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いつもと変わらぬ葛城家の朝。 もっとも引っ越したので家はかなり広くなっていたが。 だからといって彼らの生活パターンまで変化するわけでもなく、いつものように家の中には朝食の用意をする音が響いている。 違う点があるとすれば、朝食を作る者であろうか。 いつもならばシンジが台所に立っているのだが、今朝、朝食の用意をしているのは二人の女性である。 もちろんアスカとミサト、ではない。(当たり前か) ![]() 「おはよう、シンジ。」 「おはよう、シンジ君。」 「あ、おはよう。すいません、朝食の用意してもらって。」 「いいのよ、好きでやってるんだから。」 「だいたいシンジ君は男の子なんだから。こういうことは私たちに任せて、ね。」 なんと優しい言葉であろうか。誰かさんたちとは大違いである。 やはり女の子が台所に立つ姿というのは、シンジならずともなんとなく嬉しい状況だったりする。 潤いがあるとでもいおうか。 そんなことをシンジが考えていると、やがてレイが起き出してきて席につく。 何かを忘れているような気がするシンジだが、この際なので忘れたままにしておこうと心に決めた。 「このお味噌汁は私が作ったのよ。」 「卵焼きは私が焼いたの。」 それぞれに自己アピールをかかさないマナとマヤ。 「「おいしい?」」 「う、うん。」 それは決してお世辞でも、気圧されたからでもない。 人の作ってくれる料理がこんなにもおいしく、温かいものなのだということをシンジは新ためて思い知った。 ちなみにレイはその横で黙々と食べていた。 「「おはよう〜」」 皆が食べ終わるころ、ようやくこの家の主プラス1が起き出してくる。 「あー!、なによ!!」 すっかり一家団欒、というような雰囲気を見て、アスカが怒鳴る。 「なに?アタシだけのけ者?」 大丈夫、ミサトもだ。 「アスカが起きてこないのがいけないんじゃないか。」 おお、いつになく強気なシンジ。 「なんで起こしてくれないのよ!」 「ごめん。」 やっぱりこの程度か。 「なに?今日の朝食はマヤとマナちゃんが作ったの?」 そういう細かいことは気にしないミサト。大人なのか無頓着なのか。 「「はい!!」 言うが早いか朝食を口にするミサト。文句を言いつつもアスカも食べ始める。 「「駄目ね」」 「味噌汁はしょっぱいし。」 「卵焼きは甘すぎね。」 口にするや否や文句を言い出す二人。文句言うなら自分で作れよな、といえるやつはここにはいない。 「「すいません、次からは気を付けます。」 素直に謝るマナとマヤ。彼女たちは全然悪くないはずなのだが・・・ そんな二人を見かねてか、シンジが助け船を出す。 え、どうせシンジじゃどうにもならないだろって?まあ誰もがそう思うでしょうね。しかし、 「なんかミサトさんとアスカって、ドラマに出てくる姑と小姑みたい。」 それは小さな呟きであったが、効果は絶大であった。 通常なら怒鳴り散らすアスカも、思わずウッとなる。 マナとマヤ、どちらが嫁役かはとりあえずおいといて、確かにこれはいい得て妙であった。 あまりにはまりすぎて言葉を失うミサトとアスカ。対照的にマナとマヤは必死に笑いを堪えている。 「ちょ、ちょっと言い過ぎたわね。まあ、こんなもんでいいんじゃない?」 顔をひくつかせながら、ミサトが言い直す。ちなみに当然レイは我関せず、いまだ黙々と食べていた。 「じゃあ、いってきます。」 「いってきまーす。」 「じゃあ葛城さん、お先に。」 「いってらっしゃーい、って洗い物はどうするのよ。」 「葛城さんはどうせ今日は遅番なんだし、それぐらいやっといて下さいよ。」 なかなか強気なマヤちゃん。怖いもの知らずだ。 「あ、ついでにゴミも出しといて下さいね。」 ぬぅ、シンジまで。 朝から踏んだり蹴ったりのミサトであった。 場面は変わって、お昼時の学校。 「今日のお弁当は、私が作ったんだ♪」 それを横目で見ているトウジ。 「ええのうシンジは、愛妻弁当を作ってくれる彼女がおって。」 おのれだっているだろうが!とはここにいる全員の心の叫びであった。 しかしトウジってどこにいってもこんなキャラやな。 「ま、何にせよ、嫁さんにするなら料理のうまい女がええな。」 その言葉に敏感に反応するものが約1名。 『そ、それって私をお嫁に欲しいってこと?』 言ってない、言ってない。 「なあシンジ?」 と、トウジはシンジに同意を求める。その言動がみずからの寿命を縮めるとは夢にも思っていない。 「え、そ、そうだね。」 答えるシンジも深くは考えてはいない。 だが、それに過敏に反応したものが、今度は2名。 「じゃあ、私はどうかな?」 「マナは、きっといいお嫁さんになれると思うよ。」 「そんな、シンジのお嫁さんにだなんて…」 だからゆっとらんちゅーに。話を聞かん連中やなァ。 さて、シンジの言葉に深い意味はないのだが、この言い方、取り様によっては意味ありげに聞こえたりもする。 「ほほう、それはアタシに対する挑戦?」 どうやらこの人にはそう聞こえたようだ。 「な、なにも言ってないじゃないか。」 「そう?マナは、ってなによマナはって。アタシじゃいいお嫁さんに…」 「なれないわ。」 すかさずアスカに突っ込みを入れるレイ。 「なんですって!」 「あなたは料理ができない。必然的にいいお嫁さんにはなれないの。」 「そんなことないですよ。」 アスカに対する援護射撃は、意外なところから上がった。 「なぜそう言うの?霧島さん。」 「だって人の好みなんで十人十色じゃない。あくまでシンジから見ていいお嫁さんになれない、というだけで、アスカさんみたいな人がいいって云う人だっていると思うし。」 そのシンジから見て、っていうのが一番重要なんだと思うんだけど。 ちなみにマナにも他意はない。シンジのお嫁さんになるのは自分であると思い込んでいるからである。 「何よ、アタシじゃシンジのお嫁さんにはなれないって言うの!?」 「なりたいんですか?アスカさん。」 「あなた、碇君が好きなの?」 この手の攻撃にアスカは弱い。 「べ、別にシンジの事なんて何とも思ってないわよ!」 といいつつシンジのほうをちらりと見る。 だがシンジは別段気にした様子もない。 「惣流の旦那になる奴は大変やなァ。」 更に寿命を縮めるトウジ。 「ほんとにね。」 おいシンちゃん、なに他人事みたいなことを。 「だって他人事でしょ?」 あ、そう… トウジだけでなく、シンジも寿命を縮めたいようだ。 「だいたいねえ、女だから家事ができなきゃいけないってのは、考え方が古いわよ。」 「別にそんなこといってるわけじゃないよ。ただ、僕のお嫁さんになる人はそういう人がいいなァ、って言っただけじゃないか。」 「「つまり、アスカ(さん)みたいな人は駄目ってことね。」」 妙に連携のいいマナとレイ。 そういやこんなこと言ってるけどレイって料理できるのか? 「できるわ。肉はキライだけど。」 そうですか。 さて、ものの見事に言い負かされたアスカ。まあ向こうのほうが道理が通っているんだから仕方がない。 しかし、ここでおとなしく引き下がるよなアスカではない。 アスカは起死回生の策を練っていた。 無論、それで不幸になるのはシンジだったりするのだが… あ、そういやケンスケ出番なかったな。 起死回生の策、といってもようは単純な話である。 「今日の夕飯はアタシとミサトで作るわ。」 そこはかとなく不安な、シンジとマヤ。 レイはこういった事には我関せずだし、マナはまだ、その真の恐怖を知らないからである。 したがって、必然的に二人だけが青い顔をしていた。 「シンジどうしたの?真っ青だよ。」 「な、なんでもないよ。」 台所から聞こえてくる、さながら戦場のような騒音が、尚更、不安感を助長する。 「どうやったら料理であんな音が出せるのかしら?」 というマヤの疑問に、その場にいる誰もが納得した。 「さ、できたわ。」 そういって出てきたのは見た目は極普通のカレーと、ポテトサラダ、らしきもの。 「カレーは私、サラダはミサトが作ったから。」 この選択が正しいか否かは誰にもわからない。 少なくとも、ミサトが作ったカレーは食べたくないと思うシンジにとっては、多少はほっとするところがあったかもしれないが。 レトルトをあれだけまずく作れるのはミサトぐらいであろう。 「「さ、召し上がれ。」」 にこやかなアスカとミサト。対照的に元気のないシンジとマヤ。 「いただきまーす。」 真っ先にカレーを口にしたのはマナであった。 知らないというのは恐ろしい事である。 「アスカさんてつくづく料理下手なんですね。」 それがマナの感想であった。 いわれて口にするアスカ。 「うっ。」 ちなみにアスカはミサトと違い味おんちではない。つまり、まずいものはまずいときちんと認識できるのだ。 ようするにまずかったわけである。 作りながら味見ぐらいしろよな… 「ミ、ミサトよりはましよ。食べれるだけ。」 開き直ってやんの。 「失礼ね。私だってその気になりゃちゃんとしたもんが作れるのよ。ねえマナちゃん。」 「はあ。」 皆さんは覚えておいでだろうか。マナが初めて葛城家に来た時、ミサトが作った料理を。 奇跡的に、そうまさに奇跡的にそれは人の食えるものであった。 ミサトにとって、生涯ただ一度の、生まれて始めて、そして最後のまともな料理であったかましれない。 そう、まさに奇跡なのだ。 そして、奇跡とはそう何度も起こせるものではない。 奇跡を幾度も起こせるのはイエス・キリストと風見ハヤトぐらいのもんである。 「大丈夫よ。これでもあたしは(声が)菅生あすかに似てる(というかそのまんま)っていわれてるんだから。」 何の関連があるんだか。だいたいこと料理に関しては、その方が更にまずいんじゃ… 「ま、大船に乗った気でいなさい!」 タイタニックかな… そもそも、このジャガイモのなれの果てのようなポテトサラダを見れば、誰でも不安になる。 「大丈夫よ!」 とそこで突如現れるリツコ。 どっから出てきた。 「こんなこともあろうかと!」 またそれかい。ま、でもミサトの料理の腕前を考えたら、この対応はむしろ遅かったといえるかもしれない。 そういってリツコは何やらポケットから取り出す。 どうやら調味料のようだ。が、やたらでかい容器である。どうやってあんなもんがポケットに入っていたのだろうか。 「四次元ポケットね。」 「先輩、前回のあとがきでドラえもん呼ばわりされた事、根に持ってますね。」 「ほっといて頂戴。とにかくね、この調味料はね、振りかければ、どんなまずい料理もおいしく食べれるという優れものなのよ。」 それ思いっきりドラえもんであったやん。 ま、そんなことは置いといて、リツコはミサトの料理におもむろに振りかける。 「あーなにすんのよリツコ。」 すると。 「なんかさらに状況が悪くなったような。」 どす黒く変色するポテトサラダ。 「さ、シンちゃん。」 それ食わす気かい。 「って、なんで僕なんですか!?」 「あたしの料理が食えないっての?」 食えないよなあ。 「大丈夫。理論上はいけるわ。」 それでいけた試しはない。っていうかアンタ実験しとらんのか。 でもミサトとリツコが怖いので恐る恐る口にするシンジ。 「どう?おいしい?」 そんなわきゃないでしょう。 青を通り越して紫色の顔のシンジ。おお、エヴァ初号機(笑) 「きゃー、シンジ!」 「大丈夫シンジ君!?」 これが大丈夫に見えるか? そのまま白目をむいて倒れてしまう。 「おかしいわね、ミサトの料理とは相性が悪いのね、きっと。」 自分の非を認めないリツコ。まあある意味正しいとも言えるが。 なぜって? どんなまずい料理も、とは言ったが、ミサトが作るものは既に料理ではないのだから。 味は変えられても、毒素まで消せるわけではないのである。 ちなみにシンジは三日間、生死の境をさ迷ったという。 合掌。 ついでに、アスカと(特に)ミサトには、料理禁止例が下ったそうな。 −つづく <次回予告> ミサトの料理によって忘却の彼方へと葬り去られた(笑)シンジ。 失敗する彼のサルベージ(おいおい) 号泣するマナ。 次回『幸せのかたち』 ゼロの領域が、シンジを待っている。 一部うそ。 |