さくらシュトラッセ(ぱれっと)

 綾瀬春美(変更不可)は帰郷の途にあった。実家であり、同時に父の残したレストランかもめ亭を切り盛りする母が倒れたのだ。急ぐ春美であったが不意に意識が途絶える。目を覚ますと目前には自衛隊機が炎上する光景が広がっていた。
 家に戻った春美は修行中の身ではあるが母の代わりにかもめ亭を運営していこうと決意する。早速、仕込みに入ろうとした彼の右腕に激痛が走る。それどころかまるで悪い夢でも見ているかのように右腕はあっさりと胴体から離れてしまう。
 混乱する春美の前に現れたのはひとりの魔女。マリーと名乗る彼女によると意識が途切れていた時、春美は死にかけていたらしい。そして、彼女は治療が完全ではないのでやって来たというのだ。
 現実を受け入れられない春美だったが魔法の力で自らの腕が繋がれば信じざるを得ない。魔法は継続的にかける必要があるということでマリーと使い魔のルゥリィは綾瀬家に居候することに。料理ができるというマリーは置いてもらう礼に手伝いを申し出るが……。

 ぱれっとの新作は「もしも明日が晴れならば」を製作したチームの魔女ものAVG。
 購入動機は前作からの進歩の程を期待して。原画、シナリオライター、音楽などチーム買いと言っていいと思います。
 初回特典は特になし。予約キャンペーン特典は前作と同じくサウンドトラックCD。今回は豪華に2枚組。

 ジャンルはおなじみのアドベンチャー。
 足回りはやや悪いくらい。メッセージスキップは既読未読を判別してほどほどのスピード。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが戻れる量はかなり少ないです。ロード直後にも使用できません。バックログに入ると発声中のボイスがカットされてしまう仕様は少し気になりました。
 ゲーム中にはしばしばアイキャッチ演出が入ります。これが任意で飛ばすことができず少々うざったく感じました。
 右クリックで各種メニューを呼び出すと現在、演奏されている曲がわかるのはなかなか親切で良かったと思います。
 ゲームをコンプリートするとおまけが選択できるように。立ちCG鑑賞と声優のフリートークが楽しめます。前者はたいへん嬉しい機能ですが、一度選択すると最後まで見終わらないと抜けられないのはちょっと不便。何気なく背景鑑賞にもなっているようです。

 シナリオは同じ導入、同じ舞台であってもどうにか変化を出そうと頑張っています。それなりに特色ある4本になったのではないかと。ただ、そのせいかこの設定でこの物語でなくてはならない、という必然性のようなものがあまり感じられません。率直に言ってしまうと本作は魔女ものでなくてはならない理由がとても希薄です。それこそ魔女が出てくるから、という身も蓋もないものが筆頭になるくらいに。
 主人公の造型が少し変わっていて賛否を分けそうです。思い通りにいかないと癇癪を起こす、すぐにいじけて泣き出す、やっていいことと悪いことがわからないなど、成長の余地が大いにある少年なので温かい目で見守るくらいでないと耐え難く感じてしまう可能性も。ゲームキャラの枠を逸脱した発言がそれに拍車をかけています。しかし、こうした面は共通シナリオ部に集中しているため2周目以降になると本質的な解決はしないながらも、実質的には既読スキップによって効果が緩和されるのでさほど気にならなくなります。
 惹かれ合う過程はとても弱いです。物語開始時に親交があるキャラはもちろん、初対面のキャラにも主人公は好かれている印象があります。主人公の方は基本的に「いつの間にか」系。
 日常の掛け合いは舞台に変化がないせいか非常にワンパターン。最初は楽しいですが、同じことの繰り返しなので飽きやすいです。特にオチは本当に代わり映えしないのでそのうちため息をつきたくなってきます。
 魔女ものであるせいかシリアス度は低めです。作中でも語られていますが、細かいことをあまり気にせず、あるがままに受け入れることが本作を楽しむ秘訣かと。
 シナリオサイズは昨今の作品にしてはかなり控えめです。ヒロインも4人しかいないのでかなりコンパクトに感じます。
 Hシーンは各ヒロイン平等に3回ずつ。エロ度は純愛系にしてはほどほどでヒロイン(設定)によって若干の差があります。恋仲になって以降の描写の少なさのわりにバカップル度は高め。

 CGは相変わらず一番の売りといいほどの素晴らしさ。ほんわか優しい世界観を見事なまでに体現しています。イベントCGは差分抜きで80枚弱と前作からは増量されましたが、この原画、CGが好きな身からすると少し寂しい枚数かなと。
 立ちCGはもはや、ぱれっとのお家芸といっていいかと。業界でも屈指の表現力と巧みな使い方をしていると思います。イベントCGに勝るとも劣らないヒロインたちの姿はいつまでも見ていたくなるほど魅力的です。

 音楽はシリアスな作品から魔女ものへと変わったことでインパクトの面でやや劣るラインナップとなりましたが、全体的にはサントラの特典がとても嬉しくなる仕上がりです。ただ、ゲーム中よりも単独で聞いていた方が良く聞こえるのは気のせいなのでしょうか。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。キャライメージに合致したキャスティングとそれに応える声優の演技は称賛ものです。サブキャラクターたちもヒロインを食ってしまいそうなほどの存在感を見せています。
 BGV(バックグラウンドボイス)の演出が入るようになりました。これによりひとつの場で二つ以上の会話が同時に表現できるようになったので賑やか度はかなり上がってます。使い方次第でもっと効果の高い演出ができそうです。ただ、BGVを必ずプレイヤーが聞いているものとして演出して良いかで判断が分かれそうですけど。

 まとめ。シナリオ重視ゲーと萌えゲーの境界線上にあるような作品。演出等は萌えゲー寄りのテイストですが、シナリオはヒロインの魅力の抽出を特に意識していないように見えます。むしろ反する方向のシナリオがあったり。主人公像からもハッキリ定めていない様子が窺えます。魔女ものに対するこだわりも良くも悪くもあまり感じられません。
 挫折に関しては1周目が勝負。ここを乗り越えられれば後は問題ないでしょう。 
 お気に入り:マリー・ルーデル、小野寺早希、綾瀬美咲
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、マリー・ルーデル
 マリーと言えばなんと言っても蒸気を吹き上げる、でしょう。いっそやり過ぎなくらいの立ちCGは彼女のトレードマークといっていいかと。例えマリーシナリオ以外であっても、このカットが出ると状況も忘れて和んでました。金髪碧眼ということを差し引いてもこれなら看板娘になりますよ。
 ああ、それなのに彼女のシナリオと来たらねぇ。そんな癒しの姿がほとんど見られないという有り様で。主人公も言っていましたが仲が進めば進むほど泣かせてばかりになるのはどうにも歯がゆかったです。マリーの個性を十二分にプッシュするという意味で二分構成くらいにした方が良かったかもしれませんね。ゲームまでが一部でそれ以降、彼女を笑顔にしていくのが第二部という感じで。
 序盤の魔法で料理の場面でひとつだけ気になったのはあの魔法を修得するのになんら苦労はしていないのかということ。料理の腕を磨く過程とその結晶は重視しているのに魔法については何も示唆されていないのが気になります。恐らくあの魔法はクラウディアには使えないでしょうし。シナリオの意図はわかりますが、明らかに不公正だよねぇ。まぁ、主人公が自分のことしか考えていないことを示しているのはこれ以上ないほどわかりますけど。そもそも、ちゃんと苦労して文句のつけようのない料理を魔法で生み出せたら主人公はどうするのでしょう。

2、綾瀬優佳
 血は繋がっておらずともさすが姉弟。その子供っぷりは実にいい勝負です。気に入らないことがあると自らを省みず、癇癪を起こす様はそっくり。外から見た時にこの2人がメインになってまわすかもめ亭に魅力を感じられなくても当然。すぐ切れる姉弟が経営しているのだから。優しい町内の住人に支えられているという構図。美咲さんがいないということはプラス面が消えただけでなく、マイナス面も膨張していたということなんですよねぇ。
 シナリオはラストに大笑い。あんな大規模魔法を使って何をしたのかと思えば昔の桜を再現しただけ。まぁ、それ自体はいいとしても問題は再現した理由ですよ。要するに口で言ってもうじうじしたまま一歩も進まないので素直にさせるため、それだけのためにあんなことをした、と。なんて世話の焼ける……。でも、ここくらいしか魔法使い設定が効果的であるシーンはないんですよねぇ。うまくいかないものですね。

3、里村かりん
 ははは。これってゲームだから気にしないけど、現実だったら耐えられないことが山盛りですよねぇ。かりんの食欲魔人ぶりと能天気という言葉では足りない言動は現実ならイライラしっぱなしのような気がします。しかも、マルチ@ToHeart(さすがにちょっと古いと思って書いてみました)とタメ張るドジキャラぶりは容易に沸点が低くなっていくことでしょう。果たして途中経過に過ぎないエンディングまでに何枚の皿を割ったのでしょうか。
 惚れ薬の件もねぇ。偽りの恋という展開を生み出すために無理矢理もっていったような流れですからねぇ。筋書き重視という観点で見るならそう悪くもないんですけど。でも、ここで魔女として役に立ったのはクラウディアなんですよねぇ。ヒロインであるマリーは後始末役というのも魔女ものとしてはなんだか。微妙に悪役風味も混じってるし。
 確かに告白のシーンは良かったのだけれど、結局かりんは罪に対する報いを受けないし(待たされたのはわずか3日)、主人公はこれから失った10日間のために受難が待ち受けているというのもなんだかね。事実を知らされても、知らされないままでも戸惑いが残ることになるかと。

4、ルゥリィ
 正直、昔からヒロインが動物というネタには拒絶反応が出るんですよ。加えてシナリオもあまりよろしくない。しかし、それでもルゥリィには魅力を感じました。立ちCGの各種表情は方向性こそ違いますが個性を際立たせるという意味においてはけしてマリーに負けていないと思います。驚いて猫のような目になったり、笑ったところはとても印象深かったです。猫の状態で照れる表情もなかなかでした。

5、クラウディア
 ほとんど端役ということでちょっともったいなかったかな、と。キャラ的にもポジション的にももっとおいしい活躍ができたように思えるだけに。個人的にはもっともっと活躍して欲しかったです。それは何も攻略させろという意味ではなく、クラウディア一行の珍道中みたいなシナリオがあっても面白かったのではないかと。
 おまけの一色ヒカルさんのコメントがなんだかとっても卑屈で気になりました。同チームで二作連続非ヒロインであるとか本人は気にしてしまうものなのでしょうか。

6、綾瀬美咲
 出番の少なさが返す返すも口惜しい美咲さん。本作で最も魅力あふれる人材であると個人的には確信しております。バッドエンドでもルートがあるだけましかも知れませんが、それでもシナリオが欲しかったとここで強く表明しておきます。まぁ、春美くん的に好きになるな、という方が無理ですよね。隣にいるのがあの暴力姉ではねぇ。

7、小野寺早希
 なぜシナリオがないんだ三人衆とか結成してしまいそうなほど味のあるキャラたちだと思います。そのトリはこの人。厳しいフリだけの姉とは違って本当に必要なことを言ってくれる頼れるお姉さん。甘やかすべき時、厳しくするべき時をけして見誤りません。なにより年長者なのに弟なみに未熟なんてことはあり得ない。
 主人公は本当にその成長を期待されていたと思うのですよ。何も料理の腕だけではなく。しかし、各エンディングを見る限りでは早希さんに認められるレベルにはまだまだ。料理と同じく70点がせいぜいだと思います。
 存在感を示していただけにシナリオのなさがより辛く感じます。