「さて、と。何から聞いたらいいもんかな。」
日は変わって既に十一月二十九日の昼下がり。
リーンを新潟まで引っ張ってくると、ひとまずデビットは彼と部下たちを休ませたのである。
勢いに任せてつれてきたまでは良かったが、デビットも、少々戸惑っていたのだ。
だから、リーンに、というより彼自身に考える時間が欲しかった。
そもそもガンダムに遭遇できるとすらあまり思っていなかったのだ。
それが、パイロットともども"保護"できてしまったというのは僥倖であったとは言えるのだが、同時に予想外のことでもあったのである。
そういった意味では、彼らが引き上げてきたこの新潟の基地というのは、デビットにとってもいささか都合が良かった。
特務部隊、ということで、デビットらの行動を黙認、言い方を変えれば無関心な、この基地の人間たちは。
奇妙な戦略バランスのせいで実戦から遠ざかっているこの基地の面々にすれば、シェアラのような少数派を除けば、この状況に染まり、慣れきってしまった雰囲気もある。
それはシェアラや、常に一線で戦ってきたデビットにとってはもちろん歯痒いものはあるのだが、反面、人間は本来こういうものだという意識もある。
あるいは、後年の連邦政府の堕落の一端を、ここに垣間見ることができるのかもしれない。
だからだろう、デビットたちとともに突如現れた一機のガンダムに、ほとんどのものは気を配ることもなく、そして同時に、迫り来る脅威に関しても、彼らは気付くことすらなかったのである。






ACT-11
−野獣の猛襲−







「勝手にガンダムに乗り込んでしまったのは、悪かったと思っています。」
そう、どこか反省めいた口調でリーンは重い口を開いた。
基地内、シェアラの個室として与えられた一室に冬の穏やかな日差しが差し込んでいる。
口調が重いのは、生まれ育った街を、あんな風にしてしまったその責任を感じて、なのかも知れなかった。
それも、きわめて個人的な事情で。
そうなると、もちろん頭では理解してはいたのだが、さすがに光景を目の当たりにしてしまうと、それはまた違う話になる。
そして、冷静になってみると、改めてその光景がまた、頭をよぎった。
だから、なのだろう。
「ま、元々一度は敵に奪われた機体だからな、我々としては逆に取り戻してもらってありがたいとこでもあるが・・・それよりもなんでお前があれを動かせたのか、そのほうが我々は気になるな。」
いいながら、話を微妙にそらせてみせたのは、それが本題だからということもあるのだが、どこかリーンのそんな心情を慮って、というのもあったのだろう。
彼がガンダムを駆ったことが、結果として街を破壊せしめてしまったというのは、デビットにもわかる話だからである。
が、別にジオンは無慈悲な侵略者ではない。
テレビのロボットアニメのような、単純な構図ではないのだ。
だから、デビットはリーンがなぜ動かせたか、ということと同じくらい、彼がなぜ、ガンダムを動かしてしまったのか、そのことも気になっていた。
「それは・・・」
「そもそもモビルスーツなんて素人にそうそう扱えるシロモンじゃない。その上あのガンダムは・・・」
口篭もるリーンに対して、まず、デビットは一つ目の疑問に対する解を得ようとする。
「生半可なパイロット・・・いえ熟練のパイロットでも、おそらく。」
その意を汲み取ってか、シェアラがそう言葉をつないだ。
「ああ、俺でもてこずる、いやそれどころかもしかするとまともに動かすことも出来んかもしれん。そんな機体を、なぜお前みたいな坊主が・・・」
そんな大人たちの言葉は、リーンにも多少の衝撃であった。
が、同時に、だから、自分には動かせたのだと、奇妙な納得もいった。
彼の憶測が正しければ、このガンダムは、おそらく彼以外には動かせない。
ガンダムが、レナそのものであるのなら。
「ニュータイプ・・・あのモビルスーツのパイロットは、僕のことをそう言ってました。」
それも、精一杯の憎しみを、込めて。
レナのことには触れず、あえてリーンはそのことだけを口にした。
もはや、ガンダムとレナの関係は彼の中で確信に変わっていた。
が、他人にとっては、それはにわかに信じがたい話であり、そのことが分かるから、リーンはそれを、口にするのを躊躇った。
「ニュータイプ、ねえ。」
「なんなんです?ニュータイプって。・・・あの男は、ニュータイプこそがこの戦いのすべての元凶だ、みたいなことを言ってましたけど・・・」
しばし考えて、デビッドがそのリーンの問いにこう答えた。
「宇宙という新しい環境に適応して、人は新たな能力を身に付けることができる。確か、ジオン・ダイクンがそんなようなことを言っていたような気がするな。」
「だから人類は地球を出て、宇宙に出るべきだ・・・そういう主張がどっかで捻じ曲がって、ジオンの独立なんて話が出てきた。その意味で言えば、ニュータイプとやらがある種戦争の原因の一端であるというのは、違いないかもしれないわね。」
そう言いながらも、それがシェアラの本心ではもちろんない。
「ジオン・ダイクンは純粋にその説を信じていたんだろうが、ザビ家の連中はそれを利用しているだけだろ、おそらくな。」
「つまり、騙してるって、ことですか?」
「ジオンが勝って、主権が宇宙に移って、人間全部宇宙に住むようになりゃ、結果は同じだ。嘘をついているわけじゃあない、と、連中ならそう言うだろうな。」
そう言ってデビットは一つ、大きな息をついた。
話としては、わかる話だ。
既に戦線に投入されている、もう一機の、そして実戦に投入された最初の"ガンダム"。
そのパイロットもまた、リーンと同じぐらいの年で、そして、ニュータイプであると、そう噂されていた。
もちろん、噂でしか、デビットも知りはしない。
だが、今のこの状況を見れば、デビットとてその噂も、そして、ニュータイプの存在というものを、信じてしまう気になる。
もっともそれは、"ニュータイプ"という言葉一つで、理解できない事柄を括ってしまおうとする、ある意味危険な考え方であるのかもしれない。
それを分かっているのか、デビットはまだ、納得のいかない表情を浮かべ、リーンにもう一つ問いを投げかけた。
「なぜ動かせたか、はとりあえずそれでいいとして・・・なんで、お前はあれを"動かした"?その行動が、お前さんたちの街を、危険にさらす可能性があったにもかかわらず、だ。」
リーンの気持ちをわかった上で、だがデビットはあえて、そう言う聞き方をした。
でなければきっと、この少年は"ジオンから街を守るため"とそう答えただろう。
だから、あえて先に、デビットはその答えを封じたのである。
街を守る、それが戦った理由かもしれない。
だが、彼がガンダムに乗らなければ、そもそも起こらなかった戦いである。
それがわからないほど、愚かな少年には、少なくともデビットには思えなかった。
だからこそ尚更、なぜ、彼がガンダムを持ち出したのか、そのわけが、デビットには気になったのである。
「それは・・・」
そして、リーンも感じていた。
目の前の男に、下手な言い訳など、通用しないということに。












「ガンダムに彼女の人格が乗り移って、その彼女を守るためって・・・信じられる話じゃありませんね。」
リーンとサントスを残し、デビットたちは一度部屋を出た。
部屋を出るや否や、ギブソンがそんな感想を漏らす。
「あら、いいんじゃない?私はそういうの好きだけどなあ。」
そんな呟きに、シェアラが冗談めかしてそう返答をした。
そんな二人のやり取りに、だが、デビットは真剣な表情を浮かべていた。
にわかに信じがたい話ではある。
人間の意識がモビルスーツに乗り移るなど。
だがそれがもし、本当で、そして、実用可能な技術であるとしたなら・・・
いくらでも、何にでも、利用することはできる。
それが、人道に背く行為だとしても。
そしておそらく、ジャミトフ・ハイマンという男はそれをするであろう、ということも、デビットはよく知っていた。
「曹長殿は女性だからそう思われるのです。だいたい好きな女の子を守るために戦う、なんて、自分勝手もいいとこじゃないですか。」
「そうかな・・・俺にはむしろ、連邦政府の大義名分なんていうわけのわからんもんかざして戦うより、よっぽどまともに見えるがね。」
ギブソンのそんな呟きに対してそんな言葉を返しながら、デビットは一つの決意を固めていた。
『何をするつもりかしらんが、年端も行かない少年少女を犠牲にして、それで得られる勝利など・・・』












シャリフ・ベルゲは苛立っていた。
元々、彼には主義主張があったわけではない。
馬鹿ではなかったから、ジオンの敗色が濃厚になりつつあることは、もちろん分かっていた。
そんな中で松代基地を橋頭堡にしようと考え、ガンダムを倒してまで戦いを続けようとしたのは、もちろん祖国への忠義の為などではなく、そして、己の野望の為でもなかった。
ただ、己が愉悦に浸るためだけの、戦いという舞台が欲しいだけのことなのだ。
そう言う意味からすれば、リーンのガンダムの存在などというのは、楽しませてくれる材料が増えただけ、という感じ方もできようものなのだが、だが、彼は無性に苛立っていた。
そして、その理由を、彼はよく知っている。
彼が戦いに没頭するその本当の理由を、思い起こさせるからである。
自分には守れなかったものの存在を。
ニュータイプ、恋人を守るため・・・そんなキーワードが、彼の頭の中を幾度も巡る。
それは彼にとって忌まわしい、いや、忌まわしいと思い込もうとしている、過去であった。
だから、彼はガンダムにこだわった。
ガンダムと、そのパイロットであるニュータイプを消し去ること。
それだけが、彼をこの苛立ちから解放させてくれるものだと、そう信じ込んでいたからである。
ただ同時に、それでも彼はまだ、冷静さも失ってはいなかった。
どちらにしても、今のままでは基地に戻ることもままならないだろう。
ビリーを解き放ち、あれだけの騒ぎを起こしてしまったのだ。
もちろん足がつくようなまねはしていないから、ビリーに責任を覆いかぶせることも出来ようが、それはそれで彼のプライドが許さなかった。
ガンダムを倒すなり、連邦を蹴散らすなり、とにかく何か大きな功を上げ、実権を掌握したいのである。
もっとも、そのようなやり方自体、松代の面々が容認するものでないのだが、そんなことを彼は微塵も考えてはいなかった。
待機させていた部下に命令を与え、彼は密かにデビットたちのあとを追わせた。
部下たちの駆るジュアッグは、砲撃戦仕様とはいえ元になったのが隠密任務にはうってつけのMSM−04、アッガイである。
そのため、こういった任務には案外と適していた。
使えない、とシャリフは悪態をついたが、結局ゾゴックといいこのジュアッグといい、なんだかんだで役に立っていることに気付き、思わず彼は苦笑いを浮かべる。
結局、物の価値というものは、状況に左右されるものなのだ。
そしてそれはものだけではなく、人、彼自身にも言えることであった。
あんなことさえなければ、彼とて・・・












デビットはひとまず、リーンを解放してやることにした。
自分が連絡しなくとも、遅かれ早かれ情報はジャミトフの元に届くだろう。
ジャミトフにこの機体を渡してはならない。
理屈ではない。
だいたい、利用価値のある機体であるのは確かであるが、これ一機手中にしたからといって大局がどうなるわけでもない。
ジャミトフにすれば、次のステップに進んだ時の、数ある手駒の一つでしかないのだ。
だが、それに利用されたリーンとレナはどうなる?
つまり、そういう問題なのだ。
もちろん、一人の少女のために上官に背くなど、本来軍人としてはあるまじき行為である。
が、元々デビットとジャミトフの間に信頼関係などはない。
結局、デビットにとっても、これはいい"きっかけ"であったのかもしれない。
いつかはこうなると、そう分かっていたのだから。
だが事態は、彼の思惑とは違った方向から、既に次のステップに進もうとしていた。












既に日は暮れようとしていた。
よく晴れた冬の日本海を、夕日が赤々と照らし出している。
ふと、赤く染まった海が、一瞬、血の色に見えたように、デビットには感じられた。
どこかに、そんな予感があったのかもしれない。
だが、すぐにそんな感情は忘れると、彼は任務と偽ってリーンをガンダムに乗せた。
誰も、それを見咎めるものもいない。
ありがたいといえばありがたいのだが、だが、そんな基地の面々の姿勢に、デビットは少し、苛立ちを覚える。
だが、そんな堕落した光景の方が、血に染まる戦場よりはまだましであるのかもしれなかった。
それを彼は、すぐに実感させられることになる。
リーンがガンダムに乗り込んだのを確認すると、デビットもまた、愛機のコクピットへと向かった。
いろんな機体の寄せ集めであるこの愛機の姿は、彼の戦歴そのものである。
元は、ただのRGM−79(G)、いわゆる陸戦型ジムであった。
だが、激戦のアフリカ戦線で、新品のジムは、あっという間に傷だらけの中古品へと成り下がった。
補給もままならない状況で、それでも戦っていく為にとにかくその場にあるものを何でも利用した。
バックパックなど、面影がないどころか、そもそもRX−79(G)、陸戦型ガンダムのものを強引にくっつけているありさまである。
もっとも結果としてそれで機動性は上がったのだから、怪我の功名ともいえなくもないのだが、無理やりなそのパワーアップは、もちろん操作性に難を残す羽目ともなった。
ただ、その扱い難さは、同時に愛着を感じさせるものになりもしたのだが。
それでもバックパックなどはガンダムだからまだいい。
彼の機体をまず見たときにまず目を引かれるのは、明らかに機体とデザイン的に整合性の取れていないその両腕であろう。
無理もない、その両腕はMS-07H8、グフフライトタイプと呼ばれる、つまり鹵獲したジオンの機体のものを無理やりつないでいるのである。
まあそのおかげで35mm3連装ガトリング砲や75mmガトリングシールドといったグフの武装が使えるようになっているのだが。
ジムの本来の装備であるマシンガンより、どちらかといえばそれらの方がデビットの趣味には合っていた。
そういう意味で言えば、見てくれの問題はさておき、この両腕も、デビットにとっては満足の行く代物であったかもしれない、少なくとも、性能という面においては。
だが、同時にその両腕は、デビットにとって、忘れてはならない過去の、その証でもあった。
失った両腕は、守るべき人を守れなかった、その傷痕。
ジムの両腕とともに、彼はその両腕の中のもの、もっとも大事な人を、失っていたのである。
そう、そういう意味で言えば、彼の境遇はクロスと、そしてシャリフとも、同じであった。
けれど、彼の、そしておそらくクロスの思いは、シャリフが抱いているそれとは違う。
彼はリーンに自分と同じ思いを味あわせたくはないのだ。
そしてクロスも、もし彼がこの事実を知ったなら、おそらくデビットと同じ想いを抱いただろう。
だが、敵であるジオンの中に、自分と同じ想いを抱けるものがいることを彼が知るのはもう少し先の話である。
そして、今彼の元に迫り来る影は、彼の思いをとは正反対の感情を秘めた、獣であった。





つづく






あとがき

なんか久しぶりに更新ペースが上がっている感じですが・・・。
いつまで続くことやら(^_^;)
というか最近あとが気って言い訳しかしてないな。








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