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彼女が、その日記を見つけることができたのは、はたして本当に偶然だったのだろうか? それは、古ぼけた一冊の日記であった。 電子媒体が発達して久しいこの宇宙時代には極めて珍しい、手書きの日記。 それは、あるいは書き手の人柄そのものを、指し示していたかもしれない。 それは時代が、まだ宇宙世紀と呼ばれていたころの日記であった。 けれど、その日記を残した人物を、彼女はよく知っていた。 かつて、彼女が持っていた、人を超えた力。 そして「彼」もまた、その同じ力を持つ、人種であった。 未来を予見すること。 それが、彼らに等しく与えられた、その力である。 だが、彼女は、もうその力を失って久しい。 いや、正確には、その力はまだ、彼女の中にある。 けれど、今の彼女は、その力が何の意味もなさないことを、知っていた。 未来を見通す力など、何の意味もないのだ。 未来は、自分の手でつかむ物だと、自分たちが作っていくものなのだと、そう教えてくれた人がいるがいるからである。 それこそ、その日記を残した「彼」その人であり、そして,もう一人… 「あら?」 日記に目を通していた彼女は、ふと、彼女はその日記の間に、何かが挟み込まれていることに気付いた。 何気なく、その紙片を手にとって見る。 それは、一枚のスナップであった。 そこには、一組の少年少女と、そして一騎のモビルスーツが、写しだされていた。 「ガンダム…」 それは彼女たちがガンダムと呼ぶ、モビルスーツによく似ていた。 彼女が知る、"ガンダム"とは若干違う形状をしてはいたが、その特徴ある外観は、まさにガンダムのものであった。 ふと、彼女は視線を前方に向ける。 そこでは3歳になる彼女の息子が、テレビアニメを食い入るように見ていた。 そのテレビの画面に移っていたのもまた、ガンダムであった。 写真の中の"ガンダム"は、不思議と今そのテレビのアニメの中で登場しているガンダムに、よく似ていた。 それは、ある意味人の記憶が綿々と受け継がれてきたことの、証なのかもしれない。 ガンダムという、その名と共に。 ガンダム。 その名が持つ意味は、複雑である。 ある人物にとっては、それは忌まわしき記憶であった。 宇宙にすむ人々にとっては、それは永らく忌むべき名前であった。 その反面、その名は憧れと羨望を集めた。 そして…彼女と、彼女の夫にとって、それは未来への希望を切り開く名前でもあった。 ただ一ついえるのは、良きにつけ悪しきにつけ、その名は常に、戦いの中にあったということであり、それはすなわち、人の歴史が、戦いと共にあったということの証でもあった。 ガンダムだけではない。 人の歴史から戦いがなくならないからこそ、彼女の持つ力もまた、時代を超えても必要とされつづけてきた。 そして戦いの中ですさんだ心は、いつしか彼女たちのような力を持つものを、人の革新としてあがめ、心の拠り所としようとしてきた。 いつか、力を持つもの太刀が、時代を変えてくれると、戦いのない世の中を、作り出してくれると。 けれど… 我が子の姿を見るたびに、彼女はこう思うのだ。 人を超える力を持とうとも、人は、やはり人でしかないのだと。 子を産み、育てていく、生き物でしかないのだと。 戦いをなくすことができる存在などではないのだと。 けれどそれは、不幸なことではない。 いやむしろ、彼女にとっては幸福なことですらある。 彼女は、人でありたいと、願ったのだから。 だが、それでは、戦いは結局、決してなくならないのだろうか? いや、そうではないと、彼女は思う。 人を超えた力などに頼らず、人が、人として、戦いをなくしていく努力をしていかなければならない。 そうでなければ、何の意味もないのだから。 人は、人でしかない。 それは、かつて彼女の夫が彼女に言ってくれた言葉であり、一人の少年、写真に写るかの少年が、「彼」に向かって発した、言葉でもあった。 時を越えた同じ言葉。 それは人が同じ過ちをいまだ繰り返し続けていることを示している。 けれど、同時にまた、人が決して希望を失っていないこともまた、同時に示していた。 そんな希望が、その日記には綴られていた。 かつての彼女と、彼女の夫を思い起こさせる、少年と少女の物語を、通して。 時に、AW0021、冬。 その物語から、およそ300年後の、ことである。 |