月陽炎(すたじおみりす)

 時代は大正。帝都生まれにして帝都育ちの青年、嘉神悠志郎(変更不可)は父の命を受けて有馬神社へとやってきた。秋祭りを控えて人手不足の神社の手助けをするために。
 そこで出会う二人の少女。穏やかな日々を過ごす中で悠志郎は少女と心を通わすようになる。偶然のはずの恋。だが、それは必然のものであったことを二人は知らない……。

 ある意味、あまりにも鮮烈なデビューを飾ったすたじおみりすの第二弾。原画の仁藤有志氏の絵に惹かれていたところ、さらにオープニングデモをダウンロードして、その出来を見て購入を決意しました。

 すたじおみりすと言えば避けて通れぬのがバグのはず(超失礼)。ところが驚くべきことに今作にゲームが止まるようなクリティカルなものはありません。わずかにあるものも、気になるほどのものではありません(曲の再生にたまに失敗するとか。すぐに復帰しますが)。
 クレジットにあるデバッグ担当のリメインスタッフに感謝したい気持ちで一杯です。
 
 初回特典かわかりませんが、封入特典として小冊子がついています。中身は原画家のキャラ紹介にカラーイラストと同人作家のアンソロジー。顔ぶれは天蓬元帥、おこさまランチ、冴城、高野うい、氷川へきるの5名。

 システムは「痕」型のアドベンチャー。エンディングを迎えるごとにアイテムを獲得(=新たな選択肢が発生)して新たなルートが開けます。その際、タイトル画面が少しずつ変化して視覚的にもわかるようになっています。
 メッセージ表示はウインドウなしのノベルゲーム形式。主人公のものはセリフ、モノローグとも、他作で言うところのメッセージウインドウ部に表示されます。他の登場人物は立ちCGの首のあたりに表示。さらに画面にキャラが二人表示されている時にはメッセージも中央で分割して表示されます。なかなか変わった仕様です。
 足回りはかなり優秀。ノベルタイプのゲームに必要なものは一通り揃っているかと。メッセージスキップは非常に高速。既読未読もきちんと判断してくれます。ゲームが長いので欲を言えば選択肢単位のスキップがあるとなお良かったと思います。
 メッセージの巻き戻しも驚くほど前まで戻れます。一体どこまで、というくらいに。贅沢を言えばこのモードでボイスが再生されると嬉しかったです。

 シナリオは丁寧さが非常に光っています。特に日常会話の豊富さとそのセンスの良さは特筆に値します。記号的な要素(巫女)のみに頼ることなくキャラがしっかりと描かれているので、すんなりと物語に入ることが出来ます。
 今作はシナリオ構成的にも「痕」なのですが、後半の展開を活かすための伏線の張りかたやその配慮がやや緻密さに欠けるように思います。もう少し、その流れが必然という印象を与えてくれるテキスト運びだともっと良かったように思います。やや情報の露出が少なめなんですよね。
 シナリオの丁寧さはキャラの内面描写にも及んでいて、主人公とヒロインがお互いを好きになっていく過程がしっかりと描かれています。このあたりも実に好印象です。
 メインヒロイン二人だけですが、複数回Hがあるのも大きな魅力です。タイプ的には各キャラ1回しかなさそうなゲームであるだけに余計に嬉しいです。恥ずかしいほどの甘々ぶりですし。笑えるHシーンがあるのもポイントを抑えていて良いと思います。
 極めて個人的な難点を挙げれば、誰でも納得出来るようなハッピーエンドが少ないということでしょうか。テーマが「なにかを得れば他の大切なものを失う」だとはいえ、ゲームオーバーでなく問答無用の悲惨なエンドがあるのですから、それを取り返すようなエンドは欲しかったです。

 CGは文句なしの高レベル。ちょっと枚数が少なめなのが残念です。特にメイン以外の3人はヒロインと呼ぶには少な過ぎます。そちらのヒロインが好きな方は泣きそうな枚数です。
 イベントCGの背景も実に綺麗な仕上がり。特に空の描写は見惚れるほどの美しさ。ただし、通常シーンの背景はやや落ちます。
 立ちCGもイベントCGに負けていません。喜怒哀楽がわかりやすく、仕種にも各キャラの個性が溢れています。何度も見ることに充分に耐えうる出来です。スタッフの確かな愛を感じます。
 オープニングはDirectXの機能を使って効果的に演出。ボーカルとも相まって見る側に強い印象を残します。

 音楽は派手になり過ぎず、地味になり過ぎず、いい意味でBGMに徹しています。WAVE音源なのでぜひともサントラCDを発売して欲しいです。
 板張りの廊下を歩く音、虫の鳴き声、襖や障子の開閉音などSEが豊富でいずれも聞き応えのある出来です。場面によっては曲を流さずにSEだけでシーンを構築しています。
 ボーカルはオープニング1曲、エンディング2曲の計3曲。キャラクターとテーマを唄った心にしみ入る曲です。オープニング内のメインヒロインの語りを、スピーカーの左と右に振り分けて演出しているのはなかなか面白いと思います。
 ボイスは実力派声優陣が渾身の演技を見せています。中でも有馬家三姉妹はたいへん素晴らしく、必聴ものの演技を聞かせてくれます。キャラの特性を考えたキャスティングも実にナイスです。
 そういえば、今作にあと藤咲かおりさんが参加されていれば例のカルテットが勢揃いだったんですけどねぇ。
 男性キャラにもきちんとボイスが収録されているのも高ポイント。
 気になるのは序盤の一ヶ所にノイズが入っているシーンがあることと、全体的にボイスボリュームが一定でないことでしょうか。このへんは収録スタジオの問題?

 まとめ。起死回生! 前作に続いて今作を買った人の多くはすたじおみりすに再び高い評価を与えたのではないでしょうか。個人的には前作の負債を返してあまりある出来かと。
 キャラクターの描写を記号的な表現に頼らず、丁寧なテキストによって表現されているのが好きな方に特にオススメです。
 お気に入り:有馬鈴香、有馬美月
 評点:75

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、有馬柚鈴
 最初は巫女に銀髪というのがちょっと……、という感じだったのですが、あっさりその評価は覆りました。たいへん、可愛いです。
 悠志郎に付き添ってトイレに行くイベント、鈴香の口調を真似るイベント、芋かりんとうのイベント、どれもお気に入りです。
 基本的には美月のキャラに惹かれていることを考えると、この気に入りかたは只事ではない思います。シナリオライターの技量には素直に感服します。
 Hシーンも笑えるものがあってGood。こーゆーのは大好きです。
 エンディングは唯一、まともに幸せと呼べるものが入っていて良かったです。他のシナリオでは見られないだけに、柚鈴の泣き笑いの表情は実に貴重に感じました。

2、有馬美月
 開始わずか5分で惚れました。とてもわかりやすい性格と言動は実に好みです。「Canvas」の桜塚恋との血の繋がりを思わず邪推してしまいます。
 姉、鈴香との掛け合いも実にナイス。互いに二人の魅力を引き出しあっているように感じます。
 「最後のお願い聞いてくれるかな」というCGがお気に入り。翻る髪がなんとも心に響きました。まさかそんな願いだったなんて……。オープニングで見た時には想像も出来ませんでした。
 賽銭箱Hにはかなり笑わせてもらいました。ねこねこソフトのおまけシナリオといい、こういうノリに弱いです。
 エンディングとしては柚鈴が手紙を残すものが最も気に入っています(納得はしていませんが)。ずるいくらい心に残りますよ。
 青山ゆかり(友永朱音)さんの声にはもうメロメロ(激死語)な感じです。もっともっと活躍して欲しいなぁ。

3、有馬鈴香
 美月と甲乙つけがたいです。キャラとしては鈴香がわずかにリードなんですが、シナリオで減点となって並んでいる感じです。
 美月同様、声にどうしようもないほど引きつけられます。酔った時の声も実に実に可愛いです。
 それだけにCG枚数の少なさは悔やまれます。せめてこの倍は欲しかったですよ。Hシーンが1枚というのもかなりのショックでした。
 CGはやはり巫女神楽のものがお気に入り。
 歴代巫女さんキャラの中でも旧作「Only You~世紀末のジュリエットたち~」の鏡守真澄と並んで、私の中で燦然とトップに輝いています。
 エンディングは巫女でなくなってしまうのがなんともツライです。巫女神楽といい、誰よりも神社を守ることにこだわっていたのに(というか他のメンツはそういった意識がなさ過ぎです)。

4、有馬葉桐
 えー、私にヅマ属性はないのでどうでもいいです。ただ、わざと卑猥に描かれたと思われるHシーンの構図はいい効果を出しているかと。

5、幸野双葉
 外伝というよりアナザーストーリー。どうやって話をまとめるのかなぁ、と思っていただけにこういうのはちょっと逃げかな、と。そういう意味では双葉は「月陽炎」のヒロインとしては失格かも。
 シナリオそのものはやや短いかな。互いを好きになる描写が少し足りないように思います。

6、嘉神悠志郎
 主人公。で、「いいひと。」?