うたわれるもの(リーフ)

 目覚めた時、彼はなにも覚えていなかった。命の恩人である姉妹の家に厄介になることになった彼は、姉妹の祖母からからハクオロ(変更不可)という名前をもらう。
 ハクオロは外すことの出来ない仮面をつけていたが、これについてもなにも覚えていなかった。記憶を取り戻せば外しかたがわかるかもしれない。しかし、ハクオロは世話になった村人に恩を返そうと村の発展に力を貸そうと考える。自身でもなぜ知っているのかわからない知識を使って。

 1年2ヶ月ぶりのリーフの新作。ここも色々な意味でエルフ化が進んでいるようです。購入動機はリーフだから、というより東京開発室製だからでしょうか。システムは雑誌でもほとんど紹介されていなかったので期待するもしないもない状態。よって甘露樹氏買い、ってとこですね。
 初回特典は設定原画集。主人公のページからモノクロになるのがどうも気になります。

 不具合と言うべきかわかりませんが、インストーラーが起動しないケースがあります。解決方法がホームページに載っていますので参照しましょう。

 システムはシミュレーションRPG+アドベンチャー。コンシューマーによく見られるスタイルですが、そちらと比べるとアドベンチャーパートの比重が大きくなってます。
 いつでもセーブ可能という訳ではないので、私のように出社直前までプレイするような方は少しばかり注意が必要です。戦闘前の自動セーブとかはありませんので。 

 シミュレーションRPG部分は斜め見下ろし型の戦闘パートになります。難易度も含めて例えるなら「シャイニング・フォース」のような、というところでしょうか。はっきりと簡単です。ハードユーザーには明らかに物足りないでしょう。
 エロゲーということもあってか戦闘システムは非常にシンプルですが、よく出来ています。時間を忘れて楽しめました。
 武器、防具やアイテムを買ったり見つけたりということはありません。丁寧で実践付きのチュートリアルがついているので戸惑うことはないでしょう。マニュアルを読まずともそれなり以上のプレイ可能だと思います。
 各面の勝利、敗北条件は敵の全滅、主人公の死亡以外のものも用意されていて、結構、頑張っているかと。
 戦闘で敗北してもコンティニュー可能になっています。恐らくはどの面でも制限なく可能かと。
 キャラクターの成長は経験値プラスのボーナスポイント配分制。しかし、依怙贔屓がしにくいことに加え、ボーナスポイントはあくまでも基本特性のプラス補整に過ぎないので、弱いキャラは愛を注いで育ててもあまり強くなりません。偏った育成こそこういうゲームの醍醐味という方には不満が残ると思われます。
 また、中盤以降に出撃制限が大きくなるため、難易度が低いわりにはキャラを平均的に育てることが難しくなっています。
 目新しい点として連撃が挙げられます。育てていくと1度の攻撃で複数回の攻撃が可能となるもの。いかにも最近のリーフらしいのはここからで、攻撃モーション中に現れる円(サークル)を目安にタイミングよくクリックすることで連撃を成功させなくてはいけません。自動ではないのです。
 キャラと何回目の攻撃(モーション)かによってタイミングが異なるので、それなりに真面目に望む必要があります。最終段階まで育てれば必殺技も用意されています。

 アドベンチャーパートは従来のものと変わりません。ただし、シナリオは一本道なので文中選択肢はなく、場所移動選択のみです。

 足回りは特に問題なく標準以上。ただ必須環境が300Mhz以上と高いので環境によっては実行スピードが遅い可能性があります。
 私の環境はペンティアムⅢ800Mhzの256Mですが、ソフトの速度測定では普通のスピードとなっていました。
 個人的な感覚としては場面切り換えが遅いように感じました。ただ、それがスタッフの意図通りのスピードなのかは不明。
 一応はコンフィグでも多少の高速化が図れるようにはなっています。実際に遅い場合にどの程度の効果があるのかわかりませんが。
 メッセージスキップはCtrlキーの強制スキップのみ。スピードは充分に実用的です。それほど使う機会もないのでこれで充分かと。
 メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。シーンが切り替わると戻ることは出来ません。ホイールマウスにも対応しています。

 シナリオは菅宗光氏が担当。「こみっくパーティー」というより明らかに「ビ・ヨンド」を彷彿とさせる内容。主人公が正体不明でそれが大きく終盤にも絡んでくる、そんな話が好きなんでしょうね、きっと。
 物語の性質上、必要に応じた会話が中心ですが、数少ない日常会話はノリも良く適度に笑わせてくれます。「ビ・ヨンド」に比べてどうかと言われるとやはりパワー不足の感は否めませんが。
 終盤に入って主人公の秘密が明かされるあたりになると、それまでに比べて少々わかりにくくなってきます。そんなところまで「ビ・ヨンド」的。また、味方がわかっているけれども言えない、という状態のオンパレードなので少しストレスが溜まりやすいかもしれません。
 設定上、珍しくハーレム展開が倫理的にOKなのにそうしたシーンが少ないのは残念。正室を決めたりするイベントとかあると良かったように思うのですが。
 戦闘シーンも含めて展開上の分岐がないのは少しもったいないように思います。これくらい作り込んだシステムなら2周くらい遊べる仕掛けがあってもいいかと。
 シナリオの問題と言うべきかはわかりませんが、物量差のある大国と戦う展開において、劣勢だったはずなのに戦闘シーンの合間に逆転していることが多かったように感じました。苦労しているように見えないと言いますか。
 敵の奸計に引っ掛かりそうになった面の次の戦闘で大国が滅亡というのはどうかと。ただでさえ難易度が低いこともあり余計に緊張感が感じられなくなってしまうように思います。

 CGは抑え目の色使いが作品の雰囲気にも合って原画を引き立てています。相変わらずリーフの顔といってもよい美しい仕上がりです。
 ただイベントCGが部分違いなしで46枚というのは少ないのではないでしょうか。まして企画が立ち上がったのが2年前ということを考えると。
 立ちCGは実に魅力的で多彩に変化。まるでお手本のように幅広く用意されています。さすがは3本柱(?)のひとり甘露樹氏です。
 戦闘シーンのキャラクターも力を入れたというだけあって見応えある動きの数々を見せてくれます。

 音楽は物語に合わせた和風テイストの曲が多数用意されています。ジャンルのせいか、どうも戦闘シーンの曲ばかり印象に残っていますが。
 ボーカルは挿入歌とエンディングの2曲。使い方、イメージともリーフらしい感じを受けました。
 たいへん残念なことにボイスはなし。会話のテンポも良いですし、セリフ数がそれほど多い訳でもないのでぜひとも用意して欲しかったです。なにより東京開発室ですし。
 戦闘シーンだけでなく、アドベンチャーパートにも多くの効果音が使われています。その出来は正直なところまちまち。
 それはまぁ、いいんですが効果音だけ先行させて使うケース(キャンセルするか、終わるまでテキスト及び立ちCGが表示されない)が非常に多いので途中からはうざったくなってしまいました。上述したシーン切り換えの遅さと相まってイライラさせられることもしばしば。もう少し適度に使うなりすれば良かったように思います。
 切実に効果音オフの機能が欲しかったです。

 まとめ。老舗らしい正統派の作品。ゲーム性のあるゲームをプレイしたい人にはよろしいのではないでしょうか。このようなコンシューマー的ゲームに薄くともエロが加わるとやはり違うと感じます。
 お気に入り:アルルゥ(ムックル含む)、トウカ、クーヤ
 評点:85

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、エルルゥ
 近年、稀に見るヤキモチ帝王。その時と場合を選ばない見境のなさが素敵です。政治的決断の場も関係ありません。
 エルルゥに限った話ではありませんが、Hシーンが1回だけというのはやはり寂しいです。せっかく設定に助けられているゲームなのに。
 契約を結んだのは物語冒頭ということなんですかね? 今ひとつよくわからなかったです。そうでないとムツミのセリフの意味が通らないし。だとしたらアルルゥは2回死んだ(死にかけた)ということでしょうか。
 はっきりと書かれていませんが、エルルゥはハクオロの娘……、ではおかしなところがあるから子孫なんでしょうか(アルルゥもか)。無意味な考えかもですが、こういうのは倫理的にはOKなのでしょうか。

2、アルルゥ
 やーっぱりなんと言ってもムックルに尽きるかと。全会話中でもムックル絡みのものが一番面白かったですよ。
 雨に弱いという弱点も個人的にはナイス。でも四分の一以下はちとひでぇ気もします。本格的なシミュレーションのようにランダムで降水がある天候システムじゃなくて良かったです。
 Hシーンがなかったのは仕方のないことなのか。個別エンド制で未来オチでもいいから欲しかったなぁ。そん時はさらに巨大になったムックルもセットで。

3、ユズハ
 報われなさ過ぎ。ただでさえメインキャラ中で唯一、非戦闘員で必然的に影がうすくなりがちだというのに。エンディングであっさり死亡、子供もただ生まれただけという表現では果たして何の意味があったのか、存在自体を疑ってしまいます。名前はおろか、男か女かさえもわからないのですから。
 それに死者さえも甦らせ、スライムにも自在に変えられる主人公ならユズハの病も盲目も治すことが出来たのではないでしょうか。
 メインヒロインではないとはいえ、あの展開なら一番に約束を果たすべきはユズハとの再会ではないのか(それが無理なら子供ということになりますが)。どうも奇跡は簡単には起こらないという中途半端なリアリティが発揮されているような。ここまで来といて今さらねぇ。

4、ウルトリィ
 この人のエピソードだけ絶妙に浮いているような気がします。そのあとのHシーンへの流れもなんだかなぁ、って感じ。私には代わりの子供を獲得しようとしているように見えてしまいましたよ。
 まぁ、なにより笑うのは絶対的な支配者との契約で授かった力で「調停者」なんてものを名乗っていたこと。偽善者ここに極まれりというか、情けなさ無限大というか。あきらかにクーヤの一族よりこいつらの方が悲しい存在ですな。

5、カミュ
 詠美サマとしか言いようがなく。
 血を吸う一連のエピソードは結局、何の意味もなかったんでしょうか。正体がムツミの一人格というんじゃ吸血行為の説明にはならないし。黒い翼の意味もよくわかりませんが(造られたのか、それとも単に隔世遺伝なのか)。

6、カルラ
 えーと弟とのエピソードは意味不明風味。どのあたりで意固地になっているのかさえ、よくわかりませんでした。あそこまで強硬に会うのも拒む理由もよくわかりません。(王位の問題で)姉として会うことが出来ないなら、得意の傍若無人さであくまでも他人として接すればいいような気も。死んでも話したくないとか思っている訳ではないんですから。
 にしても髪を下ろすと超別人。何度見ても同一人物には見えません。

7、トウカ
 敵にまわすと怖いが味方にするとイマイチ頼りない、そんな典型を地で行くヒト。
 いいキャラしているんですけど、シリアスなメンツと物語なのでひとりだけ大回転している上に空回りしているような印象あり。まぁ、狙って書いているのかもしれませんが。面白いことは確かですし。
 カルラに騙されたのはまぁ、いいとして結局は子供を授かることが出来なかったようでちと憐れ。たしか一族の期待がどうとか言っていたような気も。

8、ハクオロ
 なんか変身後の姿も「ビ・ヨンド」の主人公を思わせます。「猿でも描ける漫画教室」風に言うなら「嫌ボーン」的展開も。
 つーか、全体を通してももうひとつの「ビ・ヨンド」っぽい感じがするんですが。さしずめあれがSF編ならこちらはファンタジー編とでもいうような。それならいつかは現代ロボット編もやって欲しいですけど。
 最後に仮面が外れてましたけど、封印すべきはそちらではないでしょうか。体の方は普通の人間だと思うのですが。つーか、それでは封印される意味がないのでは? さすがにエルルゥとかが被っても石仮面みたいなことにはならないと思いますけどね。

9、クーヤ
 あんだけ前振りしておいてそれがオチかよ! とか叫びそうになりました。ヒロインの精神が幼児退行してめでたしめでたしという物語には初めて遭遇したのでかなり驚き、というか驚愕しました。ホントにそれでいいの?
 ゲンジマルのいう女の幸せがあの姿かと思うと泣けてきそうです。あんな姿になるために深夜の語らいがあったのか……。もっと敵味方に別れてしまう苦悩とか、色々と書くことはあるように思うんですけど。というより、そこが書きたくてクーヤという存在があるものだと解釈していたのですが。おまけに唐突に侵略を決断した理由も納得がいかないし(言いたいこと自体はわかるんですけど明らかに説明不足)。
 この一点だけでかなり印象が悪くなりましたよ。あの三つ編みの凛々しいクーヤを返してよ、ってな心境です。