朝の来ない夜に抱かれて(F&C)

 いつからそれは始まっていたのか。見えない運命に捕らわれた八雲辰人(変更不可)は二年ほど前からその身に異界の神を宿していた。望んだことではない。だが、大事な幼なじみを朝の来ない夜に引き込まないためには他に方法はなかったのだ。夜の果てに辰人が見るものは。

 F&Cにしては珍しく硬派な作風を持つ本タイトル。その雰囲気に惹かれて購入を決意。
 初回特典はサウンドトラックCD。と言っても純粋なCDではなく、ゲームにも使用するため1トラックは再生しないでください、という例のアレ。

 システムは「いつもの」で通じそうなほどアドベンチャー。ただ、あんまり選択肢に意味はありません。色々と脇道はあれどもたどり着く場所は同じだからです。
 エンディングはラストの選択肢で分かれる2つのみとXP時代とは思えぬシンプル構造。そのせいか、「シナリオジャンプ」という機能を搭載しています。これは前述の脇道をイベント単位で見ることができるというもの。未通過ルートも見ることが可能です(ただし、1回クリアしないとなりません)。
 要は1回クリアしたら、これで穴あきCGをさくさく埋めなさいな、というスタッフからのメッセージなのでしょう。ちなみにこのモードは本編にリンクしていないのでメッセージ履歴はそれぞれ別に管理されています。
 エキストラモードにおまけシナリオがありますが、正直これは蛇足かと。笑いに特化しているわりには本編の方が面白いですし、外伝ゆえのはじけっぷりも弱いように思います。
 足回りはF&Cにしてはもう一歩。メッセージスキップのスピードは普通くらい。ただ日付表示や場面転換時にしばらく止まるのが難点。またコンフィグでカスタマイズしないとムービー等も飛ばしてくれません。とは言っても繰り返しプレイするゲームではないのであまり問題ではないかと。
 メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。戻れる量はそれほど多くはありません。ボイスの再生も可能ですが、メッセージを表示させてから右クリックというのは少し分かりにくかったです。マニュアルを見ずともわかるシステムを希望したいところです。

 シナリオはやや冗長だと思います。というのも今作は主人公を含めた3人のキャラによる視点変更を繰り返すことでシナリオ描写をしていくのですが、モノローグも喋りまくるためちっとも話が進みません。物語進行の手順をほとんど省略することなく描写していることもその一因かと。実際、プロット上で俯瞰的に見ると驚くほど起伏の少ない展開なんですよね(というか、起こること自体がはっきりと少ない)。
 物語は全5章で上でも書いた通りほぼ1本道。雰囲気的には現代を舞台にした和洋折衷の異能力バトルというところでしょうか。
 各章開始と終了時にオープニングとエンディングが毎回挿入されます。個人的にはOKですが、うざったいという向きもあることでしょう。出来ればアニメと同じくサイズを1分程度にして欲しかったです。
 主人公が異界の神を宿していることでヒーローものの側面があるのですが、それらしいシステムがなにもないこと、主人公が無敵状態にあること、正体を見られても記憶操作可能なこと、などの理由によってその醍醐味は失われています。
 テキストは問題なく日常会話もそれなりに面白いのですが、どうも世界が狭く感じられます。キャラクターの少なさがそれを如実に語っています。もうちょっと一見、不必要に見えるイベントや会話があった方が良かったのではないかと。
 エンディングのあるヒロインが一人というのはやはり寂しいように感じます。せめて主人公やメインヒロインと同じく重要なポジションを担うもう一人のエンディングくらいあっても良かったのではないでしょうか。「With You」ほどではないにしても、少しもったいないというか、無駄に多いように見えるというか。
 おとぎ話などになぞらえることで事態が収拾する、というのは面白いアイデアだと思いますが、具体的にどうなればいいのか、というのがどうもうまく伝わっていないように感じました。それが事前にはっきりわからないとヒロインが悲壮な覚悟を持って事態に望んでいても、その悲劇や葛藤に気づけないので効果が薄いと思います。これに関しては結果が出てから気付くのでは遅いのではないでしょうか。
 終盤の調教系Hシーンは必要なのか、激しく疑問。特にまともなHシーンがないキャラにこんなものがあっても、どう反応したらいいやら、という感じです。FC03としてはこういうのを入れずにはいられないんでしょうか。
 
 CGは暗めの塗りをしているものがタイトルにも合致していて良い味を出してます。表情がやや安定しないのが気になるところでしょうか。
 立ちCGは表情こそ多彩に変化しますが、ポーズはほとんど一緒なのが不満。
 ムービーを混ぜた導入部の演出はなかなか格好良いのですが、それが物語的な面白さにちっとも貢献していないのが残念。ああいった演出はロボットものとかで使用した方がより期待感も高まると思います。

 音楽はシーンによって大きく差をつけようという意図がしっかりと感じられて好印象。日常の曲も従来のゲームとは少し毛色が変わっていてよろしいのではないかと。
 ボイスは男性陣も含めて高レベルで安定。ただモノローグは特別な箇所以外は喋らなくてもいいかと思います。その方がテンポも良くなりますし。
 1箇所とはいえ、Hシーンで主人公ボイスはいらないんじゃないかと。そんな甘い声でささやかれても、どうしろというのですか。

 まとめ。力の入れどころを微妙に間違った作品。無駄なところは驚くほど無駄である一方で、必要なところが呆れるほど足りない、という感じを受けました。
 設定、雰囲気、音楽、CGとゲームを構成する各要素は水準以上だと思うのですが……。
 お気に入り:吾妻珠姫
 評点:68

 以下はキャラ別感想。それなりにネタバレ注意。







1、草馬美空
 芸風が力づくのツッコミ一辺倒というのはF&Cの強気ヒロインの伝統なんですかね。ちとパワー不足の感は否めません。
 普通なら浮気はしにくい設定のはずなのに、ゲームが進むほど愛着が薄れていくんですよねぇ。
 剣道部員という設定がほとんど無意味というのも残念。てっきり共に戦うとばかり(あのパッケージイラストじゃ、そう思っても無理ないかと)。
 それにしても2回も寸止めされて少しも不機嫌にならない彼女はちょっとすごいと思います。

2、八雲辰人
 いいキャラなんですけど、やっぱり記憶を自在に操作可能というのがイカンと思います。バレたらどうしようか、という感情と無縁なので面白さも半減。

3、吾妻珠姫
 扱いが最も納得がいかないキャラ。3つに分かたれた存在の1人なんだから3人エンド、あるいは珠姫エンドがあってもいいと思うんですけどねぇ。
 Hシーンが夢だけっつーのも何とかして欲しいところ。神龍にギャルのパンティーもらうより虚しいですよ。あの願いは。
 4章の逢瀬は雰囲気も出ていていい感じなんですけど、珠姫が死ねば辰人が助かる、という事実を前もってプレイヤー側に知らせることは出来なかったんでしょうか。それで辰人は気付かないという展開にすれば結構、感動できたと思うんですけどねぇ。あそこは何かをしでかしそう、だけでは弱いと思うんですよね。もったいない限りです。
 やっぱり美空ルートと珠姫ルートという感じで大きく二つの流れにした方が主人公も葛藤して良かったと思います。せっかく3は割り切れない数字なんですから。

4、華蔵都子
 メガネチビ。微塵も興味なし。

5、パトリシア・ストローフィールド
 全キャラ中、一二を争うほど存在理由が薄いと思いマス。乗り換える訳ではないのが余計にいらない度を増幅しているのではないかと。デザイン的にもかなり苦しい。脱いでもなんか嬉しくないです、あのスーツ。

6、石船ゆかり
 ハイテンションなところは大変よろしいのですが、卑屈さがいきなり恋心に、というのはあまりにも納得できません。無理あり過ぎ。