天使のいない12月(リーフ)

 木田時紀(変更可能)は常に厭世的な考えに支配されて学園生活を送っていた。夢もなければ希望もない。かといって何かに絶望している訳でもない。ただただ全てが面倒なだけなのだ。ところが、そんな時紀が思わぬところから、数日前には名前さえ覚えていなかったクラスメイト、栗原透子と関係を持ってしまう。そして、始まった歪なカタチは当人たちだけでなく周囲にも影響を与えていく。

 「うたわれるもの」以来の東京開発室製の新作。そのせいか、鬱方向を予感させるシナリオでありながらかなりの前人気であったようです。
 初回特典の類は特になし。ただ、通常パッケージの中にどういう理由からかDVDトールケース(パッケージ表記は特製ハードケース)が入っているのでパッケージが特典なのかもしれません。ちなみにDVDトールケースにバーコードや定価表示はありません。
 購入動機はやはり2大原画家みつみ美里、なかむらたけし買いになります。当然のようにシナリオは不安でしたが、それだけで回避できるはずもありませんでした。

 システムは何の変哲もないアドベンチャースタイル。取り立てて珍しい要素はありません。
 足回りはさすがの老舗の安定度、と書きたいところなんですが不満な点もきっちりあったりします。メッセージスキップは見た目にハッキリと遅いです。あまりボリュームのないことを考慮してもちと時間がかかりすぎるのではないでしょうか。通常ボリュームのゲームでは使い物にならないレベルかと。
 メッセージの巻き戻しは革新的なモデル。背景、立ちCG共に忠実に再現されます。ボイスのリピート再生も可能。しかし、当然予想される事態というべきか、戻れる容量はたいへん少ないです。仕方のないことだとは思いますが、あえて苦言を呈するなら、このモデルはシナリオをまともに読み返すことができなければほとんど意味がないと思います。
 名前を変更した場合にゲームオーバー後、最初からプレイし直すと再び入力しなければならないのは明らかに不便。ましてやデフォルトネームボタンがある訳ですから。

 シナリオは説得力の足りない鬱模様。何事にもやる気のない主人公に引きずられてか、ヒロインたちもネガティブ思考を標準装備しています。ネタバレになりますので詳細は伏せますが、シナリオ毎にヒロインと主人公を苦しめる障害が出てきます。しかし、それらが解決の努力を自ら放棄するほどの悲劇だとはどうしても思えませんでした。よってどうしてもエンディングまでの展開に納得できず。
 日常会話はマスコミ言うところの今時の無気力な若者が主人公であるため、必然的にあまり面白くありません。ヒロインの個性によって笑うことが断片的に、といった具合。
 テキストはどういう理由からか、ひたすらに「セックス」を連呼。その頻度はただごとでなく、思わずゲーム中で何度使われたか数えたくなってしまったほど。
 「天使のいない」が奇跡の起きないという意味なのはいいとして、気になったのは果たして各シナリオの展開は奇跡を期待するほどの事態なのか、ということ。唯一、須磨寺雪緒シナリオだけは奇跡が必要というか、起きているように見えるのは微妙なところ。
 バッドエンドが妙に多いのが気になります。難易度を上げるためでもなく、多種多様なエンディングを用意するためでもなく、その意図がわかりません。正直なところ、プレイヤーの意思はストーリーにほとんど反映できないのだから選択肢は減らしてボリュームを増やした方が良かったのではないでしょうか。内容のない多数のバッドエンドは無駄な水増しにしか見えないのですが。

 CGは原画、塗りとも思わずため息の出そうな見事な出来。いつも思うことですがリーフの彩色技術は明らかに他メーカーよりも数段勝っています。特に作品の雰囲気に合わせた塗り分けが素晴らしいです。CGモードの必要性を再確認します。
 少し気になったのはカットによって差分CGがあったりなかったりすること。そのため、テキスト内容にCGが噛み合っていないことがしばしばありました。
 立ちCGはポーズ、表情とも多彩に用意されています。題材が題材だけに憂いの表情に特に力が入っていたように思います。同じ理由によってあまり笑顔らしい笑顔が少ないのが残念。

 音楽は相変わらずのレベルの高さ。きっちりと聞かせてくれる曲が揃っていて、耳に残りやすいです。ただ、単体で聞くととても鬱方向のゲームとは思えません。
 ボイスは男性陣も含めてフルボイス。各ヒロインはこれ以上ないというほど、キャラに合った声優が選ばれています。演技も実に聞き応えがありました。

 まとめ。ハッピーエンドの有り難みを教えてくれる作品。シナリオのところで問題点を挙げましたが、これがクリアされるとより憂鬱なゲームになりそうなので微妙なところ。個人的にはヒロインが魅力的であればあるほど「To Heart」や「こみっくパーティー」のようなゲームで出会いたかったと思ってしまいます。あ、透子はサブでオッケーですから。
 お気に入り:榊しのぶ
 評点:65

 以下はキャラ別感想。ネタバレ注意。







1、栗原透子
 「メガネフレームと出来るかよ」。うろ覚えながら主人公はいい言葉を残してくれました。その後はアレでしたけど。私にとっては所詮、その程度。しのぶに対する発言が止めになりました。

2、榊しのぶ
 イベントCGはあんまり安定していないんですけど、それを差し引いても実に可愛いです。普段、すましていたり怒った表情ばかり見ているせいもあって頬を染めているカットがすごい破壊力を持っています。本当にうっすらと染まっているだけなのも高ポイント。
 しかし、透子に依存していなければ生きていけないのは気の毒という他なく。どうしてそこまで……、と思わずにはいられませんよ。透子シナリオで崩壊した時にはなぜ、しのぶに走る選択肢が出ないのか、血涙を流しました。
 にしてもこのゲームってばレズ素養を持った方が多いんですねぇ。みんな普通に肯定している感じだもんなぁ。

3、須磨寺雪緒
 正直に言えば主人公が異常に恐れた、屋上の縁で踊るような彼女の方が好きでした。電波というよりはミステリアスな感じが良かったんですよ。暇な時間に教室でギターを弾くという豪快なところも好きでした。ふてぶてしさが急に崩れて弱点が顔を見せる、みたいなところまでは大変よろしかったのですが、その後は凋落の一途でした。恵美里の絡んだバッドエンドもきつかったです。
 ラストにはいないはずの天使が現れるしなぁ。雪緒は否定しているけど、学校の屋上から二人で飛び降りて助かるのはどう考えても奇跡でしょう。いくら雪緒が寸前に身を引いたといっても二人分の体重ですからね。

4、麻生明日菜
 この人との会話は面白いだけに未練が残ります。上でも書きましたが、どうして普通の恋愛ものではないのだ、と。だって、序盤~中盤は楽しくて終盤つまらない、あるいは鬱だなんて悲しくなるじゃないですか。それなら他のキャラの方がまだしもね。
 明日菜の秘密はなんだかなぁ、という感じ。主人公は本当にたまたま引っかかっただけなのではないかと。本人からすれば主人公に何らかの価値を見いだせなければ、わざわざ手間隙かけて罠を張る意味はないんじゃないかと。
 気になるのは透子シナリオの明日菜。あの状態でもやはり、自分のシナリオ同様の動機で主人公を狙っているんでしょうか。だとしたらすごい精神力というか、執念ですな。
 でも、一番気になるのはおやっさんです。もしかして、明日菜の目論見を知った上で姪を放置しているんでしょうか。

5、葉月真帆
 明日菜ほどではないにしても、会話が楽しかったです。つーても、このゲームは主人公が駄目なので会話と呼ぶには語弊がある気がしますけど。
 恵美里は恵美里で問題がある奴ですけど、真帆は真帆で根っこが微妙だったりしますな。悩みを一切、打ち明けないのが至極当たり前のこと、という態度には少し驚きます。そのくせ、主人公には心理的抵抗がないというのはねぇ。
 ある意味ではこのシナリオが最も説得力が足りないかも。二人が色々と精神論を展開する訳ですけど、重要なのは功のことが好きだけど、もう駄目ということ。しかし、シナリオ上では功のことがちっとも描かれていないのでどうにも判断しようがなく。