Re:LieF~親愛なるあなたへ~(RASK)

 箒木日向子は行き詰まっていた。苦心しながら就職してみたものの、努力に相応しい結果は付いて来ず、それどころか日向子を嘲笑うかのように窮地に追い込まれていた。まわりに味方はなく、社内で孤立していた彼女はほどなく居場所を失った。自暴自棄とまではいかなくとも、張りつめていた「何か」を失った日向子は脱け殻のようになっていたが、祖母などの後押しもあってひとつの誘いにのってみることにした。
 トライメント計画。日向子と同じように壁にぶつかった人間を集めて行う、一風変わった講習。すでに脱いだはずの制服を再びまとって学園へと通うという、なんだかうさん臭ささえ感じる計画。期間は1年間。ネットもない孤島で何を学び、何を得るのか。

 RASKのデビュー作は意欲あふれるアドベンチャー。
 購入動機は体験版がそこそこ面白かったから、でしょうか。消極的に選びました。
 初回特典は主題歌アレンジCD、ビジュアルアートファンブックに複製台本。近頃、たまに見かける台本の特典ですが、どんな意味があるのでしょうね。書いてあることは基本ゲーム中のままですし、声優などの書き込み後がある訳でもない、聞いているだけではわからない指示などがある訳でもない。どうにもわかりません。

 ジャンルはおなじみのアドベンチャー。
 足回りはデビュー作らしい仕上がりです。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが、それほど速くありません。次の選択肢へジャンプしたり、前の選択肢に戻ることもできません。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。ロード直後には使用不可です。シーンジャンプなどの機能もありません。
 コンティニュー機能は搭載していません。
 ゲーム中になぜか、アイコン群が消滅して出てこないことがあります。そのうち出てきますがどうも再現性もありそうでよくわからない症状です。

 シナリオはいきなりヒロイン視点から始まるなど、変わったことをしようという姿勢を感じます。エロゲーの既成概念に捕らわれていない自由な発想ですが、反面、物語を組むのに必要な最低限の情報がところどころで欠落していたりとバランスの悪さもあるようです。
 構成は並列ヒロインタイプのシナリオですが、内容的には前座と真打ちのような関係になっていて、それぞれ単体でのヒロインシナリオと見た場合、かなり苦しいものがあります。しかも、その苦しさは真打ちに当たるシナリオを終えてもあまり解決しません。各ヒロインに対するフォローがある訳ではないためです。あくまでも真打ちのためにある前座シナリオなので唐突に終わってしまったり、説明不足だったりと消化不良感がとても残ります。
 結局のところ一本道のシナリオに近いと言っていいでしょう。
 日常の掛け合いは設定上、ほんの少しクセがあります。一度、社会に出た人間が再び学生をやっているのであまり呑気さはありません。むしろ重たい空気を和らげるために、けして多くはないギャグパートが入っている感じです。また、単純に饒舌な人間が少ないので盛り上がることがなかなかありません。イベントについても似たようなことは言えて、あまり印象的なものは多くないでしょう。
 惹かれ合う過程はヒロインによって差があります。一人称視点があるヒロインはさすがにそれなりに説得力もありますが、それ以外となると途端に苦しくなってしまいます。それどころか、真打ちに当たるヒロインに至っては意味がわからないくらい何もありません。主人公が何を言い出したのかと思うくらい動機に乏しかったりします。
 Hシーンは各ヒロイン2回ずつ。ただし、本編に入っているのは1回のみで、もう1回は鑑賞モードで閲覧することになります。本編に入っていないということで少しはノリ的に自由になっているものもありました。尺はとても短く、お世辞にもエロいとは言えません。中にはHシーンと呼べるのか、というくらいに薄い、まるでアリバイ作りのようなシーンもありました。
 メッセージウインドウにテキストを表示させる、ということに対して非常に無頓着で改行には全く気を配っていないようです。3行目を1文字だけ表示、なんてことがよくありました。また、シーンによって(?)テキストを「左揃え」にしたり「中央揃え」にしたりとあまり節操もありません。

 CGはフェチさを感じさせる塗りがとてもインパクトがあります。通常のイベントCGとHシーンのそれをタッチを変えることで雰囲気を大きく変化させているのも特徴でとても印象に残りやすいです。ただ、それが直にエロさに繋がっているかというと微妙な面もありそうです。按配が難しいのか、中にはあまり上手に見えないカットになってしまっているものも見受けられました。テキストの援護射撃がないのも地味に響いてます。
 背景は実に美しく見応えがあります。世界観を端的に示す一例になり得ているのではないでしょうか。
 CG鑑賞はなんだか不備が多いようです。どう見ても差分違いにしか見えないカットが別枠に登録されていたり、反対に別のカットにしか見えないものが同じ枠に登録されていたり。最大の枚数を表示するカテゴリーでもページアイコンに余りがあったり。

 音楽は鑑賞モードを見ればわかる通り同じ曲のアレンジ違い(?)が大量に用意されています。それ以外の曲に置いても作曲上の癖でも出ているのか、似たようなメロディーがしばしばあってどうにも同じような曲ばかり聞いているイメージがあります。そうでない曲においてはゲームの基本中の基本を思わせるものが多いため、あまり記憶に残りにくいようなところがあります。レベルそのものが低いということではないのですが。
 ボイスは主人公以外フルボイス。ただし、ヒロイン視点になると主人公にもボイスが付きます。ヒロインの場合はどちらであってもボイスは付いています。演技の方は特に問題なく聞くことができます。

 まとめ。色々な意味でデビュー作らしい作品。何本も作ってこれだと、かなりがっかりされそうなところがあります。今後もゲーム作りを続けるのならユーザーからの声で得るところが非常に大きいでしょう。もっと飛躍してくれることを願います。金額的にもいいお値段をしているのですし。
 お気に入り:箒木日向子
 評点:60

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、箒木日向子
 この世界への案内人なんでしょうかね。主人公以外に一人称視点があるのはほぼ日向子くらいのもの。あとはどうして用意されているのか、と疑問に思うくらいの尺しかないキャラばかり。おかげで他のキャラとはちと愛着が異なりますね。最初は主人公みたいなものでしたから。
 いかに往来がないとはいえトンネルの真ん中を堂々と歩いてしまうお茶目さん。迂闊が板についているのだろうな~、と思わされます。いきなり来られたら100%はねられる予感をひしひしと感じさせるのはさすがとしか言いようがありません。
 ミリャとのコンビが楽しかったのでもうちょっと見たかったです。

2、大館流花
 日向子視点で始めて最も弊害を感じたのは流花でした。造形といい、日向子からの感覚といい、サブキャラにしか見えません。話し方もそれを裏付けるかのようです。正直、3人の中では恋人というポジションに一番、違和感がありました。

3、海蔵もも
 ガチャガチャのことぐらいしかまともに記憶に残っていません。そういや、トトを消したのは結局、誰だったんでしょうか。恐ろしいのはそれがどうでもいい話になってしまっていることですよね。

4、アイ&ユウ
 アイの正体というか、必要性がよくわかりません。何のためにいたのか、なぜユウでは駄目なのか。多くの場所でそう感じました。そもそも、いつ主人公と交流したんでしょうねぇ。幼なじみ描写であるとか、幽霊騒動うんぬんとか、全くよくわからないままでした。前振りだけして答え合わせなしというのはなかなかにストレスが溜まります。そして、なぜユウは用済みみたいな扱いなのか。