ロケットの夏(Terra Lunar)

 真幌高志(変更可能)が生まれるよりも半世紀以上も前に地球と宇宙の交流は始まった。技術は飛躍的な進歩を遂げ、地上はロケットへの情熱にあふれた。高志もまた、ロケットに憧れを抱いた一人だった。
 だが、十年ほど前に突如として宇宙との繋がりが途絶えてしまう。技術は後戻りし、宇宙への関心は薄れた。そんな中でも高志はロケットへの夢を持ち続けた。ある事件が起きるまでは。
 それから数年、高志の前に一人の少女が現れる。誰よりも強いロケットへの情熱を持って。

 Terra Lunarの第2弾。エロゲーには珍しくロケットを題材にしたアドベンチャー。ズバリ、そこに関心を持って購入しました。
 初回特典は描き下ろしマウスパッド。絵柄はヒロインがバランスよく揃っていてなかなかセンス良くまとまっているのですが(一人足りないのはご愛嬌でしょうか)、個人的には音楽がいい出来なのでサントラCDなどが良かったかなと。音源がCD-DAでないだけに余計そう思います。

 システムは小細工なしの直球ど真ん中アドベンチャー。場所移動すらなく、文中に現れる選択肢を選ぶのみというシンプルさ。
 足回りはユーザーにあまり優しくなく。メッセージスキップは既読未読を判別した上で非常に高速。
 メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。ロード直後は使用できませんし、戻れる量もそれほど多くありません。選択肢表示中は使用できないのもツライところです。せめてホイールマウスに対応して欲しかったところ。
 セーブはシーン単位で管理しているようで、選択肢以外でセーブするとシーンの最初まで戻されます。不便ではありますが、基本的には選択肢でしかセーブしないでしょうから、それほど問題はないかと。
 やや珍しいところでは主人公の名前の変更方法が上げられます。ゲームを開始してからコンフィグを開いて設定しなければなりません。普通は変更しないという考えからなんですかね。

 シナリオは田舎町を舞台にしたロケットを巡る青春群像劇というところです。シナリオの規模は中程度ながら全体的に非常に良くまとまってます。
 中でも感心なのは一見すると一本道のストーリーにしかなりそうもない(それこそ恋愛対象が変わるくらいしか違いがないような)話をヒロインごとに驚くほど個性的な展開を持つ話に仕上げていること。一本のゲームの中でこれほどシナリオのカラーが異なる作品は珍しいと思います。
 日常会話も非常にセンスが良く、キャラクターの個性を表現した上でほどほどに笑わせてくれます。
 テーマを考えるとおざなりになりそうな主人公とヒロインが惹かれ合う様子もしっかりと描かれていて好印象。一名を除いての話ですが。
 欠点としては物語全体に対して共通シナリオの占める割合が大きめで個人シナリオがやや短めであること。初回プレイとそれ以降の差がちょっと大きいです。
 あとは主人公がロケットに対する情熱を取り戻す動機がちと弱いことと、5人のヒロイン中、1人のシナリオが他と比べてちょっとレベルが下がることでしょうか。

 CGは明るい色彩を基調としたものが揃ってます。題材ゆえかイベントCGだけでなく、通常のシーンの背景にも非常に力が入っています。特に室内カットは手描きの良さが出ていると感じました。ギャグカットも何気にいい味を出してます。
 イベントCGは部分違いを除いて90枚弱。シナリオ分量を考えると充分な枚数かと思います。個人的にはもうちょっと欲しかったですが。
 立ちCGは表情だけでなく、ポーズも多彩に変化。各キャラクターの個性がしっかりと表れています。
 そういえばこのゲームにオープニングデモはないんでしょうか。メーカーホームページではそれらしいデモがダウンロード可能になっているのですが。仮にあるとしても私の環境ではどこにも出てきません。

 音楽は田舎ゲーを思わせる穏やかな曲作りがされています。出しゃばり過ぎず地味過ぎず、巧みなさじ加減がされているかと。本当にサントラがついていないことが悔やまれます。
 今作にボイスはありません。キャラの個性、テキストともボイス搭載に向いたゲームだと思うだけに残念です。

 まとめ。映画「遠い空の向こうに」が好きな人にはかなりオススメ。SF考証にうるさい人には(描写自体がそれほどないので)微妙かもですが、読み物としての面白さは保証できます。これでもう少しボリュームがあれば。
 お気に入り:香奈城歩、ベルチア
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、夏海千星
 これが最もスタンダードな話なんですかね。共通シナリオのノリと初期目標を崩すことが無かったのはこれだけですからね。
 キャラとしてはやや微妙なところ。どっちかと言うと、友達の方が楽しそうなんですよね。遠慮なく振り回されているくらいの方が。
 宇宙服でのキスシーンはなかなかお間抜けでギュー。

2、セレン
 最初に着ている服は「星界」シリーズのようだ、とは言ってはいけないんでしょうか。
 シナリオ的な弱さがどうにもネックになってます。あと割と真面目なノリで幼女に手を出すというのはどうも激しい抵抗を感じます。心情表現が全キャラ中で最も弱いと言うのもそう感じることを助長しています。
 エピローグのタメの少なさも厳しいです。他のシナリオと違ってどうなるんだろうと少しも思わせてくれないのがどうも。

3、ベルチア
 従者の方が設定を活かしているというのは微妙なラインです。話としては文句ないんですけどね。こっちには意味のあるタメがちゃんとあるんだけどなぁ。不思議です。
 取りあえず、ベルチアが(というよりあの衣装が)メイドさんでなくて、それだけで良かったですわ。ただ、戦闘のことを考えてもメガネではなく、コンタクトを選択すべきだと私は思いますです。ラブラブな描写がよろしいだけに余計にそう感じます。

4、はるひ
 ベルチアとは反対にメガネを外す方向に話が進んでくれるのはナイス。つーか、馬鹿な決め事をした学園側がなんとも罪深いといいますか。
 個人的にはもうちょっとアンドロイドゆえの不遇ぶり(ロケット部も合わせて)や低く扱われる様子があると良かったです。感情移入度も高まりますし。
 パラメータを微調整しながらのHシーンというのはなんだかすごくやらしい気がしますよ。手さぐりな様子が想像力を刺激するというか。
 ベルチアシナリオにおける「デートに軍服は不可です」のセリフが最高です。

5、香奈城歩
 個人的大本命。このゲームの評価が大幅に上がったのは歩の存在あってこそ。実は「ロケットの夏」というタイトルはこのシナリオがあってこそ、ですからね。
 設定の使い方が実にうまいです。歩の母親の問題。あまり意識はさせないけど、忘れるほど印象は薄くないという絶妙のラインかと。正直、シナリオの流れにかなり感心しましたよ。他のシナリオでは雰囲気作りでしかないと思われる設定(地球主義者とか)がメインに絡んでくるのが素晴らしいです。
 あえて難を探せば、歩に怪我をさせたことによるトラウマともう少しまともに向き合うシーンがあればってところでしょうか。
 あと歩は表情が何とも言えず可愛いです。特に「うにゅっ」とやらないカットは絶品ものですよ。
 呼び名は「おにいちゃん」ですけど、あんまりそういう感じはしませんね。