言の葉舞い散る夏の風鈴(シルキーズプラスDOLCE)

 
入学式の日。波瀬督(変更不可)はその特技、ダメ絶対音感によって身近にいた少女が人気声優であることに気がついてしまう。ファンの仁義として秘密は守るものの、自身も大ファンであった督は引退したという言葉に動揺してしまう。どうすればいいのかわからなかったが、事情を知らないクラスメイトから声優部に入ってほしいと頼まれたことで何かが動き出す。

 シルキーズプラスDOLCEの新作は声優部という珍しい部活を舞台にしたラブコメディ。
 購入動機はライター買い。前作がなかなか良い出来だったので。
 予約キャンペーン特典は音楽CD。初回特典は特になし。

 修正ファイルが公開されています。それほど重大な内容ではありませんができればあてておきましょう。

 ジャンルはおなじみのアドベンチャーですがゲーム性はほとんどなし。選択肢はわずかにひとつしかありません。
 足回りはなかなか物足りない感じです。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、そうではない未読専用スキップアイコンもあるので注意が必要です。
 バックログは別画面にて行います。簡易と通常の2種類が用意されていますが、どうも使い分けの意図みたいなものがわかりかねます。少なくともどちらも立ちCGなどが再現されるタイプではありません。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがあまり戻ることはできません。ロード直後も使用不可です。
 前回の続きから始められるいわゆるCONTINUE機能は用意されています。

 シナリオはインパクトに欠ける面があります。声優部という一風変わった部活動ながら、その中身は演劇部と大差なく新鮮味はそれほどありません。声優という仕事に関する内容も既出に感じることが多いのではないでしょうか。少なくともお仕事ものならではの濃密さは感じられません。
 また、非常に割り切った作りをしているせいもあって、主題以外についての遊びが全くと言っていいくらいありません。エンディングも余韻を感じる間もそれほどなければエピローグも事実上ほぼなしという寂しさを感じる作りになっています。
 演出としても難しいのは稽古シーンで、繰り返し行われるこれにおいてヒロインたちは基本、少しずつうまくなっていかないといけません。その結果、同じテキストの演技を何度も何度も聞くことになります。本作の主人公に匹敵する声優好きであれば何の問題もいないのでしょうが、実際にはなかなかそうもいかず大変です。醍醐味を味わおうとなったら声優の下手に聞こえる演技から、それが上達していく段階を経ての演技を余すことなく聞かないといけませんから。
 日常の掛け合いは声優部に関する内容が基本になりますが、ライターの得意なところが出ている感じでほどほどに笑わせてくれます。
 一方で惹かれ合う過程はなかなか苦しいです。選択肢も好意の発露ではなく台本の好き嫌いのみ。2人で一緒に練習するから仲良くなるというか、他とは仲良くなりようもないという身も蓋もなさで、動機もきっかけもなかなかつらいものがあります。
 Hシーンは各ヒロイン平等に3回ずつ。エロ度は純愛系にしてはそれなりに頑張っている方だと思います。
 本作はそれなりに誤字脱字があります。同じパターンが複数回見られるのでライターのクセみたいなものが多いのでしょう。

 CGは安定度に乏しいようです。慣れなのか、それとも作業期間に開きがあるのか、どうも安定しているキャラとそうでないキャラに分かれているように見えます。立ちCGはとても安心できるクオリティを感じるのですが、中には別人級にカット毎に変化を感じるようなこともあります。特に集合系のCGにその傾向が見られるように感じました。基本はとても魅力的なだけに残念です。
 Hシーンは可愛い絵柄にしては意外なほどエロく驚かされます。

 音楽は主題のせいなのか、あまり前に出すぎないよう気を配っているように感じました。印象の強すぎるような曲は数を絞って、日常はそれほど耳に残りにくいような曲を中心とする、というような。果たして思惑がどうであったのかはわかりませんが。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。その主人公もいわゆる笑いをとるようなネタ的な箇所では用意されていました。時には用意されていなくて不満に思う箇所も。
 ヒロインたちは主題が主題なだけあって、実に様々な演技を聞かせてくれます。通常はわざと下手に演じる演技など耳にすることはなかなかないでしょうから貴重な機会であると思います。

 まとめ。売りが弱い作品。声優という題材でありながらもうひとつそれを長所として活かしきれていないところがあります。強みがあまり強みになっていないというか。物語性の弱さも気になるところです。
 お気に入り:演劇部メンバー
 評点70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、野原ゆう
 恐るべきエロスの才能を秘めた娘さん。ぶっちゃけ調教系の作品ならこの娘を対象にしたい、というくらい。演技の没頭ぶりもヤバい方に突き抜けてます。あんなことしたら動画を撮られて一生、奴隷にされてしまいますよ。休み時間に人前で官能小説を嗜んでいるだけで十分すぎるほどレベルが高いというのに。
 しかし残念ながら本作は純愛系なのでゆうのエロの才能についてあんまり掘り下げられません。もうちょっとHシーンがあったらとんでもない所まで行ってしまいそうな気がするんですけどね。

2、菩提樹仰子
 ひとりだけ世界から浮きまくっていて存在感がとっても怪しいです。他のヒロインと比べて色々と現実味がなさ過ぎ。現役声優の方がまだいそう、とか思えそうなありえなさ。二留している超金持ちの娘なんて日本中探してもちょっと会えそうな気はしません。
 どう考えても演劇部の先輩、百合ノ木真子の方が見た目、中身ともヒロインらしい。ついでに取り柄のエロさでも勝負したら負けそう。あのわがままボディは何もない分だけすごい嫌がらせレベルになってますよ。

3、百花奏
 車椅子なヒロインだけに色々と特別です。というか、さすがのリアリティのなさは仰子先輩にも負けておらず、なぜ練習もしたことがないのに演技がとてもうまいのか、全く説明がありません。車椅子なので体を鍛えているはずもなく、身体的にもそれほど優れた演技ができるとは思えないんですけどねぇ。なんだか演技に体力や下半身は関係ないと言わんばかり。
 せっかく健気で可愛い後輩なだけに応援したいところですが、どうにも感情移入が難しかったです。普通に車椅子少女との恋に葛藤や決意をさせてくれないあたりも残念でした。あと主人公がラストで空気みたいな存在の軽さなのはどうかと。

4、真額詞葉
 なんともわかりやすいキーキャラクター。主人公としてはMの悦楽を掘り出されているあたりが最も楽しい感じで、実際に向こうから距離を詰められてしまうと正直、困ってしまいます。だって、この主人公はもともと本気でそんなつもりではなかったんですから。途中まで説得力十分だったのに、タイトル画面から仕切り直しとなると、迷うことなく受け入れてしまい困惑しきりでした。
 加えて言うなら基礎的なお話を脱線しすぎで意味がわからないくらいでした。ひょっとして、「夏」の物語と銘打っているから意味不明なぐらい急いだ感じになってしまったのかしら。演劇部の先輩2人を放置しすぎではないでしょうか。卒業公演の代わりをなかったことにしてまで詞葉のオーディションの話は重要だったでしょうかね。とてもそうは思えないのですが。正直ラストの空々しさはなかなかのものでしたよ? 5人は一体いつ先輩2人の存在を思い出してくれるのでしょうね。