輝光翼戦記 銀の刻のコロナ(ETERNAL)

 小田切統果(変更不可)は厨二病である。「俺の右手が疼くぜ」など黒歴史も豊富な上、友達は片手の指が大いに余るほど少ない。だが、ただの厨二病ではない。なんと妄想ではなく本当に特異な力があったのだ。
 真夜--それは普通の人間には感知できない異形のものたちが巣くう空間。統果はこれを知るだけでなく、中へと入り化け物たちと人知れず戦っていた。
 独りよがりであった統果の戦いは学園の先輩である天津刻乃と出会うことで一変する。同じような能力を持った仲間たちを得ることで統果は変わっていく。
 そして、運命の出会い。龍人の娘コロナと謎の女性ミュリアルと出会う。ミュリアルは2人に告げる。「コロナを正しく育てることが出来れば、滅びは回避できるかもしれません」。

 ETERNALの新作はデビュー作「輝光翼戦記 天空のユミナ」の続編です。あの超ボリュームの作品の続編なので本作もやっぱり相当なボリュームがあります。
 購入動機は前作に最後まで付き合ったので、そんなところ。
 初回特典はウィル系他ブランド作品の人気キャラ「遥かに仰ぎ、麗しの」から風祭みやび、「あやかしびと」から一乃谷刀子、「花と乙女に祝福を」から月丘さんがパーティーキャラとして使える「キャラクター追加パッチ」。もちろん、声優もそのままです。予約キャンペーン特典は「スキル追加パッチ」。どちらも途中データからは組み込めないので注意が必要です。

 非常に残念な修正ファイルが出ています。これがないことには先へ進めなくなるので絶対にダウンロードしておきましょう。他にも追加機能などありますが、使い勝手などはまだまだこれからというところ。

 ジャンルはパッケージによると絆のシミュレーションRPG。なんのことやらわかりませんが、システム的に特にそういったものはありません。強いて言えば主人公が少し他キャラの力を借りるくらい。
 実質的にはアドベンチャー+シミュレーションRPGというところ。アドベンチャーパートを進めていくとシミュレーションRPGパートに入ります。
 アドベンチャーパートには特に変わった点はありません。ただし、前作のSDカットによる寸劇はなくなりましたし、マップ移動時のフラグ立てもなくなりました。
 シミュレーションRPGパートは章ごとにひとつマップが用意されていて、これをクリアすることで次の章へ進みます。勝利条件、敗北条件ありますが、本当の意味でゲームオーバーはありません。というのも、失敗してリトライを選ぶとレベル、経験値はそのままで再挑戦できるからです。いわゆるレベル稼ぎはこの形でしかできません。
 シミュレーションRPGゆえに前作のようなダンジョンと呼ぶものはなく、タクティクスマップがあるだけです。よって探索とそれに類するものはほとんどなくなりました。前作を代表するキーワードのひとつである鑑定も今回はありません。

 戦闘は今回もターン制のコマンド入力型です。前作より1色増えて青、赤、緑、白、黒の5色が原則で敵も味方も基本的にこのどれかに属しています。使えるのは同じカラーのスキルが基本ですがちょいちょい他の色も使えます。ただし、あくまでも基本カラーは決まっていてそこから大きく逸脱することは出来ません。色ごとの相性もこれに含まれます。
 前作から引き続いて攻撃も防御も全てスキルで行います。そのために必要になってくるのがMP(メシアポイント)です。スキルは一部の例外を除いて使用にはMPが必要なため、これを溜めて切らさないことが鍵になってきます。マップのスタート時はゼロから。ゆえに基本スキルは消費MPがゼロに設定されています。前作のオーディエンス値の代わりがこのMPですが、前作とは違って敵味方で共有していません。
 基本的に相手の弱点をつくことでMPは上昇します。ただし、逆の場合は減ってしまうようです。色ごとの相性がこの弱点を示しています。また、単純に相性は与えるダメージにも大きく関わってくるので戦闘時の組み合わせが重要になってきます。
 前作とは違ってパーティーが固定されていないため(もちろん、シミュレーションRPGだからということもあるでしょう)、1ユニットは3人で組むことになっています。2人以下でも組めますがそのぶんだけ不利になることは避けられません。
 スキルには種別としてオーダースキルとリアクションスキルがあります。前者は主にメインとして使うもの。後者は主に補助的な目的で使うものです。それぞれに同じようなスキルがあったりもしますが、効果が大きいのはだいたいオーダースキルの方です。
 ターン開始時にはこの2種類をひとつずつセットすることになりますが、リアクションスキルは必ずしもセットする必要はありませんし、セットしても使わない、または使う機会がないこともあります。ただし、オーダースキルは必ずセットする必要があります。つまり、戦いから逃げずにぼーっとしているということはできないのですね。
 前作との大きな違いがリアクションスキルの基本的な効果。前作ではバックヤードスキルと呼ばれていました。その差はズバリ、望んだタイミングで使えるかどうか。バックヤードスキルは条件を満たした上で1ターンに1回しか使えませんでしたが、リアクションスキルは条件さえ満たせば1ターンに何度でも使えます(と言っても3回以上は機会そのものがありませんが)。ただし、その発動が自動的で使いたくなくとも全ての機会で使ってしまいます。
 これは恐らく前作を踏まえて戦闘の高速化を図ったことが原因だと思われます。本作には戦闘時のアニメオフ機能があるのですが、これを実現するためには、その度に結果が違うというランダムな要素を排除する必要があるのです。そうでないと結果だけを示す簡略化ができませんから。しかし、問題なのはこれによって戦闘の緊張感やプレイヤーの集中力、それに戦略性が薄れてしまったことです。敵にわざわざ反撃を許すかもしれないリアクションスキルは、MPを使用することも相まって、あまり使わなくなります。使うのは特定のスキルで確実に損をしないとわかっている時だけ。
 オーダースキルにも似たようなことは言えて、マップのボスに効果の高いスキルを使うためにMPを温存するようになり、消費MPゼロの同じスキルばかりを使うようになります。これはSDキャラによるアニメーションを懸命に作ったことから考えると完全に本末転倒です。当然、戦闘アニメを見ないという方向にいきがちになるでしょう。その結果、生まれるのは退屈という感情です。
 前作の戦闘からかなりもったいないことをしてしまったのではないでしょうか。残念でなりません。
 戦闘を繰り返すことでレベルが上がっていきます。レベルが上がるとそのキャラは全回復します。レベル、スキルは2周目以降は引き継がれるようになります。

 足回りはあまり進歩していません。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、シーン切り替えなどで解除されてしまうことがあります。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。ロード直後にも使用できます。バックログを起動すると発声中のボイスが消えてしまいます。
 修正ファイルによるリアクションスキルの項目はゲームを起動する度に定義してやる必要があり、たいへん面倒です。
 マップ上の操作性はもうひとつというところで、それがそのまま1マップにおけるプレイ時間の長さに繋がっています。今回も戦闘関連にかなり時間を費やします。一切の高速化をせずにプレイするなら100時間くらい覚悟した方がいいでしょう。しても、かなり時間がかかります。これでも前作よりはかなりマイルドになっています。
 とても残念なことに今回も起動ディスクが必要です。プレイ時間がやっぱり長いだけに影響も大きいです。
 すごく長いゲームだけに鑑賞モードでオープニングやエンディングが見られないのは不親切だと感じました。

 シナリオはライターが3人から1人になったものの、粗が目立ちます。キャラクターの人数が多すぎるせいもあるのでしょう、メインもサブもかなりいい加減です。特にサブは酷いもので恋愛とはおよそ呼べないものばかり。いくらサブにはまともなルートがないとはいえ、さすがにどうかと思いました。
 掛け合いはとても優秀で笑える場面も多いです。ただ、やはり人数が多すぎるので全員が揃っている場では空気になってしまうキャラがいます。また、前作の主人公たち4人組のキャラ立ちと掛け合いのレベルが高すぎるために比較されて苦しめられるという難儀な面も。本来プラスに作用する要素がここではマイナスも生んでしまっています。
 惹かれ合う過程は基本的にありません。設定でなんか用意されているものもありますが、それはプレイヤーの実感を伴うものではないので説得力に乏しいです。
 シナリオとして前作はほぼ必須です。なんせ前作の主人公たちが普通に出てきますから。未経験者に対するフォローはほとんどありませんので置いてきぼりに感じるかも。要注意。反対に経験者は前作の苦労が大きいほど喜べます。出てくる時にはニヤニヤが止まらないかも。
 Hシーンはシナリオと連動しているだけにやっぱり弱点です。唐突なものがほとんどで色々と期待しない方が無難です。メインは各3回、サブは各1回しかありません。中には0.5回と表現しても良さそうな方も。エロさも期待してはいけません。

 CGはプレイ時間に対して用意されている枚数がとても少ないです。差分抜きで83枚、SDカットを足しても89枚とそこらのアドベンチャーよりも少なかったり。イベントの多くでなぜ、ここでCGがないのかと感じる場面が多かったです。
 立ちCGもキャラクター数のせいか衣装が各キャラ2種類しかありません。全キャラが同じ屋根の下で暮らしている設定だけに違和感が際立ちます。制服か戦闘服しか着ていないのですから。
 立ちCGの表情が一切、変わることなくフェイスウインドウ任せなのは前作譲り。前作のように立ちCGとあからさまに絵が異なる、なんてことはなくなりましたが時折、不安定なカットもありました。
 こもわた遙華氏が手がけるSDカットは今回も作品の花と言っていいと思います。使用機会が減ったのは残念ですが、戦闘シーンやイベントCGで十分すぎるほど存在感を示しています。間違いなく世界観の一翼です。特に他ブランドの人気キャラが氏の手でデザインされ、それが動き回る様子はファンであるほど嬉しく感じやすいでしょう。

 音楽は前作同様に非常に高いレベルでまとまっています。戦闘シーンの曲はやや系統が偏り気味ながら、いずれも飽きにくい曲に仕上がっているように感じました。ただし、ボーカル曲は新規のものを考えると曲数的にとてもパワーダウンしていて残念。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。主人公は戦闘シーンくらいしか用意されていません。演技の方は表の有名な方が参加していたりして、とてもレベルが高いです。

 まとめ。あまりにも前作ありきな作品。プレイ経験の有無はとても大きいです。特に終盤の盛り上がりは天と地ほどの差があります。未経験だとポカーンとしてしまうかも。ボリュームのある作品なのでよく考えた方がいいでしょう。
 お気に入り:ミュリアル、遠野明日翔
 評点:70ただし前作未経験者は55

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、穂村茜
 テキストによると胸が大きいらしいのですが、立ちCG及びイベントCGからはあまりそういう風には見えません。普段の言動にそうした意識が感じられないのも無関係ではないと思います。あんまりキャラが立っているとは言い難い存在。人数が揃うと途端に影が薄くなる。

2、健見久美
 全キャラ中でも屈指の苦しさが漂うヒト。Hシーンを見た時はやっぱりこんなんだよなぁ、とつぶやくプレイヤーが多いのではないかと予想。ブレない点はいいですが、言い換えれば深みもないという切なさを抱えています。
 中盤くらいまではよくお世話になりました。月丘さんに比べて回復スキルが使いやすいので。というか、あっちは発動するのを見るのが稀ですよ。

3、兵藤かなめ
 サブではHシーンのトップバッターだけにこのゲームの常識を教えてもらったというイメージが強いです。それだけに彼女の行動原理には唖然としましたけど。衣装的には全キャラでも一二を争うものがあったと思います。
 どうもプレイ中はパワー不足という印象が強かったです。倒しきれない機会を数多く見たような気がします。

4、遠野明日翔
 よく見るとちょっと変わった髪型(?)をしています。正確にはこの状態を維持するのは難しそうって感じですが。青田買い発言がとても正直な感じで好感度高かったです。実際、性的な意味で頼れるお姉さんになるのは難しいものなぁ。あんまりそそらない衣装のせいかHシーンはあんな感じに。
 彼女を使うとみるみるMPを消費するので微妙でありました。まぁ、リアクションスキルを使わなければいいんですけど、そうするとオーダースキルを使わない限り回復できないですからねぇ。悩みどころなキャラでした。ただ、グラビティヴォルテックスは本人が言うように必殺技足り得ていたと思います。攻撃しながら相手の耐性を下げられるのは後半にいけばいくほど助かります。それも全色ですからね。

5、斉藤竜一
 テキストでは頼れるキャラという感じでしたが、戦闘ではあまりそんなイメージはありませんでした。結界を無効化するスキルが本当にあるわけでもないというのが最大の理由でしょうね。棘結界「白」も典型的な大ダメージを敵に与える味方が食らうには痛いけど、反対はそうでもないというやつですからね。

6、アナスタシア
 なぜ好かれるのか不思議ですが、それ以上に主人公がアナスタシアの好意にだけ及び腰なのはもっと不思議です。毒舌家とありますが、あまりそこまでには感じません。まぁ、論説部のせいかもしれませんが。
 最も打たれ弱いキャラというのは常に感じてましたね。緑ユニットがいないとすぐに死ぬというイメージでした。そのくせ、あまり支援的な能力があるわけでもないので困りもの。

7、金剛恵理
 別にそれほど難解とも思わないのですが、なぜかHシーンはアナスタシアの道連れに。さすがにちょっと気の毒でした。おかげでただでさえ、個人のアピール機会が少ないこの作品で、サブのさらに付け合わせみたいになってしまいました。
 戦闘ではパワーがあって頼りになりました。かなめが勝負弱く感じたのは明らかに恵理と無意識に比べていたからでしょうね。あと得物のせいもあるでしょう。ナックルよりも槍の方がダメージ少ないんだものなぁ。
 真ラストバトルでモチベーション・ダウンのスキルが発動した瞬間にゲームが止まったのも今ではいい思い出です。名前がまたなんだか微妙な気分にさせてくれますね。

8、梶智明
 あんまりイベントがなくて記憶に残るものが少ないです。
 最終戦では大活躍。シュバルツラウムだけ使ってラスボスの悪魔のようなリアクションスキルを防いでました。もしかして、相手にMPが溜まっている状態だと智明か藍、もしくは刻乃がいないと勝てないんですかね。

9、コロナ
 キャラ的にポテンシャル低いなぁ、というのが本音です。特に力を失ってからはもう目も当てられないほどにパワーダウン。とてもメインヒロインとは思えないほどでした。娘っぽくもないしなぁ。
 もしかしたら、そのせいで戦闘ではあんな強力すぎるキャラになったのか、と邪推したくなるほどでした。

10、天津刻乃
 なんかよくわからん人だったなぁ、というのが終わっての感想です。イベントの内容とか首をひねるようなものがありましたし。意外な姿というよりはさっぱり繋がらないという感じで。
 時を巻き戻して想いを重ねているから馴れ馴れしいし、迫っても来る、というのは主人公側からすると重すぎるような気がします。まぁ、普通に勝手だよね、と。
 重要人物にも係わらず戦闘では意外と役に立たなくて驚きました。特殊スキルもあるにはありますが消費MPの割りには効果が今ひとつなものが多かったです。

11、ミュリアル
 基本的に本作のお笑い担当。前作で言うならば藍の役どころ。ただし、藍とは違って戦闘に参加しないため思い入れがちっとも深くならず、シナリオ的にもほとんど意味がないためすっかり問題児に。ミュリアルのネタに笑えないと本当に厳しいことに。結局、最後までいってもほとんど役に立たないしなぁ。