痕~きずあと~リニューアル(リーフ)

 柏木耕一(変更不可)は父親の四十九日を前に従姉妹たちの住む隆山を訪れていた。美人4姉妹に囲まれた人も羨む状況であっただが、わずかな滞在の間に思わぬ事態に直面させられていく。雨月山の鬼にまつわる逸話とは。

 リーフの新作は1996年に発売、2002年にリメイクされた名作「痕~きずあと~」のリニューアル版。
 購入動機はリニューアルの予想として懸案のCGが良さそうだったのとオリジナル版が同梱であったから。
 初回特典は「痕~きずあと~」、「雫~しずく~」オリジナル版。

 ジャンルは昨今では少なくなったビジュアルノベル。周回を重ねる度に選択肢が増えていきます。
 足回りはオリジナル版に比べれば良くなっていますが老舗ブランドの最新作としてはかなり物足りないです。メッセージスキップは既読未読を判別して速度はとても遅いです。読めそうなほどのスピードで、繰り返しプレイするタイトルとしては率直に疑問を感じます。スキップのアイコンが小さいのでクリックもしづらいです。合わせて選択肢後にスキップが継続しないことも使い勝手の悪さを助長しています。ここだけならばオリジナル版の方がましなほどです。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。戻れる量はそれなりに多いですがジャンルを考えると少し不足しているように感じます。ロード直後に使えないのも不便です。
 クイックセーブ&ロード機能が用意されていないのも快適とは言えないプレイ環境の一因。スキップ同様にセーブ&ロードアイコンもクリックしづらいです。
 ボイスが発声されるとクリックしてもキャンセルされず次の音声までひたすら鳴り続けます。コンフィグでも調整できないのはさすがに不親切ではないでしょうか。
 オリジナル版のしおり制は廃止されました。まっさらな最初から再び始める場合はインストールし直す必要があります。
 「雫~しずく~」と特典の2作は本編と一括のインストール扱いです。気に入ったものだけ残したりできないのはとても扱いにくく感じます。

 シナリオは「転」から始まる物語。時代もあってか1本のルートは短めで「起」、「承」にあたる部分は後追いの形で語られていきます。良く言えばコンパクト、悪く言えば性急な面があります。ゲーム中の期間も3日以内とかなり短いです。
 エンディングを迎えることで新たな選択肢とルートが開けていくスタイルを採用しているので好みのシナリオ(ヒロイン)から進むことはできません。開示される情報が少しずつ増えていくのと題材によってミステリー色が強いです。
 テキストはとても読みやすく、それでいて込められた情報が多いお手本のようなものに仕上がっています。キャラもしっかりと立っていて魅力的です。尺の問題から掛け合いは控えめですが、高い緊張感は特筆に値するほど。ショートストーリーを読み進めていくような感覚があります。
 惹かれ合う過程はすでに述べたように「転」から始まる物語ゆえに期待できません。また、そこを踏まえて考えてもヒロインによって差があります。
 シナリオのリニューアル内容は主に微調整。クレジットがないことから考えるとオリジナル版のライターである高橋龍也氏ではないと思われます。変更点は文章を削ったり、追加したり、選択肢を増やしたりしていますが一点を除いて物語に大きなメスを入れることはしていません。その一点は設定を大きく改変するもので、いわゆる「○○もの」と言われる作品ジャンルが揺らいでしまうほどの激しい変化です。わずかな追加ですが設定を大事にする人にはとても残念な変更かと。
 追加された後日談はしっかりとシナリオのクレジットが入っています。
 内容はオリジナル版のライターとの差があまりにも明確。テンポが悪く読みにくい、物語はなかなか進まない、掛け合いは盛り上がらない、おまけシナリオのようなノリ、重要な設定を勝手に変えてしまうと目も当てられない惨状を迎えています。なにより、存在の必要性が感じられないのがツライです。オリジナル版を大事にする人ほどプレイしない方がいいでしょう。
 Hシーンは純愛と鎖付き(時期に応じた配慮)の真逆の方向が用意されていますが、ここが売りの作品でもないので期待しない方が無難です。リニューアルによってわずかばかりですが増量されました。
 
 CGはオリジナルのイメージを大事にして良質のリファインが施されています。原画家が変わっているにしては驚くほどイメージにブレがありません。なまじ過去のリメイク版の出来が厳しかっただけにより良く見えます。CGのサイズが大きくなってもきちんとイメージが膨らんだ形になっているのも好印象。追加のCGも違和感はありません。
 気になるのは背景。実写ベースであったオリジナル版からきちんと作画したものに変更されています。それ自体は問題ありませんが、ジャンルを考えた場合に実写ベースに比べてインパクトに欠ける嫌いは否定できません。コンシューマーも含めてシリアス系ノベルの作法と言っていいだけにこれを製作スタッフがどう考えていたかが少し気になります。ただし、状況によるインパクトを求められていないものに関してはオリジナル版よりも配慮の感じられるものが多かったです。
 オープニングアニメーションが用意されています。その出来はリーフであることを考えると可もなく不可もなくなレベル。気になるのは本作で「痕~きずあと~」に初めて触れるプレイヤーのことをまるで考えていないこと。ネタバレ全開の映像が強制的に流れるのは(スキップはできますが)どうかと思います。

 音楽はオリジナルからのアレンジが中心です。ただ、楽器や音色が増えたことで思い入れがある人ほど引っ掛かる可能性も感じられました。アレンジは全体的に明るさがプラスされた感じです。緊張感があまり感じられなくなったようにも。
 不思議なことに「ToHeart」の曲が使用されています。これもリニューアルの方向性を示しているのでしょうか。
 総括すれば曲関係は初めての人ならば全く問題ないでしょう。むしろ、心にしみ入る曲の数々が用意されています。
 初のフルボイス化ということで主人公以外には当然ボイスが用意されています。過去の名作だけに賛否は分かれそうですが、残念なのは純粋な演技がもう一歩な声優がキャスティングされていること。若干名なだけに惜しまれます。

 まとめ。独特の空気が薄らいだリニューアル作品。間口を広げる処置なのかもしれませんが、その分だけ魅力が欠けてしまったようにも。この手の作品に不可欠となってしまっている余計な改変があるのも残念。値段やボリュームも問題。オリジナル版が入っているのが救いですが、これも初回版のみ……。
 「痕~きずあと~」未経験の方には過去の名作に触れる良い機会ではないかと。それでも8800円はやや高めですが。
 お気に入り:柏木千鶴、楓
 評点:値段とリニューアルということを考えると50、本作が初めての方は80
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、柏木千鶴
 やはり1周目のバッドエンドへの流れは白眉ですね。短いシナリオながら状況証拠的にも千鶴さん的にも勘違いが止むを得ないシチュエーションができあがっています。千鶴さんからすれば自分たち以外に鬼がいるというのはまさに想像を絶した事態でしょうから。
 初めて会った時の記憶は今プレイしても切ない。バッドエンドだとさらに「夜の風」の威力が増すような気がします。
 声には最後まで微妙に慣れなかったですね。メイド編のギャグオチ担当のような演技が特に噛み合わないものを感じさせました。

2、柏木梓
 かなりフォローされました。Hシーンも追加されたし、さながら代名詞になりそうな蹴りの立ちCGも悪くない。それでも、4姉妹の中では不遇です。日吉かおりの存在もとてもプラスとは言えないし。過去との絡みも誰よりもない。まぁ、シナリオの構造的問題だよねぇ。あくまで梓からすれば。
 本来、お気に入りでなかったせいかボイスは最初からすんなりと受け入れられました。ほぼイメージ通り。

3、柏木楓
 性急であるというこの作品全体の弱点を除けば良いシナリオです。千鶴シナリオ同様に勘違いがひとつのポイントになっていて、それを助長する耕一の楓に対するイメージ構築が無理なくされています。リニューアル版はきつい目つきがより強調されているだけになおさら。そして、だからこそはにかんで笑った時が破壊力抜群になる、と。
 半ば千鶴シナリオとルートを共有しているのが良い効果を上げています。質の高い物語はここに誰かがいれば、という仮定を掲げやすく、また効果も上げやすいです。特にミステリーや戦いといった要素が絡むものは。それは次の柳川シナリオのラストにも表れています。
 エディフェルの美麗さは予想を超えたランクアップを果たしていました。ホント、どうしてこんなCGを用意しながらあんな過去編をくっつけるかねぇ。意味不明ですよ。
 声は最初いい感じかと思ったんですけど、それはぽそぽそ喋っている時だけでした。強く感情が出る時になると途端に馬脚を現したような演技に……。残念です。

4、柏木初音
 オリジナル版の時点でそうでしたが、オチにあたるシナリオであるせいかどうも強引なシナリオでした。最も主人公が情けないというのも画竜点睛を欠いたように見えてもったいなかったです。ショートシナリオ構成の難しいところでもあります。
 梓ほどではないですが、CGはフォローされている印象。まぁ、リズエルの方ですけどね。
 ボイスは一番イメージに合わなかったですね。演技自体は良好だったんで聞く内にこれはこれで、と思えるようになったのが楓とは違って良かったです。

5、高砂風花、六花
 汚点。設定を勝手に変えるな。