Routes(リーフ)

 授業中は居眠りに精を出し、休み時間は友人との馬鹿騒ぎに興じ、放課後はのんべんだらりとぶらつく。那須宗一(変更不可)はどこにでもいる普通の学生。ただ一点、世界最高のエージェントであるということを除いては。
 度重なるタンカー消失事件。不意に現れた金髪碧眼の商売敵。必然的に宗一は事件に関わることになっていく。

 オリジナルでは「うたわれるもの」以来のリーフの新作。大阪開発室製ということだともしかして「誰彼」以来になるんでしょうか。購入動機はやはりビジュアルノベルシリーズの新作だから。
 初回特典はマキシシングル。オープニング、エンディング曲の他にアレンジが収録されてます。3曲目のボーカルは残念ながら未収録。サントラ待ちってことでしょうか。

 システムは言うまでもなくビジュアルノベル。繰り返しプレイすることで選択肢が増えていきます。ある程度はプレイ順序も制御されるタイプ。同社の「痕」と同じようなと言えばわかりやすいでしょうか。
 元祖のリーフにとってもビジュアルノベルは数年ぶり。シリーズのいずれかに携わった人間もかなり数が減っています。そのせいなのかどうかわかりませんが、テキストの見せ方にこなれていないかのような表示方法を採択しています。
 セリフ内における頻繁な改行。「」で閉じることなく平然とページを跨ぐ。これらはセリフと地の文及びモノローグの違いをわかりにくくさせ、読みにくさに繋がってしまっています。「誰が喋っているのか」、そんなごく当たり前のことがわからない。ボイス付きのゲームや通常のアドベンチャーではこんなことは考えられません。これでは配慮が足りないと評されても仕方ないでしょう。
 足回りはややズレた印象。メッセージスキップはどういう訳かCtrlキーを押すことでしか作動しません。サイドバーにこれが用意されていない理由を開発者に尋ねたいです。一体なんのためのサイドバーなのかと。機能は集中させなければ意味がないと思うのですが。
 メッセージの巻き戻しはそのままの画面で。これはジャンルを考えれば当然の措置かと。ホイールマウスに対応しているのはありがたいです。ただ、残念なことにロード直後は使用することができません。
 今作はシステム設計に根本的な疑問があります。それはサイドバー、システムメニュー、環境設定(ウインドウメニュー)でわざわざ機能を分散していること。中でもシステムメニューの無意味さには驚きを隠せません。わざわざ別画面を呼び出してなぜサイドバーと同じことしかできないのでしょうか。他にも必要な項目があると思うのですが。反対に言えば環境設定に項目を盛り込み過ぎ。正直なところ、センスの感じられない設計かと。

 シナリオは複数ライター制による難点が見え隠れしています。今作はタンカー消失事件を追うメインシナリオ、設定を支えるサブシナリオでシナリオライターが異なっています。そのこと自体は何の問題もないんですが、困ったことにサブシナリオの方が(周回シナリオとして)まとまりもあり、物語としての完成度も高いんですよ。客観的にみてテキストも含めてサブシナリオのライターの方が優れているんですね。
 メインシナリオに限定した話ですが、キャラクター同士の掛け合いが揮いません。寒いと表現されることも充分に考えられるレベル。システムで書いた混乱しやすい要因はわざわざ中性的な言葉遣いをヒロインにさせ、主人公と似たもの同士にしたことにも問題があります。それを自然体で書き分けられるほどライターには技量がないんですね、残念ながら。
 エージェント(スパイの意)を筆頭とした各種設定にどうしようもない弱さを感じます。主に「主人公が世界一、すごい」、「ヒロインは可愛い、魅力ある」という描写はただ大げさなだけで、説得力が感じられません。裏打ちなく、ひたすらに誉め殺しという表現方法なので。
 一方でサブシナリオの方は終始テンポ良く進み、読み応えあるものになってます。誰のセリフかわからないなんてことは一度たりともありませんでした。笑えた回数も明らかにこちらの方が多かったです。
 作品全体に対する役割も充分以上に果たしてます。設定、伏線の張り方も申し分ありません。この落差が印象を微妙なものにしています。
 最終的に提示された謎はほぼ解明。しかし、どういう訳か、あまりスッキリしません。恐らくは情報開示の仕方(見せ方)に問題があるのではないかと。達成感とかが感じられないので。

 CGは時間をかけただけあって全体的に美しい仕上がり。ただ、キャラクターデザインの髪の表現がデフォルメ的なのはどうにも気になりました。同じ原画家で比較しても「ホワイトアルバム」や「誰彼」の方が明らかに見栄えが良いように、ぶっちゃけ今作の方が手を抜いているように見えてしまいます。
 立ちCGはポーズはあまり変わらず、表情変化で勝負する傾向が見られます。あまり数が多いとは言えないポーズ変化はメリハリに欠け、見た目にも弱いと感じました。エフェクトも地味なので演出関係はどうも不十分な感じ。
 背景は有名な草薙が担当。イベントCGと比べても遜色ないたいへん美しい出来。物語を盛り上げる役目にしっかりと貢献しています。一部には歴代リーフキャラがモブキャラとして出演。こういうファンサービスもたまにはいいものです。

 音楽は多人数で担当しているせいか、レベルにバラツキあり。要所で物語を盛り上げるために使われる曲は良いものが多いですが、日常で使われるシーンはその特性を差し引いてもやや弱め。全体的には高レベルでまとまっているかと。
 ボイスはありません。皐月と主人公のセリフ及びモノローグを見分けるためだけにあっても良かったのではないかと思います。

 まとめ。意欲は感じるが過去の輝きがそれ以上に眩しすぎると感じてしまう作品。実際、あれを越えるのは並大抵のことではないでしょう。それとシナリオや音楽などレベルはある程度統一する必要があると思います。答えが同じでも見せ方は大事だと教えてくれる作品でもありました。
 お気に入り:さくや、ミルト(え?)
 評点:55

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、湯浅皐月
 会話の寒さがあまりにも痛すぎ。主人公に同調できなかったので中盤以降のいちゃつくシーンは正直、暑苦しかったです。ゆかりの気持ちがよくわかる側の人間でした。やっぱり他人がいちゃつく様をみて愉快にはなれないじゃないですか。改めて思うに主人公って大事。
 彼女がバックアッパーとしてあまりにもお役立ちというのも萎える原因。だからどこが世界一なのだと……。

2、伏見ゆかり
 彼女に罪はありません。悪いのはシナリオです。醍醐との戦闘シーンは本気で情けなく。だからどうしておまえが(以下略)。
 ゆかりが主人公に好意を持つきっかけになったイベントは良かったと思います。でもまぁ、現実的ではありませんけどね。教師が承知する訳ない。

3、リサ・ヴィクセン
 皐月と同じくらい会話に木枯らしが吹いてます。会話にセンスがないというあたり、ある意味で説得力ありすぎ。
 テキストを読む限りでは皐月、ゆかり、リサのバストサイズはリサ>ゆかり>皐月のようですが、CGから判断するにとその逆に見えてしまうのですが。

4、梶原夕菜
 決め技があまりにも強烈すぎ。「そうちゃんだけのハックル・フィンになってあげる」は回避不能の大技ですよ。心を動かされるなというのは無理というものです。3人娘とはレベルが違いマスヨ?
 そういや姉さんだけHシーンが妙にねちっこくエロいのは仕様ですか?

5、立田七海
 やっぱりこれは宗一ロリ疑惑と言うべきなのでしょうか。いや、疑惑じゃなくてきっちり手を出してますが。ロリ属性なくしてはあの展開で必ず手を出すとは言えないのでは。大切な存在(幼女)イコール恋人ではないと思うのですが。
 関係ないですけど、ジジィとの会話がこのゲームでは一番面白かったです。そのあたり、このゲームの奇妙な特性が出ていると思ってます。

6、さくや
 可愛らしさでは一番でしょうか。外見的にもさすがお姫さまって感じです。川辺で首を垂れるシーンはなかなか良かったように思います。そこまでの大八郎の方の心情描写はかなりイマイチでしたが。
 彼女の贈った歌が実はちゃんと意味があるってのはフツー気付かないと思います。だってどう見てもそういうキャラですから。

7、ミルト
 「今の女をつかまえに行くのに昔の女をこき使うのはあまりに非道です」のセリフがナイス。女性人格AIってのはそれだけで楽しめます。正直、ゆかりよりもミルトの方に魅力を感じてしまいますよ。
 プレイ中は「機甲戦記ドラグナー」なんかを思い出してました。「もう少し清潔な状態での搭乗をお願いします」とか、AIを実在の人物だと勘違いされてヒロインにヤキモチを妬かれるとか、いい感じでした。