FORTUNE ARTERIAL(オーガスト)

 転校、転校、また転校。それが支倉孝平(変更不可)の人生と言っても過言ではない。彼に友人はなく、目立つ思い出もない。少なくとも本人はそう思っていた。
 両親の転勤は遂に海外へと及び孝平はこれを機会に自分の行いを改めようと思い立つ。定住して別れを惜しむ友人と思い出を作ろうと。
 「学院を代表して歓迎するわ。ようこそ、修智館学院へ!」
 勢い良く差し出された手をつかんだ時、孝平の人生は変革を告げた。

 2年4ヶ月ぶりのオーガストの新作は吸血鬼と生徒会活動に勤しむアドベンチャー。転校人生の主人公ですが美少女の幼なじみが12人いたりとかしません。2人だけ。
 購入動機はやはり原画(CG)買いということだと思います。他のこういった理由と比べてどうも自分でもよく分かっていないところがあります。相変わらずべっかんこう氏のエロ絵の変遷も気になっていたり。
 初回特典はBGMアレンジCDと特別装丁版オフィシャル設定画集の2つ。予約キャンペーン特典は各種販促素材を収録した「MATERIAL COLLECTION」。

 ジャンルはいつも通りのオーソドックスなアドベンチャー。ただし、久しぶりにマップ移動方式が復活しています。攻略はとても簡単。
 演出はさらに強化されたように思います。列車から外を見るシーンやバイクで走るシーンなど臨場感もなかなかです。ただし、全体的にパワーのかかるような演出が似合うほどのシリアスな芸風ではないため使いどころに困っているようにも見えるのがもったいないところかもしれません。
 足回りは2年4ヶ月ぶりと考えるとやや物足りないかも。メッセージスキップは既読未読を判別してスピードは環境次第。
 例1):WinXP、Core2Duo 2.33GHz、2GBだと全く文字は読めない程のスピード。必要性十分。
 例2):WinMe、800MHz、512MB(サポート対象外ですがインストールは可能)だと他作品での普通~やや遅いかもくらいのスピード。ただし、立ちCGが頻繁に入れ替わる時は少し遅くなる。スキップの使用機会の少なさを考慮すれば堪えられるレベル。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、戻れる量はほんのわずか。新機能クイックジャンプはバックログ画面に表示される範囲内であればいつでも好きな場所に戻れます。機能としてはたいへん便利ですが、なにぶんバックログ容量がとても少ないのでほとんど活用しようがありません。もちろん、クイックジャンプの連続でどんどん戻るということもできません。
 ワイドモニターに対応した縦横比の固定はフルスクリーン派にはとても嬉しい機能です。他メーカーも倣って欲しいところ。

 シナリオは前作からの形を踏襲しています。すなわちメインヒロインがひときわ大きく扱われていて、明らかな区別が感じられる作りであること。主役と脇役といっていいくらいです。
 シナリオサイズはやや小さくなり、前半の共通シナリオと後半の個別シナリオでは構成も異なっています。共通シナリオは学園生活を満喫できるような内容ですが、個別シナリオに入るとそんな楽しさは鳴りを潜め、当該ヒロインだけとの内容にシフト。サブキャラの出番はほぼなくなります。
 よって日常会話の掛け合いも共通と個別では大きく印象が変わることに。口数そのものの差が出ています。また、桐葉シナリオでは共通シナリオや他の個別シナリオと主人公の基礎的な人格に違いが感じられました。
 惹かれあう過程は「昔から好き」か「いつの間にか好き」の二者択一なのでワンパターン気味です。ここに期待する人はちょっと苦しいかもしれません。恋仲になって以降はヒロインが十分に魅力的に描かれているので余計にもったいなく感じます。
 シナリオは全体的に山と谷の高低差が小さく、予定調和の感が強いです。加えて各個別シナリオはトゥルーシナリオありきが前提なので単体では成立しない、あるいはしり切れとんぼのように終着するケースが多いです。トゥルーシナリオに置いても知らないはずのこと知っていたりと辻褄が合わないケースが散見されました。
 Hシーンは各ヒロイン3.5~4回とほぼ平等ですが、ラストの位置が本編中だったり、クリア後のおまけシナリオだったりとヒロインによってまちまち。全体的な尺は短めに感じました。

 CGは今回も一番の売りと言っていいくらいに力が入っています。特に立ちCGはイベントCGを凌駕する安定度と可愛らしさであると個人的には感じました。ポーズ数はそれほどでもありませんが、多彩な衣装、表情を用意してヒロインの魅力をアピールしています。ただ、立ちCGにSD要素が統合されてしまったのは賛否ありそう。純粋なSDカットがなくなってしまったのは残念。
 背景も負けじと高品質を保っているのは好感が持てます。しかしながら、シナリオサイズが小さくなったせいか、学院以外はほとんど世界観が(CGでも)語られないのはもったいないところ。
 立ちCG、背景ともCG鑑賞に登録されます。組み合わせなど自由自在とはいきませんが嬉しい機能です。
 イベントCGは美しいながら高いレベルでの差が感じられるように見えます。今回もヒロインによって多少の得手不得手が出ているようにも。また、髪の毛の処理を変えたせいか一部のCGで綺麗なのに雑に見えることもありました(いわゆるエアインテーク部分)。
 エロ度は純愛系としては今回もかなり高いです。伊達にイベントCGがHシーン偏重ではありません。ただ、個人的にはやはり「プリホリ」の時が一番エロかった気がします。それと素朴な疑問ながら純愛系のゲームでヒロインが早い段階で喜悦の表情を見せるのはどうなんでしょうか。

 音楽は耳障りの良い曲を揃えたという印象を受けました。ただ、生徒会室の曲だけはどんなシーンでも重厚な曲調で少しばかり違和感を感じることも。プレイ中は47曲もあるようには思いませんでした。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。見た目から想像しやすいことに重点が置かれているキャスティングであると感じました。一部、Hシーンで気になる演技がないでもないですが、全体では高レベルで安定しています。

 まとめ。エロゲー初心者向け作品。見た目美しく各要素ほどほどで入門用には最適かと。オーガストはこれからもこういったスタイルで進んでいくんでしょうかね。ちょっと違った方向性なども見てみたい気もしますが……。
 体験版は共通シナリオだけのようなのであまり当てになりません。より楽しくなる、とは考えない方が無難かと思います。吸血鬼というキーワードに反応するのも危険です。
 お気に入り:悠木姉妹、へーじ
 評点:65

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、千堂瑛里華
 実のところ物語の根本的なところで疑問を感じます。伽耶の元で育った瑛里華はどうやって人間的な感覚を養ったのでしょうか。そういう常識の中で暮らしていないとあんな考えの持ち主にはならないと思います。図らずも瑛里華が生まれた時から理想的な子供はいないと言ったように。
 もうひとつ普通の疑問としては千堂家の面々は金髪なんでしょうか。それとも単にゲーム的な記号カラーに過ぎないのでしょうか。だって本当の金髪でないなら全員を同じ色にする意味はあまりないような。でも、血筋的に外国人には見えないしなー。
 ヒロイン的なポテンシャルは非常に高いと思うんですけど、本作ではその魅力を出し切れなかったように思います。結局、中途半端なこだわりのシナリオが足を引っ張ってしまっているようにも。
 トゥルーシナリオもなんだかねぇ。結局、吸血鬼である意味がとても薄いお話になってしまったような。それでいいの? というのが正直な感想。

2、紅瀬桐葉
 うーん。シナリオライターのせいでどうも印象良くないです。シナリオ自体も面白味に欠けますし。数学のテストも別に瑛里華に意地悪している訳ではない、というのは普通につまらないですよ。
 色々と損をしているように見えてならないヒロイン。250歳を過ぎてるのに処女、とかキテレツなキーワードがあるのだからそこをもっと強調するとか工夫が欲しかったところ。Hにはまってしまうとかね。機械音痴だけではどうにも。どうせすぐにできるようになってしまうんでしょうし。

3、東儀白
 ゲームだからいいんですけど現実にこの名前だったらちょっとキツイかも。呼びにくいとかいう以前に小学生時代に苛められそう。まぁ、兄様が学校まで乗り込めばいい話かな。
 相変わらずオーガストのゲームには抱きしめるとあっさり折れそうなヒロインがひとりは出てきます。この体格だとちょっと顔色が悪いだけでメチャクチャ心配になります。よく舞とかできるだけの体力があるなぁ、とか。
 あまりにも投げやりなラストに苦笑。なんとも無理矢理です。

4、悠木かなで
 本作でオーガストの成長を最も感じたのはかなでさんです。断言してもいいと思いますが、過去作でかなでさんのような設定のキャラがいてもこんな縦横無尽に動き回る活き活きとしたキャラにはならなかったと思います。それぐらい彼女の存在感は目を引くものであったと。ただ、ポジショニング的に彼女が光るのは陽菜シナリオなんですよねぇ。妹に遠慮するからこそ味が出る。ま、仕方ないところですが。
 個人的にはかなでさんの私服(冬Ver.)はとても可愛いと思っただけにHシーンに採用されなくてしょんぼり。裸エプロンよりもなぁ。

5、悠木陽菜
 「普通」の立ち位置がかけがえのないものに感じるからとても不思議です。変則も変則な幼なじみキャラですが、それゆえに固定のパターンにはまらないところは良かったかと。主人公だけでなくプレイヤーも安心させるようなところが陽菜の魅力ですかね。まぁ、それだけに幼なじみ属性の人には物足りないかもですが。
 シナリオも地味ながらなかなかで爽やかな感動があります。姉を送り出そうというネタで最後までいくあたり他との差別化ができていたのではないでしょうか。瑛里華の言う楽しい学園生活を最も体現できたのはこのシナリオだと思います。
 何気に美化委員会のコスチュームは個別シナリオでしか見せないのですね、ちょっと感心。
 基本的にはかなでさん用のCGなんですが、ベランダから強襲CGの陽菜のおしりはエロいと思います。けど、この衣装でのHシーンはないんですよねぇ(馬鹿)。