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その存在に、真っ先に気付いたのはマナであった、そしてヒカリが、次にアダムの中のヤマトが、その姿を認める。 もっともヤマトに、その自覚があったかどうかは、定かではないが。 いつのまにかそこには、仮面の女、カスパーのその姿が、あった。 「たいしたものね、ずいぶんと知ったような口を、聞いてくれる者だわ。」 精一杯の皮肉をこめて、カスパーは、決して大きくはないが、よく通る声で話し掛ける。 その声で、ようやく3人以外の者たちも、彼女の存在に気付く。 「あまりに的を得すぎて、悔しくってついにご本人が出てきた、ってとこかしら。」 そうマリィが軽口をたたく。 それを、マヤには黙って見守ることしかできない。 マリィとて、軽口をたたいてはいるが、その口調ほどに、心の中は軽くはない。 マリィが見透かしたカスパーの気持ちは大方正しかったが、だからと言って楽観できる状況というわけでもないし、大体、マリィにもマリィで複雑な思いもある。 実際マナや、既に吹っ切れたヒカリよりも、本当のところ彼女自身の内情は、カスパーの方が近いとさえいえるのだから。 憎しみ、妬み、恨み、それが彼女たちの中にある共通した感情である。 そういった感情を抱く事は決して不自然なものではない。 いやむしろ、至極自然なことだとも言えた。 アスカのことがあって、あるいはマリィとのやり取りがあれば、マナやヒカリの中にだって、そういう感情がないとは決して言えない。 ならば、マナやヒカリは、それを否定し、あるいは強引に押さえつけてきたのだろうか? いや、そうではない。 それを、今のマリィは知っていた。 そしてそれを、もしかするとカスパーは知りたかったのかも知れない。 だから、 「あなたたちに何がわかる…家、あなたたちだって、同じことだわ。」 その叫びを、マナはあえて黙って言わせるままにした。 「あなたたちだって、人をうらんだことが、憎んだことが、ないはずはないでしょうに!」 母を憎むこと、復讐、それが、今の自分の唯一の存在意義だから、だから、カスパーはそんな言葉を口にした。 「そうよ、憎みなさい、怨みなさい!私を!私はあなたの母親を殺したのだから!」 カスパーのそんな叫びに、だがエヴァの中のマナは無言のまま首を振った。 無論、肉体を持たない今のマナであるから、それはあくまでもともにエヴァの中にいるシンジのイメージでしかない。 だがそれは、リツコにも、そしてこの光景を見つめる誰にも、伝わった。 『確かに母さんを殺された、それであなたを憎む気持ちがないといったら嘘になる。でも、それじゃ何もはじまらないから。何一つ、解決しないから。』 それは、マナ自身の、彼女自身に向けた言葉である。 そして同時に、カスパーが求めていた、言葉であったかもしれない。 だからこそその言葉は、カスパーにとっては痛い。 「なにがわかるのよ!小娘に!」 マナの言っていることは正論である。 過酷な運命を強いられたものにとっては、甘すぎる、痛すぎるだけの、正論。 けれどそれが本当は正しいのだと、そう分かるから。 『確かに、あなたにとって私は、私たちは取るに足らない小娘かもしれない。でも・・・私は現実を見てきた、現実から逃げなかった。』 確かに、そうだ。 アスカとの事を見れば、それははっきりしている。 憎む側、憎まれる側、立場は正反対かも知れない。 けれど、憎まれる側が憎む側よりもまだましだと、幸福だと誰に言えるだろう? 憎まれる側が、憎む側よりも心を痛めていないと、誰にもいえない話である。 そんな状況を、だがマナは、そしてシンジは、真っ向から受け止めてきた。 決して、目をそらしてはいなかった。 だからこそアスカも、決心を固めたのだと、少なくともマナは、そう思いたかった。 そんなマナの意見は、だがカスパーから見れば単なるエゴとも思えなくもなかった。 言いたい事は分かる。 やってきた事が、間違いなく今自分がやろうとしていることより、遥かにまっとうなことだということも。 けれど、それはあくまで理屈だけの問題でしかない。 必要としてくれる、たがいの存在があるシンジやマナに、誰も必要としてくれない自分の気持ちなど、分かるはずもない。 そんな感情が、カスパーの底には渦巻いていた。 だが、かつてのシンジとて、あるいはマナも、そうであったことを、彼女は忘れていた。 「そうよ、だから、何もかも断ち切りたかった…誰も彼もが、誰も必要としない、誰にも必要とされない…そんな光景を、見たかっただけなのよ…私は…」 そんなものは現実にはありえない、だから、世界を消そうとしたのかもしれない。 そんなカスパーの姿は、哀れでもあった。 だが、ヒカリの気持ちは違う。 『だから。だからって、自分の子供にまで、同じ思いを味合わせるんですか?そんなの、間違ってます!』 そのヒカリの叫びに、ほんの少しだけアダムが、反応を見せたような気がした。 自分が愛する人から必要とされていない。そんな悔しさはヒカリにもよく分かる。 それはあくまでもヒカリの勘違いでしかなかった。 だが、カスパーの思いもまた勘違いではないと、どうして言えよう? そうであるなら、ヒカリにはカスパーがただ甘えているだけ、現実から逃げているだけにしか、写らない。 それこそ、ヤマトと同じように。 たとえトウジに必要とされていなくても、自分が必要としている、自分を必要としてくれる、そんな人たちのために、一度はそんな決意を固めた、ヒカリには。 そしてヒカリにマナたちがいたように、カスパーの周りにも、本当に誰もいなかったわけではない。 「そう、何であたしたちが、ずっとあんたの傍に、いたと思うのよ。」 カスパーの横に、いつのまにかメルキオールとバルタザールの、その姿があった。 「同情や義務だけであたしたちはあんたの傍にいたわけじゃない…そんなものだけで人と人の関係なんて、成り立たないもの。」 「その想いは、指令やナオコさんだって同じだったはずだ。少なくとも、俺はそう思ってるよ。」 確かにゲンドウは、シンジとユイのためだけに、すべてを犠牲にしてきたかもしれない。 だがそれほどまでに妻と息子を思える男が、人の痛みを全く分からなかったなどと言うことが、果たしてあるのだろうか? すべてを理解して、一番心を痛めていたのは、もしかしたら碇ゲンドウであったのかも、知れない。 マリィが、マヤが、冬月の顔を見やる。 その表情はゲンドウの痛みを、語っているようにも見えた。 「我々もいくとするか、あそこへ。」 その表情のわけを語る事はせず、冬月は司令室の一同にそう促した。 そして、 「俺たちを生かしておいてくれたのは誰だったか、そして何のために生かしておいてくれたのか…もう一度それを、よく考えてみるといい…」 バルタザールがそう静かに言った。 その言葉は、彼らの命を救ったのが、碇ゲンドウその人であったことを、端的にあらわしていた。 利用価値があるから、まだ生かしておいた…カスパーはそう言いたかったかもしれない。 けれど、もはやすべてが終わろうとしていたあのときに、何の利用価値があるというのだろう? そうであれば、やはり答えはひとつしかない。 "生きていてほしい"という、純粋な願いなのだ。 そして何故、そんなナオコの思いも、ゲンドウの言葉も、すべてが真実だとそう思えなかったのか? その答えも、やはり既に出ている。 結局、負けを認めたくなかっただけなのだと、初めてカスパーは、そのことを認めた。 「何で今、母さんを殺し、鈴原くんを傷つけた私が、ここにいられるか、わかりますか?」 姿を見せたマリィが、カスパーにそう語りかけた。 「私だって内実は、あなたと何も変わらない。償わなければならない罪も、山ほどある。それでも私は、ここで生きていられる…それはたぶん負けを認めることができたから…洞木さんや、霧島さんや、そして何よりあなたに、ね…」 自分自身が負けを認めない限り、それは敗北ではない。 だが同時に、負けを認めない限り、終わりも、そして始まりもない。 そして自ら犯した罪もまた、同じことである。 結局逃げ切ることなど、出来はしない。 自分の心から逃げ切れない以上、永遠に罪から逃れるためには、自らの罪を認め、そこから何もかも、はじめなければならない。 それは、マリィもまた、これから永い時をかけて、していかなければならないことである。 いやマリィだけではない。 母親を死に追いやった罪の意識があるから、マリィだけがクローズアップされる話であって、大なり小なり、皆同じのはずである。 「そうですよ、私たちだって、」 「あたしだっているんだから。」 そういってマヤとメルキオールが、同時にカスパーに手を差し伸べた。 「母さん…碇指令…ごめんね…。それに、ヤマト…」 ふと、カスパーがそんな呟きを漏らした。 母に裏切られたと、ゲンドウに裏切られたと信じることで保ってきた自尊心が、それは崩壊した瞬間であったのかもしれない。 人は生きている限り一人だ。 そう思おうとしたことで、保ってきた自尊心である。 そうすることで、ユイに、レイに、そして母に勝てない自分を、隠そうとした。 シンジと、シンジが守った世界を消し去ることで、ユイたちに勝った様な気になりたかった。 けれど結局、シンジどころかマナにも、ヒカリにも、マリィにも、マヤにも、そしてミサトにも、自分は負けてしまっている。 いやそもそも勝ち負けという概念すら、怪しいのかもしれない。 そんな気持ちが、カスパーに始めて心のそこからの言葉を、紡がせていた。 それは、小さな小さな呟き。 けれどその呟きは確かに、心の奥底に、響いていた。 ヤマトは、困惑していた。 トウジに叩かれた頬の痛みと、言葉が、彼の意識を呼び覚ましていた。 甘えているだけだと、ちっぽけなことだという言葉は、彼の胸に突き刺さっている。 現実に幼い子供の心しか持ち合わせていないヤマトにとって、真にその言葉の意味は理解できてはいない。 だが、それでも衝撃のようなものはある。 そしてそうでありながらも、不思議といやな気分はしなかった。 それはそうだろう。 トウジの言う事は一見、厳しい。 けれどその反面、それは自分を一人の人間として認めてくれていることを意味している。 母親に認められなかった、自分を。 そこまで、今のヤマトはわかってはいなかっただろう。 けれど子供の認識力が大人より劣るのかといわれれば、決してそうではない。 言葉や理屈で理解できない代わりに、心や、感性で理解することが出来るのだ。 だから、ヒカリやそして母の謝罪が、本当に心からの物だということも、幼い少年にはわかっていた。 そう、彼はまだ、幼いのである。 それはつまり、まだ彼には、やり直しが十二分にきくということを、示していた。 それを彼が、心のどこかで理解したとき、彼は見も心も、幼い子供の物へと、戻っていた。 十四才のヤマトではなく、4才の、赤木ヤマトへと… 「アダム…が」 その変化にはじめに気付いたのは、シンジであった。 ヤマトが我を取り戻したことで、アダムはヤマトの制御から外れたのである。 そして、アダム取り戻されたヤマトの心を、拒んだ。 "彼"が心のそこに抱いている"神"への憎しみは、カスパーやヤマトのものとは根本的に違う。 もはや誰にも、救うことが出来ないほど深い業を、"彼"は背負ってしまっているのである。 そんな彼には、だから今のヤマトは、もう受け入れる事は出来ない。 「そうか…ヤマトくんも、わかってくれたのね。」 「だから、アダムはああするしかない。彼には、それは我慢できないことだろうから…」 メルキオールとバルタザールのそんな言葉を、カスパーは神妙な面持ちで聞いていた。 ヤマトを拒み、その力を暴走させようとするアダムの姿に、恐れは感じられない。 そこにあるのは寂しさと、悲しさと、惨めさだけである。 もう少しでああなるところなのだと、暗に二人は自分にそう言っているのだ。 自分だけではなく、ヤマトをも、ああさせてしまうところだったのだと。 それを悟ったカスパーは。 「シンジくん、お願い。アダムを止めて、ヤマトを…助けて。」 それはカスパーの、はじめて言った母親としての、言葉であった。 目の前に立つアダムは、強敵のように見えた。 少なくともトウジとヒカリの目には、そう映っている。 先ほどまで初号機を押さえつけていた力を、失ったわけではない。 いや、ヤマトという枷がなくなった以上、その力を余すところなく使えるとさえ、言えた。 そしてもはや、説得や言葉が通じる相手でもない。 そう、それはかつての"使徒"と、なんら変わりはないのだ。 それも、最強の。 レリエルの能力も、ゼルエルのパワーも、タブリスの悲しみも、そして、エヴァの力も、併せ持った。 シュルシュル、という音とともに、アダムの手の中の槍が、その姿を変貌させる。 それはかつて、サードインパクトの中で見せたその姿に、よく似ていた。 無論、アダムである異常、サードインパクトが起こせるはずはなかったのだが。 シュッと空気を切り裂いて、鋭い突きがいきなり初号機を襲う。 ATフィールドを張り、シンジはそれを受け止めようとした。 『え?』 先の戦闘と同じような展開を予想したヒカリの目に映ったものは、だが先ほどとはまるで違っていた。 槍の先端が触れたその瞬間に、ATフィールドが霧散し、そのまま槍は、初号機の右腕に突き刺さった。 右腕から鮮血が走る。 「そんな…これが本当の、アダムの力、槍の力だというの?」 マリィのその呟きに、カスパーはただ無言で返す、返すしかなかった。 だが、 マリィやヒカリの驚愕をよそに、初号機のシンジとマナは、落ち着き払っていた。 「触れる物すべてを壊してしまいたいのは、寂しさの裏返し。身を寄せ合うほどに傷つけあってしまった、過去の自分への嫌悪なんだろうね、きっと。」 『そうね、怖いのよ。人と人の、絆が。』 それが良くわかる。 だから、シンジとマナには、何も怖くはなかった。 そして二人は、心を一つにする。 そのとき、マヤの目に飛び込んできた物は信じられない物であった。 驚いた表情で、ノートパソコンの画面に食い入る。 そこにはいつもと同じように、エヴァの、そのデータが、映し出されている。 だが、そこに示されている数値は、異常だった。 「シンクロ率400%、い、いえ、500、600、まだ上昇します!」 マヤの見ている前でシンクロ率はあがり続け、ついに計測限界すらも超えてしまう。 初号機の中で、シンジとマナは、文字どおり一つになっていた。 輝きを放ち始める初号機。 その光に、アダムは気圧され、二歩、三歩と後ずさった。 「恐怖してる、アダムが…エヴァを…」 マリィの目には、そう映っていた。 いやマリィだけではない、誰の目にも、もはやそれは明らかであった。 それをただ一人認めたくない者がいたとするなら、それはほかならぬアダムだけであっただろう。 そんな気持ちを吐露するように、恐怖を振り払うがごとく、雄たけびを上げると、アダムは槍を、初号機に向かって投げつけた。 それは寸分たがわず、初号機の胸に向かって一直線に飛んでいった。 それを、シンジはかわそうともしない。 ATフィールドさえ消し去る、唯一絶対の、その槍を。 『ATフィールドは確かに人を形作るもの、人を護るものかもしれない。』 「でも、同時にそれは人と人と間の心の壁。だからこそ、打ち壊すことも、消し去ることも出来る。」 『私とシンジの間にあるものはそんなものじゃない。』 「碇の血だとか、運命だとかそんなものでもない。」 『確かな、レイが、カヲルが教えてくれた絆。』 「僕たちを護ってくれる物じゃない、僕たちが、護っていかなきゃならない物なんだ。』 「だから」 『「こんな物になんかに負けるわけにはいかない!」』 そのシンジとマナの叫びとともに、ロンギヌスの槍のは初号機の直前でぴたりと止まり、アダムの元へと弾き返される。 弾き返された槍は、逆にアダムのその身を貫き、アダムの血に濡れたその槍は、静かにその形を失っていった。 「ロンギヌスの槍が、消滅するなんて。」 驚きを隠せないカスパー。 だが同時に、その声にはどこか安堵のようなものも含まれていた。 そんな驚きの間にも、初号機はその力をどんどん上げていく。 輝きを纏う初号機。いや、今や初号機が輝きそのものであった。 その輝きの中、アダムもそして初号機もまたその形を失っていった。 あとにはシンジとマナと、一人の幼子だけが、取り残されていた。 「負け、ね。私たちの。」 メルキオールがぽんっと、カスパーの肩に手を置いた。 「そうだな。」 その横に並び立つ、バルタザール。 「結局最後は負けるのね、碇の血に。」 そう言ってカスパーは仮面を外す。 「先輩…」 仮面の下から、赤木リツコの素顔が顔を見せる。 マヤも、いや誰も、それに対して驚きはない。 「それは違うわ。」 静かに、メルキオールがそのマスクを外す。 「そうやって何かを、碇の血を恨みたいあんたの気持ちはわからないでもないわ。だから私もあんたに協力した。」 「間違っていると知りつつも、それでリッちゃんの気が済むなら、そう考えた。」 そしてバルタザールも同様に素顔をさらす。 「あんただけじゃない、あたしたちも含めて、負けたのよ。碇の血とかそういう狭いものじゃなくって、ちゃんと未来を見据えて生きてきる、子供たちにね。結局、あたしも過去に縛られすぎていたのかも、知れない。」 「なに年寄りじみたこと言ってんだ、葛城。」 「誰が年寄りよ!」 そんな、まるであのころのような二人のやり取りに、リツコが、マヤが、そして消えた初号機から取り残された、シンジとマナが笑顔を見せる。 「ミサトさん、加持さん…」 ミサトに叩かれながら、加持が口を開く。 「まだまだ老け込まれちゃ困るんだがな、俺たちだって、これからやり直さなきゃならないんだから。」 「な、何を…」 その言葉の意味に気付いて、思わず真っ赤になるミサト。 照れたような笑みを浮かべる加持。 その笑みの意味を、シンジだけは知っていた。 かつて加持がシンジに向かって語ったことがある。 自分は弟を裏切り、弟を死なせて、その上に生きている。 だから、自分は幸せになってはいけないのだと。 ミサトもリツコも知らなかったが、それが、加持がリツコに付いていた、本当の理由かもしれない。 彼自身、答えを探していたのだろう。 そして、幸せになってはいけない、そう思うことで、現実から、罪から逃げ回っていたのだと、ようやく気付いたのだ。 罪を罪として認めた上で、人生を全うする。 それはもしかすると、独りよがりの自己満足かもしれない。 けれど、もはや何をもって贖罪とするのか誰にもわからないのに、幸せにならないことで罪を償ったつもりになっているよりは、遥かにましである。 人は誰しも誰かの命によって生かされている。 それに報いる事はただ、生きるしかないのだ。 そして生きて、命をつないでいくことが、命あるものの務めである。 「おめでとうございます、加持さん、ミサトさん。」 そんな気持ちも、加持の辛さもわかるから、だからこそ、シンジにはそれしか言えなかった。 「シ、シンジくん、あのねえ…」 困惑気味の表情で、ミサトはシンジとマナのほうを見やり、ふと、妙な表情を見せる。 加持は照れたような表情で視線を上に向けている。 照れているのだろうとそう思ったシンジであったが、ふと、マナのほうを見て、あることに気付いた。 「あ」 「み、見ちゃ駄目だ!」 当然といえば当然なのだが、さっきまでエヴァに取り込まれていたマナは、全裸であった。 慌ててシンジがマナの体を隠そうとする。 が、 「シンジくん。」 そんなシンジに妙に真顔のミサト。 「大人になったわね。」 だが、その視線の指し示す方向はどこか変だ。 そこでようやく、シンジは自分も裸であることに気づいた。 「わぁー」 「いやーんな感じ、やなあ。」 とエントリープラグの中のトウジ。 なぜか鼻血を流しているのはお約束である。 『す・ず・は・らー!』 コアの中で、ヒカリが烈火のごとき怒りの声を上げるヒカリ。 「あーあ、やきもち焼いちゃって、そんな怒るなら洞木さん鈴原くんに見せてあげたら?そうすりゃ鈴原くんも他の女の子なんて見なくなるかもよ?」 『な、なに言ってんのよマリィったら!』 「そ、そや、大体ヒカリの裸なんぞ…」 『どういう意味!?それ!』 そんな二人のやり取りに、思わず苦笑いを浮かべるマリィ。 その笑みがどこか寂しげでもあることに、気付く者はいない。 「ほんと、ご馳走さまって感じよね。」 「いつのまにかお兄ちゃん、ヒカリおねえちゃんのことヒカリ、って呼んでるし。」 ハルナに言われ、初めてそのことに気付く二人。 エヴァの中で、真っ赤になる。 外からではもちろん見えるはずはないのだが、その場にいる誰もが、その光景を想像できた。 誰の顔にも、笑顔が浮かんでいる。 ただ、リツコと、それを見つめるマヤだけを、のぞいて。 〜エピローグ〜 リツコは、自ら犯した罪を償うため、ヤマトを加持とミサトに託し、その姿を消した。 マヤはそれを追って、青葉はそのマヤの傍にいるために、やはり旅立っていった。 「あの…ミサトさん?なんかヤマトくん、真っ赤な顔してるんですけど…まさか…」 そのヤマトの様子を見にきたシンジたちが、自称保護者のミサトを、じと目でにらむ。 「人はパンのみに生きるにあらず、ただえびちゅがあれば良いってね。」 既に出来上がっているミサト。 「ビ、ビール飲ませたんですか!?」 慌ててヒカリがミサトの手からヤマトを引ったくる。 「なんか、リツコさんも預ける相手を間違った気が…」 頭を抱えるシンジ。 「かといってうちは駄目だからね、ただでさえ二人もいるんだから。」 レイとカヲルを抱え、マナもすっかり母親である。 「確かに…このままじゃリッちゃんのところにいたときの方が、まだましだったかもな。」 「加持さん…人事みたいなこと言わないで下さいよ。」 「そうは言うけどな、シンジくん。俺は葛城の面倒見るだけで精一杯なんだから。」 ため息をつく加持。 「でも、たぶんヤマトくんのほうがミサトさんより手はかからないと思いますけどね。」 「それは言えてる。」 「シンジくん、それに加持!何がいいたいわけ?」 「で?何で加持さんたちって、結婚したのにまだ苗字で呼び合ってるのかしら?」 そんな三人のやり取りをよそに、マナが的外れな疑問を抱いていた。 「いっそのこと、洞木さんがヤマトくんを、引き取ったら?」 いとおしそうにヤマトを見つめるヒカリに、そうマリィがちゃちゃを入れた。 「な、何言ってるのよ。」 顔を真っ赤にするヒカリ。 その心中は、いささか微妙な物があるかもしれない。 それを察したわけではないのだろうが、憮然とした顔をするトウジ。 そんなトウジに気付いてマリィが、 「良いじゃない、いざとなったら鈴原くんに私がいるんだから。」 「ちょ、ちょっとマリィ!」 そういいながらも、だがこの数日後、マリィもまた、旅立っていくことになる。 彼女もまた、償わなければならない、罪を背負っているのだから。 けれど、 けれど、シンジたちは信じていた。 いつかはわからないが、きっと皆、必ずここへと帰ってくると。 それを信じて、シンジたちは一人、また一人と旅立っていく彼らを見送った。 リツコも、マヤも、マリィも、きっと必ず帰ってくる。 そのときは必ず来ると。 そしてそのときには、きっと、アスカもまた… Fin |