サノバウィッチ(ゆずソフト)

 保科柊史(変更不可)は他人から向けられる感情を触覚や味覚といった五感で感じる不思議な力を持っていた。そのせいで人付き合いが浅く、苦手であったのだが、ひょんなことからクラスのアイドル綾地寧々のオナニーする姿を見てしまう。しかも、彼女は魔女だという。それだけに留まらず柊史の異能もまた、魔女と同じ力らしいのだ。色々なしがらみができたこともあって柊史は寧々の所属するオカルト研に入部することになる。そこで様々な悩みと直面することで成長していくことに。

 ゆずソフトの新作はタイトル通り魔女を中心に据えたアドベンチャー。
 購入動機は原画買い。
 初回特典は特になし。予約キャンペーン特典はこぶいち氏描き下ろし複製色紙、ラフ原画集、ドラマCDと実に豪華でした。加えて早期予約キャンペーンもありました。こちらはむりりん氏描き下ろし複製色紙。ここはいつもラフ原画集にSDカットのものも収録してくれるので見応え度が違います。ましてや、SDカットはこもわた遙華氏ですからね。

 修正ファイルが出ています。重大なものは含んでいませんが、細かいものが色々とあるのであてておきましょう。

 ジャンルはいつも通りのアドベンチャー。
 足回りは今回も高レベルで安定しています。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です(それぞれの処理を選択して3段階から選択可能。遅いモードもあります)。次の選択肢へ機能と前の選択肢に戻る機能も標準装備されています。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能で、いつでも最初まで戻ることができます。ロード直後にも使用可能。さらにこの画面から好きなシーンへジャンプする機能が用意されています。アイコンにカーソルを合わせるだけで当該シーンの様子が画面上に表示されます。この時、通常画面左上に表示されている章もわかるようになったのでさらに使いやすくなりました。
 タイトル画面で前回の続きから始められるCONTINUEを引き続き採用。ロード画面を開かなくていいのでとても便利です。カーソルを当てるとサムネイルが見られます。
 フェイスウインドウを表示するかどうかを選択する機能は今回も搭載。初期はオフになっています。イベントCG表示の際にもヒロインの感情がよくわかるので個人的にはオンが良いかと思います。
 風変わりなものとしてお気に入りのボイスを登録する機能ができました。バックログ画面からでも登録可能です。

 シナリオ。再び力を入れてきました。しかし、萌えゲーからシナリオゲーへの脱皮にはいつも齟齬が付きまといます。当然のように複数ライター制の弊害も起きています。主人公の能力の扱い方そのものがライターによって自由すぎて戸惑います。当然のようにご都合主義もついてきます。もちろん、キャラそのものにも差異が窺えます。
 狙いなのだとしても本作は魔女ものとしての意義がとても薄くなっています。「願い」を扱っていながら、その帰結がとてもおざなりです。そもそも、一般的な意味での魔女ものとは言い難く、場合によっては拍子抜けしてしまう可能性もあります。もちろん、それはHシーンにも同じような影響を与えています。魔女なのに一部のシーンではそれが魔女コスプレなんていう本末転倒ぶりも。
 それでもオカルト研の日常はキャラクターの魅力を上乗せした上でとても賑やかで飽きさせません。多少、偏ってはいますが笑いの方もしっかりと備えています。ヒロイン視点の描写も充実していて、いちゃいちゃする描写も手抜かりはありません。しっかりと堪能できます。
 惹かれ合う過程はあまりありません。というのも、主人公の持論でほぼ全てのシナリオで語られるのですが、恋愛に理由やきっかけはなく、気がついたら好きであるそうなので。語っている通り(?)の雑な恋愛描写が目立ちます。理由がないのだから当たり前かもしれませんが。
 Hシーンはヒロイン毎にやや差があります。カウントも難しいですがサブヒロインを除いて4回以上。うち1回はクリアー後のAFTERシナリオになります。エロ度は最近の純愛系にしては普通程度、これもヒロインによって差があります。衣装的な意味でも余らせているようなヒロインがいる一方で、少し困っているようなヒロインも。

 CGは相変わらず原画買いに十分に応えてくれる美しさと可愛らしさ。ただ、戸隠憧子は立ちCGとイベントCGの間にやや差が感じられます。作業期間が開いたのか、それとも単純に苦手な方向のデザインなのか。
 立ちCGはくどすぎない程度に表情がよく変わってくれます。状況に応じて髪型が変わってくれるのも大きなポイントです。実にさりげなく変わってくれるので喜びも大きかったり。テキストと絡んでしっかりとヒロインの魅力を高めてくれます。
 イベントCGは意外と通常CGが少なく、エロ方向に偏っています。勢いイベントCGが出ない時間も長いのですが、立ちCGの賑やかさやSDカットのおかげでか、それを感じさせません。そして、要所では集中投下と理に適っています。ただ、個人的にはテキストを省いた単独CG群として見た場合にはエロさがもう一歩で、シチュエーションもあまり練られているようには感じませんでした。
 SDカットはイベントCGにも負けないほどの可愛らしさとなっています。笑いの要素においてもその存在感はとても大きく欠かせません。アイキャッチのものがCG鑑賞に登録されないのはとても残念。

 音楽は穏やかでおとなしい印象の曲が多いです。それだけに数少ないそうでない曲が鳴り出すと驚くくらい。主題歌はアニメファン、特にガンダムファンには有名な米倉千尋さんが担当。起用の事実を知らないままに聞くとかなりびっくりします。今回もヒロイン全員に専用のエンディング曲が用意されています。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は特に問題ありません。

 まとめ。成長の過程を実感できる作品。少しずつ前に進んでいるのを確かに感じます。もう少しでシナリオと萌えのバランスが高いところで結実しそうです。素直に次が楽しみになりました。
 お気に入り:綾地寧々、仮屋和奏
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。








1、綾地寧々
 本作のメインにしてお笑い担当。海藤が途中から純愛野郎と化して使えなくなるところをただひとり体を張って笑わせてくれます。すぐ自爆するところが素敵です。しかし、この娘さんが彼女になると色々と心配でならないでしょうなー。いつ発火するやらわかりませんから。怖すぎる目に実のところ和んでしまいます。
 ま、実際のところ事故とはいえオナニーを見てしまって、それから仲良くなって両手を包み込むように握られた相手を好きになるな、というのはなかなか厳しい注文だと思います。しかも、学年で一番可愛いとされている容姿なんですから。
 九分九厘、後悔する願いがなんとも切ない。子供っぽい願いなんですよね。相手を許容できるくらい成長してしまうとただのデメリットでしかない。しかも、別段うまいこと仲直りしてくれるわけでもないしね。(感覚的に)時間が戻るのはすごいけど後は全然すごくないんだよねぇ、魔法……。
 再び出会えば必ず好きになる、という主人公のセリフがほとんどギャグになっているのが本作のすごいところ。寧々さんの渾身のネタにまでつながってしまうし。加えて憧子さんシナリオでも繰り返しちゃう主人公の業が深すぎです。

2、因幡めぐる
 ちーちゃんを忘れたまま幸せになるのは無理だと思うんだ。つーか、全くギブアンドテイクのバランスがとれてないですよ。あと主人公がなんか異能力でグルメっぽくなっているところが違和感ありすぎ。めぐる本人よりも味の方が大事に見えたしなー。
 あのハートマークの物体、なくしたらどうなってしまうんでしょうね。帰って来るのかなー。

3、椎葉紬
 男装が普通に可愛いんで苦悩があまり伝わりません。色気もばっちりで十分に主人公を悩殺できます。抜け道も多すぎです。クマのぬいぐるみはちっとも代償になっていません。ついでに願いが色々な意味でアレすぎます。まさか、何事もないまま終了とは予想外でした。
 登場が最後なせいか、イベントが少ないような気がします。ルートに入る前のイベントもなんだか消去法の匂いがするしねぇ。

4、戸隠憧子
 ようがす!&合点! で、どうしてそんな口癖を愛好しているんですか? 別に古いもの好きでもないしねぇ。まさか、主人公の母上もそんなキャラだったんでしょうか。
 「何もない」ことの証明なのか、キャラがひたすらワンパターンで段々と飽きてきます。親父ギャグの下ネタが多すぎます。主人公よりむしろ、他のオカ研メンバーにセクハラですよ。憧子さんはチョロ過ぎて心配になるくらいでした。
 ハロウィンパーティーの時のコスプレHなし、という信じがたさ。あんなに挑発している風だったのにねぇ。まさかでした。

5、仮屋和奏
 仲が良くなって露骨なくらいに肩入れしてくれるようになると和奏が随分と可愛くなってきます。そりゃ、海藤にも怪しまれますって。ま、その海藤も海藤で共通時と違ってやたらと用ができて練習を欠席しますが。
 幼なじみ設定はちと唐突すぎました。他のシナリオで黙っているのもいささか無理がある感じになってます。ある意味どのヒロインよりも果たさなければならない約束になっているのでは。