AYAKASHI H(クロスネット)

 「彼」との戦いから一ヶ月。久坂悠(変更不可)の周囲はすっかり静けさを取り戻していた。今日は戦友であり恋人でもある夜明エイムの退院の日。これで日常を取り戻せる。それは甘い目算でしかなかった。
 嵐は悠の気付かぬうちに目前に迫っていたのだ。嵐の名は白神菊理。アヤカシ使いの天敵たる皇霊会名門の当主である-。

 昨年発売された伝奇アドベンチャー「AYAKASHI」のファンディスク。シリアス色を減らし、エロとコメディ色を高めたお祭り的内容に仕上がってます。
 購入動機は本編とは異なる企画意図と、良質なファンディスクのひとつの形を見せてくれるのではないかと期待して。
 初回特典は特になし。店舗予約特典はミニサントラ。

 ジャンルは本編同様にアドベンチャー。
 足回りは大きな変化なし。メッセージスキップは既読未読を判別してほどほどのスピード。ただ、派手な演出が減ったのとボリュームの関係から体感的には速くなったと感じるかも知れません。メッセージウインドウに一切の機能が付加されていないのも相変わらず。スキップに限らず全ての機能を使うために必ず右クリックが必要なのは不便です。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。戻れる量が少ないだけでなく、シーン切り替えでリセットされてしまうことも、ままあるのであまり使い勝手が良くありません。
 改悪ポイントとして起動ディスクが必要になりました。週に1回だそうですが、その配慮に感謝する人はほとんどいないと思います。まして本編がディスクレスであり、ファンディスクがエロ増量ならなおのことかと。

 シナリオは全7話で一本道。ルート分岐はありません。内訳は5+2話で物語的には5話で一区切り。5話までの間に菊理のスタンプを9つ集めないと6話以降に進むことはできません。各話のオープニング及びエンディング演出はなくなりました。全体的にシナリオはテンポアップが図られています。さくさくと進みますが代わりにボリュームの少なさが目立ちやすいかと。
 設定は夜明エイムシナリオの後日談です。エイム以外のヒロインの重要イベントは全く起きていません。これによって各所にけして小さくはない影響が出ています。エイム以外のヒロインのファンは悲しい思いをする可能性も。
 コンセプト通り本編とはシリアスとギャグの配分が逆転することでノリは大きく変化しました。コメディ要素はSDカットによる力技が主であり、テキストによるそれは控えめです。大きな笑いはないかもしれませんが、楽しんで進められるような内容ではないかと。
 シリアス要素は本当に少なめ。思い出した頃に話が進むという程度。しかし、漫然とHシーンをこなすようなプレイスタイルにならないよう、飽きさせないための牽引力としては十分です。
 戦闘描写は機会こそ大幅に減ったものの、シーンそのものは本編より工夫が感じられるようになりました。殺陣や見せ方といったあたりにも努力の後が見られ好印象。ただ、エイムシナリオ後日談であるせいか、パムや織江はほとんど活躍しません。
 Hシーンでもエイムシナリオ後日談であることが肝に。独断と偏見でHシーンをカウントするとエイム:5、陽愛:4、パム:2、織江:2、菊理:2、八重:1と明らかに偏りが感じられます。ルートはひとつしかないのですからもう少し揃えても良かったのではないでしょうか。
 状況的にはハーレムですが、シーンとしてのハーレムHはありません。
 テンポアップによる影響はここにも出ていてHシーンはどれもコンパクトにまとまっています。テキスト的なエロさはほどほどです。Hシーンへの導入はノリが変わったこともあって、必然性が薄く唐突なケースが多いです。ただ、本編後の物語でタイトルが「H」ですからこれでいいのかもしれません。

 CGは相変わらず素材を豪勢に使っています。イベントCGに応じた新規の立ちCGもしっかりと用意されていて力の入れ具合が窺えます。
 コメディ要素を支えるSDカットも必見の出来。独特の太いラインが印象深いです。通常イベントCGと同じくCG鑑賞モードに登録されるので後から幾らでも堪能可能。
 Hシーンは本編以上のエロ度を追求しています。後日談だから、コメディ重視だからこそ可能なHシーンが数多く用意されているかと。

 音楽は基本的に本編の曲にアレンジと新曲を加えて構成しています。新曲は良く言えば違和感がなく、悪く言えば新設定による異物感がありません。非常に難しいところなのでこのあたりはもう好みかと。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技的に全く問題はなく、本編と演技が違う、などということもありませんでした。新キャラの演技も旧キャラに負けていません。

 まとめ。本編とは対照的なファンディスク。本編のシリアスがあってのこととはいえ、明らかにこちらの方が楽しいです。模範的なファンディスクの方向性のひとつが打ち出せたのではないでしょうか。
 ただ、コストパフォーマンスが良いとは言えず税込み8190円はいかにも高い。続編を意識させるくらいの値段ならもうちょっと中身の上積みが欲しいです。ヒロイン毎の格差も気になります。
 お気に入り:白神菊理、咲守八重
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、夜明エイム
 一応はエイムシナリオの後日談ということで優遇されているようです。ただ、それはHシーンの回数くらいのもので、わざわざエイムシナリオの続きにしただけの恩恵が感じられませんでした。正直に言えばヒロイン間を少しでも均等にするつもりなら、他のヒロインシナリオの後日談にした方が効果的だったように思います。あまり後に引きずるだけのネタがないんですよねぇ。エイムシナリオの場合。まぁ、一番いいのはパラレルワールド的に全てのフラグが都合よく立っている状態でしょうけど。
 相変わらずコンプレックスを抱くほどの乳に見えません。どう見ても巨乳の部類に入るでしょう。本編の方ではお気に入りキャラに挙げましたがこの「H」ではねぇ。

2、薬師寺陽愛
 当然のようにヤタガラスを使うことはできずにただの凡人になってます。頭の緩さもパワーアップしたような気がしないでもないです。まぁ、色々な意味で陽愛シナリオの続きにする訳にはいきませんね。彼も生きていることになりますし。ただ、その場合に「やって来てみたら大事な従姉妹がアヤカシ使いになっていた」、ということで菊理の葛藤が見られて面白かったかも。

3、パム・ウェルヌ・アサクラ
 本人のシナリオ要素が絡まないといてもいなくても構わないキャラになってますなー。むしろ、無軌道なだけなので邪魔にされかねないですよ。何か憐れ。Hシーンも一番テキトーな感じだしなぁ。テングもサッパリ活躍しないし。

4、夏原織江
 今回最も割りを食っている感のあるヒロイン。見た目の段階でネコミミに尻尾と差別が図られており、ヒロインというよりただのペット。自分のシナリオを通過しているか、それとも他のヒロインシナリオを通過しているかで最も落差があります。
 あの水族館に行って何も感じ入るところがないというのは(仕方ないにしても)悲しすぎますよ。アンズも出ないしねぇ。水着のねーちゃんは出るというのに。まぁ、ハッキリ言えば完全に別のキャラなんだよねぇ。正体とかは一切変わんないってのにさ。

5、白神菊理
 まともなシナリオの流れがある、という一点を持って旧ヒロイン陣を完全に食っています。能力的にも完全に上だしねぇ。対エイム戦にしても菊理は本気で負けたとは思っていないだろうし。
 旧ヒロインたちがどんどん脱いでいく中で終盤までお預けにあるため価値を感じやすいです。ただ、その分だけ気合の入っているキャラのわりにHシーン数は少ないという微妙な面も。
 平馬の主張するツンデレ理論は菊理にも当てはまる。なぜ、これに考えが及ばないのかねぇ。普通に考えれば先行してフラグを立てている方が有利なのは当然だろうに。

6、咲守八重
 明らかに役割ありきで生まれたキャラでしょうね。まともな見せ場が1話にしかないのが確たる証拠。Hシーンだって無理矢理っぽいのがひとつしかないですからねぇ。あの能力はなんなのか、とかそれなりに疑問もあるんですけど。あの裸も同然の格好とかもね。
 ヒロインになりきれないのももったいないところ。Hシーンがあったってのに主人公争奪戦とは無関係というあたり、キャラ的に寂しすぎます。一人だけ無条件では主人公に惹かれないとか、基本的なキャラ造型とか、良いものは持っているんですけどねぇ。