群青の空を越えて(light)

 1人の天才が唱えた円経済圏理論。それは端的に言えば従来の国境を消しかねない次世代の理論であった。その理想の名のもとに日本は4つに分裂。日本人同士が相い討つ時代が来たのである。
 天才の息子、萩野社(変更不可)は親の名に振り回され、戦争の直中で予備生徒という軍人でも一般人でもない微妙な立場にあった。果たして彼らの迎える終戦とはいかなるものであろうか。

 本来ならlightの2004年攻勢の大トリを務めると思われた本作品。気がつけば2006年の足音が聞こえてきそうな頃でした。およそ2年という期間を温められて生まれた作品はエロゲーとは思えない題材のシリアスアドベンチャー。
 購入動機はレアと称して構わない企画そのもの。期待もありましたけど、応援費というのが一番近いところなのかも知れません。
 初回特典は内箱に収まらない「群青の世界がより楽しめる本」。

 「Dear My Friend」から導入されたユーザーIDカードを使ったオンラインユーザー登録のダウンロード企画は健在。現在は声優のボイスなどが聞けるようです。

 グラフィックボードの相性が悪い方のために修整ファイルが出ています。心当たりのある環境の方はさっくりと落としておきましょう。

 システムはオーソドックスなアドベンチャースタイル。複数視点であること以外、特に変わったところはありません。
 足回りは標準クラス。メッセージスキップは既読未読を判別して高速。
 バックログはメッセージウインドウ単位で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。長編にしては戻れる量が少なめなのは残念。

 シナリオ。まず重要なこととして本作は戦記物ではありません。ましてや戦闘機が主役でもありません。では何かと言えば戦争状態にある若者たちの青春群像劇というのが一番近いところ。架空世界の行方というのは余祿でしかありません。
 6本のシナリオで戦争を3方向から描写。主人公やヒロインの立場によって戦争の中に見えてくるものが違うという、深みを出すことに成功しています。ただ、小説的な手法であるせいか半分のシナリオで主人公が全く活躍しないという現象が起きているのが辛いところ。あくまで全体として見れば小さなことですが、1本1本のシナリオを独立して見ると物足りないものがあるのは否めません。
 学生たちの日常は一般的な学園イベントのそれと戦中のそれを平行に描いています。対極の二面を描写することによってうまくギャップが出せているかと。
 互いに好き合う過程は戦時下だから、明日をも知れない身がだから、で説明がついてしまう代物なので期待しすぎるのは禁物です。Hシーンもそこから繋がるものですから刹那的なものがほとんど。それでも題材を考えれば複数回ですし、頑張っているかと。
 テキストは軍事用語が頻出。解説も半分くらいがいいところなので、マニア以外は聞き慣れない単語を楽しむくらいでないと厳しいかもしれません。

 CGは題材ゆえ兵器や背景に非常に力が入っています。人物も同様ではあるんですが、原画家の引き出しのせいなのか、それとも他に原因があるのかサブキャラ(特に男性キャラ)の顔に立体感がなくとても奇妙。シリアスな物語の雰囲気の足を引っ張っています。また、メインキャラも基本は魅力的なんですが、どうにも絵が安定していません。
 戦闘機のムービーは数本用意されています。が、戦記物でない本作においては雰囲気作り以上のものではありません。

 音楽は目立ちすぎないようBGMに徹している印象。静かに物語を盛り上げています。主題歌だけは劇中での使い方もうまく耳に残りやすいです。
 ボイスは主人公を含めてフルボイス。苦手な方のためにキャラクター単位でのオンオフが可能になってます。Hシーンだけ、なんて選択も可能です。肝心の演技はキャラクターに魂を吹き込む声優陣の熱演が光ります。中でも水木若菜役の榊原ゆいさんの演技は秀逸の一言。まさにメインヒロインの面目躍如です。

 まとめ。例えるなら、高校野球で投げるナックルのような違和感。すごいことをしているのはわかるのだけれど、適切な比較対象がないのでもう一歩わからないというか。力作であることは間違いありませんが、それが面白さに繋がっているかというと微妙なところ。
 時にこんな作品が生まれることがこの世界の懐の広さでしょうか。題材でもテーマでも結末でも人を選ぶことは確実。ネタバレを抜きにして相性を探ることは難しいです。
 個人的な好き嫌いで言えばあまり趣味の作品ではなかったですが、この作品を生み出したチームとこの企画にゴーサインを出した責任者を素直に賞賛したいです。開発費をペイできるくらい売れて欲しいと願わずにいられません。
 お気に入り:水木若菜、一条貴子、澤村夕紀
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、水木若菜
 役職といい家族といい性格といい、まさしくメインヒロインたるに相応しい逸材。榊原ゆいさんの好演も光ります。時に見せる意外なほどの芯の強さ、押しの強さは彼女の大きな魅力です。見せ場の多い若菜ですが、一番はやはり加奈子シナリオ終盤の気丈な指揮ぶりかなぁ。あの最後にはやはり心を動かされますよ。
 シナリオはどうなのかなぁ。学園と戦場でギャップを出すという意図は分かるのだけれど、学園イベントが色々と突飛でどうにも浮いているイメージが強かったです。若菜に限った話ではないですが、戦争だから明日も知れない身だから、という説明だけで理由は終了の恋愛劇はどうにもため息ものです。
 Hシーンも初々しかったりして良かったですが、個人的にはクーとの控室会話の方が楽しみでした。売店の会話なんかも。まぁ、本人のシナリオ以外では不完全燃焼なんですけど。基本的には主人公と関係ないしね。
 沙那は実に可愛いですなぁ。年齢にしてはちと趣味が渋すぎますけど。個人的にはあのエピローグに倍くらいの尺が欲しかったです。その方が沙那の魅力ももっと出せたし、10年という長い時間を埋める説得力も出たのではないでしょうか。苦労しているにしても若菜は年取りすぎ。サイレンを見習いましょう。
 ところで彼女の舞台衣装が裸エプロンに見えるのは私だけですか?

2、日下部加奈子
 兄の話というのが背景以上の意味を持たないのは残念。教官といい格好のキャラ配置だと思うのだけれど、さほどの意味がないというのはなぁ。恋愛においても特に葛藤はないようでしたし。加奈子のキャラが非常に良いだけに他で色々と損している気がします。ラストもなんだか意味不明だし。トシの逃走には一体どんな意図があるんでしょうねぇ。さっぱりわかりませんよ。正面切ってヘギーに会えないほど加奈子に執着していたようには見えないんだけどなぁ。まぁ、それを言うならヘギーがトシのグリペンを強奪する理由もカッコつけ以外に見出せないのですけど。

3、渋沢美樹
 う~ん。正直、出番の少ないライバル一条貴子との間に差がありすぎるな、と。グランドルートがなければそうでもないんでしょうけど、実際にはねぇ。美樹の方が老けて見えるというのもツライところ。彼女の頑な姿勢というのもヒロインとしてはちょっと厳しいような気がします。

4、澤村夕紀
 世間で評判いま一つな彼女ですが、個人的にはかなりお気に入り。ポジションを活かした活躍の数々が地味ながら印象的です。安倍有紀さんの演技も秀逸でした。抑え目でありながら実感のこもったような演技はけしてメインヒロインたちに負けていなかったと思います。
 シナリオは分量こそ控え目ですが、戦争を側面から描いた、という意味においてとても重要なポジションを担っているかと。これなくしてグランドルートはありえませんし。唐突すぎて。終わり方もメインルートとは違うところが出せて良かったのではないかと。いかにも彼女らしいし。

5、長田圭子
 ??? 
 正直、ヒロインの一人たる理由がわからない。グランドルートへの繋ぎが主と考えられるけど、どうしても必要とはとても思えない。彼女をメインにするくらいなら一条貴子シナリオを作るべきであったと強く思います。その方が本作の深みがより出たであろうことは間違いないし、戦争を側面から描くには夕紀シナリオがあれば充分なんですから。

6、一条貴子
 グランドルート序盤は絶対にヒロインであると信じて疑いませんでした。それがよもやの方針転換(に見えた)。終盤は出番が少なくなって悲しかったデスヨ。それでも美樹を説得したであろうラストはさすがと言うべきか。
 やはり関西軍の実情を知ってヘギーが裏切る貴子シナリオ、みたいなのが欲しかったと強く感じます。そうすれば戦争を一面から描くことがいかに危険であるか示せたと思うし、グランドルートへの道標としてより効果的になったと思うのですけど。まぁ、資料的に相当、追加の仕事が増えそうですけどね。

7、香坂恵実
 なぜ、彼女がヒロインではないのか。プレイ中はかなりの頻度でそう考えてました。実に魅力的なキャラだと思うんだけどなぁ。迷彩服姿の女性というのは妙に惹かれるものがあります。初回特典本に書かれていた地上ルートというのはやはり彼女のことなんでしょうか。