放課後の不適格者（Ｎｏｓｔａｌｇｉｃ Ｃｈｏｒｄ）
秋華学園に通う常盤イツカはいたって平凡な日々をすごしていた。級友たちとの心温まる日常。だが、ある時それは一変する。学園の中にあってイツカたちのクラスだけが非日常の中へと叩き込まれた。築いてきた絆が強固であればあるほど苦しみは大きくなる、まさにそれは地獄そのもの。クラスメイトの額が輝く時、イツカは望むと望まざるに係わらず放課後の不適格者になる。
Ｎｏｓｔａｌｇｉｃ Ｃｈｏｒｄのデビュー作は健速氏を起用してのシリアスなアドベンチャー。
購入動機は設定に少し惹かれるものがあったから。
初回特典はドラマＣＤ「放課後の不適格者－Ｐｒｅｌｕｄｅ－」。しかし、盤面が地味に読みにくく「ＰＲＥＬＵＤＥ」としか書かれていないのでゲームディスクと区別がつきにくいです。インストールの時も戸惑いました。予約キャンペーン特典は「放課後の×××らぶらぶえっちあぺんどでぃすく」。
ジャンルはわかりやすいアドベンチャー。
足回りはデビュー作にしてはそこそこ、というところ。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが、選択肢間が長いこともあって相対的に遅く感じます。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能でそれなりに戻ることができます。ロード直後にも使用できます。
一番新しいデータをタイトル画面からそのままロードしてくれるコンティニュー機能搭載。ほんのひと手間ですがあるとやはり便利です。
シナリオは色々と不足しています。初回特典を見てもわかりますが、本来必要と思われるパートがかなり削られています。平穏な日常と非日常の落差が重要かと思うのですが、いっそ見事なほどａｆｔｅｒばかりでｂｅｆｏｒｅが描かれていません。描いている場合も順序が完全に逆で事態が過ぎてから追いかけるように補足するケースがほとんど。これが徹底されていてプレイヤーの感情移入をとても難しくしています。
全体的にご都合主義が目立っていて、それを言い訳するかのようなテキストも散見されます。説得力というものがおよそ多くのシーンで欠けていて、入り込むよりもむしろ、弾かれてしまうことが多いです。ライターの描きたいものが先行しすぎていて、それ以外との乖離が起きているように見えてしまいます。テーマにあまり関係ないパートはシリアスなシーンであってもお世辞にも力が入っているとは言えませんでした。
シナリオ間の雰囲気に差があってなかなかに戸惑います。同じ世界を描いているとは思えないほど緊張感に差があります。こんなところでも都合の良さを感じる展開になってます。
惹かれ合う過程はとても難しいです。過去を振り返ればあったかもしれない、という感じの後出し感がすごいことになってます。中には、あるらしいが説明されないケースまで含まれています。ここでも説得力がとても怪しくなっています。
戦闘シーンは実に風変わり。設定のためとはいえ、敵である存在と仲良く倒す方法を相談しながら戦います。しかも、１００％。救いのないシリアスな展開のはずなのですが、あまりそのようには感じません。間違ってもまともな意味で戦闘描写に期待してはいけません。
Ｈシーンは一応あります、程度。とてもエロ度が高いとはいえません。予約キャンペーン特典の「放課後の×××らぶらぶえっちあぺんどでぃすく」の内容は鑑賞モードから見る仕様になっています。設定的にはパラレルワールドのようです。
ＣＧは良いものもありますが、安定度に欠ける傾向があります。特にイベントＣＧの方が顕著で中には落差に少し驚くこともありました。枚数は差分抜きで８９枚と控えめです。これは予約キャンペーン特典を含んでのもので除くと７７枚になってしまいます。デビュー作にしてもいささか寂しい数字です。
立ちＣＧは良いカットが多く、表情がとても魅力的です。メインとサブキャラに大きすぎる違いを感じないのも作品を考えると好印象です。
音楽は本作で一番の売りとなっています。作品の雰囲気に合致した切ないピアノメインの曲は実に聞き応えあり。本作のイメージを高める大きな役割を果たしています。単体でも十分に聞ける仕上がりです。個人的には特典はドラマＣＤでもアペンドディスクでもなくサウンドトラックにして欲しかったです。
ボイスは主人公以外はフルボイス。主人公にもボイスはあるのですが扱いが少し変わってます。基本的には主人公以外の視点の時に喋るのですが、どういうことなのか主人公自身の視点の時でも喋ることがあります。まぁ、パートボイスと思っておけば大きな問題はないでしょう。演技の方はちょっと問題のある方がいらっしゃいます。中でも末永晴香役の有栖川みや美さんはちょっと甲高すぎる声質が賛否を分けそうです。
まとめ。テーマ優先すぎる作品。純粋にテキスト量が足りていませんが、あったところでライターがしっかりと書いたかは微妙なところのように思います。ネタはまだしも構成の段階で大きな難があるのではないでしょうか。尺を使ってしっかり事前も描かないことには感情移入は難しいです。描いても後出しでは効果は弱くなってしまいます。作品としてのボリュームもかなり少ないです。
お気に入り：特になし
評点：６０
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
１、舞弦朝顔
妹との差があまりに激しすぎます。見た目からしてもうあまり双子に見えないくらい。イベントＣＧではさらに格差が広がっているような気がしてなりません。特に神社で２人で座っているカットはちょっとしんどいものがあると思います。ラストで異世界の朝顔が出てきてもインパクトが弱いのが残念ですね。夕顔の方が敵になられた時にショックですよ。こういうキャラはやっぱり平穏な時の姿がないのが厳しいですよね。逆境に弱いからほとんどいいところが出ない。本当なら夕顔が死んでいない限り、晴香がやった、みんなを裏山に連れて行くのは朝顔の役目ですよ。
２、本並栞
最初のＨシーンに仰天しました。由佳と純が様子を見に戻ってきたらどうするつもりだったのでしょう。あまりにも配慮がなさすぎます。しかも、Ｈシーンの演技が微妙に下手な感じですし。ひょっとしてそういう演技なんでしょうか。
探偵相手にアリバイ作りが非常に迂遠な感じでした。あまりにも平和すぎてどうしたものか、とちと途方に暮れかけました。最初に朝顔シナリオをやったのが良くなかったですね。まぁ、逆でもあまりにハードに感じて驚くでしょうけど。
３、木霊奏
普段の姿がいちいち可愛い委員長……だったんですけど、なぜかただひとり変態枠を頑張っちゃってます。どうしてこんなことに。最後までそれを貫き通すあたりなんだかなぁ。笑いに昇華するほど振り切れているわけではないのが反応を怪しくします。
２年前に果たして何があったのか。さっぱりわかりません。繰り返し繰り返し使われるんですけど真相は不明。
フェイントをかましての死にざまがすごい。能力を使ったからかな、なんて言い訳っぽく言っていましたが、それを考えると主人公はどうなっているのでしょうね。死の危険どころか副作用さえ全くないというあたり。
４、末永晴香
最後は独壇場って感じですけど、ちょっと演技が心もとないですね。もうちょっとなんとかならなかったものかな。
いい役をもらっています。ラストは実にヒロインらしくなります。おかげでこのシナリオを終えると夕顔の存在感がかなり薄くなってしまうことに。この効果がちょっと残念です。