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「またのこのことここにいる。未練たらしいたりゃありゃしない。」 いつになく、自嘲気味に、アスカはそう言った。 朝、シンジの部屋の前である。 なぜアスカがここにいるかというと、当然シンジを起こすためであった。 が、学園EVAならいざ知らず、本来なら、シンジがアスカに起こされる、という構図は、逆ならまだしもありえる話ではない。 理由は2つある。 1つは、前回の後遺症で、シンジの体調が万全でないということ。 幸運にも現実世界に戻ってはこれたものの(前回の予告はなんだったんだ)、その影響はほとんどサ○ン並であった。 もう1つは、アスカが週番で単に一人だけ朝が早いということであった。 実際のところ、シンジは関係ないのだが、朝食ということのためだけに、たたき起こされるのである。 いい迷惑だ。 なぜシンジかというと、アスカがシンジに作って欲しい、という単なる我が侭である。 さらに、他に朝食を作れるもののうち、ここの所マヤが夜間勤務でいないということもある。 ではマナは、というと、別段マナは朝起きるのが苦痛という方ではない。 だが、相手がシンジなら、それこそ朝5時に起きてでも、甲斐甲斐しく朝食や弁当の用意をするのだろうが、あいにくアスカにそんなことをしてやる義理はない。 まあねぇ、好きな男と、眼中にはなくとも一応恋敵とじゃあ・・・ ちなみにレイは恐ろしく低血圧であったことを付け加えておく。 ま、どちらにせよ、アスカがこの2人に朝食を作って欲しいなどとは、言わないだろうが。 で、結局シンジは文字通りたたき起こされることになるのであった。 ![]() さて、自嘲気味に、と書いたが、それを説明するにはまる一日、日にちを戻らねばならない。 昨日の朝、やはり同様の理由で、まったく同様にアスカはシンジを起こしにきた。 が、 『ここんとこマナやらマヤやらに押され気味だし、ここで起死回生の策をうたねば!』 妙に気合いが入るアスカは、柄でもないような事をしようとした。 これがまず間違いの元だとは、無論気付いてはいない。 馴れない事はするもんではない、とシンジのところで言ったはずだが・・・ そーっとシンジの部屋の襖を開ける(今朝はカギをかけ忘れたらしい(笑))と、音を立てないように、ベットに寝ているシンジへと近づく。 シンジの寝顔を見て、思わず襲いたくなる衝動を必死に押さえるアスカ。 襲っちまったほうがアスカらしいような気もするが・・・ とにかく、いつまでも見とれているわけにもいかないので、シンジを起こすべく耳元に顔を近づけるアスカ。 「シンジ、お、き、て(はあと)。」 うーん、アスカのキャラじゃないなあ。 で、どうやら寝ているシンジもそう感じたらしく、返ってきた返事はこうであった。 「うーん、もうちょっと寝かせてよ、マナ。」 プツン、とどこかでなにかが切れる音がする。 「起きなさい!バカシンジ!!!」 うん、この方がアスカらしい。 ドカッ、バキッ、グシャッ 気の済むまでシンジをしばき倒した後、アスカは朝食もとらずに出ていった。 「なんなんだ一体。」 意味も判らず殴られたシンジが、一番不幸であった。 「で、なんでアスカさんが怒っているか判らないと?」 「うん。」 朝の教室。 顔をはらしたシンジに、マナが話し掛ける。 例によってレイは無関心で、アスカは、自分は悪くない、とばかりにそっぽを向いている。 「寝ぼけてアスカとマナを間違えただけなんだけどなぁ。」 その"だけ"がいかんのだ。 『なるほどね、アスカさんも可哀相に。』 マナとて女の子、当然なぜアスカが怒ったは察しがついた。 寝言とは言え、いや、寝言だからこそ、好きな男の口から、他の女の名前が出てきたら、そりゃ気分のいいものではない。 ま、それを恋敵それも、その"名前を呼ばれた女"に同情されているところが、アスカの一番惨めなところかもしれないが。 別にマナに特に意図するところがあるわけでもない。第一、その鈍感男を自分も相手にしなければならないのだから、マナだってある意味可哀相なのだ。 はあ、とため息を吐いてマナはシンジを見る。 「シンジってさ、好きな女の子とかいないの?」 この質問は、マナにしてはやや間が抜けている。だいだい、他人の気持ちに鈍感である事と、好きな人がいるかどうかという事は関係ない。 言われたシンジ、咄嗟に思い浮かぶのは、マナの顔。目の前にいるせいもあるが。 アスカもつくづく不憫である。 え、マヤとミサトはどうしたって? だってあの2人は女の子って歳じゃないでしょう(汗) あ、レイが忘れられてる。 思った事は思ったシンジだったが、それを口に出せるはずもない。 加持じゃあるまいし、「僕が好きなのは君だよ。」などという台詞をシンジが言えるはずもないだろう。 が、思った事が顔に出てしまうのが、われらが主人公、碇シンジであった。 よくいや素直なんだよな。この素直さをアスカも見習う事ができりゃぁ・・・ さすがのアスカも、そんなシンジを見れば彼の注意が自分に向いていない事に気付く。 そんなわけで、アスカは柄にもなく落ち込み、反省しているのであった。 「アスカ、いくわよ。」 多少の落ち込み程度で人格が変わるわけでもない。 昨日に引き続き、アスカはシンジの部屋の襖を開けた。 が、若干の迷いはある。 昨日の失敗があるからだが、どうやって起こしたらいいか、そこが思案のしどころであった。 だが、シンジのベットを見た瞬間、迷いも悩みも全て吹き飛んだ。 「さあシンジ、って何でアンタまでここで寝てるのよっ!!!」 見るとなぜか、マナまでがシンジの布団で寝ている。 しかもあろうことか、そのシンジは、マナの胸に顔を埋め、幸せそうな顔をしていた。 この状況じゃあ、言い逃れはできないよなあ・・・ 「あ、おはようございますアスカさん。」 「おはようじゃないでしょ、おはようじゃ!」 寝ぼけたマナの応対が、アスカを一層苛々させる。 「なんだようるさいなぁ」 ああ命知らずのシンジ君。 「うるさいとはなによ、うるさいとは!このスケベ!!」 「スケベってなんだよ。」 当然シンジがこの状況に気付いているわけもない。 当人たちの弁護のために行っておくが、別にマナが夜這いをかけたわけでも、シンジがマナを部屋に引き込んだわけでもない。 全ては偶然のなせる技である。 家は広くはなったが、基本的にはミサトの家の間取りを踏襲していた。 当然、ミサトやアスカ、シンジにしてみれば使い勝手がいいのだが、マナやレイにとってはその逆である。 間取りに馴れていない、というのが問題なのだ。 え、まわりくどいって?まあ簡単にいやあ寝ぼけて部屋を間違えたと、それだけなんだよな。 しかも、アスカが知らないだけで、こんなことは日常茶飯事であった。 たんに、寝ぼけてシンジのベットにもぐりこむのが、マナかレイかの違いぐらいしかない。 昨日の朝は、たまたまどちらもいなかっただけなのだが、そんなことはアスカは知らない。 もっとも知っていたら…もっと大変だったか。 アスカは知らなかったとして、これほど無防備なのになぜ(マヤはともかく)ミサトが夜這いにこないのか、疑問に思う方もいるだろう。 まあねえ、一応大人なんだから、口ではどう言おうがそうガツガツするわけにもいかんでしょう。 実際は、エビチュの飲み過ぎでへべれけに酔っていたのと、よった勢いで夜這いをかけようとして、たまたまそこにいたレイのATフィールドに阻まれたから、というのが真相なのだが。 どうでもいいけど、レイがATフィールドを使える事には疑問はわかなかったのだろうか? どちらにせよ、今のアスカにはそんなことは関係ない。 大事なのは、今、目の前にある事実である。 「シンジのばかっっ。」 そういってシンジの頬をひっぱたくと、アスカは部屋を飛び出していった。 だが、シンジにとってショックだったのは、ひっぱたかれた事ではなく、飛び出していったアスカの目に、涙が浮かんでいた事であった。 鬼の目にも涙、ってそんな雰囲気じゃねえか。 「アスカが、泣いてる。」 その涙の意味はもちろん分からないシンジ。もしかするとアスカ本人にもその理由は分かっていないのかもしれない。 ただ、その原因に自分が関係している事ぐらいは、さすがにシンジにも思い付いた。 「アスカ!」 「行かないでシンジ!」 シンジに抱き付くマナ、ってあんたそりゃ作品が違うよ。 「ちょ、ちょっとマナ離して。ってだいたいなんでマナまでここにいるのさ。」 「ひどいわシンジ。昨日はあんなに燃えたのに。」 ウソ泣きをするマナ。 「な、泣かないでよ。」 当然シンジにウソを見抜けるはずもなく、マナを優しく抱き寄せる。 幸せそうな表情で、シンジに体をあずけるマナ。 シンジとしても、美人によりかかられれば悪い気がするはずもなく、ちょっぴり幸せな気分に浸る。 おい、アスカはどうした。 だがしかし、幸せというものは長くは続かないのが相場で、 「シンジ君、不潔よ。」 なぜかシンジの部屋の前にいるマヤ。 アスカが飛び出してったきりだから襖が開けっ放しだったのがマズかった。 「な、なんでマヤさんが、お昼まで仕事じゃなかったんですか!?」 たまたま仕事が早く片付いただけだったりして。 「私がいない時のそんなことしてたのね。そんなに私が邪魔?」 ちょっと涙目のマヤ。あれこれとシンジも弁解を試みるが、当然聞いちゃもらえない。 「シンちゃん、欲求不満ならそういってくれりゃいいのに。」 「わ、ミサトさんまで。なんで!?」 そりゃねえ、朝っぱらからこんなに騒がれりゃ、さすがのミサトだって起きるわな。 面白そうだし(笑)。 「碇君、私の気持ちを裏切ったのね。」 どっかで聞いたような台詞をはきながら,レイも出てくる。 ただ、恐ろしく低気圧、じゃなかった低電圧、はあ〜るだって、低血圧なレイ。 実は寝ぼけている。 が、目は据わっている。 こええよ。 「シンジ〜」 「シンちゃん。」 「シンジ君・・・」 「碇君。」 羨ましいねぇ、4人の美人に囲まれて。 「そう思うなら代わってあげます。」 遠慮しとく。 さてそのころのアスカ。 「ふっ、完璧ね、目薬まで使ったんだから。これで後はシンジがアタシを追いかけてきてくれれば。」 おまえもウソ泣きかい。 でもねえ、あの状況じゃシンジ君追ってこれないと思うけど・・・ この後、真夏(っていうかいつも夏)の太陽の下、4時間シンジを待ったアスカは日射病で倒れ、そのシンジは・・・ どうなったかはご想像にお任せします。 幸せなある日の一コマでした。 「「全然幸せじゃない!!」」 −つづく <次回予告> さ〜て来週のサ○エさん、じぇねえって。 久しぶりに現れる使徒。 っていうかこの話始めてから初めてじゃあ。 とにかく次回はシリアス、全編シリアス、ひたすらシリアス。(絶対ならないと思うけど) 次回『遥かなる福音(前編)』 見て、下さいね。(by山岸マユミ) |