4.算出故障率の評価

 本評価における算出故障率について、海外データの故障率値、算出方法と比較しながら、その相違と考察を以下に記す。

4.1 LER故障率との比較
 本評価での故障率と同様にプラントの運転実績から故障率を算出している米国の所謂LER故障率と故障率値、算出条件の比較を行う。

4.1.1 故障率値の比較
 本評価での故障率とLER故障率の比較表 4.1.1に示す。
 本評価での故障率は、ほとんどの機器について、LER故障率より小さい。
 特に、計装品全般について、他の機器と比較して、LER故障率と本評価の故障率の差が大きい。
 ただし、ディーゼル駆動ポンプについては、本評価の故障率の方が大きい。

4.1.2 算出方法の比較
 本評価とLER故障率の算出方法の比較概要を表 4.1.2-1,2,3,4,5に示す。
 LER故障率は、本評価の故障率と同じように、運転プラントにおける対象系統、対象機器を定め、観測期間中の故障情報から機器の故障モードに該当する故障を特定し、故障率を算出している。
 ポンプ、ディーゼル発電機については、両者の算出方法(故障の判定方法)に若干の相違があるものの、LERでの方法を本評価でも適用した場合、数倍大きくなる程度である。全般的に見れば、両者の故障率算出方法(故障情報を除く。故障情報の比較は次項で検討)は、故障率値に著しい影響を与えるほど大きな差異はないと考えられる。

表 4.1.2 国内故障率とLER故障率の算出方法の比較

4.1.3 故障情報の比較
 LERとNICSに登録されている事象の報告要件を表 4.1.3に示す。
 両者の報告要件は厳密な比較により、その差がどの程度故障率に影響しているかを定量的におさえることはできないが、主要な機器の故障については、ほぼ同等と思われるため、報告要件の差が両者の故障率の差に著しい影響を与えるものではないと考えられる。

4.1.4 故障率の差の考察
 本評価の故障率は、ほとんどの機器について、LER故障率より小さい。この故障率の差に関する考察を以下に記す。

 日本と米国のプラント機器に対するメンテナンスを比較した場合、米国の予防保全は、主にTech.spec.に基づくサーベランステストとASME Code に基づく検査であり、Tech.spec.に基づくサーベランステストが安全系の機器を対象とするに対し、日本の定検における予防保全は、安全系に限らず広範に実施され、また米国が機能試験を中心としているに対し、日本では分解点検を重視している。このようなメンテナンスの差が、機器の信頼性の差の一因をなすものと思われる。
 また、LER故障率算出対象期間は大部分1980年以前であり、この時期の米国のスクラム頻度は、平均5回/炉年以上と非常に高い時期である。
 これに対し本故障率算出対象期間における日本のプラントのスクラム頻度は、0.1回/炉年以下と米国に比べ非常に低い。

 このように、安定運転を行っている日本の機器の信頼性は、基本的に米国より高いものと考えられ、本評価の故障率がLER故障率より低い傾向にあることは、妥当なものと考える。

4.2 その他の海外データとの比較
 主要な機器についてNUREG/CR-2815、IEEEのデータと比較する。

4.2.1 故障率値の比較
 主要な機器の故障率の比較を表 4.2.1に示す。
 LER故障率の比較と同様に海外データの方が大きい。

4.2.2 算出方法の比較
 これらのデータべースは、いずれも運転プラントにおける故障データから直接算出したものでなく、各種の故障率データベースを参考にしながら、専門家の判断に基づき推定したものである点で、本評価の算出方法と大きく異なる。

4.3 故障率算出結果に関する考察
 前項までの海外データとの比較、また算出故障率、故障件数の評価から、本評価の算出故障率は、国内原子力発電所における機器の高い信頼性を反映した概ね妥当なものであると考える。

 なお、故障件数0件についてと海外データと故障率の差の大きい計装品についての考察を以下に記す。
(1)故障件数0件について

(2)計装品について
 本評価で取り扱う故障情報源は、機器の故障率を算出するために、収集されたものではなく、プラントの運転異常、主要機器の故障として収集されたものである。

 このため、故障率を算出する場合の対象機器としては、故障情報を得ることのできる主要な機器とするために、できるだけプラントの安全系、主要な常用系を構成する主要な機器を選定している。
 しかし、このような対象範囲の限定が故障情報を適切に把握する上で、十分条件を満たすものであるかどうかの厳密な検証は、困難であり行っていない。他のデータベースとの比較で差異の大きかった計装品について、更めて検討するとこの対象機器と故障情報に若干の問題があるように思われる。

 すなわち、多重化されたシステムの計装品については、ひとつの計器が故障しても、システム、あるいはサブシステムの機能喪失には至らず、機能が維持されていることから主要機器の故障とならず、故障情報として得ることができないケースがある。
 こうした理由により、計装品の故障率の不確定性は、大きいものと考える。

4.4 その他故障率使用上の留意点
 以下に本故障率を使用する際の留意点を記す。

(1)算出故障率について
 本研究は、PSA用の機器故障率を算出することを目的とし、国内の運転プラントにおける主要機器の故障情報、運転実績を調査、分析し、故障率を算出したものである。
 このため、機器の故障の判定では、完全な機能喪失を故障として取り扱っており、算出された故障率は、予防保全や修理のために機器を停止、隔離した事象による非信頼度を代表するものでない。

(2)時間故障率とデマンド故障率
 時間故障率の47機種の内、デマンドデータが収集可能な15機種について、24の故障モードのデマンド故障率を算出した。
 機器のサーベランス頻度を1回/月と仮定した時間故障率からの非信頼度とデマンド故障率からの非信頼度の比較を図4.4に示す。
 時間故障率、デマンド故障率とも同じ故障情報源を使用しており、またデマンド故障率のデマンド回数は、大部分がサーベランスによることから、手動弁、安全弁、逃がし安全弁を除くと両者の故障率による機器の非信頼度にも大きな差異はない。
 なお、時間故障率とデマンド故障率のいずれを使用するかは、使用目的によることから使用者の判断に委ねられるものと考える。