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「レナ…そこにいるのか?」 真っ暗なコンテナの中に足を踏み入れ、リーンはそう呼びかけた。 だが、レナの返事どころか、そこには人の気配さえ、感じられない。 正確に言うならば、人の形をしたものは、そこに確かにあった。 だが、それが人間でない事は、子供にもわかる。 大きさが、あまりにも違いすぎた、そう、大きすぎたからである。 「モビルスーツを…運んでいたのか…それも、二機も。」 ようやく暗闇に目が慣れてきて、リーンはそこにあるものの正体を知った。 ジオンの輸送機『ファットアンクル』と違い立ったままモビルスーツを乗せるされるだけの高さを、ミデアのコンテナは持ち合わせていなかったため、リーンの目に飛び込んできたものは、整備用のトレーラーの上に寝かされたモビルスーツの、足の裏だけであったが、モビルスーツを見るのはこれが初めてではない。 だから、すぐにそれがなんであるかの察しは、ついた。 もっとも、近くに駐留している実験部隊のMS−06、ザクUしかリーンは見た事はなかったから、その機体が何であるかまでは、わからなかったが。 そう、それは二機ともに、リーンが見たこともない機体であったのである。 −消えたガンダム− 「こっちのやつは…あのおっさんの機体、かなあ?」 コンテナの外壁にあったはしごをよじ登り、リーンは二機のモビルスーツを見下ろしていた。 あのおっさん、とは、時折ジオンの基地で見かける、間違いなくあの基地でもっとも目立つ一人の士官のことである。 二メートル近い巨体の、筋骨逞しい男で、まだ二十代という話であったが、どう見ても"おっさん"とか"親父"といった表現がふさわしいタイプであった。 そもそもここの基地の人間と付近の住人というのが割りと折り合いがよく、そのうえレナのことがあって、リーン自身ジオンの基地に出入りすることもあったので、名前までは知らないまでも、ある程度顔ぐらいはわかるようになっていたのである。 落下の衝撃で右腕を破損していたその機体は、いかにも"ゴツイ"といった印象で、それがあの"おっさん"のイメージと重なったため、思わずリーンはそんな印象をもらしたのだが、実のところ、その直感は正しかった。 もっともこの時点で彼がそのことに気付くはずもないのだが。 「で、こっち…は…」 もう一方の機体の方の視線を向け、リーンは首をかしげた。 "あのおっさんの機体"と表したほうは、見た事はなくとも確かにいろんな意味で納得がいく形状をしていた。 キャノン砲やらなにやらやたらとごちゃごちゃとしたものがくっついてはいたが、そのパーツ一つ一つはどこかで見覚えがあるものであったし、ベースとなっている機体も、知らないまでも、確かにジオン軍の機体のラインであることが伺えたからである。 そういえば"あのおっさん"はモビルスーツをいじくりまわすのが趣味だったなあ、と思い至って、さらに何か、妙に納得できてしまうものを感じる。 だが、今見つめているもう一機のほうは、明らかに違うのだ。 連邦のモビルスーツ"ジム"を目にしたことがあれば、今目の前にある機体が、それと酷似したラインを有していることに気付くこともできたかもしれないが、生憎リーンはジムを見るどころか、連邦のモビルスーツの存在さえ、知らなかった。 だが、一般人であればそれがある意味普通なのであって、連邦のモビルスーツの存在を知っていたエティシアの方が、やはりまがいなりにも軍人であるということなのである。 「なん…なんだろう、こいつ。」 見れば見るほど、この機体の素性がリーンにはわからなくなってきていた。 そして同時に、リーンはこの機体に強い興味をもった。 それは、そのモビルスーツの顔立ちに、理由があったからかもしれない。 リーンは、もともとサイド3の生まれであり、地球生まれではない。 幼いころに父親を失い、それで、母親の生まれた地へ、移り住んできたのである。 "日本"と呼ばれていた、その土地へ。 宇宙生まれとはいえ、母親の生まれ故郷が"日本"であるなら、リーンにも確かに"日本人"としての血が流れてはいる。 宇宙世紀の今、そういった人種の違いに、どれほどの意味があるかは甚だ疑問ではあるが、この地方の風土や、旧世紀から受け継がれているこの地方独特の文化などは、確かにリーンの感性に会うような気はしていた。 そして、そう、今目の前にいるこのモビルスーツは、明らかにヨーロッパに伝わる甲冑とは違う、日本独自の鎧武者を思わせるような、そんな風貌を持っていたのである。 兜を連想させる角飾りと、二つの目、モノアイといわれる単眼で統一されたジオンのモビルスーツと、それは明らかに違っていた。 『リーン、来て…』 そのときである、再び、リーンの耳にレナの声が飛び込んできた。 「レナ!?どこにいるの?」 慌てて周りを見渡す。 だが、やはりあたりに人の気配はない。 その代わりに… プシュッ、という音がコンテナの中に響き渡った。 そして、その鎧武者のようなモビルスーツの腹部で、何かが起き上がる。 位置的に考えて、そこにあるのはコクピット、つまり、コクピットのハッチが"勝手に"開いたのだ。 「お、おいおい。」 暗がりであったため、一瞬人影と見間違えたリーンは、ドキリとしたが、すぐにそのことに気付く。 だが冷静に考えてみれば、ハッチが勝手に開くということ自体が、そもそも異常である。 「ら、落下の衝撃で、ロックが外れたかなんかして…。」 それが的外れな推論であると知りつつも、リーンにはそう言うしかなかった。 そしてもう一度、目を凝らしてコクピットの方を見やる。 「!?」 ほんの一瞬だけ、そこで何かが風になびいたような気がした。 それは、女性の髪のようにも、見えた。 「レ…」 愛しい少女の姿をそこに見たのか、思わず身を乗り出したリーンは、気がつくとはしごの上から、転落していた。 「いつつつ…」 おちたときに打った腰を抑えながら、何とか立ち上がったリーンは、はっとしてもう一度モビルスーツのコクピットの方を振り向いた。 だがやはり、そこには誰もいない。 ただ、開け放たれたハッチが、見えるだけである。 意を決して、リーンはモビルスーツの上によじ登った。 そして、開け放たれたコクピットの中を、覗き込む。 「こいつ…動く…のか?」 中をのぞきこんで、リーンはさらに驚いた。 計器には既に明かりが灯り、すぐにでも動かせそうな状態になっていたからである。 「乗れって…言ってんのか?」 モビルスーツが勝手に動き出して、パイロットを誘うなどという話は、聞いたこともない。 まるで一昔前の怪談のような状況に、だが、リーンは別段恐怖は感じてはいなかった。 「もしかして、レナの声で呼んでいたの…お前、なのか?」 そう思い至ったからである。 そしてそう考えたら、なんだかこのモビルスーツに、妙な愛着さえ、湧いてきた。 2、3何事か思案すると、リーンはそのモビルスーツのシートに腰掛けてみる。 座って、メインモニターに目をやって、そこではじめて、リーンはひとつのことに気付いた。 メインモニターにはMRX−78 Jガンダムというおそらくはこのモビルスーツの名前と思しきものと、そして、この機体に積まれているシステムの、その製作者らしき人の名が、表示されていた。 その名前に、リーンは見覚えがあった。 「レナの…お父さんが作った、システム…」 そしてどうやらそのシステムが、自己思考型のAIのようなものであるとリーンが理解したとき、なんだか急に今までの疑問の答えが見えたような気がした。 「ひょ、ひょっとしてこいつ、レナの人格を元に作られたAI、なのか?」 だから、自分を呼んだのか、不意にそう、リーンは思い至った。 「うーん、AIにまでこんなに想いが反映されちゃうってのは…なんか、ねえ…」 それだけ、レナの自分に対する想いが深く、強いということなのだろう。 「まいったな、まったく。」 そうもらしながらも、リーンもあながち悪い気はしなかった。 惚れた女にここまで思われれば、むしろ本望であろう。 しかし、 このときリーンは、自分がまだ、重大な思い違いをしていたことに気付いてはなかった。 「さて、と、それがわかったのはいいとして、どうするか、なんだけど…」 悪い気はしない、といってもレナ本人ならともかく、モビルスーツに慕われても困りものである。 ましてやこれはおそらく、ジオンの秘密兵器。 民間人である自分が勝手に乗り回して、許されるものではない。 とりあえず見なかったことにして、パイロットの救出にでも向かうか、とリーンが思案しかけたそのとき。 『クロスだ!アリュー中尉、生きてるか!?』 おそらく回線ははじめっから開きぱっなしであったのだろう、通信機からそんな声が流れてきた。 「げ、回収部隊もうきたの?まずい、よなあ、このままじゃ。」 この場はとっとと身を隠した方がいい、そう考えてリーンが機体を離れようとしたそのとき。 『私を置いていかないで。』 再び、レナの声がした。 「お、置いていかないでって、言われても…」 が、既にからくりがわかっていれば、いくらレナの声といってももはや心動かされることなどあろうはずもない。 …そう、ないはず、だったのだが… だが、 『お願い、リーン。』 そのレナの懇願は、真に迫っていた。 そして、そのレナの声に、妙な違和感も覚える。 だが、違和感の正体が何であるのかまで、そのときのリーンには気は回らなかった。 けれど、リーンは妙な胸騒ぎだけは、はっきりと感じていた。 「なん、なんだよ…いったい…」 そして… リーンの中で何かが、動いた。 『リーン…』 おぼろげな意識の中で、エティシアは再び、そんな声を聞いたような気がした。 そして同時に、何か大きなものが、動くような音も。 それがモビルスーツの足音だと気付いたのは、日ごろの訓練の賜物だろうか。 救助か、それとも先の連邦のジムに追いつかれたのか、咄嗟に身を起こし、エティシアはあたりを見渡した。 だが、既にあたりにモビルスーツと思しき影は、見当たらなかった。 『夢…?』 そう考えながら、エティシアは頭をはっきりさせようとする。 そしてその直後、 『生きているなら返事ぐらいしろ!』 ドスの聞いたそんな声が、通信機から流れ出てきた。 回収部隊が到着して、そこではじめて、エティシアは自分たちがうまいこと湖に着水していることに気がついた。 が、さすがに、この状況にはお気楽なエティシアも疑問を抱く。 シュリーア中尉は幸い命には別状はなかったものの、エンジンの爆発の影響か、頭に負傷を負い、意識を失っていた。 そんな状況でミデアをこうも見事に不時着させたというのは、いくらなんでも考えられない。 かといって湖に、それも機体にも周囲にもそれほどの損害を与えず不時着したというこの状況を、偶然とか幸運とかで片付けるのは、いささか出来すぎであろう。 だが、状況はエティシアが、そんな小さな疑問にこだわることを、許してくれなかった。 「ガンダムが?」 コンテナに積まれていたはずのモビルスーツ。 連邦軍から奪取した、"ガンダム"という名のそのモビルスーツが、忽然とその姿を消していたからである。 「我々が到着したときには既に影も形もなかった。そう、影も形も、だ。」 正確に言えば山の奥へと向かう足跡だけは見つかったのが、鬱蒼と茂る木々の中にあって、それを追跡するのはほぼ不可能だと、回収部隊の隊長らしき男が、エティシアにそう教えてくれた。 その男は、偶然にも先ほどリーンが"おっさん"と称した、まさにその男であった。 『じゃあやっぱり、あれは夢じゃなくって…あの音がガンダムだったの?そう言えば女の子の声が、したような、気がしたけど・・・』 筋骨逞しいその巨漢の隊長に、いささかエティシアは気圧されながらおずおずと尋ねる。 「あのぉ…隊長…さん?」 「シルバー・クロス中佐だ。上官に対する口の聞き方ぐらいわきまえておけよ、新米!」 そう言いながら、クロス中佐と名乗った男は、ニッ、と笑いを浮かべた。 言葉ほどには、怒ってはいないようではあったが、 「じ、自分はエティシア・草薙少尉であります!」 それには気付かなかったのか、慌ててエティシアは居住まいを正した、 そしてそれから、 「あの…新米って言い方は、あんまりではないかと…」 お互い様であるということは棚に上げ、エティシアはそう抗議した。 「なんだ、ならひよっこの方がいいか?」 「ちゅ、中佐ぁ!」 からかわれていることに気付かず、本気で抗議の声をあげるエティシア。 「ああ、すまんすまん、で、なんか俺に言いたいことがあるんじゃなかったのか?新米。」 すまんと言いながら"新米"という呼び方はやめない。 憮然としながらも、これ以上は何を言っても無駄だと悟り、エティシアは話を変えることにした。 「女の子が、いませんでしたか?このあたりに。」 「おお、確かにいたぞ。」 「え?」 「ほら、俺の目の前に一人。」 「………。…いえ、そういうことではなくって…」 完全におちょくられている。 どうにも埒があかないと、エティシアは仕方なく根を上げた。 まあどうやら"自分以外に"この周囲に女の子らしき影がなかったことだけは、なんとか理解できたわけだが。 …シュリーア中尉はどうやら"女の子"ではないらしい… 『まったく、なんなんのよ、この中佐…』 あきれ、ため息をつくエティシアではあったが、 『ま、どうせ私はすぐオデッサに戻るんだし、関係ないか。』 よもやこのクロス中佐との付き合いが、非常に長いものになろうとは、このときのエティシアは予想だにしていなかった。 十一月三日。 極東ジオン軍松代実験基地、エティシアとシュリーアが向かっていた件の基地である。 その基地の一角で、エティシアが憮然とした表情を見せていた。 もともと、彼女は輸送部隊の所属である。 それも松代所属の輸送隊の主任であるシュリーア中尉と違い、オデッサにある地球方面軍本部直属の。 まあ実際のところは士官学校出たてのところを、オデッサに留め置きという形で仮配属されたに過ぎないのだが。 そんな事はエティシアは知らないので、当然、即日オデッサに舞い戻れる物とばかり思っていたのだが、丸一日立ってもその辞令が出ない。 そして、さらにもう一日たって、ようやく下された命令は、エティシアには少々、承服しかねるものであった。 <オデッサには戻らず、そのまま松代の輸送部隊に配属。> それが彼女に下った命令である。 それは連邦のオデッサ作戦の実施を察知した上層部の判断であったのだが、もちろんそんなことをエティシアが知るはずもない。 ついでに言えば松代基地が人員不足であったということと、彼女自身の射撃の腕前を買われたという話も実はあったのだが。 無論、軍人である以上命令は絶対であり、何を言おうがそれに抗うことなど許されるわけもない。 輸送部隊の責任者はシュリーア中尉であるわけだから別に配置転換そのものに不満があったわけでもない。 彼女をいらだたせている原因のはそう、昨日自分を散々からかってくれた、あのクロス中佐にある。 「だいたい、まったくなんなんのよあの中佐。ドム、ドム、ドムって自分の機体の事ばっかり気にしてぇ。あー、もうあのドム親父!」 くしくもリーンが予想したとおり、ミデアに積まれていたもう一機のモビルスーツ、"ドム"はクロス中佐の愛機だったのである。 そう、まさに愛機といって良かった。 ガンダムを奪われたことよりも、自分の愛機が傷ついたことの方が中佐にとっては問題であったようで、エティシアはその件についてこの二日間、散々嫌味を言われたのである。 食堂でサラダをやけ食いしつつそうがなりまくるエティシアの横には、傷の具合ももうだいぶ良くなった、シュリーアの姿があった。 「ドム親父って…なんか言い得て妙ね…まあ、ティス、とりあえず落ち着いて、ね。」 苦笑いを浮かべながら、シュリーアがエティシアをそうなだめる。 「そんなに自分のモビルスーツが大事なら、自分で背負って持って帰ってくりゃ良かったんですよ!オデッサから!!」 中佐のドムはオデッサで都合…もう何度目か数えるのもばかばかしい改修を受けていた。 その改修が終わる前に、任務で中佐は一足先に松代に戻らなければならなかったのだが、無論そんな事情をエティシアが知っているわけはない。 松代では空間戦闘用の改装を行う術がなかったということも。 シュリーアはそういった事情を知ってはいたのだが、中佐の過度の改造マニアっぷりを常日頃から呆れつつ眺めていた経緯もあったし、大体、何で地上用に開発されたドムに、わざわざ空間戦闘用の装備などをつけたのかその意図も理解出来なかったので、どちらかといえばエティシアの気持ちのほうがわからないでもなかった。 「背負ってて…そりゃいくらなんでも…いやでも中佐ならやりかねないかも…」 そんな妙な考えを思わず頭に浮かべてしまったシュリーアであったが、ふと、あることに気付いた。 「ようするにティスは、ドムに嫉妬してるわけね。」 「な、何でそうなるんですか中尉!」 そうエティシアをからかいながら、だかシュリーアの頭の中にはもう一つ、ある考えがあった。 中佐が自分の機体に固執するのはいつものことである。 加えて、奪われたガンダムをないがしろにしている理由も、実は少々心当たりがあった。 確かにやっとの思いで連邦から奪い取った秘密兵器であり、それをどこの誰ともわからない者に奪われた、というのは由々しき問題である。 ただ、ミデアやドムをそのままにしておいたことを考えれば、連邦の仕業でないことも予想できるから、最悪の事態だけは避けられたともいえた。 そして、あのガンダムは… 『過敏すぎる反応速度、ううん、それ以前にパイロットを拒絶するシステム、誰が、あんな機体を扱えるというの?』 そんなシュリーアの思いは、かのガンダムに対する、ガンダムを知るものたちすべての感想である。 ただ一人、システムを作り上げた、あの博士を除いて。 連邦が作り上げたその時点で、あのガンダムは異常なまでの反応速度を有していた。 パイロットを選ぶ、どころの話ではない。 常人にはとてもではないが扱える代物ではなかったのである。 その上、オデッサで載せかえられたシステムは、あろうことかパイロットの搭乗を拒否した。 まるで、システムそのものが、意志を持ったかのように。 確かにAIを搭載したという話は聞いていたが、パイロットを拒絶するシステムなど、聞いたことがない。 パイロット登録システムとか言うのであればわかるが、あれはそういうものですら、なかったのだ。 そしてさらにわからないのは、そんなどうあがいても使い物にならない機体を、何故この松代まで運んできた、そのことにある。 実はその原因も目的も、ひどく個人的な、些細な物でしかなかったのだが、もちろんそれをシュリーアが知っているはずもない。 そう、個人的な感情による、瑣末な物でしかないのだ。 ガンダムの、その機体そのものも、含めて。 だが、些細な物でしかないはずのこの機体が、やがて、幾人かの男たちの野心を、かきたてていくことになる… そして… 「あのミデアに積まれていた積荷の行方を、捜せとおっしゃられるのですか?」 十一月五日、ミデア撃墜任務から四日が過ぎ、ジャブローへと帰還したデビットを待っていたのは、上官からの呼び出しであった。 結果としてミデアを取り逃がしたことへの叱責か、新たな任務か、それぐらいの事は予測していた。 そしてそれは、半ばあたってもいた。 が、正式な作戦司令室ではなく、その上官の私室で彼に下されたその命令に、さすがのデビットもおもわず疑問を口にする。 なんであろうが上の命令は絶対であり、それを黙ってこなすのが自分の仕事である。 だが、今回の任務はあまりに腑に落ちないことが多すぎた。 ミデアの撃墜任務まではまだいい。 おそらく秘密兵器なり何なりを運んでいたのだろう。 それを撃破することには意味はあるし、中に何が積まれていたのか、詳しいことをデビットたちが知る必要もないし、知るべきではない、という理屈も理解できる。 なにやら裏があるのは明白であったが、無視できる物でもあったし、それをあえて無視しなければならないのが軍人というものでもあった。 だが、さすがに今回はそうはいかない。 積荷はモビルスーツだという、だが、それがいったいどういう性格の機体であるのか、まずそれを知ることがかなわない。 撃墜を確認する事は出来なかったから大きな事はいえないが、無事でもなかったはずであり、それならあの高度から落ちたのだから、中身とて無事ではないはずである。 無論、それはあくまでデビットの希望的観測でしかないのだが。 翻ってもし、仮に積荷が無事であったとしたらなら、それは既にジオンが回収しているはずである。 ジオンが回収しているのであれば、自分たちが任務に完全に失敗した、ということになるわけだから、その責任を負わされるのは仕方のない話ではある。 だが、回収されたその機体を奪取、あるいは破壊せよというならまだしも、上官はそれを"探せ"という。 それはいったい、何を意味するものなのか? ジオンでも連邦でもない第三者が、その機体を奪ったということなのだろうか? いったい誰が、何のために? そして上官は、何故のその機体に固執するのだろうか? すべて、わからないことだらけであった。 「質問は受け付けん。貴様はただ、言われた通りの事をすれば、それで良い。」 「し、しかし、ジャミトフ大佐!」 「…私の言葉が、聞こえなかったか?」 「りょ、了解、致しました。」 目の前に立つその上官の迫力に気圧され、デビットはただ、そう答えるしかなかった。 「で、では、失礼致します。」 「うむ、良い報告を、期待しているぞ。」 「は、はい…」 そうとだけ言い残すと、デビットは部屋を出た。 足音が遠ざかっていくのを確認して、その男、ジャミトフ・ハイマンは一人、呟きを漏らした。 「ガンダム、そして例の少女…手駒は、一つでも多い方がいい。ジオンを倒した、その後の、ためにもな…」 |