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翌朝。 アスカは週番、レイは例によってネルフなので、シンジとマナは二人きりで登校していた。 その道の途中。 「あ、山岸さん・・・」 前方を歩いている山岸マユミに気付く。 「シ〜ン〜ジ〜?」 思わず怖い顔で睨むマナ。 「ち、違うよ。ぼ、ぼ、僕が好きなのは、マナだけだよ。」 よっぽど怖かったのか、思わずそんなことを叫んでしまうシンジ。 「碇君と霧島さんて…そんな関係だったんですか?」 どうやらマユミにも聞こえたらしい。 目に、涙をいっぱいに浮かべている。 「私をもてあそんだんですねー」 なぜそうなる? 「あ、山岸さん。」 マユミの後を追おうとしたシンジであったが、 「シンジ〜、説明してもらいましょうか?」 当然、マナが見逃してくれるはずもなかった。 なんかゲンドウとユイを見ているようである。 こうやってみると、良く似た親子やねえ。 ![]() その朝の教室。 妙に嬉しそうなマナと、なぜか疲れ切ったようなシンジの表情が実に対比的である。 疲れ切っている、というよりは、観念した、という方が適切かもしれないが。 好きだ、と言ってもらった関係上、多少は追及の手を緩めたようだが、無論それで全面的に許したわけでもなく、何らかの約束事をさせたのは間違いないところである。 もっとも端で見ている連中に、そんな事がわかるわけもなく、アスカにしてみればそれがいらつくところでもあった。 「で、なにがあったわけ?」 「べ、別に何もないよ。」 と、一応はいってみるシンジではあったが、元来、嘘のつけない人間である。 「嘘ね。」 あっさりとレイに見抜かれる。 「さーて、きりきりと吐いてもらいましょうか。」 片足を机の上におき、脅しの体勢に入るアスカ。どうでもいいけど、そんなかっこすると見えちゃうよ。 「ちょっと、アスカさん。」 と止めに入るマナ。 「私のシンジをあんまり虐めないでください。」 訂正。火に油を注ぎに来ただけだった。 「いつからアンタのものになったのよ!」 「今日からです。」 激昂するアスカに対し、冷静に、ハッキリ、キッパリと言いきる。 うーん、いったいシンジはマナちゃんになにを約束させられたんだか。 「ところでさ、シンジ。」 現れた救いの神。その名はケンスケ(笑)。 「今度の文化発表会なんだけど、トウジとも話したんだけどさ、またバンドでもやらないか?」 「地球防衛バンド再び、やな。」 「いいけど、ボーカルはどうするのさ。」 言いながら苦い記憶とともにヒカリの方を見やるシンジ。 前回のやはりトウジたちとバンドを組んだ時の事を、実はシンジは覚えていない。 使徒の攻撃に遭い、記憶を失っていたからである。 お約束であるが、記憶を失っていた間の事は、記憶が戻った時のは覚えていないものだ。 当然、アスカに騙されてヒカリとキスしただとか、それをレイとマナに目撃されてひどい目にあった、などということは(体は覚えていても)・・・覚えていない。 後になってから聞かされた話は、当然の様に尾ひれがついてくるので、信憑性は極めて低いのだが、そこは素直な、というかばか正直なシンジのこと、トウジやアスカの嘘を真に受け、とんでもないことを散々した、と思い込まされていた。 マナやヒカリのフォローがなければ自殺を考えていたかもしれない。 「うん、転校生に頼もうと思ってさ。」 いやな予感がシンジの頭を過ぎる。どうやら手を差し伸べてくれたのは悪魔だったようだ。 「シンジさ、親しいみたいだから、誘ってくれないか?」 親しくない、親しくない、と首を振ってみても、それで聞いてくれるケンスケではない。 かくて、いつの間にやら口喧嘩を終えたマナやアスカたちの嫉妬の視線を浴びつつ、マユミの元へと向かったのだが。 「いやです。」 馬鹿にはっきりと断られる。 「な、なんで。」 マユミの性格上、ここまではっきり断られるとは想ってなかったシンジ。少し動揺。 「そういうことは、霧島さんに頼めばいいじゃないですかー!!」 そう言って泣きながら走り去るマユミ。 あーあ、泣かしちゃった。 「ひょっとして、僕が悪いんですか?」 たぶん・・・ 「でも、なんでマナなんだろ?」 そりゃだって、オリコンでも上位に入ってるくらいだから、歌はうまい、ってなんか違うな。 「だって、それなら綾波だって母さんだってペンペンだっていいじゃないか!」 ペンギンをボーカルにする気かい、おのれは。・・・でもそれも面白いかも。 いや、あのね、だからね、この際林原めぐみの声がどうとかじゃなくて、 「???」 もういい。 さあてどうやってトウジたちに言い訳をしようか、と考え出したシンジであったが、 ウ〜という警戒警報が、そんなシンジの悩みを吹き飛ばした。 使徒襲来。 使徒をこれほどありがたく感じたのは、初めてであろう。 「シンジ!」 「碇君。行くわよ。」 どこからともなく現れた、いや、シンジとマユミの様子を陰から覗いていた、マナとレイが、シンジの手を取り、走り出す。 うーん、出遅れたな、アスカ。 さて、珍しくシンジが喜び勇んで出撃したわけだが、やる気がある時に限ってうまくいかないのが人生。 シンジに限った話ではないが。 倒したはずの使徒は出てくるわ、トウジたちは逃げ遅れて人質状態だわ、アスカは例によって突っ込んで既に沈黙してるわ、レイは我関せずだわ、マナはいちゃつくわ、ミサトはヒステリーだわ、ゲンドウは役立たずだわ・・・ 延々と書いてて思ったが、ようはいつも通りやん。 「アスカぁ、たまには僕たちの手を煩わせないでよ。」 ついにシンジにまでこう言われるようになったか。 「うるさいわねえ、シンジのくせに。」 でもねえ、まがいなりにも心配してくれてるのはシンジくんだけなんだから、そんなこと言っちゃ駄目だよ。 「とりあえずアスカさんはほうっておきましょう。」 「どうせいつもの事ね。」 容赦なく冷たいマナとレイ。 一方司令室では。 「死んだら死んだでライバルが一人減るだけだし。」 「でも、化けて出てきたら・・・」 「アスカなら怖くないわ。」 「そうじゃなくてシンジくんに取り憑いたりしたら大変ですよ。」 「むう、それもそうね。・・・アスカ!死なない程度に頑張って。」 更に冷たいミサトとマヤがいた。 で日もとっぷりと暮れ、 お間抜けトウジたちはなんとか避難させたものの、戦いは長期戦の様相を呈していた。 アスカの弐号機が修理を終えて戦線に復帰しているのだから、その長さのほどがわかる。 そのアスカがここにいたるまでに、都合三度轟沈したなどということは、彼女の名誉のために伏せておこう。 へっぽこアスカは脇においておくとして、真面目に戦っている零号機、初号機の損傷も限界に来ていた。 特に初号機は、アスカがやられるたびに、律義にもシンジが助けにはいったため、その損傷は酷い。 そういったわけで、一時初号機は応急修理を受けていた。 「早くしなきゃ、またアスカがやられちゃうよ。」 「そんなにアスカさんが心配?」 アスカを気にし、妙に焦るシンジに、マナが心配そうに尋ねる。 「だって、化けて出てきそうだし。」 結局それかい。 「なあんだ。アスカさんが好きだとかそういう理由じゃないのね。」 「え?な、なんで。そんなわけないじゃないか!」 なぜそこまでキッパリと否定する。 「怖いのね。アスカさんが。」 「怖くないわけないじゃないか!だってアスカだよ?」 理屈はよく分からんが、なんとなく納得できるシンジの言葉。 さて、二人が夫婦漫才をやっていると。 「碇君!と霧島さん。」 「なによ、私はおまけ?」 「あ、あの、その、ごめんなさい。」 そのごめんなさいで分かる通り、山岸マユミがそこにいた。 「あ、あの・・・」 「なあに?」 そう問うマナの声は、優しい。 マユミの思いつめた表情を見れば、何か思い悩んでいるのは分かる。 状況が状況でもあるし、まさかこの場でシンジに愛の告白、というのもないだろう。 アスカじゃあるまいし、そんなマユミを冷たく突っぱねるような真似を、マナはしない。 「私を、殺してください。」 その言葉に衝撃を受けるシンジとマナ。 「な、何を言ってるんだよ。」 「そうよ、死ぬなんて軽々しく・・・」 そう言うシンジたちの前で、マユミは座り込み、叫ぶ。 「分かるんです。私の中に、あいつがいる。」 そう言って、使徒を指差す。 「いやなんです!人を傷付けるのも、傷つくのも!だから・・・私を殺して!!私なんて、死んでも・・・」 刹那。 パンッ という音とともに、マナがマユミの頬を叩いた。 「死ぬなんて、殺してなんて軽々しく言わないで!世の中にはね、生きたくても生きられない人が、死にたくなくて、それでも死んでいった人たちが大勢いるのよ!!あなた、まだ生きてるじゃない。軽々しく、その命を捨てないで・・・」 そういうマナの声は途中から涙声になっていた。 「命は、命懸けで守らないと、死んじゃうんだよ。」 当の本人も、何を言ってるのか分かってない。 ただ、その言葉の重みは、マユミと、そしてシンジの胸に響いた。 泣きじゃくるマナを、そっとシンジが抱き寄せる。 「分かるよね、マナの言いたいこと。山岸さんも、そして僕も。生きなくちゃいけない。どんなに辛くても。だって死んでしまったら、それで何もかも終りだから。」 コクン、とマユミは小さく頷いた。 「僕は、みんなが生きていくために、戦っている。誰も、殺させはしない。」 そう言い残すと、シンジはマナを伴い、初号機へと向かった。 「友達の、こと?」 初号機のエントリープラグの中で、シンジはマナにそう尋ねた。 生きたくても生きられなかったもの。それはマナの実体験から出た言葉に違いなかった。 ムサシも、ケイタも、決して死にたくて死んだわけではない。 ただ、マナを守るために。 涙を流し、小さく頷いたマナを、もう一度シンジは抱きしめた。 「大丈夫、僕は死なない。僕が、ずっとマナの側にいるから・・・」 そういってシンジは、シンジにしては珍しく、自分から、マナに口づけした。 その瞬間、シンジとマナは、ユイに包まれたような印象を受け、初号機が、光り輝いた。 と、シンジたちがシリアスにラブラブをやってて、なぜアスカたちが乱入してこないのかというと、 「弐号機、完全に沈黙。完膚なきまでに叩きのめされました。」 「アスカは!?」 「残念ながら無傷です!」 「チッ。腕の一本でも折りゃぁ人の為だったのに。」 とまあ、こんな具合であった。 唯一レイだけは、初号機の中の出来事を知っていたのだが、生憎アスカの弐号機の巻き添えをくって、というか、弐号機にけつまづいて、こけていた。 「ちょっと、人の上に乗らないでよ!」 「悪いのはあなた。ボケボケしているあなた。ああ、碇君が。」 その言葉で、初号機の中での情事に気がつくアスカ。 だが、止めに入ろうにも、残念ながら弐号機は動かない。 「動け、動け、動け、動いてよ!今動かなきゃ、シンジが!」 それで動いたら誰も苦労しない。 まあ過去には「あんたガンダムでしょう、動きなさいよ!」といわれて動いた機体もあったけどね。 ガンダムならぬエヴァは、というと、根性はないが、母性愛はあった。 そもそも、惣流キョウコと碇ユイは、生前ライバル関係にあったという。 あれ?そうするとユイの子であるシンジと自分の娘がくっつくことって、彼女の望みなのかな? そんな疑問はさて置き、どうやらユイへの対抗意識よりも、娘への愛情が上回ったようで、キョウコはアスカの呼び掛けに応じた。 「し、信じられません!アスカのシンクロ率が、400%を越えています!」 モニターを見つめ、驚愕するマヤ。だが、 「で?」 というリツコの冷たい突っ込みがあらわすように、弐号機はぴくりとも動かない。 そもそも機体のダメージが大きすぎるのだ。ゾンビじゃあるまいし、この状態では立つこともままならない。 そうそう、すっかり忘れていたが、使徒は、復活した初号機にあっさりと倒されていた。 やっぱり初号機は愛の力で動いているらしい。 「結局、文化発表会、中止になっちゃったな。」 「ああ。」 閑散とした教室の中で、トウジとケンスケはそう話した。 「そういや、あの転校生はどうしたんや?」 「また、別のところに転校してったよ。元々親父さんの都合で、少しの間だけこっちに来ただけらしいから。」 「そうか。で、シンジはどないした?」 「見送りにいったよ、委員長と、霧島と、3人で。」 「私も、頑張って生きてみようと思います。碇君や、霧島さんの様に。」 「うん。」 シンジは静かに、マナは無言で、そのマユミの言葉に頷いた。 「私たち、似てるのかもしれませんね。でも、出来れば似てない方がよかったかも。似た者同士は・・・」 そうシンジにかけた言葉の意味を、シンジは理解できなかった。 似た者同士は、結ばれることが難しいから。その秘めた意味を、だがマナは悟っていた。 「また、この街に来れるといいね。でも、シンジは渡さないから。」 「負けませんよ。私も。」 そんな少女二人のやり取りを、不思議そうに、だが心地よく、シンジは眺めていた。 やがて電車が走り始める。 いとおしそうに、いつまでもシンジたちを見つめていたマユミの姿も、やがて見えなくなった。 いつまでもそれも見送っていたマナであったが、電車が見えなくなると、シンジの方を振り向いた。 「頑張らなきゃね。私たちも。」 「うん。」 そうシンジが返事をするや否や、マナはシンジの唇を、自分の唇で塞いだ。 そのマナの身体を、シンジは優しく抱きとめる。 「あのー、私もいること、忘れてない?」 その横でヒカリが、一人目のやり場に困りつつ、途方に暮れていた。 『こんなことなら、鈴原も連れてくるんだった。』 真っ赤になって、そんなことを考えながら。 −つづく <次回予告> そして…15年の月日が流れた。 訪れた平和なひととき。 やがて、シンジはアスカを受け入れる。 次回『せめて、女らしく』 アスカに、永遠の刻を・・・ |