Clear(MOONSTONE)

 行野光一(変更不可)は懐かしい故郷に帰って来た。代わり映えしない町並み、イメージそのままに成長したような幼なじみ。変わらぬことは古き良きことであるように感じられる。だが、光一だけが大きく変わってしまっていたのだ。

 MOONSTONE第5弾は6GB超の容量を誇るアドベンチャー。インタビューで素材が豊富に使えると言っていたのが印象的でした。
 購入動機は一部原画と前作からの進歩を期待して。
 初回特典はメタルプレート時計、イラストブック、オリジナルサントラ2枚組。通常版よりも2000円ほど高かったりしますがサントラにはボーカル曲7曲中2曲、しかもショートバージョンしか収録されていません。悩んでいる人は要注意。

 ジャンルは特に変わったところのないアドベンチャー。
 足回りは相変わらず親切さに欠ける設計。メッセージスキップは既読未読を判別しますが速度は遅め。
 バックログはウインドウ単位と別画面の2種類が用意されています。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、あまり戻れない上にシーン切り替えでリセットされてしまうので使おうとしても使えないケースも。もちろん、ロード直後には使用できません。
 セーブがシーン単位で記録されるので再開時に既読文章を読まされることがしばしばありました。しかも、大抵はスキップが効きません。小イベントや立ちCGなど特定の目的でセーブデータを活用する場合は実に不便。サムネイルも保存できませんし。
 スクリーンの設定をコンフィグで行うことができません。フルスクリーン派の方は起動の度に設定しなくてはなりません。なかなか面倒です。

 シナリオは全体的に急転直下。
 本作は主人公が極めて特殊なキャラとして造型されています。心が欠けているという設定のため、やたらと堅苦しい思考や言動を振りかざします。広辞苑クラスでなければ載っていないような単語(ふりがなつき)や古めかしい用法を当たり前のように。わかりやすく言えば思いやりというものがないキャラクターが、さもある振りをしたいという設定。
 慣れないうちは困惑する可能性が高く、慣れたあともその珍妙さをある程度は(滑稽さゆえに)好ましく思えないと厳しいかもしれません。何せ最後の最後になるまでこの状態は維持されるので。
 そんな主人公の、心がないなりに他人に執着したり、悲しく感じたりしていくといった様子の描写はなかなかに秀逸。惹かれあう過程というには語弊があるかもしれませんが、主人公の状態を考慮した上でならそれなり以上にしっかりと描かれています。全シナリオで、とは言い難いですが。ただ、イチャイチャする様子とかはけして期待してはいけません。本作の不得手事項です。
 序盤から終盤まで丁寧な描写でイベントを積み重ねて、地味ながら盛り上げてくれるのですが、ラストだけはなぜか説明不足気味に一気に終息を迎えてしまいます。まさに急転直下。一部のシナリオでは全シナリオ終了後に出現する最終章を読まないと意味のわからないものも。
 本作はテーマのひとつが「ハンデがあっても幸せになれる」であるために、困難を克服することなく終わってしまうことが各シナリオでしばしばあります。要するにスルーなのでプレイヤーとしては(言いたいことはわかるものの)消化不良に感じやすいです。
 テキストは主人公の設定のせいもあってサービス不足が目立ちます。長丁場のわりにはほとんどが必要不可欠な文章だけで構成されていて遊びがありません。それでいてテンポが良い訳ではないので若干の読みにくさは否めないでしょう。
 Hシーンは各キャラ1~2回とアフターで各1回。エピローグの余韻の少なさでは余所に引けをとらない本作ですが、アフターでもそれが補填されることはありません。エロ度は純愛系にしても期待しない方がいいかと。

 CGは実枚数よりも少なく感じやすいです。サブヒロインやサブキャラにも多くの枚数を割いている、派手(個性的)なイベントCGが少なく印象に残りにくい、純粋なヒロイン用CGは少ない、シナリオが長い、などが理由ではないかと思います。
 立ちCGはサブキャラまで含めてポーズ、表情ともに実に豊富で見応えあり。イベントCGよりも強く印象に残りやすいです。

 音楽は全50曲と曲数に相応しい気合が感じられます。状況に応じた曲がしっかりと用意されていましたが、数曲がヘビーローテーションされていたようにも。また一部でボリュームにばらつきがあったように感じました。
 ボイスは主人公のほか名前のないキャラにはほとんどありません。一部のサブキャラの演技に疑問を感じないでもなかったですが、全体的には問題ないかと思います。岡本ののか役の大野まりなさんの演技がキャラや見た目とのブレが最も少なく良い按配でした。
 
 まとめ。大作ならではの配慮に欠けている作品。ほどほどのボリュームであれば小気味よい佳作となったのかもしれませんが、本作はボリュームだけなら十分に大作レベルです。音楽以外ではそうなった時に足りないものが多いのではないでしょうか。長いゲームを飽きずに楽しませる配慮、ヒロインへの思い入れを深める何か、などなど。
 ただ、本作はMOONSTONEの過渡的な作品にも見えるので今後に期待したいところもあります。
 お気に入り:月村美姫、岡本ののか
 評点:68

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、月村美姫
 結局、吸血種が伝染するかどうかというのはわからないままで、真相もわからず終い。それでも全然問題ないというあたりに本作の設定に関するミスがあると思います。克服できない、あるいはする必要もない障害ではなかなか盛り上がらないのではないでしょうか。
 美姫シナリオの最大の疑問はなぜ、彼女が手首を切ったのか、ということ。シナリオを最初から追っていってどう考えてもそんな無責任な行動をとるキャラには見えませんでした。自責の念がどれほどあろうと、それよりも自分が死んだあとを気にかけてしまう娘さんだと思うんだけどなぁ。例え自らの死によって主人公を元に戻せる確信があったとしても最後の最後までそんな手はとらないのではないかと。
 意外と大胆な美姫さんの行動は心が欠けた状態だからこそ取り乱さないでいられるというものですが、エンディング以降はそうもいかない訳で光一くんは大変そうです。で、そんなところを少しも書いてくれないのだから本作はサービス精神が足りません。

2、行野無月
 無い月ではなくて無い乳の間違いではないかと真剣に思いました(馬鹿)。というか、偶然、そんな名前がついているというのもねぇ。必然なら死別していたでもいいから双子のお姉ちゃんが必要だよねぇ。そうでないと名前が対にならないし。
 妹属性がない人間にはたいそうツライお人でした。なんでもかんでも付き合わせる。どれほど大言壮語を吐こうとも、である。しかも、それが押しつけがましい優しさの発露というのだから閉口するしかない。瑞希の問題にしても彼女が辛そうかどうかは関係なく、無月がそう思うかどうかなのだから恐れ入る。さすがにそれはどうなのよ、と。
 素直に(?)他のシナリオでヒロインに対してヤキモチを焼いていた時の方が可愛かったですよ。狸寝入りとかも正直ついていけませんでした。ほとんど全てはなんで俺がそんなことを、という感じでしたから。
 原画的な対比として立ちCGで美姫さんと並ぶと色々な意味で見劣りするするものがありました。なんだかちょっと気の毒になるくらい。

3、本町春乃
 正直、一緒にいて最も飽きないのは春乃かな、という気がします。本来の性格もさることながら次に何を言い出すのかわからないようなところがあるだけに。まぁ、そんな感じで劇中のようにいきなり別れを切り出されるかもしれない訳ですが。知らぬ間に往生際に立たされているという。
 あの時にしても、主人公の方にも問題はあったけれど、それにしたって突き放しすぎのような気がします。もしかしなくとも成算があった訳ではないんですかね、やっぱり。うまくいったのは露骨にひなの助力があったからだしねぇ。いいからあたしの言う通りにしろ、ってな強引な流れでしたし。
 アフターのHシーンのためとはいえ春乃が巫女さんのバイトを続けているのはやはり無理があるように思います。あの強硬な緋雨の態度はなんだったのか。

4、宮城野紗由
 カチューシャという名のネコミミ隠し。エロゲーの主人公が鈍感であることが常識であるように紗由のそれに気付かないのも世界のお約束なのでしょうか。一体どんな髪止めなのよ、というのは無粋ですか。
 何も考えていないかのような娘さんですが、冷静さがないだけでしっかりと自由意志はある。そんなところを不意に見せられるとちと弱いです。花火のシーンはしてやられたというか、かなり驚きました。そんなことしてきますかと。

5、岡本ののか
 なんか「水夏」の匂いバリバリの2人組が出てきます、とか言ってはいけないんでしょうか。や、ホントにまんま一緒だよねぇ。役割はもちろん、デザインの方までおんなじ。まぁ、制作陣が被っているからいいんですかね。今でも作り方なんかは親戚みたいなものを感じるし。
 シナリオ的には3秒でバレる、ってな感じでしたが、本作では珍しい遊びのあるイベント進行や絵本の効果もあって、結末がわかっていながら楽しめる内容でした。
 ののかさんは個人的に意外な伏兵。メイド属性がないこともありますが、共通部では惹かれるものが全くなかっただけに驚きでした。あれ、なんか普通に可愛いですよ、と。
 腕を怪我してからの一連のイベントは本作の主人公とは思えないくらいナイスでした。ワタクシ見直したくらいですから。よくやったと本当に言ってやりたいほど。さらに臨海学校にこっそりついてくるという展開も良かったです。他と明らかな差別化にもなっていましたし、ののかの意外な側面が見えて効果が高かったように思います。
 Hシーンもなんかすごかったデスヨ。最初からよつんばいというのは予想せぬエロさがありました。