イモウトノカタチ(Sphere)

 美馬雪人(変更不可)は故郷に帰って来た。15年ぶりの帰郷は深い感慨をもたらさなかった。かつて鵠見市を襲った大災害。雪人はその生き残りなのだが、おぼろげな記憶しか残っていない。生き別れの両親と妹。果たして雪人が迎えるのはどんな結末であろうか。

 Sphereの新作はデビュー作に続いて妹にスポットを当てたアドベンチャー。
 購入動機は他にあまり惹かれるものがなかったため。
 初回特典はオリジナルサウンドトラック。予約キャンペーン特典はボーカル曲ロングバージョンの入ったマキシシングル。

 ジャンルはごく普通のアドベンチャー。
 足回りは4年も経っているせいか、さすがに向上しています。メッセージスキップは既読未読を判別して標準程度のスピード。アイキャッチがあまり高速化されないので使い勝手がもうひとつ。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能でいつでも最初まで戻ることができます。ゲーム中にクイックロードのアイコンにカーソルを合わせるとサムネイルが浮かび上がってなかなか便利です。

 シナリオは未完成臭がプンプンとします。世界観から始まってキャラクターに至るまで色々と伏線を張っていますが、碌に回収することなく終わってしまいます。なんか開き直りさえ感じられる締めくくりなので、あるいは最初から投げっぱなしにするつもりだったのかもしれません。
 複数ライター制の弊害が見事なほどに発生しています。キャラが違ったり、ポジションが違ったりは朝飯前。メインシナリオとそれ以外という感じでシナリオ間の乖離が激しいです。正伝と外伝というくらい開きがあります。未完成っぽさも加わって拍車をかけています。出来そのものも決して良いとは言えません。
 「イモウトノカタチ」というタイトルからすると妹三昧な内容を思い浮かべますが本作は意外とそんな作品ではありません。フェチっぽさも特になく、たまたま妹っぽいヒロインが揃いました、程度です。
 日常の掛け合いはほどほどに盛り上がります。笑いもそれなりに意識されているようで賑やかです。ただし、主人公のキャラが設定とライターによる落差と二重の意味で安定しないため各所でテンポを悪くしています。特技が取り乱すこと、みたいな主人公にしたのはどうしてなんでしょうか。
 惹かれあう過程は総じて苦しいものがあります。いつの間にかが大勢を占めていますが、いずれも疑問符がつきます。中にはそもそも恋していないという大胆なシナリオも存在するくらい。
 Hシーンは各ヒロインばらつきがありますし、それぞれにも濃淡があります。おおよそは2回程度でそれ以上ある場合はシナリオ上、必要なシーンだったり分割っぽいシーンであることがほとんどです。エロ度は見た目通りそれほど高くはありません。禁断の恋で少しだけ。

 CGは複数原画家をそれほどは感じさせない仕上がりになっています。背景を含めて総合的な完成度は高いですが、デビュー作が良すぎたためにやや見劣りするのは残念です。ただし、総枚数は90枚越えと大きく飛躍しています。
 立ちCGはメインキャラだけでなく、サブキャラも本当に負けないくらい丁寧にデザインされています。特に橋本タカシ氏デザインのサブキャラはヒロインを食いかねないくらい存在感があります。それだけにヒロイン担当が1人だけなのは何か納得できないものがあります。

 音楽は耳に馴染むような穏やかな曲が揃っています。それほど色々な状況がないせいか、多彩なバリエーションというものはあまり感じにくくなっています。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。キャラに合った声優の演技が安心感を与えてくれます。中でも、ミータ役の杏子御津さんのハイテンションな演技はネタとも相まって実に聞き応えがあります。

 まとめ。タイトルほどには属性を意識させない作品。実際これぞ妹みたいなヒロインは見当たらないような……。シナリオに対するこだわりの弱さは色々と残念。
 お気に入り:ミータ
 評点:60

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、瀬名美優樹(神志那美幸)
 初っぱなからプッシュが半端ない娘さん。私はわりと気に入ったから良かったですけど、そうでない人はあまりよろしくない出だしですよねぇ。まぁ、妹として当たりの1人であることを知れば納得ではありますけど、この時点ではわかる訳もないし。
 立ちCGは可愛いけど可愛くないという微妙さがあると思います。そこがいいと思うんですけど、単純な可愛さだとちょっとねぇ。双子の真幸に完全に水を開けられているような。
 親善大使のイベント、二人三脚で10キロマラソンってどんな拷問ですか? どんだけ時間がかかるかわかったもんじゃないと思いますけど。少なくとも体育会系の参加者連れて来ないと完走もままならないような気がするんですけど。どう考えても賞金が必要なレベルですよ。

2、澄稀あやか
 衝撃の部外者。話に何の関係もありません。澄稀製薬のお嬢さまというところがオーラスあたりに意味を持ってくるのかと思いきや、ホントの娘じゃないわ、最終シナリオは投げっぱなしだわで踏んだり蹴ったり(?)。エロいのがせめてもの救いでしょうか。個人的にはミータの引き立て役に見えました。他シナリオでは存在感がないし。

3、美馬千毬
 全体的に意味がわかりません。最後はブッチギリ過ぎです。あやかと同じくオーラスに繋がらないため本当に意味不明。
 妹にするためという気が触れたような理由で千毬を抱く主人公は後ろに手が回った方がいいと思います。

4、涼宮真結希(神志那真幸)
 良いポジションですが、登場が遅いせいか出番を取り戻そうとパワープレイに走るため色々ともったいない。設定も開示されないためフォローがきかないのも痛い。単純にイベント不足。

5、ミータ
 クリア制御のかかる真打ち。ロボというのが様々な意味で一線を画していてヒロインをリードしています。本物の妹ではないのに引けをとらないという恐ろしさ。ネタキャラとして笑いも牽引してくれるので実に頼もしいです。最後の最後までミータに頼るオチでした。