アオイトリ(パープルソフトウェア)

 全寮制の女子校、霧原学園。ミッション系であるがゆえに教会も併設されているそこにはいないはずの男子生徒、白鳥律(変更不可)がいた。学園の前に捨てられていた彼は特例として在籍している、それも神父としての資格も持って。ところが、彼の特異性は果てがない。触れただけで人の抱く悪感情を取り除いて、幸福にしてしまうという特別な力を持っていた。しかも、それは接触の度合いが高くなるほど格別の効果があるという。いつしか律は天使様と呼ばれるようになり、悩める彼女たちに抱かれるようになっていた。
 そんな彼の日常に入り込んできたのがメアリー・ハーカーという少女。100年の月日を旅した吸血鬼であった。そして、現れる電話の悪魔。些細な願いが交錯し合う時、何が起こるのか。

 パープルソフトウェアの新作はシナリオとエロの両立を目指したアドベンチャー。
 購入動機は前作がそれなりに良かったので。あとは原画(CG)でしょうか。
 予約キャンペーン特典は描き下ろし複製サイン色紙。同梱特典はアオイトリサウンドトラック。

 修正ファイルが公開されています。それほど重大な内容ではないのであてずともクリアは可能です。

 ジャンルはパッケージによると「祈りが紡ぐ、命の物語」(AVG)とあります。しかしながら、選択肢はひとつしかないので事実上、ゲームとは言えない読み物になっています。
 足回りは物足りないまま。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、演出が簡略化されないのでトータルではそれほど早くありません。ただし、使う機会が少ない上に次の選択肢まで飛ぶ機能があるのであまり気になりません。バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、ほとんど戻ることができません。よってシーンジャンプ機能もそれほど意味がありません。ロード直後でも使用できます。

 シナリオはほとんど一本道と言っても過言ではありません。唯一の選択肢で3つに分岐はしますが、全て読まないことには最終シナリオのロックが解除されないため、ひたすら読み進めるのみ、だからです。
 あらすじにもあるように本作はちょっと変わった世界観が特徴なので、いささか物語に入りにくいようなところがあります。なにせ、精神的にも肉体的にもまともというか、普通の人間はほとんど登場しないので。それを踏まえた上での日常はそれなりに賑やかでそこそこ盛り上がります。笑いの方もある程度は提供してくれます。
 惹かれ合う過程はちょっと厳しいシナリオが多く、恋仲になるのが大前提すぎるのか単純な動機が見えないものがほとんどです。よくわからないが好かれている、という感じでしょうか。
 全体的に説明不足を感じるシーンにしばしば遭遇します。特に最重要ヒロインの生い立ちに関する部分はごっそり抜け落ちているのではないか、というくらいに色々と書かれていません。
 最初の3本のシナリオがいわば前座扱いになってしまっているのがヒロイン単位で考えると消化不良の感がありました。逆に言えばそれだけ最終シナリオは有無を言わせないくらいの勢いがあったのですが……。ヒロインに対する好悪によってかなりイメージが変わってしまいそうです。
 Hシーンは総数に対して本編に入っている数は少なく半分程度。残りは全て各シナリオのクリア後に鑑賞モードから本編外として入ることになります。中には前後の状況が不明なものも含まれていてわりと雑多な印象を受けます。ほとんど登場機会のないサブキャラクターにシーンが用意されていたり。エロ度はけして低くはないのですが、前振りや序盤の内容から考えると後に行くほどパワーダウンしているように感じます。

 CGは今回もエロ重視の構成です。その出来は申し分ないながらも前作と比較して使い回しがまた随分と増えました。同じ構図の服装や差分違いが4回とか普通に出てくるのはさすがにどうかと思ってしまいます。光るところがあったアイデアも今回はあまり閃きが感じられません。むしろ中には状況と微妙に合致していないCGも散見されて残念でした。
 美しい背景は主人公の鳥籠の世界をしっかりと表現しています。動きがほとんどなくなってしまいましたが、冬の静かな物語には却って良かったのかもしれません。

 音楽は今回も非常に力が入っているのが窺えます。ヒロインのテーマはやや印象が弱いものの、シリアスなシーンのために用意された曲の数々は実に効果的で聞き応えがあります。シナリオを十分すぎるほど後押ししてくれています。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技は個性派声優が揃っていることもあって安心して聞いていられます。中でも海野あかり役の秋野花さんは大とりを務めるに相応しいだけのもの生み出しています。

 まとめ。長所と短所が絶妙に混在する作品。正直、最終シナリオがなかったらと思うと恐ろしいくらいです。基本的なストーリーがずっと同じなのもマンネリですし、途中で挫折してしまう可能性もそれなりにあると思います。
 お気に入り:海野あかり
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、メアリー・ハーカー
 彼女に限っては体験版が一番の盛り上がりだったように思います。吸血衝動の解決もあかりシナリオを除けば無視してしまっているあたりも頂けない感じです。本当なら悪魔に騙されたはずが発症しないことでそうではないことになっていることも含めて。
 恋をするあたりもなかなか難しいはずがいとも簡単に恋してしまうあたり……。

2、黒崎小夜
 とてもありがちな物語とせっかくの双子のアドバンテージをなくしてしまうのが残念。最初が一番エロいってかなりもったいない話ですわ。

3、赤錆理沙
 ライターの違いが色々な意味で露骨すぎて萎えるレベル。理沙自身もちょっと、いえかなりアレな人なのでどうにもフォローできません。病気にならなければ主人公のことなんて思い出しもしなかったのでは。妹もちょっと人間とは思えない感が満載です。

4、海野あかり
 意表をつく形で物語を盛り上げてくれました。内心の描写も良かったです。どう考えてもそんな策士には見えなかっただけに。しかし、設定には不備なのか、よくわからないところがあります。お父さんのことを始めとした、あかりのすさまじい動機の原点の部分。たまに触れられるものの詳細は最後まで不明のまま。どこにそれほどまでの貫徹する意志の力が。もうちょっと説明があった方が良かった気がします。主人公に恋するあたりもよくわからないですしね。
 友達のゆきちゃんはいまひとつ存在意義がなかったような。
 エロには大いなる不満があるのがあかり。水泳部も上手に使っているとはとても言えませんし(あんな意味深なイベントCGを用意しておいて)、普段着の肩むき出しのセーター姿をHシーンに活用しないのも意味不明なくらいです。