「先生、モビルスーツが!」
そのころ、リーンが危惧したとおり、学校にはまだスズハラたちの姿があった。
「何なのよ、いったい。」
突然巻き起こったこの状況に、担任である女教師は爪を噛みながらそうつぶやいた。
そうすることで、あたかも自分自身に冷静さを取り戻させるかのように。
そして、この状況の意味するところと、対処法を、必死に模索しようとしていた。
そういう意味ではかなり肝の据わった女性ではあるようだ。
が、残念ながら彼女は所詮単なる一教師でしかなく、ネルフの作戦部長でもなければアークエンジェルの艦長でもない。
軍事的な知識などなければ、このモビルスーツが襲い来るわけも、この事態に対処する方法も見つかるわけもなかった。
いや、正確に言えば襲い来るわけだけは、次の瞬間、想像がついたのだが。
「なんや、あの車。」
スズハラの言葉に、女教師は視線をその先へと向ける。
そこにはモビルスーツに先行するように爆走する一台のエレカの姿があった。
「追われている?連邦の、人?」
モビルスーツを先導している、という風ではない。
その車体はここにくるまでに相当ぶつけたらしく、かなりぼろぼろになっていた。
つまり、その車は明らかにあのモビルスーツから逃げているように見えた。
そうであれば多少は納得がいかないでもない。
もっともシュリーアやシェアラが感じたように、たかだかスパイを捕らえるのにモビルスーツを引っ張り出してくるその思考は理解しかねたが。
そしてもうひとつ、彼女はあることに気付いた。
そんなことがわかっても、現状の解決にはまったくつながらないという、ことである。






ACT-4
−想いと力と−







解決の糸口が見つからないのは、シェアラたちも同様であった。
放置してあったエレカに乗り込んだまではよかったのだが、そこをあっさり見つかってしまっては何の意味もない。
もっとも見つけたのはビリーのグフではなく、シュリーア中尉であったのだが。
「いた!食い逃げ犯・・・じゃなくって連邦のスパイ!」
・・・どうもかなりその件を根に持っているらしい。
何はともあれシュリーアもまた、手近にあったエレカに乗り込むと強引にエンジンを始動させる。
このあたり、シェアラたちより格段に手際がよい。
「・・・あたしは細かい作業には向いてないのよ。」
「と、とにかく逃げます、曹長!」
シェアラの妙なつぶやきを無視して、サントス伍長はアクセルを踏み込んだ。












こうなると、もうジリ貧である。
追ってくるシュリーアのエレカを気にしながら、同時にモビルスーツから身を隠すなんて芸当ができるはずもなく、ビリーのグフにも彼らはついに見つかってしまう。
まあ、ビリーとシェアラが共同戦線を張ろうなどという気がさらさらないのが、唯一の救いであったが。
「あのねえ、足元に私もいるんだから、ちょっとは気をつけなさいよね!」
そういいながら見事にグフを交わしながらシェアラたちを追い詰めていくシュリーアの腕は、だが、確かであるようであった。
「さすがは美幸。」
「曹長、いったいそれは誰なんですか。」
「じゃなきゃ雅さん。」
「だから・・・」
「ゆかりちゃんだったらよかったんだけどねえ。」
などと三人意味不明なことを呟きながら、逃げきれるような相手では到底なかった。
そして、冒頭に戻る。
「まずい、学校だ。」
不意にまじめな表情に戻るとシェアラは険しい声をあげた。
この場合、まずい、という意味は二つあった。
ひとつは、今彼女たちが走っている道が一本道で、学校が終点となっていたこと。
しかもモビルスーツの接近のせいか、校門は固く閉じられている。
もっともそれでグフの侵攻を防げるはずもないが。
ありていにいえば行き止まり、ということである。
これはシェアラでなくとも確かにまずいと感じるところであろう。
そしてもう一つは、時間から考えて、まだ学校に人が残っているだろうということである。
自分たちが捕まる、最悪の場合射殺されたとしても、それはある種仕方がないことである。
が、全然関係ない民間人、それも子供たちを巻き込むというのは、あってはならないことであった。
そして、追ってくるエレカの女性士官はともかく、あのモビルスーツのパイロットはおそらくそんなことなど、微塵も考えていないだろう。
もちろん、直接手を下すのはあのパイロットだとしても、寝覚めがいいものではない。
まあ、この一件が終わって、自分たちの命があれば、ではあるが。
刹那、それが彼女の頭をよぎったとき、彼女は判断を鈍らせた。
遅れて、サントスの声。
「曹長、ブレーキが間に合いません!」
サントスにしろシェアラにしろ閉ざされた校門を忘れていたわけではないが、こういう状況下では、ほんの一瞬の気の緩みが、間違いなく致命傷となる。
あの士官に捕まるか、グフに踏み潰される前に、このままでは校門に激突してお陀仏、というのが彼女の頭をよぎった。
ただ、もしかするとそうなれば、学校は守られるかもしれないとも。
けれど、
「こんなとこで犬死するわけにも、行かないのよね。」
それは連邦軍人としてシェアラに残された最後のプライドだったのかもしれない。
「伍長!ハンドル切って、サイド引いて!ドリフト!!」
「でも、間に合いません!」
「いいから!」
そう言うとシェアラは助手席のドアを開き、その美しい両足を車の外に投げたした。
ガリガリガリッ、
という音を立ててシェアラのヒールの靴底が、アスファルトととの摩擦で火花を上げる。
「止まれー!」
果たして・・・
彼女たちの車は、校門直前で、その動きを止めた。
「す、すごいことしますね、曹長。」
「昔とった杵柄ってね!でもこれでまだ備品一つ駄目にしちゃったなあ。物資も足りないっているのに・・・」
思わずそんな軽口をたたいて見せたが、だが、もちろん状況はそんな場合ではない。
「つくづく、緊張感がないというか、余裕があるというか。」
ため息交じりにシュリーアがエレカから降りてくる。
もちろん手には銃を握り、今度は一部の隙さえ見せない。
もっとも、シュリーアの手から逃れたとて、グフに踏み潰されるのがオチだが。
ただ、その意味で言えば、彼女たちは、そして学校に残る子供たちもまた、最悪のシナリオだけは逃れたように思えた。
次の、その瞬間までは。
「さて、武器を捨てて、こんどこそおとなしく同行してもらいましょうか・・・」
そういいかけたシュリーアの言葉を、ガキンという音が遮った。
「ビリー中尉?」
いやな予感がして、シュリーアは後ろを振り向いた。
「な、何をする気なの!?」
そこには、左腕のマシンガンをシェアラたちに突きつける、単眼の青き巨人の姿があった。
「中尉、今すぐに銃を下ろしなさい!」
「関係ないね・・・連邦の連中は皆殺しだ。」












「捕虜の扱いは南極条約にのっとって・・・なんて言える状況じゃないみたいですね。」
目の前のやり取りをみながらギブソンがそうシェアラに囁きかけた。
この状況下でそんな軽口をたたけるのは、目の前の光景があまりに現実離れしているせいかもしれない。
「少なくとも、あの女性士官のほうはそのつもりだったみたいだけどね。」
そう返し、シェアラは表情をさらに険しくする。
条約違反、そんなことは少なくとも今はたいした問題ではない。
ここに至るまでの経緯を見ていれば自分たちを射殺して、果たしてそれですむのか、先にも考えたように今のシェアラはそのことを気にかけていた。
そしてそれとまったく同じ思いがシュリーアの胸にもあった。
「大体、後ろに学校もあるのよ!万が一反れでもしたら・・・」
だが、次の瞬間、二人はさらに信じられない言葉を聞く。
「関係ないよ。そんなこと。」
"大丈夫、外さないから"とか、その類の言葉であればまだわかる。
だが、ビリーは平然とそういってのけたのだ。
「そこの連邦が逃げ回るからいけないんだよ。そうだろ?」
「狂ってる・・・」
ビリー中尉が、その野心ゆえに飢えていたのは知っていた。
彼が戦いを欲しているということは基地の誰もがわかっていた。
だが、よもやこれほどであろうとは。
そしてひどくまずい事態であることに、不意にシェアラは気付いた。
本来なら、彼女が責任を持ってこの狂人を基地に連れ帰るべきである。
が、こっちは生身で、むこうはモビルスーツ。
捕らえられる道理ではない。
それどころか・・・
「邪魔するなら、あんたも殺っちゃうよ。」
ある意味予想通りの言葉を、ビリーははき捨てた。












そのとき、クロス中佐は愛機であるドムを急がせていた。
まさか、ビリーの狂気があそこまでだとは、さすがの中佐にもそれは誤算であった。
こうなると、おとなしく言うことを聞いてくれそうにはない。
が、片腕のドムで、ビリーのグフ取り押さえられるかは、中佐にも疑問であった。
そもそも中佐の機体はその形状からもわかるとおり、本来は長距離支援型である。
もちろん彼個人の趣味で接近戦にも対応はしていたが、対するビリーは接近戦のスペシャリストであった。
性格はともかく、腕は確かである。
果たして、何事もなく済ますことができるのだろうか。
「もっとも、どうやら間に合いそうにないがな。」












クロスが間に合いそうもないということを、無論シュリーアも知っていたわけではないが、少なくとも期待が持てるような展開にはならないという覚悟は、すでにできていた。
ふと、シュリーアは静かに目をつぶるとシェアラたちの方に向き直った。
「敵同士じゃなかったら、私たち、いい友達になれたかもね。」
その言葉に一瞬シェアラは目を丸くしたが、すぐにキリッとなると。
「そうかもね。」
そう微笑んだ。
それは奇しくも、この先の彼女たちの運命を、暗示する。
もちろん、この先に起きることを、予想していたわけではない。
が、往々にして、こういう場面では覚悟を決めてしまったときほど、奇跡は起きる。
彼女たちにとっての、奇跡。
それは同時に、リーンにとって逃れられない運命でもあった。












「死になよ。」
再びビリーはそう一言だけ呟くと、銃口を向けた。
グフの左手が、鈍い輝きを放つ。
目をつぶる一同。
だが、銃声は永遠に発せられることはなかった。
その代わり、
ガシャーン!という大きなもの同士がぶつかる音。
そしてドスーンという、やはり何か大きなものが倒れこむ、そんな音があたりを包んだ。
「え?」
恐る恐るシェアラが、シュリーアがその目を開ける。
そこにあったのは仰向けに倒れるグフの姿と、そしてそのグフを弾き飛ばした白い・・・そう白い勇者の姿があった。
「ガン・・・ダム?」
そんな呟きは驚くべきことにシュリーアの口から発せられる。












ガンダム。
その名をよく知るのは本来連邦の人間であるシェアラたちの方である。
連邦の人間であれば、少なくとも名前ぐらいは知っていてしかるべきである。
そして、今眼前に立つそのモビルスーツは、確かにガンダムと呼んで差し支えない形状をしていた。
シェアラのうろ覚えの知識が正しいとするなら、だが。
が、最初にこの機体を見て"ガンダム"として認識したのはシュリーアである。
無論、戦局もここまで至ればジオンの人間がガンダムを知っていても不思議ではない。
けれど、仮に知っていたとして、シェアラ以上に知っているとはとても思えなかった。
なら、その言葉が意味することは・・・
『この機体こそが、ジオンが奪取した、そして我々が探していた、機体。』
気取られぬように、そう考えながらシェアラはガンダムを見た。
だが、疑問が、二つ。
いったいこの機体には誰が乗っているのだろうか。
言動から見ればジオンの人間ではなさそうだ。
といって連邦の人間でもないはずである。
もっともジャミトフの密命でデビットが動いていることを考えれば、他にも密命を受けてひそかに行動している部隊があってもおかしくはない。
それは、ジオンの側にも言えることである。
が、そうと断定するには情報が少なすぎた。
そうなるとどう考えても結局わからないわけだから、シェアラは、そのことを考えるのはやめる。
そして、もうひとつ。
救いの神に見えたガンダムであったが、体勢を立て直したグフに、いとも簡単に突き返され、その場にしりもちをつく。
何とかもう一度立ち上がろうとすすが、その動きはぎこちない。
「こんな機体に、何でみんな執着するの。まあ、素人が動かしてるのかもしれないけどさ。」
そんなシェアラの予測は半分、当たっている。
だがもう半分は、
「そうね、誰が乗ってるのか、それは私も知らない。あなたが言うようにあれのパイロットはずぶの素人かもしれない。けど・・・」
その問いに答えたのはシュリーアだった。
「仮にプロのパイロットが乗っていたとしても、あのぐらいの動きしかできないんじゃないかしら。」
「失敗作だった、ってこと?」
そうであるならなおさら、なぜあの機体に固執するのだろう?
「ある意味では、確かにそうね。スペック的にはものすごいものを秘めてはいる、けど・・・反応速度が、あまりに速すぎるのよ、あの機体は。」
「それって・・・本来いいことなんじゃないですか?」
二人の会話にサントスがそう割り込む。
「そうね、それがパイロットに扱えるレベルなら、ね。」
ガシン、という音とともに、そうつぶやいたシュリーアの後ろで、ガンダムがグフのパンチを浴び、再び吹っ飛んだ。
「人間に扱うことのできない化け物とでも言うわけ・・・なんでそんなものを・・・いやでも・・・もしこれを扱うことのできる人間が、いるとするなら・・・それは・・・」
まだ形にもならない何かが、シェアラの頭の中にぼんやりと浮かんでいた。
背筋に震えるを感じるような、何かが・・・












「ちょっとリーン、しっかりしてよ、もう。」
シートに何とかしがみつきながら、ミサキがそう抗議の声をあげる。
文句を言うくらいなら何もついてこなければいいとも思うのだが、彼女が降りる間もなくリーンが機体を発進させてしまったのだから仕方がない。
もっともついてきてしまった理由にはこの白いモビルスーツとレナとの因果関係−無論リーンの言う荒唐無稽なことを彼女とて信じたわけではないのだが−が彼女を駆り立てたというのも少しはあったかもしれないが。
信じてはいなくとも、直感として、女としての勘がそれを感じた、というのは正しいかもしれない。
が、そんな彼女の思惑も、いや抗議の声さえも、今のリーンの耳には届いていなかった。
別に、グフにやられた衝撃で頭を打ったとか、そういうわけではない。
反射的にコクピットに座ったその瞬間から、リーンの中には何かが流れ込んできていた。
それは、記憶の奔流であった。
それも、彼自身が、よく知る記憶の。
ガンダムのエンジンがうなりをあげ、機体が激しくゆすられるたびに、それは彼の頭の中に入り込んでくる。
懐かしい彼自身の、幼い日の思い出が。
「リーン?リーン、聞いてるの!?」
異常に気付いたミサキが慌ててリーンに呼びかける。
が、その呼びかけもまた、彼に届くことはない。
ミサキは、戦慄した。
今、操縦桿を握っているのはほかならぬリーンである。
しかも、彼らの乗る機体の眼前には、敵−何を持って敵となすのかは不明だが、少なくともいきなり飛び出してきて体当たりをかましたのだから敵と見なされても仕方ないだろう−がいる。
冷静になって考えれば、かなりぞっとしない状況であることに、いまさらながらにミサキは気付いた。
ましてや向こうは戦闘のプロで、こちらは素人である。
リーンが"まっとうな"状態だったとしてもとても勝ち目がある、といえる状況ではない。
先ほどまでのリーンの機体の動かし方を見ていれば、そんなことはミサキにも容易に想像はついた。
そして、
そんな彼女に追い討ちをかけるかのように、よろよろと立ち上がったガンダムの前に、青いモビルスーツが左腕を突きつける。
彼女たちの座る、コクピットに向けて。
そしてその指の先には、マシンガンの銃口が、煌いていた。
「いやー!!」












そう、それは幼いころの思い出だった。
そこには、幼いころの彼の姿がある。
だが、それは微妙に、彼自身の思い出とは異なっていた。
目に映るその景色、その思い出は、確かに彼にとって覚えがあることばかりである。
レナとともに、野山を駆け巡った思い出。
彼女と二人過ごした、楽しい日々。
母はすでにおらず、父も仕事にかまけていて、一人ぼっちだったレナ。
そんな彼女が頼れるのは、甘えられるのは、リーンただ一人だった。
リーンのそばにいられる間、彼女は幸福であった。
だが、その日々は長くは続かなかった。
父の仕事の関係で、彼女が地球を離れなければならなくなったからである。
「やだ・・・私、ずっとリーンと一緒にいたい。」
国情の変化、迫りくる戦争の影、彼女の父が地球を離れ、サイド3へと赴かなければならなくなった裏には、そんな現実があった。
だが、幼い彼らには、そんなものはわかりはしない。
そんなことは、わからないほうが幸福かもしれない。
けれど、離れ離れにならなければならない現実は、彼らにもよく分かったし、そしてそれは間違いなく幸福なものではなかった。
だから、彼女は泣いた。
幼いその瞳に、いっぱいの涙を浮かべて。
胸に、耐え切れない痛みを抱えて。
そう、それはレナの悲しみであり、レナの心の痛みであった。
その瞬間、リーンは気付いた。
幼き日の思い出。
それは、彼とレナが共有する、レナの思い出であった。
『何で・・・こんな・・・』
何がこんなものを見せているのか、なぜこんなものが見えるのか、彼にも分からない。
現実なのか、夢なのか、それすらも。
だが、そんな彼の疑問とは裏腹に思い出は次々と紡がれていく。
離れ離れになり、独りぼっちになってしまったレナ。
寂しさが、彼女を包んでいく。
そんな想いに、これが過去の思い出だと知りながらも、リーンはいたたまれない気持ちになった。
少なくとも、レナと離れ離れになったあとも、リーンは一人ではなかった。
けれど、彼女は本当に、一人だったのだ。
連邦との戦いを目前にしたジオンに、幼い彼女をかまってやれるものなどはいなかったのである。
その事実は、リーンにとってあまりに辛かった。
彼女を、愛しているがゆえに。
が、正確にはただ一人だけ、彼女に手を差し伸べてくれた人物はいた。
不意に、その女性の記憶が、リーンの中に流れ込んでいた。
暖かな、そして何か不思議な雰囲気を宿した女性。
だが、記憶はそこで唐突に次へと移る。
何があったのか、彼女のことについて、まるでレナの記憶が封じられているかのように。
その女性の、顔も、名前すらもわからぬまま、記憶の渦は流れていく。
そして、世界は戦争という名の暗い影に包まれていく。
その暗い記憶は、レナだけのものではない。
今の時代に生きるもの、すべてにとっての共通の記憶といってもよい。
そしてその暗い影は、今も世界を包んだままである。
だが、彼らにとって戦争は、ひとつだけいいことをもたらしてもくれた。
戦局の変化からか、あるいは研究の過程からか、とにもかくにもレナの父が再びこの地球へと移るとことになったのである。
もちろん、レナもともに。
「リーン、会いたかった。」
帰ってくるなりそういって抱きついてきたレナは、幼いころ以上に、リーンに甘えた。
会いたかったという気持ちはもちろんリーンにもあったし、無論、そのときとてレナを突っぱねたわけでもない。
とはいえ以上ともいえるその甘えぶりに、少々戸惑ったのも確かであった。
が、離れ離れになっていたときの気持ちを知った今なら、そのときにレナの気持ちがよく分かる。
甘えながら、リーンのそっと告げた、あのときの言葉の、その裏に隠された想いも。
「何があっても、ずっと一緒だよね、私を守ってくれるわよね、リーン。」
そして、リーンの意識は唐突に、現実に引き戻される。











グフの左手から、雷撃のごとく弾丸が射出される。
至近距離から打ち込まれたこの弾は、間違いなくガンダムのコクピットを捕らえた・・・はずであった。
だが、その場の一同は、次の瞬間、そこに信じられないものを見た。
グフの左腕の右手で払いながら、一瞬にしてガンダムはグフの後ろへと回り込む。
そしてそれとほぼ同時に左腕でグフの右腕を絡めとると、学校の校庭にグフの巨体を投げつけた。
「な、なんだと!?」
グフのコクピットで、ビリーは驚愕した。
明らかにその動きは歴戦のパイロット、いやそれ以上のものである。
先程まで、素人のような動きしかできなかったものが、いきなりそんな動きをすれば驚くなというほうが無理であろう。
だがビリーも、さすがに並みのパイロットではなかった。
投げつけると同時に踏み込んできたガンダムに向けて、右腕に仕込まれた電磁ムチ−ヒートロッド−をそのガンダムの胴体めがけて投げつける。
そんな武器の存在を、リーンはもちろん知らない。
仮に知っていたとしても、それは完全に不意をついたタイミングであった。
そんなリーン側の事情はもちろんビリーには知るべくもないが、敵の体勢と状況、タイミングを考えれば、完全に不意ををついたであろう事は、経験からわかる。
「もらった!」
一瞬見せたあの動きは、確かにグフを遥かに上回るほどの機動性であった。
だが、ヒートロッドにより捕まえてしまえば動きは封じられる。
そしてヒートロッドには敵の電子機器にダメージを与える機能もある。
少々驚かされたが、これで終わりだ。
お遊びなしで一気に止めを刺してやる。
そう、ビリーは頭の中で考えた。
敵の性能を考え、一気に止めを刺そうと思い至ったその考えは、確かに正しい。
だが、ひとつだけ誤算があった。
敵の性能、あるいは敵パイロットの腕か、それは、ビリーの予想を遥かに越えていたのである。
完全に不意を討ったはずのヒートロットは、だが、空を切る。
突進してきたはずのガンダムは、まるでヒートロッドによる攻撃をあらかじめ予測していたかのように、突進の途中でスラスターを噴射させると、後ろへと飛びのいたのだ。
「なに!?」
「そんな・・・」
その動きに、ビリーも、そして見守っていたシェアラたちも驚嘆の声を上げた。
「新型の性能、といってしまえばそれまでなんでしょうが、けど・・・あの動きは常人には・・・」
「そうね、あんな事したらGでパイロットのほうがやられてしまうのがおちね。」
そんなシェアラとシュリーアの呟きは、いろいろな意味で的を得ていた。
確かにガンダムは新型である。
機体そのものとしては、今のような動きにも耐えられるようにはなっていた。
だが、シュリーアのいうように機体は持っても、急激なGに乗っているパイロットのほうが持たない。
一応コクピット周りには対G用の対策はいくつかなされてはいたものの、案の定、中でミサキは気を失っていた。
G対策のおかげて、気を失うだけですんだ、というべきかも知れない。
だが、リーンは気を失ってはいなかった。
「そうだ、レナを、守らなきゃ。」
そう呟くリーンの目は、まだ完全に現実を見据えているとは言いがたい。
何かが、彼を突き動かしているようにも、見えた。
だが、その彼の異常さに、気付くものはもちろんいない。
「僕はレナを、守らなきゃいけないんだ!」
そう叫ぶと、リーンはレバーを力いっぱい、押し込んだ。












「なんだってんだ、いったい。」
さしものビリーも、完全に不意をついたはずの攻撃をかわされ、一瞬、同様を見せた。
無論時間にしてほんのわずかなものではあるのだが、戦いの中、その一瞬は命取りになる。
わずかばかりの隙を見せたグフに向かって、リーンの叫びに呼応するかのように、ガンダムがパンチを浴びせた。
それも、ただのパンチではない。
ガンダムの両腕には、おそらくそのために付けられたのであろう、ブースターが装備されていた。
そのブースターを全開にし、炎が空中に軌跡を描きながらガンダムの右腕がグフの頭部を捕らえる。
ひどく単純な問題だが、スピードが上がれば運動エネルギーが上がる。
そして当然、増加した運動エネルギーは、パンチの威力を増加させる。
ブースターにより威力を増したパンチは、グフの頭を確実に捕らえると、メインカメラを破壊し、頭部を貫いた。
そのまま、一瞬、時が止まる。
「すごい・・・なんなの、この機体は・・・」
誰も扱えないと思われていた機体。
だがその性能をもし100%引き出すことができれば・・・その答がまさに、今目の前にあった。
だが、シュリーアは気付いてはいない。
この機体に秘められた、本当の力を。
マグネットコーティングとか言う技術で反応と運動性能を飛躍的に向上させた機体、そのことはシュリーアも知っていた。
向上させすぎた結果パイロットが機体についていけなくなってしまっていたということも。
そして、確かに今の戦いの中で、ガンダムはその以上ともいえるほどの機動力を発揮して見せた。
だが。
だが、である。
冷静さを欠いてしまったシュリーアは気付いてはいないが、パンチの一撃だけでグフを撃破する、という話は、別である。
確かにブースターによりパンチの威力は上がってはいたが、それだけでモビルスーツの装甲を貫けるはずはない。
そこにはもうひとつの、隠させた秘密があったのである。
だが、今、仮にそのことに気付いたものがあったとしても、グフの頭を貫くその瞬間に、ガンダムの拳が光ったことを見止めた物があったとしても、それを、説明できる者はいないだろう。
その力こそ、レナの父が追い求め、そして、これから彼らを巻き込んでいく元凶であるということも・・・












ドウゥとグフが校庭に仰向けに倒れ、その動きを止める。
完全に動かないことを確認すると、ガンダムは再びそのスラスターを噴かし、森の中へとその姿を消した。
それを、シュリーアは黙って見守るしかできなかった。
彼女がようやく我に帰ったのは、中佐のドムが現場に到着してからである。
そのときにはもう、ガンダムはおろか、シェアラたちの姿もすでに消え失せていた。
ガンダムを見逃し、連邦のスパイを取り逃がした。
だが、その失態を、ことさらにクロスは咎めようとはしなかった。
「ご苦労だったな、中尉。」
そうとだけ言うと、ドムの手の平に立ち、ガンダムが去っていった方向を見つめた。
「あのビリーをパンチ一発で退けるとは、なかなかやるな・・・面白くなってきたかもしれんな。」
そういうクロスの頭の中には、戦争とは違う、"戦い"の予感が、あったのかもしれない。
けれど・・・





つづく






あとがき

なんか・・・風邪ひきながら書いたから前半がえらいことになってますねえ。
つーか完全に暴走しとるな。
まあ一応設定を作るときに
女教師・・・三石琴乃
シェアラ・・・玉川紗己子
シュリーア・・・平松晶子
なんてあたりをイメージしたせいだったりするんですが。
要するにシェアラ&シュリーアで夏実&美幸と行きたかったわけで・・・
無論アニメ版の逮捕ですよ。
実写版は私の中では存在自体なかったものになってますから(爆)








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