可)は両親を失って以降、何事にも優秀な兄に支えられてきた。本来は感謝してもしたりないくらいであったが、あまりにも秀でた兄と常に比較されるということはそれ以上に苦痛だった。それでも貴史が兄に感謝の念を抱いていたことは間違いない。あることが起こるまでは。
 ある日、兄が連れてきた婚約者は貴史が長年、憧れ続けた女性、常盤美和だった。未だ生活が兄がかりである貴史は当然、美和と3人で暮らすことに。
 内心で苦しみつつも表面上は平穏な3ヶ月が過ぎたある日、酔った兄の一言によって状況は一変する。兄は美和が貴史の想い人だと知っていて手を出したのだ。それは悪意に基づくものではなかったかもしれない。それでも、重大な裏切り行為には違いない。貴史は兄嫁、美和を奪うことを決意する。

 ここのところ、流行り始めた低価格路線。価格帯はメーカーの戦略によって様々ですが、今作もそんな作品のひとつ。個人的に「DEEP2」との相性が悪かったので悩んだのですが、安いからというメーカーの戦略に乗る形で購入。

 システムはマルチストーリー・マルチエンディングADV+SLGとパッケージにはあります。「+SLG」の文字が小さく印字されているのは控えめな主張ということなんでしょうか。
 基本はアドベンチャーで進行、途中に+SLGたらしめている先生との個人授業が幾度となく挿入されます。これで主人公のパラメータが変化。少ない選択メニューのコマンド式、わずかなリアクション。言わばRPGにおける戦闘に相当するかと。それくらい単調で面白味に欠けます。経験値だけは確かに稼ぐことが出来ますが。
 それでも先生のレッスンの持つ意味は重要。序盤の選択肢の組み合わせとパラメータによってイベントとエンディングが変化します。ただ、こういった系統にありがちなように原因(フラグ条件)と結果(イベント、エンディング)の因果関係がわかりにくいのが難点。一度見れたイベントをそれ以降のプレイで見ることができない、ということもありました。全てのエンディングを迎えても未見のイベントが残っている可能性はかなり高いです。
 足回りはちょっと変わったセレン仕様。メッセージスキップは最初から既読未読を判別したSKIP2と問答無用で全てを飛ばすSKIP1の二種類が用意されています。スピードは実用に充分な速さですが、イベント後に「確認」のクリックが必要なのでやや微妙。個人的にはこの辺りコンフィグで設定できると良かったかと。少なくとも条件を把握した上でのプレイ(2回目とか)には不要ですからね。
 メッセージの巻き戻しはほとんどイベント単位の管理になっていて使い勝手はもうひとつ。また使用した際にBACKした分をNEXTで戻さなければならないのは明らかに不便。右クリックで一気に終了として欲しいです。ホイールマウスに対応しているのがせめてもの救いですが。余談ですが、ホイールの方向が通常のゲームとは逆になってます。手前が戻しで奥が送り。
 画面切り換えはゲームを立ち上げ直す必要があり、ちょっと面倒。
 「DEEP2」でもそうでしたが、今回もCG鑑賞がありません。シーン回想で代用しろということなんでしょうか、これは。個人的にはシーン回想がなくとも、CG鑑賞が欲しいです。むろん両方あるのが普通だと思いますが。

 シナリオは企画意図をかなり忠実に体現しているかと。パッケージの売り文句に騙されたっ、ということにはならないかと思います。
 主人公の心情表現が丁寧でわかりやすく、プレイしていて違和感を覚えるということはほとんどありませんでした。
 ヒロインの心理状態の変遷が非常に秀逸。完全な他人ではなく、義理とはいえ家族である主人公との関係がうまく描かれています。服従を強いられるようになってもどこか甘えがあるような、どんなことをされても他人ほどに相手を憎むことが出来ないような、そんな関係です。兄嫁、美和の「ああもうっ」というセリフにそれが凝縮されています。
 設定が設定ですから、シチュエーションは背徳感を煽るものが大半を占めています。とはいっても背筋がぞくぞくするというよりは、わがままを聞いてもらうといった感じですが。
 エンディングによっては純愛シナリオもあるのですが、正直これは何か変です。パラメータに準拠しているだけで、そこまでの行動は特に変わらないため、不自然さが際立ってます。特にメインである兄嫁以外のヒロインへと走るシナリオはその傾向が顕著。
 略奪愛の副産物として実兄の悔しがる様があります。これは売りのひとつでもあるようなのですが、残念ながらもう一歩。エンディングは多いのに反応がほぼひとつしかないのはかなりもったいないと思います。

 CGは派手さはなく、落ち着いたカラーで描かれています。題材に非常にマッチした原画家を起用していると感じました。
 一部に使い回しもありますが、シチュエーションに合わせたイベントCGが用意されていて二重丸。
 立ちCGはポーズ変化はなし。表情もそれほど大きくは変わりません。ちょっと残念。イベントCGの使い回しといい、このあたり低価格の影響が出ているでしょうか。

 音楽は特定の曲に妙に存在感があります。特にBGM06(曲名なし)はいわゆる背徳感あふれるシーンで使われているのですが、いかにもなイメージの旋律なので個人的には笑いを誘われました。
 他にもこんな設定のゲームしてはエンディングがやたらと和やかな曲であったりと不思議な作曲センスが窺えます。
 ボイス。このゲームには神が宿っています。というくらいに兄嫁、美和役の声優である北都南さんの演技は卓越しています。キャラクターイメージとも充分に合致。彼女一人でこのゲームの価値を何倍にも高めています。
 反面、学業と性方向両面の師である先生役の声優、南雲涼さんはクセが強すぎて好き嫌いがかなり分かれそう。個人的には画竜点睛を欠いたという印象を持ちました。
 唯一の男性声優である実兄は演技的には問題なし。悔しがる様子はかろうじて及第点というところ。声質には問題なく、もっと激しく悔しがって欲しかったです。それが間接的にヒロインの価値を高めますし。

 まとめ。短所もあるが、それ以上に長所が光る作品。8800円ならもっと不満もあったでしょうが、6800円なら合格レベルかと。
 お気に入り:神楽美和(他にいないでしょ、やっぱり)
 評点:65

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、神楽美和
 流されやすい性格が効果的にシナリオに作用してます。不倫の件はちょっと魅力減な感じではありますが。
 自分から主人公の部屋に来るようになるイベントがなんとも印象に残りました。ヒロインの方からも主人公が意図しない行動を起こしてくれるのはイベントのアクセントにもなっていい感じ。

2、常盤美沙
 あの年になって小学生の、それも男子が女子にするような愛情表現をしておいてどうして気付かないんだ、もないもんです。なんとなくエスカレート、にしてはやることが酷すぎます。その後の変わりよう(本人曰く、元に戻っただけとはいえ)も個人的にはなんだかなぁ、という感じ。無条件に従われるよりも美和のように一応、反発してみせる方が楽しめます。

3、永山梓
 なんつーてもあのボイスが痛いです。それだけが全てと言っても過言ではないくらい。
 結果的にはイベントが少なくて良かったんでしょうが、ゲームとしてはどうなのか、という気もします。あれなら恋愛エンドを用意することもないかと思います。必然性は全く感じられませんしね。