|
「碇レイ、いや、綾波レイ、どちらの名で呼べば、よろしいでしょうか?」 突然現れたその姿に、時田シロウは驚くでもなく、そう慇懃に言い放った。 「兄さんを、返して。」 綾波レイの声に導かれるまま、レイはひとり、ここへと来ていた。 方舟の中枢、時田シロウと、兄碇カヲルのいる、この場所に。 今、方舟の機能が停止しつつあることは、彼女も感じ取っていた。 それが、綾波レイの、リリスの力によることであることも、その効果が一時的なものにすぎない、ということも。 綾波レイに、本来なら存在しない彼女にできる、それが最大限のことである。 ここから先は、今を生きている、碇レイが、しなければならないこと。 「イレギュラーの分際で、何ができる。」 イレギュラー。 本来なら、生まれてくるはずのない存在。 運命の子である、兄とは違う。 だが、レイにとってそんなことはどうでもいいことであった。 いや、どうでもいい、というのは少し違うかもしれない。 イレギュラーである自分の存在は、逆に、人間が既に"神"の手を離れていることの証なのかもしれない。 人の未来は、人間自身が作っていくのだということの、希望。 それは父や母や、彼女の祖母である碇ユイ、彼らが伝えつづけてきたことでもある。 「兄さんを、返して。」 もう一度、しかし先ほどよりも一層力を込め、レイは言い放った。 「止まり、ましたね。」 「ああ、だが、一時的なものにすぎんよ。」 そういう冬月の声は、冷静である。 「ええ、まだ決着はついていない・・・決着を、つけなきゃならない人も、いますからね。」 そういってマナは、胸の中の小さな意志を、強く握り締めた。 「人も神も同じか・・・人と人との繋がり、絆・・・結局すべてを決めるのはそういうものなのだな。」 そう呟く冬月の表情は、どこか嬉しそうにも見えた。 「行きましょう、私たちも。道は、ユイ叔母様たちが開いてくれます。」 それは、憶測ではなく、確信であった。 「レイ・・・は?」 その頃、シンジの駆る初号機は方舟内部に侵入していた。 既に機能が停止しつつあるため、さほどの抵抗を受けることはない。 「レイ・・・」 『こっちだ、シンジくん。』 『シンジ、ついてきて。』 「え?」 確かに聞こえたその声。 それは、渚カヲルの声、そして、忘れようもない、母の声。 『全ての決着をつけるのさ、ここでね。』 『すべては、ここで終わらせなければならない。本当に、人が神の手を離れて、独り立ちするために。』 その言葉が、母たちとの二度目の、そして本当に最後の別れなのだということが、シンジにもわかった。 サードインパクトのあの日、告げたはずの別れ。 だが、心のどこかで、まだ、シンジは彼らを頼っていた。 どこかで、見守ってくれているような、そんな気がしていた。 だが、今のシンジにはマナがいる。 自分で選んだその道。 そのために、本当の別れを告げなければならない時が来たのだということを、シンジもどこかで悟っていた。 「誰だ、お前は。」 成行きを見守っていたのか、はたまた、時田らにマインドコントロールかなにかを施されたためか、うつろな目で時田と妹のやり取りを見つめていたカヲルが、不意にその口を開いた。 だが、その声はレイの知るカヲルの声ではなかった。 「なにを、したの・・・兄さんに。」 「さあ、ね。」 なにかを予期していたのか、時田が満足げな笑みを浮かべる。 「戻して!兄さんを、今すぐ!!」 強い口調で言い放つレイ。 が、そんなものに動じるでもなく、時田は静かに呟いた。 「人の記憶、感情、運命・・・そんなものを都合よくいじれるはずもなかろう。目覚めたのだよ、彼が。」 「彼?」 彼、というのがいったい何を、誰を指しているのか、残念ながら今のレイには分からなかった。 くしくも、彼女の母、マナが見つけ出したその真実を。 だが、少なくとも目の前にいる兄が、兄でありながらもそうではない、というのはわかる。 敵、であるということも。 レイにとっての、兄への障害、という意味ではない。 おそらくは、人類すべてにとっての。 そう、人類すべてにとっての敵、なのだ。 レイが、とかシンジやマナが、とかそういうものではない。 ともすればそれは、時田自身にとっても敵となりうる、ということである。 そこまで今のレイが知っていたわけではなかった。だが、 不意に、カヲル、いやカヲルの姿をしたものが、右腕をあげると、そこから光が煌いた。 ATフィールドの応用。 使徒を造り上げた者たちにとって、使徒にできることなどは出来て当然、ということなのであろう。 レイが驚いたのはそういうことではない。 自分に向かって真っ直ぐに伸びてきたはずの光が、突如、なにかに遮られる。 それは、大きな手。 温かさを感じる、どこか父を夢想させる大きな手の平が、彼女の身を守っていた。 「パ・・・パ?」 「間に合った、みたいだね。」 『ええ。』 駆けつけた初号機から、そんな声が聞こえてくる。 父の声、そして、いつかどこかで聞いたことのあるような、声。 母の声、ユカの声、綾波レイの声。 そのどれとも違う、けれど、そのどれとも似ているその声。 「ユイ・・・おばあちゃん?」 そう呟くレイに、ユイがそっと微笑みかける。 『おばあちゃん、ってのはやめて欲しかったけどね。』 そんな会話が交わされ、一時、穏やかな空気が流れた。 「なんの真似、だ。」 突如として現れた紫色の巨人を前に、カヲル−いや"神"と呼ぶべきか−は驚くでもなく、そう静かに言い放った。 「造られしものどもの分際で、われらの真似をする、か。」 嘲るような声を上げ、"神"は右腕を上げる。 と同時にガンッという衝撃が、見えない力となって初号機を襲う。 「クッ。」 徐々に強くなっていくその衝撃に、シンジは必死に耐える。 「レイを・・・レイを守らなきゃ。」 うめくように耐えるシンジを、ユイが、カヲルが、無言で、だが、しっかりと支える。 「我が血をひくはずの者と、出来損ないの使徒、か。こしゃくな。」 そう言って"神"がその右腕に一掃の力を込める。 「駄目・・・か。」 あまりに圧倒的なその力は、徐々にではあるが初号機を押し始めていた。 「レイが・・・レイを・・・」 その力の奔流の中で、それでも娘の身を案じるシンジ。 『大人に、なったわね。』 『シンジくん、君は強くなった。』 そんなシンジの態度は、ユイとカヲルを安心させた。 そしてそんな三人の心情が、"神"の心に、わずかばかりの苛立ちを、知らず知らずのうちに与え始めていた。 そして、もう一人。 『大丈夫。この子はもう一人の私。この子は私のすべてを受け継ぐ子。だから・・・何があっても私が守るから。』 「綾波・・・レイ?」 我が子の姿にその姿が重なって見える。 確かにそれはシンジのよく知る綾波レイの姿であり、声であった。 だが、シンジはわずかばかりの違和感を、そこに感じ取っていた。 が、それは不快感を及ぼすものではない。 むしろどこか心地よささえ感じさせる。 しばし考え、そしてシンジはその違和感の元を悟った。 今しがたのレイの声に感じたもの。それは感情であり、彼女の強い意志である。 強い感情、強い意志。それらがシンジのよく知る女性たちを思い起こさせるから、だからこそ、心地よさを感じるのだろう。 それは碇ユイであり、葛城ミサトであり、そして、霧島マナである。 彼女たちの意志は、それぞれにシンジの人生に影響を及ぼしている。 今の自分。今の自分を好きでいられること。それを教えてくれたもの。 だからこそ、心地よさを感じさせてくれる。"勇気"を思い起こさせてくれるのであろう。 レイのまわりをATフィールドが取り囲んでいく。 そしてそれは初号機のATフィールドに干渉し、やがて、一つの力となった。 シンジの意志、レイ達の意志。それらが一つとなって、"神"に必死に、懸命に抗おうとしていた。 が、所詮は人と神、であり、普通に考えればそれだけでどうとなる問題ではない。 本来であればあまりの力の差、である。 戦い、などという以前の問題であって、押されているとか窮地に陥っている、とか言う生易しいものではないのだ。 少なくともその様子を横で眺めている時田の目論見は、そうであった。 "神"の意志が目覚めてしまった以上、エヴァをもってこようがなんであろうが、勝つとかそういう話ではない。 だが、 「そんな馬鹿な・・・」 エヴァの力が、レイ達の織り成す力が、徐々に"神"の力を押し返し始めていた。 それは苛立ち、迷い。 シンジもレイも、ユイやカヲルも。 私利私欲どころか、その意志の中に自分のため、などというものはさらさらない。 かといって世界の平和のため、などという曖昧な大義名分、偽善ぶったような思いがあるわけでもない。 そこにあるのはただ、確かな誰かのため。 誰かを守るための思い、ただそれだけである。 そこには"神"が忘れていたなにかがあった。 「われらが造ったものに、負けるはずなど・・・」 にがにがしげに言葉を吐く。 造物主たるものが、自らの作り上げたものに敗北する。 確かにそれは屈辱なのかもしれないが、彼の心の苛立ちの理由はそれではない。 "神"を越える、という考え方であるからおこがましく感じるわけであって、親と子、という味方をすればそれは自然なことでさえあるのだから。 子はいつか、親を超えていかなければならないのだから。 そういう想いも少なからずどこかにあるし、大体、苛立ちが原因で形勢が不利になりつつあるのであって、負けそうだから苛立っているわけではないのだ。 シンジたちのその姿、誰かを守ろうとする心、生きようとする力。 それはどこかで求めていた、そして最後まで得られなかったもの、である。 「そんなことが・・・あるものか!」 自分たちにえられなかったもの、それを、自分たちが作り出したはずの者たちが、こうもあっさり手に入れている。 嫉妬。 結局彼の行動原理は時田やアスカと何一つ変わることはない。 "神"でありながら、その地位に上り詰めていながら、あまりに人間的、なのであろう。 そうであるから、 「認めない、そんなものは!」 捨てたはずの感情が爆発し、右腕が今までになく、大きく光り輝いた。 そして、巨大な閃光。 「間に合ったみたい、ね。」 一瞬の閃光の後、シンジは恐る恐る目を開けた。 そこに立っていたのは、 「マ・・・ナ?」 その右腕から、正確にはそこに握られている小さな石から発せられた光が、"神"の力を霧散させていた。 『もう、やめましょう・・・』 静かな、けれど力強い声が、あたりに響き渡る。 『目を、覚まして・・・』 「お前、は・・・」 カヲルの身体から、そして賢者の石から、男と女の姿が浮かび上がる。 『もう、あなたにもわかっているはず・・・。』 「人類は、既に私の手の内にはない、か・・・」 『そう、そして彼らには可能性がある。私たちと違って・・・。それを信じましょう。彼らなら、私たちに出来なかったことが・・・』 「お前はいつもそうだったな・・・。人を信じられる。羨ましいよ・・・」 シンジはその二人の姿に、なぜかゲンドウとユイの姿を思い出していた。 『人の世は、人の手に、委ねるべきなのです。』 そう、そうやって未来も命も、ゲンドウとユイから、シンジたちに託された。 視点の大きさこそ違え、やらなければならないことは、まったく同じことなのだろう。 そしてその視点の大きさなど、この場合些細な問題にすぎない。 今を生きている人々一人一人が、とりあえず自分の周りを見れば、親から託された願いをかなえていければ、人類全体が生きていける。 シンジには、そんな気がした。 だがら、 「僕たちが、あなたにとって信頼に足る存在かどうか、それはまだ断言できません。でも・・・」 フゥッと一つため息を吐く。 「でも僕たちは生きることを諦めたりはしません、守るものが、そこにある限り。帰る場所が、そこにある限り。」 マナの方を振り向き、シンジはそっと微笑んだ。 そのシンジの目を真っ直ぐに見返し、マナは笑顔で頷く。 そんな二人のやり取りに、"神"はほんの少し驚いたような顔をし、そしてふっと微笑んだ。 「そうか・・・そう言うことなんだな・・・。結局何を言おうが私たちは生を放棄した。そんな存在が、懸命に生きようとする命になど・・・勝てるはずはない、か。」 『私たちは、だから、もうここにいてはいけないのかもしれないわね。』 生きるということ。生きていくということ。 生きていく辛さ、悲しさ、楽しさ、幸せ。 そういった全ての物を感じることの出来る、その権利を持つものは、今を生きている、生きようとしている者たちだけなのであろう。 それは誰かから与えられるものではない。誰かに与えるものでも、ましてや奪ってよいものでもないのだ。 あの時、生きることを諦めた自分に、それをする権利などない。 苛立ちは、羨ましさの裏返しである。 永劫ともいえる時の流れの果てにようやく"神"と呼ばれた男は、いや、神になり損ねた男は、それを悟った。 「さあ、行きましょう、あなた。」 女はそう呟いて、夫であった男に手を差し伸べた。 それが、人が本当に神の手を離れた、その瞬間であった。 『私たちも、行かなくちゃね。』 初号機の中で、不意にユイがそう呟いた。 「母さん・・・」 あのサードインパクトの日、ユイがシンジに言った言葉と、それは相反していた。 たとえ月も地球も太陽もなくなっても、初号機という器の中で永遠に生きていく・・・人が生きた証を、残していく。 そのユイの考えに、変わりはない。 けれど・・・ 『彼らを見て、わかったわ。私たちが生ある者たちに干渉してはならない。もう、この世界に現れてはいけないのだと。』 マナに呼ばれ、彼女の心に触れた時から、ユイはそう決意をしていた。 『こうやって僕らはここに現れてしまった。シンジくんに会うために。でもそれは、いけないことなんだ。』 『人が生きた証は、生きている人が作っていくもの・・・生を超越した、いえ、その気になっているだけで、実は生を放棄した我々が、語るものではないのよ。』 だから消える。いや、生まれ変わる、というべきなのかもしれない。 碇ユイが碇ユイでなくなっても、渚カヲルが渚カヲルでなくなっても、魂だけは永遠に生き続けていく。 ユイがユイのままで、カヲルがカヲルのままでいる・・・それはある意味逃げである。 前に進もうとはせず、ただ立ち止まっているだけ。 碇レイの中にある、綾波レイの心。 それは彼女が来た未来の中で、綾波レイがもう一度生きようとした、そのことを示していた。 そしておそらく、これから来るであろう未来でも、レイは同じ選択をするのだろう。 それを目の当たりにしたせいもあるだろう。 だから、前に進むことを、ユイもカヲルも選んだのだ。 碇ユイという、渚カヲルというその存在を、消し去ってでも。 けれどそれを、シンジは黙って見守っていた。 かつてゲンドウがいったように、思い出は彼の胸のうちにある。 今はもう、それでいいのだ。 『さよなら、シンジ・・・さよなら、姉さん。』 いつのまにか姿を現したユカに、ユイは最後の言葉を交わした。 「なんだ、なんだというのだ・・・」 茶番だ、と時田は感じていた。 目の前で繰り広げられている、あまりに茶番のような出来事。 だが、そう感じているのは時田だけである。 彼が茶番と感じているその成行きが、彼の思惑と反して、事態を収束させてしまった。 「なぜ・・・」 ふと振り返った彼の瞳に、抜け殻となったカヲルの姿が飛び込んできた。 「こう、なったら・・・」 するする、とカヲルの方に近づく時田に、シンジたちは誰も気付かなかった。 「こいつ一人でも、道連れに!」 叫んで時田は、カヲルのほうに銃口を向けた。 その叫び声に気付き、シンジが、レイが、マナがその方向を振り向く。 だが、間に合わない。 そして、銃声。 「・・・な・・・ぜ・・・?」 胸元から真っ赤な血を吹き出しながら、時田は前のめりに倒れた。 その視線の先には、もう一人の時田シロウが、いた。 「あなたには、感謝しています。おかげで私は、間違った未来に進まずにすむ・・・」 その横で、ワカバとリリーが無言で頷く。 「そして未来は変えられるのだと、あなたが教えてくれた。だから、私は必ず掴んでみせます、みんなが幸せになれる、そんな未来を、ね。」 晴れやかな顔でそう行った時田の言葉は、もう、もう一人の彼には届いてはいなかった。 「カヲル!」 「兄さん!」 シンジとレイは駆け寄って、カヲルを抱え起こした。 「兄さん!兄さん!」 「う・・・ん・・・」 揺り動かされ、カヲルはゆっくりとその目を開ける。 「レ・・・イ?それに・・・父・・・さん?」 朦朧とした意識の中で、なぜかカヲルは父の姿を認識していた。 "神"の奇跡なのであろうか。 「記憶・・・戻ったんだ。」 涙乍らにそうレイが呟く。 「さあ、帰ろう。」 そんな娘と息子に、シンジは優しく、語り掛けた。 レイとシンジは、カヲルを立ち上がらせると、ゆっくりと、マナたちの、マナの待つほうへと歩き始めた。 マナはシンジたちが戻ってきたのを確認すると、一つ大きく息を吸い込み、目を閉じた。 そして、静かに目を開け、微笑んで、 「おかえり、シンジ。」 「ただいま、マナ。」 そういって二人は笑顔を交わし合った。 「じゃあ、父さん、母さんを泣かさないでね。」 すべては終わり、あの日からもう2週間がたっていた。 冬月たちはいまだ、事後処理に追われている。 そんな中、レイとカヲルは、シンジとマナの二人だけの見送る中、未来へと帰ることになった。 出発の朝、そういってレイはいたずらっぽく微笑んだ。 「もう、帰るんだ。」 少しさみしげに、シンジは呟く。 「お兄ちゃんを取り戻す、その目的は果たしたんだし、あんまり長居しちゃまずいからね。」 そういってレイはカヲルのほうを見る。 精神も肉体も極限まで疲労しており、カヲルは、眠ったままであった。 せめて、カヲルが目を覚ますまで、とシンジもマナもひきとめたのだが、ほんの少し寂しげな顔で、レイは首を振った。 「これ以上、歴史に干渉しちゃまずいでしょ。私やお兄ちゃんのせいでお父さんとお母さんがまた喧嘩しちゃうと嫌だしね。」 そんなレイの言葉に、シンジはバツの悪そうな顔をし、マナは、苦笑いを浮かべた。 「じゃあ、ね。」 至極あっさりと、そう一言だけ残して、レイは帰って行った。 自分が、本来生きていく、その世界へ。 「ちょっと、寂しくなるね。」 「また、すぐ会えるわよ、ね。」 「え?」 その言葉の意味を、ちょっと考え、その意味に気付き、思わず真っ赤になるシンジ。 「あ、それは・・・その・・・まだ、僕らには早いんじゃあ・・・。」 そんなシンジの言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、マナはいたずらっぽく微笑むと、青く澄み渡った空を見上げ、呟いた。 「さ、これからまた忙しい日常がはじまる。がんばって生きていかないと、レイ達に顔向けできないわよ!」 終りははじまり、という言葉がある。 すべてが終わった、のではない。 すべてははじまるのだ、これから。 新しい時代は、まだ、始まったばかりなのだから。 真っ暗な部屋の中。 人の男女が立っている。 やがて女が重々しく口を開いた。 「方舟は沈んだ・・・か。」 「いいじゃないか。目的のものは見つけたんだろう?」 男が、どこか軽い口振りで、そう言う。 「第一使徒、アダム。そしてそれを復活させるその術。サードインパクトの時、碇司令が消し去ったものたち、ね。」 もう一人の女が、こちらもどこか軽い口調でそう答える。 「あなたたちにも、働いてもらうことになるわ。」 そんな二人とは対照的に、あくまで重々しい口調で、女はそう呟くと、その場を後にした。 そして残された二人。 「いいの、あれで。」 「今は、彼女の気のすむようにさせるしかないさ。時田シロウと同じ、だよ。自分自身で気付かなくちゃ、どうにもならんことさ。」 「でも・・・」 「また、シンジくんたちに迷惑をかけてしまうかも知れんな。」 ふぅ、と女がため息を吐く。 「アスカ。は?」 「逃がしたよ。これ以上ここにいるのは、彼女にとって苦痛でしかない。」 「でも・・・」 「わかってる、いずれはアスカのことも、決着をつけなきゃならんのだろうが・・・今はまだ、それどころじゃないからな。」 なにかを決意した表情で、女は顔を上げる。 「とにかく、私たちは私たちに出来ることをやるしかない、ってことね。」 「そういうことだ。」 世界を破滅させないために。 二人は顔を見合わせ、頷くと彼らもまた、その場を後にした。 そして、闇の中に再び静寂が訪れた。 |