ドンッ、という衝撃音で、デビットは己の感傷から解き放たれた。
「なに!?」
つけられたか、とデビットは思わず己の迂闊さを呪った。
油断していた、と言われてしまえばそれまでだが、まさか追ってくるとは思ってもいなかったのは確かである。
ろくな戦力がない、といっても基地は基地である。
"ガンダム"というおまけがあるにせよ、たかだか二機程度のモビルスーツで襲撃をかけるなど、通常であればありえる話ではない。
あの行動を見れば、よもやあれが松代の連中の総意ではないとは思えるし、事実、そのデビットの判断は間違ってはいない。
つまりグフ、ないしはゾゴックのパイロットの独断専行によるものであれば、せいぜいモビルスーツの数が倍ぐらいに増えるとしてもやはり、一つの基地を襲う、という点においては戦力的に不足であるといわざるをえない。
まして少なくともモビルスーツの数だけ見れば、最低でもこちらに同じ数があると分かっていればこのような無謀な行動には、"普通なら"出ないはずでもある。
もっとも、結果論で言えば、この攻撃が、タイミングも含め、非常に効果的であったことを、デビットとて認めざるを得ないのだが。






ACT-12
−妄執の果て−







安穏とした生活を送っていた、とは言ってもそこは曲がりなりにも軍人の集まりである。
まして今は戦時中なのだ。
敵襲に対する基地の面々の対応は、極めてスムーズであった、とはいえないまでも、少なくとも及第点であるようにデビットには見えた。
が、残念ながらそれでは駄目なのだ。
既に敵方がこちらの予想外の行動をとっている以上、"いつも通りの"やり方で対処など出来ないのは、明白である。
もっと言うならば、戦場において"いつも通り"だの、"訓練と同じように"などと行くことの方が稀である。
常に予想外のこと、最悪の想像を、更に超える最悪のことが起こりうるのが戦場なのだ。
それをデビットは、アフリカの砂漠の真ん中で、いやというほど教えさせられた。
それが分かるデビットであるから、この事態にも彼は即座に反応できた。
だが、彼一人が反応できたとて、それではどうにもならないのも、また事実であった。
敵は、驚くほどに狡猾であった。
味方の砲撃を背に飛び込んできた二機のモビルスーツは、松代で見たあの新型とグフである。
先の戦闘での損傷は、応急処置程度しかされてはいなかったが、それでもやりよう次第でどうにでもなる、そう彼らは踏んだのだろう。
そしてそれは、確かに正しかった。
数の上では、確かにこちらに分はあった。
砲撃の数を見れば、せいぜい支援機があと二機程度。
それに対し先も述べたがこちらにはモビルスーツが三機に戦車隊もある。
基地の援護を背にそれらで迎え撃てば、確かに有利であったはずではあるが、それは、迎撃体制が整っていれば、のはなしでもあった。
だからこその、このタイミングでの奇襲なのだろう。
間を置けばいくら腑抜けているとてそれなりの対処を考える、そう、敵は考えたのだ。
その上での攻撃は、確かに隙がなかった。
突っ込んでくる二機は、ある意味おとりである。
その二機のモビルスーツに、慌てて飛び出して来た戦車隊は、連携を取ることもかなわなくなり、そこを、敵の支援機が各個撃破していく。
デビットのジムが飛び出した時には既に四台の61式が、スクラップと化していた。
数の上で有利、とはいったが、元々それほど豊富な戦力があったわけではない。
四台、この基地に配備されている戦車隊の三分の一に値する戦力が既に撃破された上、二機の敵モビルスーツが敷地内に入り込んでしまった状況では、もはや戦車隊を有効に活用することもままならない有り様である。
加えてこの基地にはおよそ航空戦力と呼べるようなものがなかった。
デブ・ロッグが二機配備されていただけなのである。
デブ・ロッグは戦略爆撃機であり、もちろん、こういう状況下では何の役にも立たないのは明白であった。
こうなってくるともはや数の有利さは既になく、初動が遅れた分だけ、こちらの方が不利であるとさえ言えた。
「ちっ、」
舌打ちをしながら、それでも単機で眼前の二機を牽制するべく、デビットは愛機をすべらせた。
「坊主、お前は"彼女を連れて"逃げろ!」
咄嗟に叫んだその自分の言葉に、幾ばくかの驚きと戸惑いを覚えながらも、だがデビットはその指示が既に手遅れである事も悟っていた。
逃げる、どこへ、どうやって・・・
そんな思いが、デビットの中にわずかばかりの隙を生み出す。
「隊長!ここはもう持ちません!」
いつの間にかデビットの横にサントスのジムキャノンが並び立っていた。
ゾゴックとグフに対し懸命に牽制をかけながら、サントスはデビットに向かって叫ぶ。
「私達が食い止めます、ここは、彼と一緒に脱出してください。」
そのサントスとともにリーンを守るように立ちながら、ギブソンはデビットの方を見やる。
まだまだ未熟とはいえ、彼らもまた、立派な軍人であり、そして一人前の男であった。
リーンのいったことを100%信じたわけではない。
だが、その言葉に嘘偽りがないことぐらいは、彼らにも分かっていた。
年端の行かない民間人の少年少女、それを守ることは、軍人としての責務である。
そういう意識ぐらいは、彼らの中にもあった。
「バカヤロウ!!おまえらヒヨッコにそんなことを言われる筋合いは無い!!おまえ等も一緒に来い!!」
そんな二人の言い様にどこか嬉しさを感じながらも、だがデビットはそう叱咤する。
しかし、そのデビットの叱責を二人が聞くことはなかった。
「うわぁ!」
ゾゴックとグフを何とか近づけさせないように奮戦していた二人の機体を、敵の支援機の一撃が貫く。
「サントス!ギブソン!」
丸い図体、両腕にはマニピュレータの代わりに三連装ロケット砲が備え付けられている、やはり異形の機体。
ジュアッグと呼ばれるその機体から打ち出された弾丸が、寸分違わずサントスとギブソンのジムの、その腹部を、つまりコクピットを貫いた。
そしてコクピットを包んだ炎が、エンジンへと誘爆し、二機のジムはあっという間に大きな火球と化した。
自分の迂闊さが招いた惨劇であると、デビットは己を呪った。
だが、いやだからこそ、彼は務めて冷静にリーンのほうを見やり、こう言った。
「・・・やむを得ん、坊主、ついて来い、俺が何とかしてやる。」
それは、サントスとギブソンが命がけで切り開いてくれたチャンスだったのかも知れない。
モビルスーツのエンジンは核融合炉である。
その性質上、核爆発が起きるわけではないものの、その爆発の威力は決して小さなものではない。
二機のジムの断末の炎が、一瞬、ゾコックとグフの足を止めた。
その隙を、デビットは見逃さない、見逃すわけには行かなかった。
炎を盾にデビットはジムを飛翔させる。
リーンのガンダムがそれに続き、そしてシェアラのホバートラックも炎を迂回してそれに追従する。
ジオンのモビルスーツに対して、機動性の面ではそれらのマシンは元々大きなアドバンテージを持っている。
そうであれば、たった一瞬のその隙は、間違いなくデビットたちにとって大きな好機に確かになりえた。
撤退するのに十分な距離だけ飛びのくと、デビットは弾幕を張りつつ、リーンとシェアラを先に行かせた。
火力と隠密性には確かに優れていたものの、機動性という面では明らかに劣悪であると見て取れるジュアッグのその脇を、あざ笑うかのようにガンダムとホバートラックが駆け抜けていく。
そして、
「行きがけの駄賃だ、二人の敵ぐらいは、取らせてもらう。」
困惑する二機のジュアッグの前に、デビットはジムを軽やかに舞わせる。
この近距離では砲撃を放つことも、そしてその機動性ゆえに逃れることも出来ず、二機のジュアッグはデビットの怒りの刃の餌食となった。
ビームサーベルを抜き放ち、まず一機のジュアッグのコクピットを貫く。
更に突き刺さったビームサーベルを抜きながら、そのままの動作でもう一機の胴体を切り裂いた。
そして二機のジュアッグの爆発を見届けることもなく、デビットはリーンとシェアラの後を追って、暗闇の木々の中に、愛機を滑らせていった。












「ガンダムは逃したか。まあいい、基地一つ壊滅させただけでも、今回はよしとするか。」
目の前でくすぶる炎、崩壊した敵の基地を目にして少しは溜飲が下がったのか、やられた部下に微塵も気を配ることもなく、シャリフは冷たくそう言い放った。
だが、そんな彼の行動も、既に大局には何ら、影響を及ぼすことはなかった。
松代に戻った彼は、直にそのことを知ることとなる。
彼やデビット、リーンたちの行動とはまったく無関係に、戦局は大きく、終局に向かって動き始めていたのである。
ジオンの敗北と言う、終局に向けて。





つづく






あとがき

予想通り、またずいぶん間があきましたが・・・
もっともSEEDの小説の方はもっとひどくて・・・というか続編がほぼ決定だそうなので・・・あれはもうお蔵入りかなあ(爆)







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