意外と量子力学に関係あるメモ
last update 2006.2.14
量子力学の世界の不可思議性と、
実用化に向けた勢いを、
ザッと見渡すために…
量子飛躍/
不確定性原理/
トンネル効果/
重ね合わせ/
非局所性/
量子消去/
量子ゼノン効果/
量子コンピューター/
量子テレポーテーション/
観測問題/
コペンハーゲン解釈/
エヴァレット解釈/
コヒーレンス/
デコヒーレンス/
コンプトン波長/
プランク長/
カシミール効果/
ユニタリ変換
- 量子飛躍 quantum jump
エネルギーは無限に滑らかに変化するのでなく、
1つずつ段階的に変化するという実験事実。
原子核の周囲に存在する電子の軌道は任意の値を取ることは出来ず、
段階的に変化し、その中間の値を取ることが出来ない。
更に1個分のエネルギーを奪うことが出来ない最低のエネルギー状態が存在し、
だからこそ原子は、ある一定の大きさで「存在」し、潰れて無くなったりはしない。
- 不確定性原理 uncertainty principle
ある物理量の組み合わせの一方の確定度を高める視点を取ると、
もう一方の視点での不確定度が大きくなる、という原理。
(観測精度の限界を示す原理ではなく、
一方の物理量が取り得る値の範囲を狭めると、
もう一方の物理量が取り得る値の範囲が実際に拡大する、という原理。)
例えば、位置と運動量は不確定性の関係にある(相補的である)が、
ある粒子に対して、位置を精密に決める視点(実験装置)を選択すると、
その粒子の運動量に対する視点(観測装置)では、
現実に取り得る値の幅(ゆらぎ)が非常に大きくなる。
この事は、微視の世界では、物質の運動を厳密に因果律によって
結びつけることが出来ない、ということを意味する。
- トンネル効果 tunnel effect
粒子がエネルギー障壁を越えて反対側に通り抜ける現象のこと。
粒子の存在確率の分布を系の「状態」と言うが、
エネルギー障壁を越えて、
僅かでも粒子の存在確率がその向こう側にありうる「状態」にある系では、
事実、粒子は障壁の向こう側に通り抜けることが観測される。
無限に高くはないエネルギー障壁で、
ある粒子を特定の場所に精密に閉じ込めようとすると、
不確定性原理によって
粒子が現実に取り得るエネルギーの幅(ゆらぎ)が非常に大きくなり、
障壁を越えて外側に通り抜けていく様子を観測することができる。
- 重ね合わせ superposition
たった1個の量子を、複数の可能な状態の「重ね合わせ」として
捉えなければならない。
「重ね合わせ」とは、量子における“複数の状態”が、
同時に成立することである。
量子の「重ね合わせ」を
最も鮮明に端的に描き出す実験に、
二重スリットの実験(double slit experiment)がある。
電子銃から1個ずつ電子が発射され、
途中にある二つのスリットのどちらかを通過し、
観測スクリーンに到達する。
この実験を多数回繰り返すと、観測スクリーン上には、不思議なことに、
電子が多く到達した箇所が濃く、あまり到達しなかった箇所が薄い、
濃淡の縞模様が描かれる。この縞模様(電子到着場所の確率分布)は、
電子銃から波が発生し、
二重スリットの各々から波が広がったとして
空間的に計算した場合の干渉縞と同じになる。
(このため、量子は「粒子性」と「波動性」の両側面を持っている、
と言うことがある。)
電子銃から1個ずつ発射された電子は、
どうやって“自分自身と干渉”したのであろうか。
1個の電子を、あくまで1個として考えていては、決して回答が出ない。
先ずは、二つのスリットの一方を通る電子と、
もう一方のスリットを通る電子の「2つの状態」を想定し、
それらが「重なり合って、何らかの干渉をしている」と考えなければ、
この現象の説明を始めることすら出来ない。
更に、1個の電子が、二つのスリットのどちらを通ったかを測定し、
経路が分かるようにすると、干渉縞は無くなってしまう。
つまり、観測によって、波としての電子が粒子として振る舞うようになる。
(この問題を「観測問題」と言う。)
この難解な状況に対して、2つの代表的な解釈がある。
- 二つの状態が同時に成立している。
(コペンハーゲン解釈)
両方のスリットを通る電子の重ね合わせの状態が成立しているが、
観測者が、どちらのスリットを通過したか観測して分かる状態にすると、
重ね合わせ状態は崩壊し、一つの状態に定まる。
(しかし、何故、観測した瞬間に重ね合わせが無くなるのだろうか。)
- 一つの状態が実現している世界が二つある。
(エヴァレット解釈)
電子がそれぞれのスリットを通った世界は各々並行に実在しており、
「重ね合わせ」など起きていないとする。
各々の世界で観測者は実在としての粒子を観測する。
(しかし、何故、実験を行おうとすると世界は分裂するのだろうか。)
現在までのところ、この「重ね合わせ」という不思議な概念が何を意味するのか、
どうして重ね合わせ状態にある量子が我々の良く知っている
物理的に確定した(古典的な)状態に変化するのか、という事については
様々な学説が並立している状況である。
- 非局所性 non-locality
一つの出来事から生まれた二つの粒子は、どんなに遠くに離れた後でも、
観測によって一方の状態を決めると、
もう一方の状態も瞬時に決まってしまう。
今、ある瞬間に相互作用をした二つの粒子を考え、
両者のスピンの合計が
ゼロであるとすると、スピンの保存則が守られるため、
片方がスピン+1であれば、相方は必ずスピン−1となる。
このような関係を「量子的もつれ」(quantum entanglement)と言い、
こういった二つの粒子は量子相関対(EPR相関対)と呼ばれる。
相互作用した瞬間の二つの粒子は、
各々スピン±1の状態の重ね合わせにある。
その後、二つの粒子が何光年か離れた後に、
片方の粒子のスピンを観測し、例えば+1に決定されたとすると、
その瞬間に、もう一方の粒子のスピンは−1に決定される。
どんなに離れていても情報を非局所的に瞬時で伝えられるこの特性は、
盗聴不可能な量子暗号通信の基礎理論となっている。
- 量子消去 quantum eraser
重ね合わせを壊すような観測を行った後に、
その観測された情報の方を壊す(原理的に分からなくする)と、
重ね合わせ状態は保持される。
二重スリットの実験において、粒子がどちらのスリットを通過したかが
分かるような観測装置を追加すると、
粒子が二つのスリットを通過するそれぞれの可能性の
重ね合わせ状態が壊され、
観測スクリーンに干渉縞は現われなくなる。
ところが、粒子が出発した時点では観測装置が機能しており、
粒子が観測装置を通過したはずの時刻の“後”であっても、
系に何らかの細工をして、原理的に「どちらのスリットを通過したか
分からないようにする」と、干渉縞は復活する。
(どちらのスリットを通過したかの手がかりを「知ることができる」状況であっても、
重ね合わせ状態(量子的コヒーレンス)が
保持されているうちに「知らなかったこと」にすれば、
重ね合わせ状態は壊されない。)
例えば、各々のスリットの前に、
ある粒子が通過した痕跡を検知できる観測装置を、
別のスリットを通過した粒子を誤検知しないよう箱で囲って設置すると、
粒子がどちらのスリットを通過するのかを確認できるので、
干渉縞は現われなくなる。つまり、重ね合わせ状態は壊されている。
しかし、粒子がこの装置を通過した時刻の後であっても、
箱に大きな穴を開けて、粒子が通過した痕跡を検知は出来るものの
どちらのスリットを通ったのかが分からないようにして実験すると、
干渉縞が復活するのである。
単に「観測」によって粒子の振る舞いが乱されるから重ね合わせが壊れて
干渉縞が出来なくなる、というのではなく、
たとえ観測が行われていても原理的に経路情報が「分からない」ように
事後的にでも細工を行えば、経路の重ね合わせは保たれるという事になる。
- 量子ゼノン効果 quantum zeno effect
頻繁に観測を行うと、量子の状態は変化できなくなる。
量子系では、ある固有値を測定すると、それに対応した固有状態が定まるが、
固有値が離散的であると、測定間隔を短くしていく事で
他の状態に遷移する確率が極端に減り、
状態の時間発展を限りなく凍結できる。
これを量子ゼノン効果と呼ぶ。この名前は、
「飛んでいる矢は動かない」というパラドックスを構成した
ゼノンにちなんでいる。
この他「番犬効果」( watchdog effect )とか
「見ている湯は沸かない効果」( watched pot effect )
とも呼ばれる。
例えば、ある粒子のスピンが
不安定に時間発展する(変化する)系で、スピンが上向きか下向きかを
T秒間に亙ってN回測定してみる(測定間隔は凾s=T/N)。
最初の測定でスピンが上向きだとして、これが下向きの状態に遷移する確率pは、
典型的な自然減衰では凾sに比例するが、
量子力学系では(凾s)2に比例するので、
Nを大きくすると確率pは急速に0に近づく。
実際、N回測定してもスピンがずっと上向きのままである確率
(1-p)Nは、pが(T/N)2のオーダーであるので、
N→∞の極限では1に収束する。
つまりスピンはずっと上向きのままになるのである。
(一般化すると、「頻繁な観測は量子系の
ユニタリ変換による時間発展を凍結する」
という言い方になる。)
量子ゼノン効果に関しては多くの理論的、実験的検証が為されており、
量子状態制御が大きな課題である量子情報分野での応用も研究されている。
なお、これと全く逆に、頻繁な観測が状態変化を早める
逆量子ゼノン効果(inverse quantum zeno effect)というものもある。
- 量子コンピューター quantum computer
量子力学的な重ね合わせの状態を使って
超並列計算を行うもの。
従来のコンピューターは、0か1かの値を取るビット(bit)に対して
論理的な演算を高速に繰り返していくが、
量子コンピューターでは、複数の値の重ね合わせの状態を持てる量子ビット(qubit)
を用いて、重ね合わされた各々の状態が量子力学の法則に従って
同時に処理(計算)される。
計算結果を観測しようとした時に重ね合わせの状態が壊れてしまう、
という観測問題があるため、
任意のどの状態に崩壊しようが、
その一部から確定的な情報を得られるようなアルゴリズム、または
観測結果が高い確率で所望の計算結果となるアルゴリズムの開発も必要である。
例えば素因数分解や暗号解読などの問題に対しては、
量子コンピューターによる超並列計算による確からしい解の獲得と、
古典コンピューターによる検算を組み合わせることで、
完全な精度と大幅な高速化が可能になると期待されている。
より多くの量子ビットを安定した重ね合わせの状態(すなわち、高い
コヒーレンスを持った状態)に維持する
ハードウェアの開発、
より多くの問題に対処できる量子コンピューター用の
計算アルゴリズムの開発、ともに様々な困難を抱えているが、
既に原始的な量子コンピューターは実稼動しており、
幾つかの計算アルゴリズムが提案され、
古典コンピューター上での量子コンピューターの(計算精度・測定精度の
考察も踏まえた)エミュレーション等も具体的に行われている。
- 量子テレポーテーション quantum teleportation
からみ合い(entanglement)状態の量子対の持つ
非局所性を用いた、
原理的に盗聴不可能な暗号通信技術のこと。
(超光速通信技術では無い。)
以下、暗号化通信の慣例に従って、送信者をアリス、受信者をボブ、
盗聴者をイヴと呼び、概念を説明する。
- からみ合い状態にあるEPR対(粒子b、粒子c)を発生させ、
それぞれアリスとボブに送る。
- アリスは到着した粒子b に、
送信したい情報(量子状態Ψ)を持った粒子a をぶつけて、
粒子a、粒子b のからみ合いの状態を作る。
※一つの出来事から二つのからみ合い状態にある粒子を作ることは
比較的容易に出来るようになったが、
ある粒子に外来の粒子をぶつけて新たな
からみ合い状態を作るのは、技術的にも難しい。
- 粒子a、粒子b の両者の区別はつかないが、
2つの粒子がどういう経路を辿ったかだけが分かるような測定を行う。
(これをベル測定と言い、経路情報以外のからみ合いを壊さない。)
※粒子a、粒子bが到来し交わる場所にハーフミラーを置き、
到来方向の先に粒子の検出器X、Yを置くと、
X、Yに検出される粒子の数が(2,0)、(1,1)、(1,1)、(0,2)
の4つの場合に分かれる。このいずれであったかが
ベル測定の結果となる。
この4パターンのいずれであるか以外は観測していないため、
他の量子情報Ψについては、からみ合いの状態に保たれる。
- 結果として、粒子a が持っていた量子情報Ψは、
粒子b に−Ψとして反映され、
更には粒子b とからみ合いの関係にある粒子c に
Ψとして瞬時に反映される。
- ボブは、
古典的な通信手段によるアリスからのベル測定の結果情報を
粒子c に作用させる。
すると、
粒子c は、もともと粒子a が持っていた量子状態Ψを持つ。
※粒子a と粒子b が、どのようにからみ合ったのか、
という情報を用いて、粒子c から量子状態Ψを復元する。
量子情報Ψをボブが復元するには古典的な通信手段で
ベル測定の結果を通知する必要があるので、
量子テレポーテーションは超光速通信ではない。
さて、ここで、盗聴者イヴが現れ、
粒子c の状態と古典通信内容の両方を盗聴して
量子情報Ψの復元を試みたとする。
しかし、もし技術的にイヴが粒子c を捕らえることが出来たとしても、
これを観測しようとした瞬間に、その影響が粒子b に及ぶため、
アリスは盗聴されたことに気付くので、古典通信をやめれば良い。
イヴは、アリスにもボブにも気付かれないよう
通信内容を傍受することが原理的に不可能なのである。
また、粒子a 自体は粒子b とからみ合ってしまうため、
アリスの手元には粒子a の量子情報Ψは残らない。
(このため、量子情報Ψは、コピーされた、というより
テレポーテーションしたように見える。)
このように、量子テレポーテーションによる通信は、
原理的に盗聴が不可能であり、完全な暗号化通信路であると言える。
- 観測問題 observation problem
量子力学は状態を波動関数で表現し、
全ての状態を波動関数の重ね合わせで表現するが、
この重ね合わせ状態は「観測」することで瞬間的に一つの波動関数に変化する。
この変化を「状態収縮 state reduction」とか
「波束の崩壊 collapse of the wave packet」と呼ぶ。
このような現象は古典的な物理世界観からは解釈が困難であり、
このことを「観測問題」と呼ぶ。
代表的な解釈に、コペンハーゲン解釈と
エヴァレット解釈がある。
これらの解釈は「存在」や「時間」に関する深い哲学的考察と密接な関係にあり、
解釈の趣旨の表面上の異様さから、実に様々な批判に曝されているが、
それだけ量子力学が提示する世界観それ自体が不可思議なのだと言える。
カントが言うところの、
人間が先天的に持っている時間・空間・
カテゴリーという形式では
捉えられない問題を扱おうとしているのだろう。
- コヒーレンス coherence
波の持つ性質の一つで、干渉のしやすさ(干渉縞の鮮明さ)を表す。
可干渉性とも呼ばれる。
振動数と位相が揃った光はレーザーと呼ばれ、高いコヒーレンスを持つ。
量子力学の状態ベクトルは線形方程式に従うが、
複数の状態ベクトルが重ね合わせられている
(つまり足し合わされている)状態で、
各々の状態ベクトルの相対的な位相関係が良く揃っている状態が
コヒーレンスである。
二重スリット実験では、各々のスリットを通過する
2つの状態ベクトル(解ベクトル)の間に
コヒーレンスが存在するために干渉縞が生じる。
- デコヒーレンス decoherence
量子的な重ね合わせ状態
(すなわち量子が波の性質を持っている状態)にある系が、
系外との相互作用(外部環境からの擾乱)によって、
古典的に定まった状態に崩壊する過程のこと。
(ある粒子が上向き・下向きの2通りの
スピンだけを持つ場合で考えると、
その二つの状態を同時に持っている量子的状態から、
上向きまたは下向きスピンのみを性質として持っている
古典的な状態への変化、ということになる。
上向きまたは下向きスピンを確定的に持っている
古典的描像の粒子が統計的・確率的に混ざっている状態
(混合状態 mixture of states)と、
量子的描像の「重ね合わせ superposition」とは
違うものである。)
量子情報分野では、デコヒーレンス時間をいかに長くするか
(すなわち、いかに安定してコヒーレンス状態を
維持するか)が重要になる。
なお、外部環境からの擾乱によるデコヒーレンスは、
状態収縮の必要条件ではあるが十分条件ではなく、
観測問題の完全な説明にはなっていない。
部分系においてデコヒーレンスが起きても、
世界全体は依然として重ね合わせ状態であり、
そこに観測問題は残っている。
- コペンハーゲン解釈 Copenhagen interpretation
観測問題の解釈の一つ。
観測による状態収縮を認める立場。その中にも、
状態収縮の実用的・道具的価値のみを重視する立場と、
状態収縮の仕組みや解釈を行うべきとする立場がある。
量子が粒子性と波動性を同時に持つことを前提とし、
相補性の原理に
立脚している。
- エヴァレット解釈 Everett interpretation
観測問題の解釈の一つ。
多世界解釈とも
呼ばれる。
観測者を別格とせず、観測者と対象の両方を含む世界全体が
可能性として考えられる極めて多くの世界に枝分かれする。
その個々の世界は観測可能な実体であり、
「観測による状態収縮」という考え方を排除している。
観測者は、他の枝分かれした世界を観測することは出来ない。
全ての可能な世界への分裂において、
1回の分裂で、ある特定の状態の世界が発生する確率(世界の個数)は
厳密に量子力学の法則に従っており、
従って、多数回の世界の分裂の後の個々の枝分かれした世界の中では、
特定の状態に関する観測の統計結果は、量子力学の法則に従うことになる。
- カシミール効果 Casimir effect
真空中で、二つの無帯電状態の金属板を、極めて近距離に平行に置いた時に
お互いに働く吸引力のこと。
真空中でも電子と反電子は常に対生成されるが、
極めて薄い空間内ではその数が少なく、統計的な偏りが発生し得る。
電荷的に打ち消されなかった電子と反電子は電気双極子を為し、
金属板に反対符号の電荷が誘電され、結果的に電磁気的な引力が働く。
真空を電子と反電子の重ね合わせ状態とすると、
これを観測行為によって電子と反電子に具体化していないのに、事実
吸引力が働くという事は、
コペンハーゲン解釈が
間違っているということを意味する、
という意見もある。
- コンプトン波長 Compton wave length
粒子の量子力学的な波としての広がり(大きさ)、もしくは
波としてのゆらぎの範囲を表わす。
コンプトン波長は質量に反比例する。
(従って、質量ゼロの粒子は波として無限遠方まで広がることになる。
例えば、質量ゼロのゲージ粒子である
光子によって媒介される電磁気力は、
到達距離は無限大である。)
ある質量の粒子をコンプトン波長以下の領域に押し込めようとすると、
不確定性原理によって、
運動エネルギーの不確定度がもう一つの粒子を生成できるほど大きくなってしまう。
つまり、ある質量の粒子が安定して存在するためには、
コンプトン波長程度の広がり(大きさ)を持つ必要がある。
- プランク長 Planck length
粒子の「シュヴァルツシルト半径」
と「コンプトン波長」が等しくなる時の長さ。
プランク長は、1.616 × 10-35[m] 程度であり、
この時の粒子の質量はプランク質量と呼ばれ、およそ
2.17645 × 10-8[kg] である。
このスケールでは、空間そのものが古典的な場として見做すことができず、
重力場も量子力学的な振る舞いをし始める。
よって、このサイズ以下の領域は、
我々に馴染みがある意味での「空間」とは呼べない。
ところで、日常的なスケールでは
「電磁気力」「強い力」「弱い力」」に比して
「重力」は非常に小さいが、
プランク長以下のスケールでは他の3つの力に匹敵する大きさとなる。
このことから、宇宙開闢からプランク時間経過し、
宇宙の大きさがプランク長以上になる頃に、
重力が他の三つの力から分岐したと考えられている。
距離や位置を定める精密さは、数学的には無限に細かく考えることが出来るとしても、
物理的には「何かが、そこにある」と、精密に指定できなければ意味が無い。
その「何か」とは物質の質量であり、すなわちエネルギーである。
今、ある質点を考えると、その質点が非常に軽い場合、
量子力学的なその質点が「存在する」範囲は非常に大きく広がってしまう。
その質量(エネルギー)が確かに「そこに」存在する、と言える範囲
(つまりコンプトン波長)を小さくするには、
質量を大きくする(エネルギーを高くする)必要がある。
では、目印となっている質点の質量をどこまでも大きくする
(エネルギーをどこまでも高くする)と
存在位置の範囲を狭くする(位置の精度を高くする)ことが出来るのか、
というと、別の問題が生じる。
相対性理論によると、質点の質量(すなわちエネルギー)が大きくなると、
シュヴァルツシルト半径もそれに比例して大きくなり、その内部空間は、
外側とは一切の情報が遮断される別世界(事象の地平線の向こう側)になってしまう。
「何か」の位置を精密に決めるためにコンプトン波長を小さくすべく、
その質量(エネルギー)を大きくすると、
今度は時空が大きく歪み、光でさえも脱出できない範囲を表す
シュバルツシルト半径も大きくなってしまうわけである。
更に質量(エネルギー)を大きくすると、
ついにはコンプトン波長とシュバルツシルト半径が等しくなる。
この時の長さをプランク長と呼ぶ。
仮に質量(エネルギー)を更に増すことが出来たとしても、
コンプトン波長は、増大するシュバルツシルト半径の内側に隠れてしまい、
目印の位置を決める精度は逆にもっと悪くなってしまう。
つまり、量子力学と相対性理論を信じる限り、
物理的な意味での距離や位置の精度、すなわち空間の分解能は、
プランク長が限界ということになるのである。
- プランク時間 Planck time
我々にとって意味のある最小距離であるプランク長を、
我々にとって意味のある最大の速さ即ち光速で割った時間。
その単位は「クロノン」(chronon:時間量子) と呼ばれる。
1クロノンは約5.391×10-44[秒]程度であり、
我々には1プランク時間以内の事象を
測定したり識別したりすることは 原理的に出来ない。
- 相補性 complementarity
一方を決めようとすると他方が決まらなくなる関係。
素粒子の「位置」と「運動量」、「波動の概念」と「粒子の概念」、
「空間的記述」と「因果的記述」など。
(空間的記述のためには測定を継続する必要があるが、
測定によって確率的な不連続変化が起こるため、因果的記述が不可能となる。
一方、測定をしない間の変化は因果的に辿ることが出来るが、
空間的記述が出来なくなる。)
- ユニタリ変換 unitary transformation
波動関数にユニタリ演算子を作用させて、新しい波動関数に変換すること。
ユニタリー変換では、2つの複素ベクトルx,yの内積(x,y)が、
線形変換fによっても変わらない。すなわち (f(x),f(y))=(x,y) となる。
(複素数係数の行列Aの(i,j)要素の共役複素数を(j,i)要素に入れ替えた行列を
随伴行列A*というが、
A・A*=A*・A=E(単位行列)となるような行列を
ユニタリ行列Uと呼ぶ。ベクトルにユニタリ行列を乗じることが
ユニタリ変換であり、ユニタリ変換後もベクトルの内積は不変に保たれる。
すなわち、(U・x,U・y)=(x,y)である。)
ユニタリ変換は複素ベクトル空間上の等長変換を意味しており、
量子力学的な状態変化は全てユニタリ変換で表せる。
■未整理
- 2006-08-17 (木)
- ミクロな物体は『粒子と波の両方の性質を持つ』のではなく、
ミクロな存在は、マクロな存在と相互作用して、
粒子的または波動的な痕跡を残すという性質は持っているのであり、
ミクロな存在そのものは、“粒子でも波でもない何か”
である。
多分、ミクロな存在の各々は、我々には想像も出来ないような多次元虚数空間で、
子供がクルクルと回して遊んでいる風車(かざぐるま)の影に過ぎないのだろう。
ちなみに、4次元立方体が2次元平面に落とす影を、
ここで
視覚的に感じることが出来る。
- 2006-10-02 (月)
- 量子力学なんて、その存在すらも知らなかった中学生の頃、
「何故、今あるモノの大きさは、“今あるが如くある大きさ”よりも
1兆倍大きいわけでもなく、一兆分の一しか無い小ささでもなく、
丁度、今ある通りの大きさなんだろう。」
………と、真剣に悩んでいた。
だから、
不確定性原理
を勉強した時には、びっくりした。
それによると、
陽子の回りを巡る電子が、その軌道をキツく狭められようとすると、
何故かは分からないが、運動量のゆらぎが大きくなって暴れるため(運動量の不確定性が大きくなるため)、
ある大きさ以上は小さくなれない、というのだ。
だから、水素原子は、“今あるが如くある大きさ”で存在するし、だから、
色々な分子もタンパク質も生命も、今あるが通りの大きさになっているわけである。
「不確定性=決められないこと」が、存在が潰れずに存在として在り続けることを支えている。
このインスピレーションは強烈であり、
きっと、物理的実在だけでなく、ありとあらゆる意味は、
「絶対に説明できないこと」を基盤に、その存在を勝ち得ているのだ、と思った。
矛盾も無く全てを説明できてしまう世界は存在を勝ち得ない。
参考資料
- BLUE BACKS「量子論の宿題は解けるか」ISBN4-06-257195-1
- BLUE BACKS「科学101の未解決問題」ISBN4-06-257239-7