クナド国記(パープルソフトウェア)

 目が覚めた時、世界は反対だった。つまり、彼は吊るされていた訳だが、残念なことにそれが正当なことかどうか判断する記憶を失っていた。しかし、世界は彼の知るものとは明らかに異なっており、有り体に言えば随分と退化しているように見えた。どうやら彼は冷凍睡眠していたらしく、かなりの時間を飛び越えてしまったようだ。
 世界は鉄鬼と呼ばれる存在に支配されて久しいらしく、それこそが文明が大きく後退した理由だった。
 彼は自由と引き換えにかつての文化や幸せを今に復活させるよう求められる。果たして、彼の正体と行きつく先とは。

 パープルソフトウェアの新作は少し異世界転生ものを思わせるアドベンチャー。
 購入動機は原画の克氏とシナリオが御影氏だったので。
 初回特典は特になし。ただし、恐らくいつでもサントラ(2枚組)がついています。予約キャンペーン特典は複製色紙。

 ジャンルはいつも通りのアドベンチャー。
 足回りは変わり映えしません。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが、そこそこのスピードでそれほど早くはありません。ただし、使う機会はあまりないのでそれほど問題にならないでしょう。バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることができません。シーンジャンプもありますが使う意義はそれほどないでしょう。また、非常に面倒ですが、シーンジャンプでログ画面の先頭まで戻る、を繰り返せば恐らくスタートまで戻れます。全く実用的ではありませんが。ロード直後にも使用できます。

 シナリオは「アマツツミ」などと同じく、途中下車方式を採用しています。順番にヒロインがクローズアップされていって、いいところまで来たところで選択肢が出現。当該ヒロイン寄りの選択肢を選べば下車して個別シナリオに入ってそのままエンディングへ。そうでない場合はそのまま話が進行して次のヒロインの物語へ。これを繰り返します。本作ではヒロインは3人(4人)しかいないので分岐も2回しかありませんが。
 選択肢の位置はかなり各ヒロインのシナリオに食い込んだあたり(つまりはだいぶ後半)で出るので、整合性の面において、いささか苦しい面がない訳でもありません。どうしても気になる、というほどではありませんが。
 特殊な世界観ゆえに日常が楽しいです。散りばめられた謎を少しずつ解きほぐしていく様子は開示の塩梅も良く、なかなか先が気になります。緩急のつけ方もしっかりしているので退屈に感じる可能性も低いのではないでしょうか。ただ、それだけにもっと尺が欲しいと感じる人もいそうです。あくまでも日常に一部を切り取った感が強いくらいの分量なので。
 惹かれあう過程はヒロインによって差はありますが、全体的には苦しい項目でちょっとフォローが必要なところがしばしば見受けられます。これは設定上、どうしても厳しくなってしまう面もあるのですが……。
 Hシーンは各ヒロイン3回程度。ただし、展開の都合で本編には入れられず、タイトル画面からのアフターストーリー行きとなったものも含めて。パープルソフトウェアの過去作と比較してもなんとなく窺えますが、回数からもわかるようにエロ度はかなり控え目です。カント独自の女性優位な世界観も功を奏していないように見えます。そもそも、シナリオがなくパラレルストーリーとなったキャラもいるので期待は禁物でしょう。

 CGは各ヒロインの役割に応じて担当のカットが割り振られているように感じます。例えば双子ならば戦闘に関するカットがメインというように。同時にそれはシナリオの傾向と言ってもいいのかもしれません。Hシーンのものはそれほど多くないような。
 立ちCGは再び原画家2人態勢になったことで齟齬が生じているように見えます。表情というか、表現方法がまるで違うので単純に絵柄の差だけではない、同一世界の登場人物としてちょっと苦しいように感じます。しかも、それは一人だけで同じ原画家の担当する他のキャラはそんなことはないだけに浮いているようにも見えてしまいます。特別扱いなのだとしても、それが魅力や可愛さといったものに繋がっているように見えないのがしんどいところです。
 SDカットはこもわた遙華氏がいつながらの見事な和み原画を用意してくれています。こちらはまさしく作品の清涼剤として機能しています。
 背景や鉄鬼デザインはいつも以上に作品を支える大事なお仕事です。それをしっかりと感じられるだけの丁寧さが光ります。

 音楽は予想通りと言うべきか和風メインで統一されています。慣れてくると琴の音に癒されてくるようになるかもしれません。毎度のことですが、CD2枚組からも制作陣の自信のようなものを感じます。単独でも勝負できる曲が揃っていて、ボーカル曲も作品を代表するようなクオリティに仕上がっています。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。各キャラのイメージに合致したキャスティングがされていると感じます。

 まとめ。なんだか食い足りない作品。せっかく独特の世界観を用意してきただけにシナリオ3本では満喫したとは言い難いです。全体的なボリュームもちょっと寂しいような。やたらと桜がプッシュされているので春にプレイするのがいいかもしれません。
 お気に入り:優里、茜、葵、YOU
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、春姫
 パッケージにもあるようにセンターヒロインなのですが、どうも色々と不足がちな印象です。原画家の違いというのはもちろんですが、その扱いもなんだか間違った特別さを感じさせます。主にマイナス方向に感じやすいアピールが多いような。ヒロインはほぼ1人しか担当していないというのも悪目立ちしてしまった原因なのかなぁ。
 序盤の二面性としか言いようのない真逆の態度はどうにも消化不良ぎみです。あの短時間で警戒しながら好きになって告白して、それでいながら死んでも構わないという試練を与えるの? どうしたって無理があるような。あれが告白でない方がすんなりと納得できる話のような。
 いくら男がするとはいえ、膝枕があぐらとはどうなのか。CGもすごい角度がついているように見えますけど……。

2、茜、葵
 2人の戦闘シーンのCGが異様なくらいにカッコ良い。個人的にはこの作品の売りと言っても通じるくらいではないかと思っています。しかも、それが何枚もあるんだからねぇ。可愛いのに燃え要員でもあるなんて素直にすごいです。
 せっかくのお医者さんごっこはあんまり意味がなかったですね。2人が職業もその意味もほぼ理解していないのではね。

3、優里
 まさにこの世界への案内役。庶民代表みたいな感じなので感情移入しやすいです。双子ほどではないものの、予想よりも戦闘シーンのCGが雰囲気でていて良いです。
 どうでもいいですけど、喫茶店のエピソードの前振りから回収までなぜ、あんなに長いんでしょう。ちょっと忘れかけてましたよ。

4、燕
 なぜヒロインではないのか……。血液の無駄設定だけあってもねぇ。