2000年 9月18日
HARIの私的考察

OVAの栄光と衰退における私的考察



 一時期のビデオ業界で全盛を誇り、毎月の様に新作がリリースされていたオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)。
 しかし、その勢いは今日では「原作付き」や「TVシリーズ」に押されて見る影もないほど衰退している。
 何故、OVAは衰退してしまったのだろうか。

・OVA、その全盛期
 ビデオが家庭に普及し、LDがマニアの間で浸透してきた頃にOVAのブームが訪れた。
 (余談であるが、OVAがオタクのLDプレイヤー普及に影響しているのは間違い無い。
 OVAの媒体として、ビデオと(ビデオに比べて圧倒的に普及していないはずの)LDが同時に発売される事がそれを証明している。
 毎月、新作が発表され完全オリジナル物のほかにも、人気漫画をアニメ化した作品も、次々と発表されていった。
 その中でも、バンダイ系の会社「エモーション」は、TVシリーズの後日談的な作品や、オリジナルなシリーズなどを世に送り出し、大きく売り上げを伸ばした。
 まさに、アニメブームと一体化したブームだった。
 当然、映像メディア制作会社が次々と「アニメ業界」に参加し、空前のOVAブームとなった。
 
・膨らみつづける「次」への期待
 
 OVAがヒットしたのは、今のように明らかに「メインとなる視聴者層の年齢が高い」アニメがTVアニメの企画として通らなかった時代に、自分達の世代に合ったアニメをファンが求めた為のブームだったのではないだろうか。
 それに加えて、LDやビデオの普及により、一時期に比べてソフトの価格が手ごろになり、TV放送を前提としなくても商業ベースで「漫画等の原作を持たないオリジナルな企画」のアニメが制作できる環境が整備された事も大きい。
 これによって、今まで通らなかった企画を脚本家達が実現でき、良質なOVAが作られ、ファンに受け要られた。
 ここまでは、理想的であった。
 
 しかしファンは、「次」に過大なまでの期待を膨らませていった。
 
 OVAではなく、アニメ映画として作成された作品ではあるが、この頃のアニメファンが、いかに「オリジナル物」に期待を寄せていたか、エピソードがある・
 
 ある会社が海外向けに作成したオリジナル・アニメの設定がアニメ雑誌に紹介された。
 それは、ファンの「観たい」と思う心に十分に訴えかけられる設定であった。
 ところが、観ようにも「日本国内では公開の予定なし。」だった、
 無い物欲しさからか、雑誌に掲載された設定とストリーだけで、ファンが増え、全国にファンクラブが作られ、メーカーへ「国内公開の嘆願書」が寄せられていった。
 そういった動きの結果、メーカーは夏休みに首都圏の一部の映画館で「毎朝初回のみの公開」を決定した。
 早朝であるにも関わらず、放映期間中(短期間だった)はファンが行列を作っていった。
 映画を見終わった人は呆然としていたらしい。
 想像していた内容とは、あまりにもかけ離れていたのだ。
 (もちろん、雑誌等に紹介されていた内容は事実ではあったが、ファンの中で想像されていた物とは雲泥の差があった。)
 そして・・・、あっという間に人気が無くなった。
 
 これは元々海外市場向けに作られた作品であり、日本で受けなかったのは当然であろう。
 (だから、制作側も日本での公開を控えていたのだと思われるし、変則的な「早朝のみ上映」としたのであろう。)
 
 封印されたに等しいその作品の名は「テクノポリス21C」である。
 (余談であるが、「日本のファンの好みに合わない」がゆえに、不当に低い評価が下されている作品に「宇宙の戦士」がある。)
 
・日本のアニメ制作業界、パンクす。
 
 「作れば売れる」そんなおいしい話を逃す手はない、
 映像メディア制作会社がアニメに手を伸ばした結果、アニメ制作業界は市場(というより、映像メディア制作会社)の要求に応えられなくなっていた。
 CGアニメなどまだ立ち上がる前で、もともとが人手による作業が多い業界である。
 国内のスタジオは手いっぱいの状態で、かつ予算も十分にあるとは言えなかった。
 当然の結果として、人手のかかる部分がコストの安い海外の会社へ発注されるケースも出始めた。
 (余談であるが、当時海外発注され納品された動画や背景は日本が要求する品質に達しておらず、やむなく「国内スタジオで作り直し」が発生したケースがあったという。)
 しかし、元々が少ない予算に無理なスケジュール。
 発売延期など良いほうで、制作発表されたものの「いつのまにか」消えていった作品も少なくない。
 そんな状態で、作品のクオリティが保てるわけがない。
 たとえ一部の作品が高水準であったとしても、他の多くの作品が足を引っ張り、結果として市場に出回るアニメビデオのクオリティは大きく低下していくことになる。
 そう、作画の質も、脚本の質も低下していった。
 
・枕を涙でぬらしてであろう原作者
 
 OVAではないが、この頃に作成させた「原作のアニメ化作品」も悲惨であった。
 原作通りに作られたアニメであっても、原作の魅力を十分に描ききれていない物が殆どであったからだ。
 そう、ただ漫画のコマがアニメになって動き、吹き出しを声優が読んでいる、そんな物が少なからずあった、
 アニメ版のキャラ設定が原作のキャラ設定と違う雰囲気を持ってしまい、この為か原作ファンが「そっぽを向いた」作品すらある。
 また、漫画の場合、コマとコマの間(ま)が、重要な意味や意図、雰囲気を持つ場合が多いが、これをアニメで表現するのは至難の業である。
 (あだちみつる氏の「コマとコマの間(ま)」については「「みゆき」ではあきらめ、「ナイン」で試行錯誤をl繰り返し、「タッチ」で掴んだ」と言われるほどアニメでの表現に苦労したらしい。)
 
 ましてや原作をベースに、「前作より前の話」「原作後の話」「原作で描かれなかったエピソード」で成功したと言える物は少ない。
 原作者の「裏設定」や原作の流れを「無視」した物が作られ、ファンの不評を買ったりした。
 原作者が、アニメ化(TV化や映画化でも)の発表席で言われるコメント「私も一ファンとして観たいと思います。」とは、暗に「これは原作とは違った物だよ。」と宣言しているに違いない。
 (同様な事を、ゆうきまさみ氏がコラムに書いていらっしゃった。)
 「BLACK MAGIC M−66」の様に原作者が自ら絵コンテを切るのは、例外中の例外であった。
 (絵コンテが切れる漫画家も、そう多くはいまい。)
 自分が作った作品を、他人が「めちゃめちゃにして」世に出すことを、原作者はどんな気持ちで承認したのだろうか。
 
・だれがヲタクを馬鹿にしたか、それは私とヲタクが言った。
 
 脚本家の不足を解消するために、何がおこったのだろうか。
 前出の「エモーション」は有名どころを押さえており、内容も一定の品質を保っていたが、新規参入したAV会社にはそんな人材はいなかった。
 そこで、彼らが目をつけたのが、各アニメ雑誌で活躍していたライター達(商業誌に作品を掲載しているにも係わらず、問題意識もなく同人気分が抜けていないマンガ家も含む。)であった。
 (もちろん、アニパロマンガを書いている人の中には、その後に「アニパロ」以外で才能を開花させた方も少なくないが、それ以上に「プロ意識のない作家が多かった。)
 
 彼らとしても、自分の作品がアニメ家されるのだから、文句はない。
 かくて、「アニメヲタク」は「観る側」から「作る側」に回った。
 当然、ライターが執筆していたアニメ雑誌には、特集が組まれ発売前から人気を盛り上げていった。
 
 だが、所詮はヲタクが好きでなった「アニパロ作家」や「アニメ雑誌のライター」達である。
 十数ページの漫画や、数ページの文章ならともかく、30分から長い物で1時間以
 上のOVAの脚本など、とても十分にこなせたりはしない。
 アニメ制作の基本を「頭でしか知らず」、内輪で盛り上がったストリーを元にして、内輪だけで作り、結果として出来た作品は、アニメヲタクが作ったにも関わらず、アニメヲタクから駄作と言われるような物がほとんどであった。
 ライターが執筆していたアニメ雑誌などは、発売前は特集を組んで紹介していても発売近くなると(作品が完成して編集者が観たのだろ)その作品については触れない様になっていった。
 (ここら辺は、現在のゲーム雑誌と似ている部分がある。)
 うそか誠かは知らないが、当時のヲタク出身にわか脚本家の中には、
 「学園物で、美少女とメカを出せば、企画は通る。」
 と言っていたとの話もある。
 これが本当なら、ヲタク出身者がヲタクを一番馬鹿にしていた事になる。
 
・OVAだからブームになったのではない。
 
 粗悪作品の増加と乱作はOVAだけではなく、アニメ界にとって致命的であった
 
 ヒットしたOVAはメーカーの都合によって続編が企画されていった。(前作以上にヒットした作品が希なのは映画と同じであった、また
 続編制作に反対した第一作のスタッフが参加していないケースすらあった。)
 
 質の悪い作品が供給されればされるほど、マニアはOVAから離れていった。
 (特に、著名なスタッフが参加していない作品はその傾向が強かった、)
 また、レンタルビデオ業界の業績悪化による店舗の激減がその動きに輪をかけた。
 一時期、「レンタルビデオ店向け販売だけで採算が取れた」と言われたほど、レンタルビデオ店がひしめき合っていたが、店舗数の激減により販売数は当然のごとく落ちていった。
 (残ったレンタルビデオ店も、作品を見る目が厳しくなり「誰も借りないような作品」を店頭に置くほど余裕も無くなっていった。」
 
 OVAは衰退していった。
 (もしかしたら、OVAを含む「アニメオタクを骨までしゃぶろう」とした企画がアニメブームすら衰退させたのかもしれない。)
 
 だがOVAブームがあったからこそ、「子供をメインの視聴者層としない」TVアニメシリーズの企画が通るようになったともいえる。
 (もし、OVAブームが無かったら、ガイナックスの一連のアニメはTVシリーズはとして放送される事はなかっただろう。)
 
 ファンが望んでいるのは、良質な作品である。
 (過去の名作のLD/DVDボックスが売れているのは、その表われであろう。)
 それはもはや「ビデオのオリジナル企画」である必要はない。
 
 OVAだからブームになったのではない、良い作品がOVAとして市場に供給されたからOVAはブームになったのだ。 そして、「良質なストック」を急速に消費し、補充出来なかったから、OVAは衰退していったのだと言えよう。


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