ハチミツ乙女blossomdays(ルピナス)

 鈴原恭介(変更不可)は家庭の事情でかつて暮らした町に帰ってきた。共に暮らすは10年ぶりに再会した幼なじみの姉妹。瞬く間に過ぎた半年。新しい友人も増えた。この星の美しい町でどんな未来を迎えるのか。
 恭介は知らない。少女たちが恋の炎を燃やしていることを。

 ルピナスの処女作はパッケージによると
  >照れ×デレ 恥ずかしがる乙女に萌える学園アドベンチャー
 とのこと。書いている方が恥ずかしくなりそうです。
 購入動機は原画買い。一応は新規ブランドを応援したいという気持ちも久しぶりに。
 初回特典は特になし。

 ジャンルはオーソドックスなアドベンチャー。
 足回りはデビュー作にしては必要十分。メッセージスキップは既読未読を判別して高速。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。なかなか珍しいことにバックログのページ数(恐らくメッセージウインドウ枠が1ページ)を選択することができます。最大255なので選べるわりにはそれほど多くはありません。ロード直後でも使用可能。
 バックログ作動中にカーソルがウインドウ枠をひとつ動く毎に、なぜか効果音が鳴ります。どうして、このような仕様にしたのか少しばかり困惑しました。
 条件が整うとオープンする「えくすとら」。全シナリオクリアが必要かと思いきや、なんと未読文がなくなるパーフェクトクリアが条件だったりします。選択肢の選び方によって未読の文章が数行ばかり残ったりするので回収が実に大変です。もうちょっと考えてもらいたいところ。

 シナリオは複数ライター制の弊害が顕著に出ています。担当するライターによって技量の差があからさま過ぎてプレイヤーは戸惑うほどです。担当は恐らくですが、七瀬姉妹、伊賀野凛シナリオを狩野伊太朗氏、桜葉小波シナリオをJ・さいろー氏、クリア後の「えくすとら」で間臼美樹シナリオを佐野一馬氏。以下は狩野伊太朗氏が手がけた(と思われる)共通含む3本をメインとして書いていきます。
 基本的な描写に難あり。ツンデレという単語に代表されるような、いかにもなセリフの応酬があまりにもベタ過ぎます。もはやネタとして扱われるようなそれを朝から晩まで繰り返すのは、どの層に対して何を狙っているのか素直に疑問です。ヒロインの反応としてもワンパターンで魅力増とは言い難いように思います。
 イベント構成も同様で、ヒロインが告白しようとする→タイミング良く邪魔などが入って失敗、これが連続で起きるため非常にくどいです。しかも、どのシナリオでもこの連鎖が発生する訳で、この仕組みに早期に気がつくとプレイヤーは軽い眩暈に襲われそうになります。言ってしまえばヒロインの個性の放棄に等しいでしょう。些細な違いなどこの濁流の前には無意味です。
 そして、主人公は当然のように鈍感です。上記のヒロイン描写2点と組合わさった時、この特技はもはや犯罪レベルに到達しています。もどかしいとかコメントするような段階ではありません。何があっても心を揺らさない努力が必要です。
 日常の掛け合いは事務的な会話が目立って面白味に欠けます。七瀬姉妹と同居しているという設定もテンプレート以上の掛け合いがなく意味が薄いです。会話によってヒロインのキャラを立てようとしているようには見えませんでした。
 惹かれあう過程は存在しません。ヒロインは昔から主人公のことが好きで、主人公は告白された瞬間にヒロインのことを好きになります。
 細かいところでも描写が安定しません。まだきちんと知り合っていない相手をいきなり呼び捨てで呼んでみたり、町の人はみな知り合いと言いながら商店街で顔見知りはいないといって手をつないだり。
 シナリオサイズは小さくどれも中編といったところ(「えくすとら」はおまけ扱いなのかすごく短いです)。1周目でもせいぜい5~6時間しかかかりません。その範囲においても起承転結が上手いとは言えず、物語としての魅力に欠けます。
 選択肢の内容が妙にやる気がありません。今時、珍しい実際に選ぶまで誰が出てくるのかわからないスタイルですが、結局は何番目が誰、と決まっていますし意味がないです。これならマップ移動方式の方が見栄えも含めて良かったのではないでしょうか。
 Hシーンは各ヒロイン2~3回。全体的に唐突に発生する感があります。尺は短くあまりエロさは感じません。とても個人的な疑問ですが、料理もしていなければ台所にもいないヒロインの裸エプロンにはどれくらいの価値があるのでしょうか。

 ここまで書いてきて例外なのが桜葉小波シナリオ。他シナリオとは全てが違うと言っても過言ではありません。
 サブキャラの郷土史研究会の会長を絡めることによって掛け合いは秀逸となり、ヒロインの個性も際立っていきます。笑いのスパイスも忘れておらず要所要所で、くすりとさせてくれるでしょう。
 惹かれあう過程も主人公、ヒロインともに順を追ってしっかりと書かれているので納得しやすいものに仕上がっています(ヒロインの方はより好きになる描写ですが)。
 Hシーンも純愛系としては驚くほどのエロさ。何も知らないけれど妄想力だけはたくましいヒロインがHに目覚めていく様子は実にエロいです。
 本当に同じパッケージに含まれるとは思えないほどシナリオに落差があります。

 イベントCGは差分抜きで89枚(手をつないでいる手だけアップのCG4枚含む)とシナリオサイズと同様にやや寂しいです。純愛系のためか、ミヤスリサ氏を起用しながら(可愛さ重視にしても)明らかなエロ度不足はとてももったいなく感じます。せっかく可愛い制服をデザインしていながらHシーン的には半脱ぎ表現などにおいて活かされていないのも残念。
 立ちCGは意外と表情変化が少なく、変わる時はポーズとともに変わるように見えました。

 音楽はピアノが耳に残る作曲傾向で、田舎が舞台の作品としては疑問符がつくような気がしないでもないです。
 ボイスは立ちCGのあるキャラ限定。主人公にはありません。演技の方は特に問題なし。

 まとめ。デビュー作にしても心許ない作品。未経験者ばかりで作っている訳ではないだけにフォローもちょっと難しいです。J・さいろー氏のシナリオだけは別ですけど、メインではない1本だけでは売りとするのもしんどいものがあります。ボリューム的にも苦しく9240円の価値は? と聞かれると……。
 お気に入り:桜葉小波
 評点:55

 キャラ別感想はちょっと書くのが難しそうです。