ChuShingura46+1-忠臣蔵46+1-(inre)

 深海直刃(変更不可)は歴史的レベルで運が悪いことが証明された。縁起よくいきたいはずの元旦におみくじで大大凶を引いてしまったのだ。大大凶が出るのは年に1回のこと。それが元旦となると元禄14年以来の出来事だという。この日は日蝕で他の参拝客同様にその様子を見ていた直刃はなぜか意識を失ってしまう。目覚めた時、そこは元禄の世であった。

 新ブランドinreのデビュー作は同人時代のタイトルを商業作品としてバージョンアップしたもの。ただでさえ大きなボリュームがさらに厚みを増しました。
 購入動機は5月の同日発売タイトルに一抹の不安を感じて、補強を考えて探したら目に留まったため。
 予約キャンペーン特典はChuShingura46+1歌姫乃刃(ボーカル曲マキシシングル)。初回特典はChuShingura46+1歌姫乃宴。

 ジャンルは燃え萌えアドベンチャー、らしいです。
 足回りはデビュー作らしい仕様。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です。ただ、選択肢がほぼない上にシナリオが長いため2周目以降はシーンスキップ的な何かがあると良かったように思います。どういう配慮なのか初起動時から最初の「假名手本忠臣蔵編」をスキップすることができます。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることはできません。読み物重視の作品でこれはちょっと頼りないものがあります。加えてロード直後には使用できません。これではミスクリック以外にはほとんど使い道がないでしょう。

 シナリオは全5本からなります。順番は選ぶことはできずエンディングを迎えるごとに1本ずつ増えていきます。全編通して選択肢がひとつしかありません。事実上ゲームとは言えず、完全なノベルと言えるでしょう。ボリュームは相当なもので読みごたえ十分です。
 内容は忠臣蔵に詳しくない人でも物語に入っていきやすいようにとても親切にわかりやすく書かれています。ちょっとしたことから江戸時代元禄の世界観を伝える工夫に余念がありません。読んでいて知識的な部分の描写に困ることはほとんどありませんでした。とにかくフォローが良くできているという印象です。
 ただ、主人公は現代の人間なので、その感覚でしばしば喋ったりして猛烈な違和感を生むこともあります。エロゲーの常識を開陳したり、現代的なスラングを使ったり、など。不慣れな設定が江戸時代への案内人の役を果たす代わりに、現代感覚が違和感のもとになったりするのですから一長一短ですね。時にはそんな主人公の姿勢が物語に深刻な影響を与えることもあります。
 プレイ前には忠臣蔵に興味が薄かった人でもプレイ後には意外なほど詳しい知識が残るかと思います。
 5本のシナリオは当然、全て忠臣蔵のことを書いています。それでも飽きさせないように様々な配慮が施されています。周回ごとに筋書きを変える、視点や舞台を変える、有名なエピソード入れる、登場人物を変える&増やしていく、などなど。特に最後のは一度に情報を出し過ぎることなく、また伏線にもなるようにと複数の意味を併せ持って高い効果となっています。これらは継続して読み続けるための大きなモチベーションになります。
 江戸時代的な日常の掛け合いはとても賑やか。人数の多さや時代背景に則した小ネタもあって分量の割りにテンポが損なわれていません。ほどほどに笑わせてくれます。キャラクター数は繰り返すくらいとても多いですが、みなしっかりとキャラが立っています。テキストでの肉付けも十分で魅力の底上げにしっかりと貢献しています。
 戦闘シーンは討ち入りに代表されるようなシーン全体で勝負するスタイルを採っているので、個々の戦闘シーンに熱く燃えたい、というような人にはあまり向いていません。スピーディーさが重視されていて、このあたりのボリュームはむしろ少なめなくらいです。
 史実が元にあるせいか惹かれ合う過程はかなり薄め。そこまでの足跡からどうやらそうらしい、という程度。正直、感情移入ならヒロイン以外にも相応しいような対象が幾人かいます。
 Hシーンは本作の弱点にも等しい要素。お世辞にもエロいHシーンとは言えません。尺も短く、数も少なく、配置場所もそれほど適当とも思えないシーンもありました。

 CGは可愛らしさとシリアスさの融合が素晴らしいです。イベントCGはヒロインらしく可愛いところはしっかりと可愛らしく、シリアスなところは主人公をあっさり押し退けて熱く決める、そんな様子がきっちりと描けています。棲み分けのバランスがちょうどいいです。立ちCGはテキスト量に負けない多彩な表情を見せてくれます。ここにはエロさも盛り込まれていて見た目にも楽しいです。また、動きもかなり頑張っていて戦闘シーンの盛り上げに一役買っています。
 Hシーンはやはり、ちょっと弱いです。主人公がなぜかとても色が黒いです。同じ人間とはとても思えないくらいに。
 ほぼ周回ごとにオープニングデモが用意されています。これから新しい章が始まることを期待感を持って迎えさせてくれる、そんな仕上がりです。

 音楽は作品が作品だけに時代劇を意識させるような曲が多めに用意されています。繰り返し聞いても一向に飽きる気配のない曲作りには高いセンスを感じます。曲名がないのが信じがたいくらいです。単体でも十分に聞ける曲に仕上がっています。使われ方のせいもあってボーカル曲がとても記憶に残ります。ストレートな歌詞にも好感が持てます。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。数多くの気迫溢れる演技とセリフに感嘆する機会が多かったです。個人的に見直した声優が何人もいました。中でも事実上の一人二役だった大石蔵之助役の有栖川みやびさんの演技と山吉新八郎役の小倉結衣さんのインパクトある演技は非常に存在感がありました。

 まとめ。デビュー作らしく生きの良さを感じる作品。克服すべき課題はありますが、それよりも長所が目立っている格好です。これからどこまで登ってくれるのか楽しみです。少し間を置いてどんな次回作を作ってくれるのか期待して待ちたくなりました。
 お気に入り:大石蔵之助、萱野三平、不破数右衛門、山吉新八郎、毛利小平太
 評点:85

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。やたら多いです。しかも、これでもいない人はまだまだいます。







1、大石蔵之助
 昼行灯モードとシリアスモードの一人二役状態が素敵。決めるところは美形になってびしっと決めて、抜くところは力一杯、羽目を外すあたり「パタリロ!」を思い出してました。作中でも段違いの奥深い人物でしたなー。ほとんどエスパーの域でしたよ。ライターどんだけご城代好きなんだっていう。結局はこのキャラデザインが作品の成功を半ば決めたような気がします。これだけ魅力があって自由自在に動かせるキャラがいるとフレキシブルに物語を紡げますからね。しかし、だからこそ最終シナリオではなんとか記憶を戻してほしかった。1周目のあれが失われたままなんてもったいなさ過ぎますよ。あくまで悲劇的な別れで終わらせるのならともかくも。

2、堀部安兵衛
 怖さと優しさの同居のバランスとアンバランスがいい感じ。2周目以外では本当に怖いなぁ、と思うことしばしばでした。距離が近くなると色々と見えてくる。わりと本作の共通するポイントかと思いますけど、安兵衛は本当にその表現が効果的でした。実は朝が弱いとか意外にも程がありました。朝稽古とか好きそうなのになぁ。
 ただ、残念なことに恋仲になるイベントがちょっともったいなかったです。せっかく安兵衛の可愛いところが出ていても主人公が絶賛ヘタレ中だったので説得力がまるでなかったです。
 安兵衛シナリオは終盤がギャグのようでした。
 刀を振れない!→お梅と和解した!→これで討ち入りに参加できる!→捕まって最強の敵に!! 
 ってズッコケるところですよ。いや、本当に。

3、大石主税
 上2人と比べてしまうと色々としんどいですね~。いえ、主税が悪いのではなくご城代と安兵衛が強力すぎました。主税は主税で頑張っているんです。でも、主人公がアレなので健気さがまるっとスルーされてしまうんですよ。加えてシナリオも逆風で非常に厳しいものがありました。3周目は事実上ダブルヒロイン制だったのも主税には痛手でした。また、そのライバルがもう強力で強力で。まー、それと個人的には素直になれない主税がいい感じだったので最初からデレデレな姿はとても物足りなく感じました。そんなちょろい姿なんて見たくなかったよ! どのみち一番悪いのは主人公で決まりですけどね。

4、矢頭右衛門七
 右衛門七をヒロインに持ってくる。これがとてつもなく難事業だったのではないでしょうか。4人のヒロイン中、最もいい加減な感じでした。えー、なんかしんないけどいつの間にかそういうことになっとる!? みたいな謎の事後承諾でした。あの応急手当みたいなHシーンが恋人同士のものって納得いかないんですけど。どうでもいいですけど、Hシーンの主人公って不自然すぎるほど体が黒くてまるで死体みたいでした。
 時代の厳しさを感じさせる修行は良かったと思います。実際、これぐらいしないと右衛門七に討ち入りなんて無理ですよ。ましてや短期間でなんて。そういう意味では以前の右衛門七はちっとも武士ではなかったんですよね。自分を優先する訳だから。

5、不破数右衛門
 見た目に反してとっても可愛い不破さん。立ちCGの表情の数々が実に愛らしいです。特に川のような涙を流す表情は白眉。ご城代に全く頭が上がらないあたりも特別感出てて良いです。他のキャラってご城代を軽んじすぎですから。実は繊細で仲間想いなところもポイント高いです。居丈高な態度をとっていても実際は……、という。正直、どんなシナリオにするのかは別にしてもヒロインでも良かったくらいです。

6、間新六
 実はご城代に並ぶくらいのハンター。色々と開発されちゃいます。お風呂は戦場だ! 主人公がメスなら調教完了だったと思います。

7、磯貝十郎左衛門
 いわゆる文官なのに凶悪すぎるナイスボディ。だからどうしてヒロイン以外がそんなにエロいのかと。思わず肩入れしちゃうじゃないですか。

8、片岡源五右衛門
 こちらも磯貝さん同様に素直じゃないところがナイス。喜んでお膳立てするので手柄を用意してください。銭湯で喜んだのは私だけではないはずだ!

9、早水藤左衛門
 やはり、1周目が最も輝いてました。あとは男に不慣れなところくらいでしょうか。なんかイライラしているシーンが多くてどうも。萱野さんとの差を感じてしまいましたね。早駕籠コンビってだけなのですが。

10、武林唯七
 スタート時に比べて実はたいして重要キャラではなかった。ハーフであることもほとんど意味ないしなー。

11、奥田孫太夫
 ヘンタイな人。梅干し覚醒の件もあってちっとも強そうに見えません。

12、志水一学
 2周目はなぜかすげぇ弱い。主人が年明けからおかしくなったと怪しんでいた部分がまるで発展しなくて死ぬほど驚いた。
 甲佐一魅が最初から中に入っていた、で良かったのではないかと思います。その方が心変わりにも納得がいくし、インパクトの面でも良かったと思います。で、4周目で初めてまともに自分で動いた、にすれば良かったのではないでしょうか。でないと諦めるの早すぎる。

13、山吉新八郎
 「わっち」という一人称からしてもう攻めの姿勢を感じます。立ちCGも無敵クラスのエロさですよ。それでいてNotヒロインなのにHシーンがあるという特別感。あのHシーン後のシナリオがあると良かったですね。もちろん主人公は生存で。むしろ、この流れの方が赤穂浪士に敵対するに向いていたんじゃないかと。一魅に洗脳されるよりもずっと納得感があるのではないでしょうか。それが半分以上、流されたものであったとしても。吉良家サイドにまわって歴史を変えようとする、でも良かったと思います。ていうか、上杉陣営ですね。

14、浅野内匠頭
 当然ですけど、いい役ですなー。女性になったことで最も悲劇度が上がったキャラではないでしょうか。まさか、最後に出番があるとは思いませんでした。

15、奥野将監
 地味で損する役割を当たり前のように引き受けてくれるところが将監さんのいいところ。第二陣には色々な意味でびっくりしました。

16、毛利小平太
 小気味いい演技が2周目の清涼剤でした。でも、主人公がアレなばかりに切ない最後を迎えてしまう。泣かせる妹分ですなー。個人的に断然、小平太に一票ですよ。小夜でも右衛門七でもなく。しかし、3周目ラストで豪快に放っておく主人公がどうかと思いました。こういうところも、主人公がアカンところですよね。自分ひとりで成し遂げた気になるあたりとか。

17、山田浅右衛門
 一色ヒカルさんらしいキャラ。ヒロインでないといっそう光り輝くあたりも。遠慮ない方がいい目が出るような気がします。悪役を演じるあたりもね。

18、矢頭小夜
 5周目はちょっとくどかったですね。アピールしすぎかと。それと国境の別れを考えると江戸で小夜と会うイベントは蛇足っぽい感じがします。ゲーム内時間では数ヶ月でもプレイヤーにはすぐの出来事ですからねぇ。イベントCGがあるのが前者ということを考えても印象面で弱いような気がします。

19、橋本お初
 デモを見たときは4周目のヒロインの片割れかと思ってました。それだけに死にざまはショックでしたよ。かなーり前からそうなることが丸分かりだっただけに余計に辛かったです。

20、高田郡兵衛
 押しの強い演技が誰よりもはまっているからこそ脱盟は意外でした。そして、3周目の復活に燃えました。さらに最終決戦で新八との共同戦線が予想外で熱くなりました。ルール無用な感じがいいですね。

21、萱野三平
 立ちCGがひたすらにエロくて困る人。みんな大概ですけど、萱野さんはかなりエロエロです。ヒロインじゃないんだからもうちょっと控えめでも。グロ方向にも無闇矢鱈と存在感がありました。なぜ、萱野さんばかりが。最終決戦に出てきてくれて、すげぇ嬉しくなりました。

22、浅野阿久里
 可愛らしい人なのに出番は果てしなく少ない。正直、カットされても不思議ではないくらい意味は薄い。磯貝や片岡もサッパリ絡みませんしねぇ。

23、お梅
 せっかく作ってもらったのにちょっと切られたくらいで投げ捨てる安兵衛はどうかと思いました。いや、それ完全に使い捨てアイテムですよ。お梅に惨殺現場を見られてうろたえる安兵衛がちょっと可愛い。

24、おきん
 安兵衛の姉。名前だけではすぐに忘れそうです。出番少ないしねー。ひょっとしてあんまり空気を読まない感じの人ですか?

25、矢頭絹&無垢
 癒し担当。けれど、どっちがどっち? とかクイズ出されたら間違える可能性大。

26、徳川綱吉
 なんか嫌がらせのようなキャラデザインがいっそ哀れ。しかも、ほぼ途中退場と言っていいくらい、いきなり出番がなくなる。

27、深海鐺
 主人公の悪友たちと同じでいてもいなくても構わない。ちょいと残念。もう少し幼なじみと絡みがあっても良かったのでは。

28、毛利時房
 どう見ても小平太の姉とは思えません。外見も武士としての心構えもまるで違います。でも、結局はそれがあの悲劇を招いたようにも。

29、吉良上野介
 影武者関連がよくわからず。3周目以外は無事だったのでしょうか。

30、柳沢吉保
 最初はいい感じで出番があるのに途中から音信不通に。せっかく声優がいい演技をしていただけに最終シナリオにも顔を出してほしかったですな。

31、荻生徂徠
 完全な途中退場。せっかく嫌な奴的なキャラデザインなのにほとんどなにもない。溜飲が下がりませんよ。

32、橋本平左衛門
 や、あれで終わらなくて本当に良かったです。あれで終わりなら何のために出てきたのか、というくらい悲しい役回りでしたよ。それにしても、手下たちはどうなったんでしょうかね。セリフもほぼなかったですけど。

33、矢頭長助
 きっとそうなるだろうと思ってましたよ。だって討ち入りに参加しないし! でも、実際に見るとかなり重いです。右衛門七のレベルアップのために存在しているかのよう。イベントCGできっちりとやつれていくのがまた。

34、三村次郎左衛門
 奥さんの話が切ない。つーか、本作はいざクロースアップすると大抵はろくな事がない。

35、色部安長
 重要なポジションのはずでデモ中でも存在感を出していたんですけど、あんまり活躍なし。立場上、仕方ないのかもしれませんが、本作は知らない内にフェードアウトする人が多いですね。

36、多門伝八郎
 たいして出番はないんですけど、なんか好きなんですよねぇ。まぁ、本作って常識人が少ないからかもしれません。

37、猿橋
 人物録でただひとり説明が一行しかない悲しい人。多くの人の記憶から消えてしまいそう。それくらいのかませ犬的な存在。1周目で終わっておけば良かったのに……。

38、雪乃明日香
 「パルフェ」における主人公の一押しヒロイン。しかし、その割にはロリコンを隠しているような素振りを何度となく示す。で、元は同人ソフトだからこんなネタがあるんですか? 「協力 戯画」とかクレジット入ってますし。