恋×シンアイ彼女-SCHOOL GIRLS STORIES-(Us:track)

 國見洸太郎(変更不可)は幼い頃から作家志望であったが、ひとつだけ苦手なジャンルがあった。それは恋愛が主題となる作品。幼い頃の苦い記憶が今も影響を与えているのだ。ところが、その苦い記憶の対象がふらりと現れて……。

 Us:trackのデビュー作は学園を舞台にした少女たちの物語。
 購入動機は体験版がそこそこ出来が良かったから。
 初回特典はオリジナルサウンドトラックと凛香の描き下ろし色紙。早期予約キャンペーン特典は星奏と彩音の描き下ろし色紙。予約キャンペーン特典はプロダクションノートブックとゆいの描き下ろし色紙。

 ジャンルはおなじみのアドベンチャー。
 足回りはデビュー作にしては平均程度。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、選択肢間が長いため体感的にはそれほど早く感じません。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。ただし、起動時にボイスをカットしてしまいます。ほとんど戻ることはできません。
 前回の続きから始める機能が搭載されています。

 シナリオは複数ライター制の影響が出ています。細かい担当はわかりませんが、各キャラのノリや全体的な雰囲気などルートによって差を感じます。
 本作は大きく2本のシナリオに分かれています。ヒロインは4人なので2人で1本と言ってもいいかもしれません。まずは4人共通のパートから2本に分岐、それぞれを2人のヒロインが共有し、そこからさらに2本に分岐する構成です。ついでに書いておくと最初に分岐した2本のルートは長さに違いがあるため、プレイ順によってはかなり遠回りな印象を受ける可能性があります。
 日常の掛け合いはそこそこ賑やかでテンポも良く楽しめますが、ライターによってクセが異なるため違和感を感じることもしばしば。また、共通のルールのようなものが定められていないのか、それとも守っていないのか、矛盾するような描写も時折あります。
 惹かれ合う過程はほとんどありません。なぜなら4人中3人は物語が始まった時点で主人公に非常に高い好意を抱いているからです。気付いていない主人公に答え合わせが待っている程度。あまり期待しては行けない要素でしょう。
 Hシーンは全て唐突に発生します。場所も偏っているため、世界が違うとさえ感じることも。しかも、ノルマのように複数回をこなすために空虚な気持ちになりやすいです。テキストもお世辞にもエロいとは言えない上、大昔のゲームのようにヒロインたちは処女でも最初から早々に感じ始めます。

 CGは本作最大の見せ場と言っても過言ではないでしょう。丁寧に塗られたCG群は実に美しいです。原画家は4人で絵にもそれぞれ個性がありますが、上手に調和させています。背景も味があってキャラクターに負けない魅力を備えています。立ちCGの豊富な表情は掛け合いを盛り上げる役に立ってくれています。セリフの最中にもころころと変わってくれますが、テキストの切れがそこについてこれていないようにも。

 音楽はピアノメインの素朴な曲が耳になじみやすく、切ない情感をうまく書き出しています。サントラを特典に付けるのも頷ける完成度です。単独でも十分に聞き応えがあります。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。ただし、終章シナリオではなぜか主人公にもボイスが用意されています。それまで一切、喋らないのに急に喋り始めるため、かなり違和感があります。演技は各キャラのイメージをとても大事にしてキャスティングされていると感じます。およそ見た目からイメージ通りの声を聞かせてくれます。逆に言えば予想を超えた演技というものはないですが。

 まとめ。デビュー作らしい作品。CGが良くてシナリオが足を引っ張っている、というのはパターンにはまったようによく見ます。それでも、背景や音楽などに非凡なものを感じるだけにもったいないです。シナリオは小細工をするよりも、まずはしっかりと読める物語を人数分用意することを考えた方がいいのではないでしょうか。本作の構成は抜群に面白いテキスト、物語でない限りあまり良い印象は残らないと思います。
 お気に入り:小鞠愛美、森野精華
 評点:60

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。








1、姫野星奏
 なんというか色々と恐ろしいヒロインです。天然なのか計算なのか、あるいは双方なのか。あまりにやり過ぎの秘密主義。自分自身に箝口令を引いている娘さん。なんと小学生の時からですので、その深度がわかろうというものです。考えてみればそんな時から主人公は蟻地獄に落ちていたんですねぇ。それから果たして何年でしょうか。正直、人生を狂わされてますよね。いくら自分で決めたにしても小学生の時のことは気の毒でしょう。
 再会してからもその動機が怖すぎます。星の音を聞きに帰って来た、なんて言っておいて実際にはiPADを取り戻し、コンディションを整えに来ただけ。それ以外は全てオマケ程度の扱い。実際のところ、グロリアスデイズに呼び戻されるのは予定調和なのでしょうし、口ぶりからすると約束もしていたようです。
 再々会してもやっぱり似たような動機。いくら補償があるにしてもいい加減にしなさいよ、というレベル。主人公は完全にもてあそばれる男です。ホステスに金づるとして捕まっているような状態ですよ。まぁ、なぜかグロリアスデイズが解散していると知って態度を180度変えるのですから本人にも十分すぎるほど問題があるでしょう。同情するにはあたりません。そして、やっぱりいなくなる。もはや星奏の持ちネタの域デスヨ。
 最後にわかる驚愕の事実。手紙に返事をくれなかった最大の理由は手紙を書く技能に乏しいから。だから書けないし、書かない。書けることだけわずかに書いたのは20歳を何年か過ぎた後でした……。主人公は話を聞いたにも係わらず気がついていなかったです。
 ラストに星奏がいきなり隣にいましたけど、主人公の未来は果たして明るいものになるのでしょうか。なんかホラーっぽく感じてしまいました。子どもを抱えて奥さんを定期的に探す、なんて未来図が頭をよぎって仕方ありません。

2、新堂彩音
 基本的に迂闊が服を着て歩いているお方。卒業アルバムにラブレターを挟む方法は下の下でしょう。数年単位で一度も開かないのは確かに主人公が悪いにしても、初めて開くのが3日~1週間とか1ヶ月程度なら余裕でありえると思います。仮に3日としてもその間、ひたすら待つ自分自身を想像してみるべきでした。ついでに言えば入れるところを見られる可能性だってあるのだし。
 最後のカラオケ大会オチはまさか星奏シナリオと関連しているとは思わずびっくり。まさか対抗ヒロインだからあんな無茶な展開になったのでしょうか。どう考えたっておかしいでしょ、アレ。服飾科はそんな天才達の集まりなのか。
 誰もいない自宅に彼氏を呼んでおいてHしたくないとおっしゃる剛の者。

3、小鞠ゆい
 えーっと、どう見ても小動物ポジションでした。ということで色々と無理。

4、四條凛香
 なんかテキトーに用意したイベントCGに合わせて無理矢理シナリオを書いたような内容でした。それくらいとりとめなかったですし、イベントCGの方もなんかそんなでした。
 結局、無能なだけのヒロインというオチ。
 制服の下に黒の下着を着ている御仁。正直、あっけにとられましたよ。あの格好で恥ずかしそうにされてもなんか微妙でした。

5、小鞠愛美
 全ヒロインよりも魅力を感じるおねーさん。声優もかわしまりのさんですしね。署名集めの時は冗談ではなく、奥の手として発動してほしかったです。間違いなく戦力になりますよ?
 なぜか、終章では出てきません。プロダクションノートに幻想とか書かれているので、あるいは結婚してしまったのかもしれませんね。

6、森野精華
 若さを加味しなくても星奏よりも彼女の方がいいです。星奏の方は本当に主人公を見ているのか怪しいところがあります。恋愛によって生じる化学反応だけが目的なのではないか、というような。それに捨てた回数を考えれば人間としてどうかと思ってしまう人格をしていますよ。天然だからか恥知らずだし。
 精華の場合は間違いなく主人公だから見ているのだし、勘違いで目が覚めるには十分なほど時間が経っている。ハッキリ言って主人公にはもったいないくらいの娘さんですよ。でも、彼女のルートがあっても本作のライターでは碌なことにならない気がしますけど。