とっぱら~ざしきわらしのはなし~(キャラメルBOXいちご味)

 五日市圭治(変更不可)は妖怪が嫌いである。かつて五日市家には座敷童がいた。その頃はまさに順風満帆。栄えるばかりであった。しかし、圭治とのケンカが原因で座敷童はいなくなってしまう。それからは不運続きで両親も亡くなってしまった。頼るものを失った圭治は当然のように妖怪が嫌いになったのだ。

 キャラメルBOXの新チーム、いちご味のデビュー作は妖怪と同居するアドベンチャー。原画家とメインライターは新人のようです。
 購入動機は原画と新チームというところに興味を持って。
 初回特典はおなじみらしい絵本最新刊。

 ジャンルはパッケージによるとよーかい萌え癒し系アドベンチャー。基本的にはいつものタイプというやつです。
 足回りはデビュー作らしい(?)貧弱な設計です。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、選択肢間が長く、機会も多いので相対的にはちょっと遅く感じてしまいます。次の選択肢へ、という機能の「ネクスト」も未読スキップが作動してしまうので取り扱いを要注意という感じです。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることはできません。ロード直後にも使用できません。
 メッセージウインドウにアイコンが6つもありながらセーブ&ロード機能はおろかクイックセーブ&クイックロードすら搭載されていないのはかなり不便です。後者に至ってはそもそも機能としてありません。右クリックからセーブ&ロード画面を呼び出しても実行にダブルクリックが必要と設計に親切さをあまり感じることができません。
 発声中のボイスをクリックでキャンセルできないだけでなく、コンフィグで調整することもできないのは不親切かと思います。
 コンフィグ画面において設定を変更後に「決定」をクリックせずに右クリックするとキャンセル扱いになってしまうのも使い勝手が悪いように感じます。

 シナリオは複数ライター制の弊害が如実に表れているようです。具体的な分担は不明ですが3名のシナリオライターによって各シナリオ間の不均等さが生まれています。尺はもちろん、妖怪と民話との絡み、テキストの出来、Hシーン、完成度など驚くほどばらつきが見受けられました。ジャンル名をどうとらえるかにもよりますが、全体的に盛り上がりに欠け、予定調和の感が強いように感じました。
 日常の掛け合いは悪くはないものの、ヒロイン陣は総じて妖怪らしさにかける嫌いがあります。人間と人間の会話に比べて新鮮さや差別化はあまり感じられませんでした。ただし、妖怪ヒロインと人間ヒロインが絡む場合にはその限りではありません。存分にらしさが出ていました。
 惹かれ合う過程はかなり苦しいです。一緒にいるのだからそういう感情を抱いて当然、というくらいの割り切りをテキストから感じるほどでした。選択肢以外の説得力はあまりありません。
 美影と幸子シナリオ、イソラと瑞原穂波シナリオなど別々のマップ移動先を選んだ際にシナリオの使い回しがあるのはとても残念でした。
 Hシーンは1~4回とヒロインによって差があります。エロ度は純愛系にしてはほどほどです。ただし、この要素にもヒロインによって高低があります。

 CGは全体的に丁寧な仕上がりです。キャラメルBOX3番目のチームとしてのカラーを十分に出せているのではないでしょうか。イベントCGはヒロイン数の多さもあって通常のイベント用はとても少ないです。全体でも差分を除いてわずか83枚しかありません。総枚数を増やせないのであればヒロイン数を減らすべきではないか、そう考えてしまいそうなほどです。
 立ちCGはイベントCGに負けないレベルのものが用意されています。イベントCGの少なさを感じさせにくいことも出来の良さを示しているかと。
 Hシーンはやはりヒロインによって差があります。デザイン的にエロくなりようもないキャラがいるので難しいところかもしれませんが。

 音楽は局面に応じたものが用意されていて聞き応えもあります。しかし、田舎らしさは一部の曲のみでらしさはそれほどでもありません。
 ボイスは女性陣のみフルボイス。男性陣にはありません。演技は問題なく高いレベルで安定しています。

 まとめ。なんともデビュー作らしい作品。とはいえ、ブランドとしては3番目なので、全くの新規ブランドよりは底上げが欲しいです。企画段階の他作品との差別化を製品段階でももうちょっと追求して欲しいところ。基本姿勢は悪くないと思うので長所を伸ばしていくことを望みます。
 お気に入り:美影、瑞原穂波
 評点:60

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、美影
 特別扱いされた堂々のメインヒロインなんですが、そのシナリオはかなりアレです。や、外法ってなんなのさ、と。妖怪ものが何でもありってことでもいいですが、それならそれらしい含みを事前に見せて欲しいです。ミドリが変化した姿ってのもねぇ。座敷童の民話にそんなのってあるのでしょうか。全くの創作だとそれはちょっと切ない。
 キャラ的には悪くないんですが、標準スペック以上に魅せるものがないのが残念。いちいち影女としてなのか、それとも美影としてなのかと問われるところがそういった面を示していますな。あと影女の性質をもっと面白く表現できたんじゃないかなぁ。水着や洋服にしても穂波を連れて買えばいい訳で。きっと喜んで協力してくれるでしょうから。

2、幸子
 名前に対する突っ込みは誰もしませんでしたが、それは正体含みってことでいいのでしょうか。実際、無茶な終わらせ方でありましたよ。最初は何を言っているかよく分からないくらいでしたから。
 厄落しを行うと喋りが変わって印象も、というイベントですが個人的にはまるで変わった気がしませんでした。声質やイントネーションはそのまんまなので印象もそのまんま。恐らく彼女が苦手な人にとってもきっと変わらなかったんじゃないかなー、と。
 シナリオもちょっと頂けない。あの招き猫を割ったことであれが起こるというなら、もし誤って持ち帰る途中に割ってしまったなら同じことが起こるということですよ? そんな危険なものを作るなよ。いささかどころでなく無理矢理だよなぁ。いつの間にか元に戻っているあたりも何も考えていない感じがします。

3、千鶴美
 なんだかずっと餌付けしていたような気がするシナリオでした。動物ネタって昔から多かれ少なかれ強引なところがあるよなぁ。ま、取りあえずあの本性に萌えるのは難しいのでは、とコメントしておきます。「せおりーお姉ちゃん」というのだけはなぜか面白かったです。
 ところで、こんな幼女に手を出してどうして美影は怒りもしなければ嫉妬もしないのでしょう。いくら妖怪といっても感性は人間に近いのだからねぇ。

4、イソラ
 幼なじみの河童の男の子が一瞬で女の子に! という良いシチュエーションでありながら見た目がちっとも変わらないというのは頂けません。男の子が女装した方がまだしも女の子らしいという悲しくなるようなデザイン。ただでさえ、思い出では男の子なのに代わり映えしないデザインにしてどうするというのか。感覚的には元男の子なのだから、それでもいいと言わせる外見が必要でしょう。正直、不合格と言いたい。
 シナリオも無理にいい話にしようとしているあたりがちょっと。いつの間にかいなくなってました、というのは自然に対して現実的かもしれないけど物語としては駄目でしょう。盛り上げる気がないとしか思えないですよ。

5、白沢佐久夜
 とっても印象が薄いなぁ。これを書くにあたってどんな話だっただろうかと記憶を探る作業をしたほど。ネタもさることながら短さも影響していると思います。この短さで主人公がいつの間にか救われていた的なネタを仕込むのはちょっと厳しい。ま、本作は全体的にそんなですけど。なんかほとんどセクハラネタだったような。

6、瀬織
 これもなんだか漫画談義ばかりしていたような感じが。つーか、ホームレスと仲良くなる話としか思えないあたりに本作が抱える根本的な問題があると思います。あと尻切れトンボですよ、このシナリオ。キャラ自体は嫌いじゃないんだけどなぁ。

7、藤花
 シナリオ、キャラとも最もバランスが良いのがこの藤花。これぐらいのレベル揃いであれば十分に佳作と評して良いでしょうにねぇ。
 著名な妖怪であること、日本との絡み、妖怪話の成立の流れなど設定の組み合わせがうまく、ダントツで興味深く読むことができましたよ。これぐらいの解説があればメインの2人もそこまで悪くもないんだけどねぇ。それが藤花の心情に繋がっているあたりもわかりやすくうまかったと思います。
 キャラ的にも落ち着いていて良好でした。長生きだけれど、事情から自信がなく恥じらいもきっちりある、とデザインのうまさは他のヒロインも見習って欲しいほど。青山ゆかりさんはツンデレキャラばかりなんで、こうした物思いにふけるような理性的なキャラはそれだけで新鮮に映ります。もともと演技力はある人なのでもっと色々なキャラを演じて欲しいです。その方がツンデレキャラを演じた時の破壊力も増すでしょうし。

8、瑞原穂波
 貴重な非妖怪ヒロイン。最初にやったのでそうでもないですが、先にイソラシナリオを終えてしまうとちょっと納得できないシナリオになってしまうでしょう。
 妖怪を引き立たせる、対比の存在として十分に機能していると思います。ただ、妖怪ヒロインズの方に受け止めるだけのキャパがないので穂波ばかりキャラが立っていくという循環がちょっと虚しい。
 全シナリオを進めていくと穂波は主人公が気になるのかな、と思わせてくれますが本人のシナリオだけでは唐突な感が否めません。まぁ、シナリオからすると田舎が舞台であることも含めて状況がそうさせた、って解釈でいいのかもしれませんけど。Hシーン3回はせめてものサービスなのかもしれませんが、もうちょっと尺が欲しかったかなぁ、と。せっかくの良キャラなので。