見上げてごらん、夜空の星を~A sky Full of Stars~(PULL TOP)

 宙見暁斗(変更不可)は学園に住んでいる。故あって住むところがないからだ。そんな彼を人はこう呼ぶ「星を観ない天文部員」と。その由来は天文部の部室に住み着いていることと本来、天文部員でもないのに籍を置いていることから。つまり、世知辛い事情により両者の利害が悲しくも一致したのだ。しかし、かつての暁斗はそうではなかった。誰よりも熱心に空を見上げていた-。

 PULL TOPの新作はタイトル通り星空を題材としたアドベンチャー。
 購入動機は企画というか紺野アスタ氏、でしょうか。
 初回特典は星空観測ノート、動く星空カレンダー(PC)、天文部のしおり(ダウンロードコンテンツ)。予約キャンペーン特典はサントラCD。

 ジャンルはいつもの如くアドベンチャー。
 足回りは相も変わらず、です。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です。前の選択肢へ戻る機能はありますが、肝心の次の選択肢へ飛ぶ機能がありません。さらにスキップ起動中はセーブができません。一旦、解除する必要があります。当然、選択肢でスキップが停止するようコンフィグを調整すれば問題はなくなりますが、代わりに選択肢後も継続する機能が使えなくなります。改善を求めたいところです。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることができません。よってシーンジャンプという任意の場所に飛べる機能もバックログ表示範囲にしか使えないのでほとんど宝の持ち腐れです。また、起動すると発声中のボイスが中断され、止めると再開するという謎仕様は継続されています。

 シナリオはもはや伝統の複数ライター制の弊害が出ています。というより、ここのブランドはもはや、それを売りと考えている節があります。かつての良作「遙かに仰ぎ、麗しの」などのように。本作ではヒロインだけではなく、サブキャラにも基本的な担当を設定して受け持っているようにも感じられます。わざわざ年代までずらす念の入れよう(?)です。それゆえ、キャラクターが異なる、といった事態はそれほどありませんが、代わりにルートによって作品の雰囲気が大きく異なります。
 ヒロイン4人のうち3人までが幼なじみということもあってか、小学生時代の描写が充実しています。出会いからしっかりと書かれているので感情移入しやすいです。しかし、一方でこの時代の描写が活きない、活かすつもりのないヒロインが2人います。この場合は小学生時代のエピソードが途中で止まってしまってそのままという腑に落ちない展開をしていきます。
 日常の掛け合いはキャラクターの多さもあってか、かなり賑やかです。天文に興味があればなかなか楽しめるでしょう。笑いの方もそれなりに意識して用意されています。
 惹かれ合う過程はかなり苦しいです。すでに触れたようにヒロインはほとんどが幼なじみであるため、それは事実上、最初から好きとほぼ同義だったりします。いかに小学生時代の描写がしっかりしているとは言ってもそこまでではありません。あくまでダイジェスト程度に留まります。よって苦しくならざるを得ないのです。残る一人も芳しくない内容です。選択肢の他は一緒にいるから、ぐらいで。
 基本的に天文関係以外の内容がないこともあってか、描写が地味な傾向があります。加えて予定調和なシナリオが多めなので退屈に感じやすいところも。シナリオ1本あたりに盛り込まれている内容も少なめです。
 カウントが難しいところもありますがHシーンは各ヒロイン4回程度。エロ度はそれほど高いとは言えません。

 CGはやはり、夜空の表現が目を引きます。特典に星空カレンダーを用意するのも頷けます。反面、イベントCGにはほとんど星を含むものはありません。ヒロインの可愛さをひたすら追求しています。個性ある立ちCGが掛け合いに抜群の安心感を与えてくれています。似ていて覚えられない、なんて心配は杞憂です。
 作品の世界観を主張する背景は味のあるものが多く、実に見応えがあります。イベントCG同様に鑑賞モードに登録してほしいくらいです。
 題材のせいもあるのか、Hシーンの方は控えめな感じが窺えます。
 動的な演出は少ないのですが、全体的に動きがもったいつけるようなところがあり、結果として遅く感じることもしばしばです。

 音楽は題材の通り、しみじみと聞き入るような曲が多く用意されています。コンフィグを調整してBGMのボリュームを少し上げた方がいいでしょう。いつもくらいの設定ではあまりよく聞こえません。特典のサントラがじっくり聞くにはもってこいです。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は特に問題ありません。キャラクターのイメージに合致したキャスティングがされていると感じました。

 まとめ。インパクトに欠ける作品。ある意味タイトル通りなのかもしれませんが、それ以上のものが感じられず残念。ゲームをしている時は当然ながら夜空を見上げている訳ではないので、星の他にも記憶に残る要素が欲しいところ。メインである幼なじみ2人のルートが1本の内容を2つに分けたようなものであるのも食い足りなさを感じる要因になっていると思います。
 お気に入り:天ノ川沙夜、加納紀子
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、箒星ひかり
 大器晩成の逆パターンなのか、どんどんおとなしい方向へ行ってしまう幼なじみ。同級生相手にジャイアントスイングをしていた昔が懐かしい、って感じに。これスタイルがもし沙夜と逆だったならだいぶシャレにならない雰囲気になっていたのでは。それくらいエピローグを含めてなんだか寂しいひかりの姿です。別に未来の家族を夢見るのが悪い訳ではありませんけど、学生の段階でそこに星関連の話題が一切、含まれないのは正直がっかりに思ってしまいました。
 しかし、すげぇ選択肢ですよね。コンドームをどっちに使いたいか、って。とても純愛ゲーのルート決定選択肢とは思えません。
 せっかく制服Hがあってもアマコーの制服の特徴であるブレザー(?)を全く描いていなくてしょんぼり。そのせいで最初は制服だと気付かなかったくらいで。
 それにしても、アマコーではおとなしいというひかりの設定はどこへいったのでしょうね。そして、その事実(?)になんか納得いかない。主人公らが転校してくる前からガキ大将であるタケちゃんと争っていたんだろうに。そもそも、先頭に立ってみんなを導くひかり、というニュアンスと合わないし。

2、天ノ川沙夜
 好きなキャラではあるのですが、シナリオ的に残念な面も強いです。色々ともったいつけなせいで。家出シーンの時に主人公もひかりも沙夜の行方がまるでわからなくて途方に暮れるあたりは気の毒すぎて見ていられませんでした。秘密主義が行き過ぎなんですよ。
 もっと単純にいちゃいちゃしたかった。全然ドキドキしない、ってなイベントもなんか良くない意味でクローズアップしてしまった感じでやっぱり楽しくなかったし。序盤の通い妻モードもどうしてそうなったのか、を最後の最後の方まで伏せたままなのであまり感じ入るものがなかったです。
 少しも活躍しない割りに出番が多いコタロウは探し物のシーンくらい役に立たせて上げればいいのに、と思いました。
 それにしても、オッドアイの弱点は目を閉じると一気に神秘性が失われることですね。片目だけ映っている構図なんかも同様。

3、白鳥織姫
 本人のシナリオよりもむしろ他のシナリオで存在感がある感じでした。幼なじみルートでひかりにやたらと邪険にされる様子はなんだか気の毒なくらいで。いなくなってよりわかる存在感、というやつだと思うんだけどなー。
 リアル目線で考えるとプラネタリウムの衣装はかなりやり過ぎですよねー。PTAその他から苦情が寄せられかねないレベルですよ。

4、日下部ころな
 仲間外れ状態だった、という設定なのだから仕方ないのですけど、それにしても幼なじみ設定が無意味でした。沙夜を敵視する理由もまさに幼稚園児か小学生か、という動機だし。その解消に至ってはさらなるあっさり感で衝撃でした。ただ、ここでラブレター設定を知らされたことはなんだかネタバレを食らった気分になりましたけど。

5、早乙女美晴
 かつての尊敬できる恩師が下宿先でニート化。ってすごーく重いですよね。最初は笑えても、昔の良き先生ぶりと堕落した現在とのギャップにとても悲しくなります。まるで対岸の火事ではないもんなー。店番の業務に係わるし。借りたゲーム返さないってのも学生の時分にはしんどいですよ。

6、吉岡帆乃香
 一部シナリオではひたすらおろおろするだけでなんだか可哀相でした。どうも、ライターごとに振り分けを行っていて、担当でないキャラはちょい役にする、というルールでもあるのでは? なんて思ったくらい。というか、時系列の問題もあってむつらぼしの会の初代メンバーは幼なじみルートではほとんど活躍しないですよね。
 特に何も書いていないけど立ちCGから判断する限りスタイル良さそう。

7、加納紀子
 「ノリちゃん先輩」の呼び名がなんか好きでした。数少ないですが頬を染めるカットがとても可愛く魅力的です。もっともっと出番があってくれたらなー。サブだけどきちんとお着替えをしてくれるあたりも良かったです。吉岡さんに負けないくらいスタイル良さそう。隠れ巨乳っぽい雰囲気。

8、陣野鳴枝
 最初に恋人かと思われていたのが豊田なんでしょうか。無事にタケちゃんと恋仲とわかった時はなんか嬉しくなりました。確かに良いコンビな感じだし、なにより妄想や思い込みではないと判明したので。

9、山田陽南
 ひなみんはなんか星野第一に入学してくれたのがとても嬉しかったですね。ころなの明光学院の制服姿よりもひなみんの制服姿の方が何倍も嬉しかったほど。まぁ、何を考えているのかわかりませんので入学の動機も不明ですが、主人公を見捨てないでいてくれるだけで十分です。