アトリの空と真鍮の月(TOPCAT)

 6年ぶりに九重輩人(変更不可)は芦日村に帰ってきた。そこは古いしきたりに今も縛られる現代とは思えぬ地。田舎ならではの優しげな彼女でも作っていちゃいちゃ学園ライフを送ろうと思っていた輩人は想像もしなかった世界に引き込まれていく。

 2001年を境に休止していたTOPCATの復活第1弾は名作「果てしなく青い、この空の下で…。」の6年後の世界を描いた続編。
 購入動機はブランド買いであり、クリエーター買い。一月前には前作の完全版が発売されていたこともあって原画家の変更が最大のネックととらえていました。
 初回特典は特になし。予約キャンペーン特典はスペシャルCD。

 修正ファイルが出ています。強制終了を含む内容なので必ずダウンロードしましょう。セーブデータも使えなくなるので要注意。

 システムは季節ごとにシナリオが分かれていること以外はごく普通のアドベンチャーです。2周目以降は春夏秋冬のいずれの季節からも始められますが、各季節の内容がフラグによって変化するため見た目ほどの自由度はありません。前作にあった「春」の前の「始業式」はなくなりました。
 足回りは平均クラスですが、完全版に比べると見劣りしてしまいます。メッセージスキップは既読未読を一応は判別してくれますが、稀に既読文にしか見えないところで作動せず、反対に未読文の頭をスキップしてしまうことがありました。速度は十分に早いですが、なぜか選択肢単位のスキップがなくなっています。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。かなり戻ることができますがロード直後はそれほど戻ることはできません。また、バックログ開始時は最新のテキストがそのままログ画面に表示されるため、二度クリックしなくてはひとつ前を見ることができず不便です。
 左クリック押しっぱなしの間、未読スキップが作動します。個人的にはその気もないのに作動することが多くて厄介でした。

 シナリオは基本的に一本道です。ヒロインによってルートが変化しますが、これは主人公の立ち位置が異なる(誰と一緒にいるかという視点の違い)だけで物語そのものはCGの差分程度しか変わりません。その証拠とばかりに2周目以降はクライマックスの「冬」の季節になっても随所で既読スキップが作動します。およそ6周する作品なので途中から食傷ぎみになってくるのは避けられません。プレイ時間に対して各ルートでしか明かされない真実や独自の展開というものが少ないことがそうしたイメージを助長させています。
 全体の構成が甘く、完成度もこれに準じていて細部に目が行き届いていません。おかげで主人公が知らないはずのことを知っていたり、その逆があったりというような矛盾が各所で起きています。加えて誤字脱字もなかなかに多いです。修正ファイルによってだいぶましになりましたが。
 前作を踏襲しているかのような展開が各所に散見されます。ただし、闇雲になぞっている感が強いのでサービスと感じるよりも違和感として感じやすいです。必然性が薄く、物語に貢献できていないオマージュに見えます。
 日常会話に代表される雰囲気作りは可もなく不可もなくというところ。ヒロインがやや属性よりの特徴的なデザインになったこともあって、自然さよりもわざとらしさの方が目立っています。
 惹かれあう過程は存在しません。本作の主人公はひたすらに受け身なので好きと言われたから付き合い、Hがしたいと言われたからするだけです。自分で決めたことでもいつでも愚痴を言わずにはいられない性格です。
 Hシーンは無理矢理なものが多く、エロさもあまり感じられません。設定や状況を巧みに駆使した前作とは残念ながら雲泥の差があります。
 個人的に気になったのは前作ヒロインの扱い。続編という位置づけで前作ヒロインが本作の主人公に攻略される、というのはどうなんでしょうか(しかも、ここでもなんだか矛盾している)。

 CGは彩色の好みによって印象が大きく変わってきそうです。イベントCGの自然さに比べて背景は少し色使いに主張が強すぎるように感じました。人物はやや安定感を欠き、ヒロインたちは目を閉じてしまうと全員同じ顔に見えてしまうのが困りものです。
 終盤は素材不足なのか、背景が点滅したり、暗くなったりするだけという演出の弱さを感じるシーンが多かったです。
 Hシーンは純粋にエロさ不足が目立ちます。引いた構図が多いことも一因です。

 音楽は前作同様に使い方にはっきりとメリハリをつけています。大胆に無音や環境音だけのシーンも多いです。ただし、特徴的な音使いという意味では一歩、譲るように感じました。ここぞとばかりに使う曲の数々は勢いがあり効果のほどを実感させてくれます。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は特に問題ありません。

 まとめ。なぜこうなったのか不思議な作品。やはり、たかみち氏の不在は大きくポッカリと穴が開いたかのよう。穴を埋めるはずの各要素はいずれもパワーダウンが顕著で、前作のファンであればあるほどツライ出来になっています。いっそ全く知らない方が評価は高くなりそうです。プレイ自体には問題ないですし。
 お気に入り:特になし
 評点:60

 キャラ別感想を書こうと思うほどの気力が沸き上がってきません。